星は夜空に輝くものだけではない。焼けつく大地の上にも凍りつく大河の上にも星はある…。
希望・欲望・願望・祈望―人間の感情はまぶしいくらいの輝きを放つ。
「誰より迅く、誰より強く――」
疾風となれ、迅雷となれ――。苛烈となれ、頑強となれ――。
しかし真の強さとは表層に見える現象のことではない。日常の行為、普段の振舞、忍耐の積上げにこそある。
……などとツレヅレに考えさせられた今号です。では本編をどうぞ!
『スティール・ボール・ラン北米大陸横断レース』!! |
このレースでは
馬たちの走行距離は一日最大50〜70kmで
日々積み重ねる疲労やトラブルのリスクを最小にする
限界の走行距離だ |
それ以上のペースで飛ばす競争相手はぼくらは無視する
その選手は必ずリタイヤか死の終焉を迎えるからだ |
スタートしてアリゾナ砂漠縦断の時は
午前11時をすぎると気温摂氏50度以上
馬が入れる木の下や岩陰を見つけたらとにかく
その場所に防虫対策の簡易ベッドを作ってひたすら寝た
馬は立って眠る |
陽が傾きかけたら再出発で 月明かりがあれば夜進み
闇夜なら馬が岩や毒トゲで負傷するリスクをさけ 即刻キャンプの決断をする
ぼくらの馬は水を4日間飲まなくても大丈夫だった |
夜のキャンプ時もそれなりに忙しい
馬の毛並みのブラッシングをみっちり数時間してやる
筋肉マッサージの意味もあるが防虫や病気の危険回避のためだ |
進行中、道幅の視界が狭くなり、仮に道端に朽ちた木の十字架が
何基かあったら要注意だ
過去に山賊が旅人を虐殺したか
それに近い事故が起こった場所の可能性が高い
襲撃に適した『地形』という事だ |
敵はいないかもしれないが まわり道するか
または覚悟を決めて戦闘態勢をとってそこを通り抜けるしかない |
でもレース中もっとも神経と体力を使うのは『河』を渡る時だ
それが大きい河だろうと小さい河だろうと
水に入ると360度無防備状態になるし
ブヨや蚊の大群はいるし もし水の中を泳いでいるマムシに
馬が噛まれでもしたらその時点でアウトだからだ
ここまでの旅、いったい何本の『河』をぼくらは渡って来たのだろう…
そして あといくつの『河』を渡るのだろう… |
ジャイロの淹れるイタリアン・コーヒーはこんな旅において格別の楽しみだ
コールタールみたいにまっ黒でドロドロで同じ量の砂糖をいれて飲む
これをダブルで飲むといままでの疲れが全部吹っ飛んで
驚くほどの元気が体の芯からわいてくる
信じられないくらいいい香りでもっともっと旅を続けようって幸せな気分になる
まさに大地の恵みだ |
ジャイロはたまにこれをヴァルキリー(馬)たちに
ぬるーくして飲ましている |
とにかくこのレースは地形と天候を読み
自分の馬の肉体と精神のエネルギーを温存しながら進む道だ |
北緯45度を越えてからは雪と風が背後からと横方向から来る時だけ信仰し
少しでも前方から吹きつける時はしのげる小屋をみつけるか
穴を掘って暖をおこしていつまでも待つ |
二日だろうと三日だろうと焦って走り出すと待っているのは自滅だけだ |
ギリギリまで…
こうして…
とにかく…
全ての何もかもが限界に達した時! |
そしてどういう理由なのか?まったくなぜなのか?
誰かが合図を送ってくるのか?というくらい偶然に!
個々の能力に…走行差があるはずなのに!
