ルーシー(14)の実家は6人兄妹で彼女は上から数えて2番目の長女
旧姓をペンドルトン、父親は移民のの子孫でオクラホマで小さな農場を営んでいた |
ルーシーの家系図が示されている。父はアダム、母はすでに故人でアリス。ルーシーはアイルランドからの移民3世であった。
ルーシーが12歳の時、母親が病気で他界すると一家に突然暗雲がたち込めた
収穫のために借りていた金が実は背後にマフィアがからんでおり
悪天候と妻の死というダメージも加わってルーシーの父親は
たちまち借金苦の泥沼にのみ込まれていった |
マフィアはひとつしか持たない者からは何もとらない
しかし『2つ以上』何かを持っている者からは必ずどちらかをとる |
父親に選択がせまられていた
しかし、もし『住んでいる土地』をとられたならどっち道いずれ家族はバラバラになる
……『長男』は絶対にさし出せない |
必然的に十分に働ける年齢に達している長女のルーシーが
借金の形に出される事になった――『奉公』という仕事で |
そんな時、ルーシーの父親の前にひとりの来訪者があった
男の名はスティーブン・スティール
スティールは父親に
『数年前――かつて自分が絶望の淵にいる時、幼いルーシーさんの一言に
救われ立ち直った事』
を述べ
『恩人である娘さんと彼女を育てたあなたにお礼をしたい』
事を告げた |
父親は残った子供たちを家に入れると
『もう遅い…娘のルーシーならもう家にいない』
とスティールに言った |
スティールはかなりの衝撃を受けたが…すぐに
『こちらからお願いしたい』
『わたしにその借金の決着をつけさせてえ欲しい』
…と、敬意を忘れず丁寧に申し出た
『無理だ』『もう金の問題ではなくなっている』
『マフィアにはルールがあり彼らはとると決めたものをとる。変更はない』
『わたしがすでに娘を選択した』 |
苦悩する父親…。
スティールは少し考えるともの静かに言った
大切なのは父親のあなたが救い出そうとする意志だ
彼らの世界の事ならわたしも詳しい。まだ間に合う
ひとつだけ方法がある娘さんはもう『キズ』ものになったと『彼ら』に言いなさい |
スティールの言葉に呆然とする父・アダム。
このスティールが『法的に結婚した』…と
あとはわたしが『彼ら』と決着をつけます |
「なんだとッ!!きさまッ!このわたしの家族を侮辱してるのかぁー――ッ」
激怒するアダム。
「いいか、目を覚ませ…」「『彼ら』の欲しいのは処女でありこのままだと売春婦以下の仕事が彼女を待ってるぞ。その地獄に落ちたなら25歳まではとても生きられない」
「わたしは今まで自分ひとりの事だけを考えて生きて来た…それはとても不幸な生活だった」
「そんな時、わたしの心を救ってくれたのがあなたのお嬢さんなのです」
「娘さんの役に立ちたい…恩返しをする事はわたしにとって絶対に必要なもの!このスティーブン・スティールにどうかあなたのお嬢さんを見守らせていただきたい」
「おまえなんか…この変態野郎!おまえの言う事なんか誰が信じるかッ!」
スティール氏の襟を掴み滂沱の涙を流すアダム。
「そう…誰も信じないだろう。だが『キズもの』になったというのは誰もが信じる」「マフィアならなおさらな」
ついに崩れて膝まづいてしまうアダム。彼が今できるのは、中にいる子どもに聞こえないように声を押し殺し、両手で顔を覆って泣くだけである。
…こうして『ルーシー』はスティーブン氏に救出され『ルーシー・スティール』となった…
そしてある日、ルーシーはスティール氏にこう言った |
「わたしは幼い日、あなたに会った一度の事をなぜか良く覚えています。とてもあなたはみすぼらしかったけれども純粋な雰囲気で細い体で列車か何かをひっぱって行きそうでした。だから話しかけました」
「わたしはかまいません…よろしければ…あなたがよろしければですが、わたしをいつの日か本当のお嫁さんにしてください」
