‘09 04月号
 #46 囚われのルーシー 


『切レ』…
『切レ』……『ルーシー』
16:39 PM――
フィラデルフィア 独立宣言庁舎
『切ルンダ』……
……『切レ』……

『泣イテナイデ……切ルンダ』……


「…声…」
 ルーシーの目が開く。すると隣りの部屋へのドアが開かれており、大統領の側近たちの話声がボソボソと漏れている。
「大統領閣下は今…どこにおられるんだ?」
「いえ…」「存じ上げません…居場所がどこなのか?現在…誰も……」
「スティールの『傷は手当てはするな』…という大統領命令ではありますが…」
「つまり…『始末しろ』…という事か?」
「いえ…そうはおっしゃってはいません…ただ…スティールのこの負傷については『手当て』はするな……と……」
「ただのそれだけの意味にすぎません」

「ルーシー・スティールの方はどんな感じだ?」
「それがほんの数十分前まではあの様な感じは全くなく…本当に信じられない事ではありますが…」
「恐らく今夜中にも産まれるでしょう」「一体、何が起こっているのか…いや……」
「すぐに陣痛が始まってもおかしくない胎育状況です……」
「彼女のお腹の中の胎児は元気です。いたって健康な乳児!」

ガタッ

 ベットから降りようとしたルーシーが音を立ててしまった。
「おやおや目を醒ましてるな…薬が効いているはずなのに…」
「もう少し多めに打とう。冬のナマズみたいに」「おとなしくさせておけとの大統領命令だ」
 ドアの方に駆け寄るルーシー。
 

『切ッテ』
『泣イテナイデ切ルンダ』

 またどこからか声が聞こえる。辺りを見回すルーシー。
大統領の側近がソロリソロリと近づいてくる。
「落ちついて、ルーシー・スティール」
「落ちつきなさい…手荒な事は決してしない……」
 するに決まっているんですけど。
「あああああああああああ」
「夫が何故ケガをしてるのッ!!?あああっ」
「撃たれてるッ!!すぐに手当てをしてッ!スティーヴンの手当てを早くしてッ!」
 必死なルーシーに、冷血な顔で近寄る側近。
「わかってるよ…ルーシー…我々は君たちを助けようとしている…君の為を思っているんだ」
「だから暴れるなよ…お腹の中の子供の事を考えろ」

『切レ』

 またあの声が!
ルーシーがドアに駆け寄る。途中、ワゴンにぶつかり乗っていた薬瓶を数本落ちて液体がこぼれ撒かれる。
「おい!早く捕まえろッ」「とっとと押さえつけるんだッ!!」
 ドアに辿り着く前に押さえつけられるルーシー。
1人の手には睡眠薬か鎮静剤が込められているであろう注射器が握られている。

『切レ…』
『泣イテナイデ…』『切ルンダ……』

「よし!眠らせろッ」「冬のナマズみたいに」
 するとルーシーが自分の流した涙を引き剥がして平たい剣のような形で左手に持つ。
ここの処は説明が難しいのだが、つまりスタンド「キャッチ・ザ・レインボウ」のような液体を固形化するの能力と考えると納得できるかな?
ルーシー自分の頬(ほほ)から引き剥がして剣のような形にしたものを便宜上「白昆布」と呼びます。

『切レ』
『切ルンダ』

 声に導かれるように白昆布をメチャクチャに振り回すルーシー。
しかし特に側近たちに変わりもなく、白昆布も元の涙―つまり液体に戻っている。
「おい!早く薬を打てッ!何をしているッ!」
 すると注射器を持っていた側近Bが床にばら撒かれた薬に足を滑らせて、側近Aの顔面の左目辺りにパチキ(頭突き)をかましてしまう。

 その間にルーシーがドアから逃げて行く。
「うぐああ」「お…おいッ!何してるッ!」
「すまんッ!ゆ…床の液体ですべった」
「お…追え!!」「冬のナマズみたいにおとなしくさせるんだッ!」
 側近Bが走りだそうとした刹那、薬瓶を踏み割りまたもやスッテンコロリン。
しかも破片が側近Aの左目辺りに突き刺さってしまう。
「うあああっ」「な…何だ!!何なんだ、おまえッ!何してるッ!おい」
「わからないッ!!スベったッ!!妊婦だから手加減してるせいだッ!!」
「いいから追えッ!!」「まわり込んで追いつめろッ!廊下の奥のドアには護衛がいる。逃げられっこない!」
「冬のナマズみたいにおとなしくさせるんだッ!!」
 んっ!?という顔をする側近B。やけに「冬のナマズ」というフレーズを使う側近A。