それなのに……この時! |
他の競争相手も一斉にゴールに向かって集結してくるッ! |
お互い 限界を乗り越えて来た残りギリギリのエネルギーを
この時点でふりしぼって使い果たすためにッ! |
「ジャイロ!ポコロコだッ!!そのあとはヒガシカタ」ついに6th.STAGEも佳境。「ポコロコが後方から来る…だがあいつはあまり問題じゃあない!」
「一目でわかる…あの走行技術…騎手としては三流だ!」
ポコロコを一瞥するジャイロ。「そうか…ジョニィ?じゃあどういう理由で…あいつ、現在総合1位なんだ?」
そのころ、久しぶりにクローズ・アップされるポコロコ。その傍らには同じく久しぶりのバケットヘッド(仮名)がいる。
「ヨォ…!」「ヨオ ヨオ ヨオ ヨオ ヨオ ヨオォォォーッ」
「ポコロコちゃんよォォォォー――」
「そうムキになるなっつーの!ヨォーヨォー、肩の力抜きなヨォォォォォー――」
「このブリザードは追い風だ、ポコロコちゃん。風に逆らうな」
しかし不安を隠せないポコロコにさらに言葉をかけるバケットヘッド。
「オッオッ♪オッオ!」「いつだって味方だろォォォガヨォ、風もオレもなぁぁぁぁ」
「オメエさんにゃあ幸運の女神がついてるんだ、予言されたろ?幸運しかねえんだよォォォォ」
「しかだッ!」「それだけだ!」
「幸運がオメエさんをとり囲んでいるぅぅぅぅ」
「でも氷の海峡越えの時…あの時ジャイロたちに原住民のイカダを先に見つけられたぞ」
「それがドしたいィ?」不安なポコロコとは対称的に自信タップリのバケットヘッド。「ここまでヤツらにちゃんと追いついて来てんじゃあねーかよォォ」
「全員が限界でゴールに向かう時…残るのはどんな差だ?『幸運』だけだよ」
「遅れもなく事故もなくここまで来れてる。それが証明だぜ、オメエさんには予言どおり幸運がついている。このブリザードは…」
「オメエさんのために吹いている!」
「ここは絶対にどいつだろうと負けれねーからな。レースの残りは3STAGEしかねえ!このSTAGEのポイントだけは…!!絶対に取らなきゃあいけねえんだからな!!」
駆けるジャイロとジョニィ。
「ジョニィ、あとゴールまでの距離は?」
「今までの歩数から数えると残り800から600メートルの予測」
「200っつー予測の差はでかいんじゃあねーの?」
「じゃあ間とって700メートルで」
微妙にアバウトなジョニィ。
「ジョニィ!!ブリザードがやんだッ!」
視界が開けた刹那、ジャイロとジョニィの背中に戦慄が走る。
「言った通りだポコロコちゃあぁぁぁー――ん」「見ろよ、やったぞポコロコちゃんよォォー―。やつらの進行方向前ッ!バックリ!断層崖(クレバス)が口をあけて立ちふさがってるぞォォー――ッ!!」
「2人はもう周り込んで来るしかねえッ!」
「何発行くんだ!?ジョニィ!!オレは一発か!?それとも二発投げるかッ!」
「一発で十分ッ!速度は落とすなッ!」「黄金長方形!『爪(タスク)』!」
地面にタスクを3発撃ちこむジョニィ。弾痕がクレバスへ向かう。
そして鉄球を放るジャイロ。「オラァア!!」
崖際で跳ねた鉄球が弾痕3発を拾い宙に飛び出す!するとリンゴの皮を剥くように…マニアックな言い方をすればマスク・ジ・エンドを受けたキン肉マンのマスクのように鉄球が削げていくッ!!
そして二条の細い紐となった鉄球は彼岸と此岸…いや崖だから彼崖と此崖になるか…。そんな日本語のアレコレはともかく、からみあって簡易ワイアーと化した鉄球があっちとこっちの崖に突き刺さり橋となる。
そして仰天なことにッ!!そのワイアーの上をジャイロとジョニィは駆けぬけるのだ!!
「な…なんだあ…ありゃあぁ……っ!!」
「や…やつら!!なんだよォー――ッ、クレバスをなんなく越えていったぞッ!」
風雪渦巻く中、その寒さを上回る熱き観客の歓声と怒声が選手を迎える。
{ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!}
{その後に続くのはジョニィ・ジョースター――ッ!!}
{ブリザードと氷の海峡を越えてきたのはジャイロ・ツェペリだッ!!}
{一着でゴーォォォオオオルッ!!}
そのころ……渦巻く歓声からはるかに離れた雪の上で一人の男が倒れ伏した。
「ひ…飛行機…くそ…こんなあ…こんな場所で…もっと早く飛行機が発明されてりゃあ…なあ…」
「しに…死に…たくねえ……」「あの野郎…ウェカピポ…許さねえ…ブッ殺す…裏切り…やがって…」
「くそっ…オレの…オレの目が…よくも!……」「ルーシー・スティールだと…?聞いたからな!!」
なんと死んだと思われていたマジェント・マジェントだった。
そしてレースは続く。
7th.STAGE フィラデルフィア・トライアングル
マッキーノシティ ヒューロン湖 → フィラデルフィア
(走行距離 約1300km)
(推定日数 約22日) |
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