「いいかルーシー、そんな事は考えなくていいし二度と言うな」「君の父親にも言ったがわたしは自分自身のためだけにやった事だ」
「本当に助けようとしたのは家族を思う父親の意志だ」「それを忘れてはいけない」
「君にはこれからも指一本触れたりはしない…安心したまえ」
「学校へも行け。そして君はいつか誰かに恋をして家を出たい時にいつでも出て行けばいい」
「知り合ったボーイフレンドが実はマフィアってだけは勘弁して欲しいがな」
そのジョークにクスリと笑みをこぼすルーシーだが、目には涙が光る。
2人は恋人同士だとか親とか子でもなく
友人同士でも教師と生徒とも違った奇妙な信頼関係が生まれていた
スティーブンには大きな愛があり
ルーシーはスティーブンの夢見がちだが確固たる意志をとても尊敬し
スティーブンもルーシーの前だけでは自分の弱さをさらけ出した |
ルーシーは初老にさしかかる彼のそんなところがとても好きになった
そして『スティール・ボール・ラン』レースが始まると母親のように心から
彼の事を心配するようになっていった |
「聞いたか?ジャイロ…?指一本触れられてないだと…信じられる?」
「ンなワケないっしょッ!!スティール氏のあのお顔、どー見ても変態でしょうッ!」「ま…法的に認められている…オレらにとやかく言うスジ合いはねーけどな」
4th.STAGE…ルーシーが『遺体の脊椎部』を持ちJ&Jと接触した時の一コマである。
ジョニィとジャイロの意見は大方の民衆のそれであろう。
『何かがおかしい…この『レース』』
『あの大統領は何かドス黒い…同じ理想を追う情熱でもスティーブンとはまるで違う』 |
ルーシーの心中には元々大統領への不信が存在していた。
そして舞台は再び大統領の執務室に戻る。ルーシーの顔は現在、大統領夫人のものである。
ルーシーのポケットから跳び出した『遺体の右眼球』がドアに何回もぶつかって軽く乾いた音を立てている。
「何の音だ?何を見ている?スカーレット?何か…今…床に落ちたのか?」
『見つかった!!』
顔を押さえていたルーシーの手をどけ、音のする扉を見るがすでに『遺体の右眼球』は雲隠れしていた。
しかし大統領は扉の方に歩み寄る。
『ない…!?目玉が…あたしの『ポケット』の中にあった右眼球部が…今…ドアの方へころがっていった…でも』『ない!?』
『どこへ行ったのか!?どこか…家具か絨毯の下へでも行ったのか?』
はたして目玉の親父は何処に??
『でもあれは!!良く見るとあのドア…下にスキ間がある。あの下からドアの向こう側へ…まさか!!』
『でもころがって行ったという事は…ドアの向こうの部屋に他に『遺体』が!?眼球に反応する大きな『遺体』がすでにこの建物の中にあるという事…!!』
「何が落ちたのか?と訊いているのだ、スカーレット。わたしの顔をおさえて今、わたしの陰で何をしていた?」
「答えろ!今、このドアを見ていたな?」「そんなにドアの向こうが気になるのか?スカーレット」
ルーシーの動悸は速まり呼吸は荒くなる。
『この大統領…まさか…!?まさかあたしの正体を知っていてワザとドアの事を質問しているのか?あたしの正体がバレているのか?…いや、違う!!まだだわ…もしバレているなら大統領はすでに『眼球』をあたしからとり上げているはず!』
『心をきめなくては!』
「まあ!ドアの向こうに何かステキな物でもあるのですか?あたしに隠すような何かステキな物がッ」「見せて!」
かわさずに逆に突っ込むルーシー。
「!」「いや待て、そこで止まれ!」
対峙する2人。
「フン〜〜〜何かカワイイな」「さっきから同じ事しか言わないと思わないでくれ…今日の君の表情は…好奇心いっぱいの少女みたいにとてもカワイイ」
「キスさせてくれ」
グイと抱き寄せる大統領。
「あたしからもひとつ質問してもよろしいですか?」
「ドアの向こうの事なら君のおもしろがるものは何もないよ」
「いえ…『スティール・ボール・ラン・レース』の事についてです」
「レースの事?…何かな?」