 廊下に逃げ出したルーシー。しかし身重の身体ではすぐに追いつかれてしまう。
「ルーシー・スティール」「逃げられる事は決してしないし危害を加える事もない。おとなしくしていればそれでいい」
 側近Aが話しかけて注意をそらしている間に、側近Bがルーシーの背後に忍び寄る。
「我々は君の安全とお腹の中の子の事を考えているんだ」
ガシィ
 側近Bがルーシーの腕を掴み、注射器を突き立てようとその刹那…
「チュー」
 ネズミが側近Aの足元を走り、またもや側近Bはバランスを崩してしまう。
一緒にバランスを崩したルーシーがドアの取っ手を握ったためにドアが開いてしまう。
ガン そのドアが側近Aの左目辺りにぶつかってしまう!
「うがぁあああ」「何だッ!」
「何なんだあああ、オレの左眼ばかり……その女を冬のナマズみたいにおとなしくさせ…」
 顔を押さえる側近A。
「おい…いったい何の騒ぎだ?」
 そのドアから今度は話に出ていた警備員がライフルを持って出てくる。
警備員がドアを押した拍子に再び体勢を崩した側近Bの持っていた注射器が警備員の喉にドスウゥと突き刺さる。

ドン

 持っていたライフルの引き金がひかれ、暴発した弾丸が側近Aの左目辺りを吹き飛ばす!!
「何だ?何だあああ」
「オ…オレが悪いんじゃあないッ!!……さっきから何度も何度もおれの『足元』を…同じ場所…」
「あ…あいつは左の目元を何度もくり返してダメージが増幅して……!!?いったい……!?」
 その隙に脱兎のごとく逃げるルーシー。
「お…おい待てッ!」
 今度は血に足を滑らせて、ドアの取っ手が左目を通じて脳を破壊したため側近Bは即死である。

「いったい!?」「いったい!?」
「いったい!?あたしにしゃべりかけてくるのは誰?」

『切レ!』……
『泣イテナイデ……!』

今月のめい言

「しゃべりかけてくるのは誰?」

○先月号は大統領のスタンド能力解明、反撃するジョニィとDio、Dioの奸計により消滅するウェカピポ、ジョニィを追うジャイロと目まぐるしい展開でした。そのフィラデルフィア・センター・シティの攻防から舞台を移して、担架に乗せられてルーシーが運び込まれた先、独立宣言庁舎内医務室です。

○驚くべきことに…いや、論理的に考えれば独立宣言庁舎の近くで起きた事件の負傷者が医療設備のあるここへ運び込まれるのは不思議ではないです。意識不明のスティール氏もここへ運び込まれています。馬車が大破して投げ出されたダメージはウェカピポの鉄球術「身体硬質化」によって忌避されているでしょうが、マジェント・マジェントにより銃創を負っている。

○しかし怪我を負って運び込まれているのに、大統領の命令により治療をされていない。これは明らかに見殺しにしろということでしょう。何故だ?スティール氏ほどの大物を見殺しにするメリットはあるのか?スティール氏とはカリスマである。彼が居るからSBR・レースで働いている人々も少なくないし、SBR・レースについたスポンサーのほとんどはスティール氏の精力的な活動があってのことである。最後の短距離9th.STAGEはスティール氏なしでも問題はないと踏んだのか?だからといって…大統領とほとんど敵対していないスティール氏をここで亡き者にする理由はない。メリットよりもデメリットの方が大きいのである

○つまり合理的ではない。合理的ではない行動をとる人間の理由はいくつかある…。宗教的なこと、美術的なこと、そして感情的なこと。もしかして、ルーシーを我が物にせんとするために、旦那を始末しようとしているのではないだろうか?

○ルーシーの心に聞こえる声の主は誰でしょう?白々しい疑問であるがとりあえず言ってみました。もちろん、ルーシーに懐胎したと思われる「JC」…正確に言えば『遺体の頭部』でしょうか。それとも「『遺体の頭部』のスタンド」か?まだ「正体不明」と言っておいた方が良いかもしれません。

○とりあえずこの正体不明さんはルーシーをこの時点では救おうとしてくれているようで一安心です。さて、どう考えても正体不明さんが原因となって発現したルーシーの能力。涙を固体化して刀状にした物(これを便宜的に「白昆布」と呼びます)を振り回すと…いや切っているのか…側近の2人に「同じ現象が増幅して顕れ」ました。いったい何を「切った」らこんなことが起きるのでしょうか?未来へと続く時間/運命を切って同じことを繰り返してしまう輪廻に陥ってしまったのかも。

○それにしても、J&J、Dio、ヴァレンタイン大統領の三者による『遺体』争奪戦に加えて、当の『遺体』の方にも動きが三竦(すく)みどころか四面闘争になったような感じです。こんな展開、そりゃあ…少年ジャンプでは無理です。小学生はついていけません。私としては最後にJCとの闘いがあると思うのですが…。意外と、まずジャイロとDioが激突して決着。もちろんウェカピポの無念も含めてジャイロが勝利。その隙をついてジャイロに襲いかかる大統領だが、ジョニィが参戦して死闘開始!!……になるかな。次号を楽しみにしましょう。

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