「あたしに言わせると…命がけで参加なさってる選手の皆様には失礼ですがたかが『馬のレース』。そんなたかがスポーツにこの大国の主である大統領のあなたがなぜそれほどまでに情熱をかたむけるのですか?カリフォルニアからずっとレースとともに大陸を横断なさっている」
「前に言わなかったか?国民の注目度が大きい」
「すでに2か月も首都をお留守になさってる。そんな価値がこのレースに?」
「フン!いい質問だな。いいだろう、いい機会だ」「このレースが終わった時…その時…この地球上に『どんな事がおこるのか?』
「たとえ話で……」
「君はこのテーブルに座った時…ナプキンが目の前にあるが…君はどちら側のナプキンを手に取る?向って『左』か?『右』か?」
皿、フォーク、ナイフが並べられている円卓に近寄り話を続ける大統領。
「左側のナプキンかね?それとも右側のナプキンかね?」
「普通は『左』でしょうか」
「フム……それも『正解』だ…」「だがこの『社会』においては違う」
「『宇宙』においてもと言い換えていいだろう」
急に大きな話になるナプキンの選択。
「正解は『最初に取った者』に従う…だ」
「誰かが最初に右のナプキンを取ったら全員が『右』を取らざるを得ない。もし左なら全員が左側のナプキンだ。そうせざるを得ない」
「これが『社会』だ……土地の値段は一体誰が最初に決めている?」
「お金の価値を最初に決めている者がいるはずだ、それは誰だ?列車のリールのサイズや電気の規格は?そして法令や法律は?一体誰が最初に決めている?」
「民主主義だからみんなで決めてるか?それとも自由競争か?」
「違うッ!!」「ナプキンを取れる者が決めている!」
「この世のルールとは『右か左か』?このテーブルのように均衡している状態で一度動いたら全員が従わざるを得ない!」
「いつの時代だろうと……この世はこのナプキンのように動いているのだ」
強者がルールを決めるというのはまさしくこの世の真理である。
「そして『ナプキンを取れる者』とは万人から『尊敬』されていなくてはならない」
「誰でも良いってわけではない…無礼者や暴君はハジかれる―それは『敗者』だ」
「このテーブルの場合…『年長者』か…もしくは『パーティー主催者』に従ってナプキンを取る……『尊敬』する気持ちが全員にあるからだ……」
「仮にこのテーブルに『イエス様』がつかれているとしたら、たとえどんな人間だろうとローマ法王でさえイエス様のあとにナプキンを取らざるを得ないだろう?」
上に立つ者に尊敬を求めるというものは近代の概念ではある…それこそ民主主義である。現在の時代、独裁者に尊敬を抱いている人はいないとは言わないが微数だろう。
「イエス様…」
「?」「どういう意味ですか?このレースと何の関係が?」
「『たとえ話』だよ。『た・と・え』だ!このレースが終わる時、我々の繁栄が始まるという事だ。もうすぐそれが手に入る…世界中の万人が『敬意を払う』ものがな…」
「それはゆるぎない確かなもの」
ルーシーを後ろから抱きすくめる大統領。
「それが『真の力(パワー)』だ。その力の下には『味方』しかいない。最初にナプキンを取る事のできる人間になるその『円卓』にこの『ファニー・ヴァレンタイン』が座る事になるのだ」
「何なんだ?スカーレット、すごくカワイイぞその表情」
「興奮して来た…服を脱げ」
コツコツと歩き執務室のドアを開けると控えていたSPに
「しばらく二人きりにして欲しい。30分は用件をとりつぐな」
今度はサイドテーブルの方へ行き葡萄酒を2つのグラスへ注ぐ。
「何か飲むかね?わたしはいただくが…」
『…今、何て言った?…いや…ボディガードのところへ行く前……ボディガードに入ってくるな…と言う前…』
『…ドアが閉じられた『その前』…に…逃げなくては……こ…ここから…』
ルーシーが葛藤している間にグラスを2つ持って近づく。そして無言でグラスを渡すと、そのまま髪をほどく。
『や…やっぱり『正体』がバレてるッ!?…い…いや…違うわ…まだバレてはいない』
『たしか『服を脱げ』と言った……まさか!まさか!』
そして今度はテーブルの上の食器を払い落してしまう。
「客人をもてなすテーブルの上は好きだろ?1776年、かつてこの建物で独立宣言文書が作成された…この大広間でもだ!欲情するか!?このテーブルも100年以上はたってるぞ。ファースト・レディだけがやれる特権だ」
強引にルーシーをテーブルに押し上げるとシャツを豪快に脱いで上半身裸になる。驚いたことに背中に無数の傷痕がある。
「いつもうずいてツッぱっているこのキズ………。兵士として戦争へ行った時の拷問された古キズ…。なぜか急に今…痛みが止まったぞ」
『い…今…逃げたら『正体』がバレてしまう。でも逃げなくては…すぐにこの部屋から外へ逃げなくては!』
「きっと今!肉体が新しい生命を求めているからだ!これから『真の力』を得た時…子孫が必要になる…」
「『力』は子孫に伝えてこその繁栄だ」
そしてテーブルの上でガッシリとルーシーを捕える。
「罵って喜ばして欲しいかッ!服を脱げッ!スカーレットッ!!」
そしてルーシーの着衣をバリバリと破り始める。
「カワイイぞ!なんてカワイイんだ!」
『もうだめだわ…限界だわ…』『あたしには『遺体』をどうするなんて事は…とてもできなかった。こんな無力なあたしは…最初から…ルーシー・スティールはもう……もう『限界』です』
残っていたテーブルの上のナイフを右手に持つと、のしかかってくる大統領に振り下ろす。
が…あっさりと腕をつかまれる。
「やはりな…なんとなくわかっていたぞ」「今までの『裏切り者』はお前だったか……」
「…姿は『妻』…だが…『お前が何者』で…とすると…わたしの本当の妻は今どこにいるのか?と考えるが」
「そんな事はとっくにどうでもいい」
「今までわたしたちはなぜか子供に恵まれなかった。そして今のわたしは君をもの凄く気に入っている。君は何て言うか、どう表現すればいいのか…」
「とにかく夢中だ……夢中にさせるぞ」
「おっと!舌を噛み切ろうとしているのか?」ナイフの柄をルーシーに咥えさせる。「そんな事は許さない…」
「わたしは産んでもらえればそれでいい。おまえに妻のかわりになってもらうぞ」
ついにルーシーの貞操が奪われてしまうのかッ!!大統領がルーシーの唇に吸い付こうとした直前ッ!!
ドシュルルルルルルル
ルーシーの身体からクリーム・スターターの変装皮膚がはがれ大統領の顔に絡みつく。
「何だと…!?」「これは……!?」
『この皮膚は…おまえは…!?確か…『スティール』のところの…』
ドスゥゥウ
頸動脈のあたりをルーシーが刺した。
「うあああああ」「うぐぁ」
「おまえ…おまえ……」
傷から大量の血液があふれ出てくる。
「ま…待て…ぐば!」
「おまえはルーシー・スティール…なぜだ」「動機は何だ?スティールのとこの嫁…が…」
血で手を滑らせて倒れた拍子にナイフの柄をさらに深くめりこませてしまう。そしてテーブルの上から転げ落ちる。
「かっ」「ぐばっ…だ…誰か…」
「だ…誰か…来て…くれ……」
人を遠ざけたのが仇となってしまった。力尽きたのか床に転がってしまう大統領。
すると床に潜るように大統領の姿が消え、入れ替わるように椅子が出現する。
荒い息の下、ナイフをかざして辺りを窺い大統領の姿を探すッルーシー。
そして…例の椅子に近付き…ひっくり返してみると…回転ドアが回るように大統領が姿を現す。
「うあああああああ」
『こいつは!この国の大統領は!やはり大統領は!!』
「『スタンド使い』……そして『悪魔』」
しかし…しかしよく見れば、大統領の傷が消えている。血も止まっている。
そしてルーシーがナイフを振りかざしたものの、大統領の目がハッキリと開かれる。
果たして…顛末はいかようになるのか!?
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