星は夜空に輝くものだけではない。焼けつく大地の上にも凍りつく大河の上にも星はある…。
希望・欲望・願望・祈望―人間の感情はまぶしいくらいの輝きを放つ。

「誰より迅く、誰より強く――」
 疾風となれ、迅雷となれ――。苛烈となれ、頑強となれ――。
しかし真の強さとは表層に見える現象のことではない。日常の行為、普段の振舞、忍耐の積上げにこそある。

 ……などとツレヅレに考えさせられた今号です。では本編をどうぞ!

‘07 11月号
#31 6度目のゴール 

『スティール・ボール・ラン北米大陸横断レース』!!
このレースでは
馬たちの走行距離は一日最大50〜70kmで
日々積み重ねる疲労やトラブルのリスクを最小にする
限界の走行距離だ

それ以上のペースで飛ばす競争相手はぼくらは無視する
その選手は必ずリタイヤか死の終焉を迎えるからだ

スタートしてアリゾナ砂漠縦断の時は
午前11時をすぎると気温摂氏50度以上
馬が入れる木の下や岩陰を見つけたらとにかく
その場所に防虫対策の簡易ベッドを作ってひたすら寝た
馬は立って眠る

陽が傾きかけたら再出発で 月明かりがあれば夜進み
闇夜なら馬が岩や毒トゲで負傷するリスクをさけ 即刻キャンプの決断をする
ぼくらの馬は水を4日間飲まなくても大丈夫だった 

夜のキャンプ時もそれなりに忙しい

馬の毛並みのブラッシングをみっちり数時間してやる
筋肉マッサージの意味もあるが防虫や病気の危険回避のためだ

進行中、道幅の視界が狭くなり、仮に道端に朽ちた木の十字架が
何基かあったら要注意だ
過去に山賊が旅人を虐殺したか
それに近い事故が起こった場所の可能性が高い
襲撃に適した『地形』という事だ

敵はいないかもしれないが まわり道するか
または覚悟を決めて戦闘態勢をとってそこを通り抜けるしかない

でもレース中もっとも神経と体力を使うのは『河』を渡る時だ

それが大きい河だろうと小さい河だろうと
水に入ると360度無防備状態になるし
ブヨや蚊の大群はいるし もし水の中を泳いでいるマムシに
馬が噛まれでもしたらその時点でアウトだからだ

ここまでの旅、いったい何本の『河』をぼくらは渡って来たのだろう…
そして あといくつの『河』を渡るのだろう…

ジャイロの淹れるイタリアン・コーヒーはこんな旅において格別の楽しみだ
コールタールみたいにまっ黒でドロドロで同じ量の砂糖をいれて飲む
これをダブルで飲むといままでの疲れが全部吹っ飛んで
驚くほどの元気が体の芯からわいてくる

信じられないくらいいい香りでもっともっと旅を続けようって幸せな気分になる
まさに大地の恵みだ

ジャイロはたまにこれをヴァルキリー(馬)たちに
ぬるーくして飲ましている



とにかくこのレースは地形と天候を読み
自分の馬の肉体と精神のエネルギーを温存しながら進む道だ

温存しない者は負ける

北緯45度を越えてからは雪と風が背後からと横方向から来る時だけ信仰し
少しでも前方から吹きつける時はしのげる小屋をみつけるか
穴を掘って暖をおこしていつまでも待つ

二日だろうと三日だろうと焦って走り出すと待っているのは自滅だけだ

ギリギリまで…
こうして…
とにかく…

全ての何もかもが限界に達した時!

ようやくそのSTAGEの『ゴール』が見えてくる


そしてどういう理由なのか?まったくなぜなのか?
誰かが合図を送ってくるのか?というくらい偶然に!
個々の能力に…走行差があるはずなのに!
それなのに……この時!

他の競争相手も一斉にゴールに向かって集結してくるッ!

お互い 限界を乗り越えて来た残りギリギリのエネルギーを
この時点でふりしぼって
使い果たすためにッ!

「ジャイロ!ポコロコだッ!!そのあとはヒガシカタ」ついに6th.STAGEも佳境。「ポコロコが後方から来る…だがあいつはあまり問題じゃあない!」
「一目でわかる…あの走行技術…騎手としては三流だ!」

 ポコロコを一瞥するジャイロ。「そうか…ジョニィ?じゃあどういう理由で…あいつ、現在総合1位なんだ?」

 そのころ、久しぶりにクローズ・アップされるポコロコ。その傍らには同じく久しぶりのバケットヘッド(仮名)がいる。
ヨォ…!」「ヨオ ヨオ ヨオ ヨオ ヨオ ヨオォォォーッ
「ポコロコちゃんよォォォォー――」
「そうムキになるなっつーの!ヨォーヨォー、肩の力抜きなヨォォォォォー――」
「このブリザードは追い風だ、ポコロコちゃん。風に逆らうな」
 しかし不安を隠せないポコロコにさらに言葉をかけるバケットヘッド。
オッオッ♪オッオ!」「いつだって味方だろォォォガヨォ、風もオレもなぁぁぁぁ」
「オメエさんにゃあ幸運の女神がついてるんだ、予言されたろ?幸運しかねえんだよォォォォ」
「しかだッ!」「それだけだ!」
「幸運がオメエさんをとり囲んでいるぅぅぅぅ」
「でも氷の海峡越えの時…あの時ジャイロたちに原住民のイカダを先に見つけられたぞ」
「それがドしたいィ?」
不安なポコロコとは対称的に自信タップリのバケットヘッド。「ここまでヤツらにちゃんと追いついて来てんじゃあねーかよォォ」
「全員が限界でゴールに向かう時…残るのはどんな差だ?『幸運』だけだよ」
「遅れもなく事故もなくここまで来れてる。それが証明だぜ、オメエさんには予言どおり幸運がついている。このブリザードは…」
オメエさんのために吹いている!

「ここは絶対にどいつだろうと負けれねーからな。レースの残りは3STAGEしかねえ!このSTAGEのポイントだけは…!!絶対に取らなきゃあいけねえんだからな!!」
 駆けるジャイロとジョニィ。
「ジョニィ、あとゴールまでの距離は?」
「今までの歩数から数えると残り800から600メートルの予測」
「200っつー予測の差はでかいんじゃあねーの?」
「じゃあ間とって700メートルで」
 微妙にアバウトなジョニィ。
「ジョニィ!!ブリザードがやんだッ!」
 視界が開けた刹那、ジャイロとジョニィの背中に戦慄が走る。
「言った通りだポコロコちゃあぁぁぁー――ん」「見ろよ、やったぞポコロコちゃんよォォー―。やつらの進行方向前ッ!バックリ!断層崖(クレバス)が口をあけて立ちふさがってるぞォォー――ッ!!」
2人はもう周り込んで来るしかねえッ!

「何発行くんだ!?ジョニィ!!オレは一発か!?それとも二発投げるかッ!」
「一発で十分ッ!速度は落とすなッ!」「黄金長方形!『爪(タスク)』!」
 地面にタスクを3発撃ちこむジョニィ。弾痕がクレバスへ向かう。
そして鉄球を放るジャイロ。オラァア!!
 崖際で跳ねた鉄球が弾痕3発を拾い宙に飛び出す!するとリンゴの皮を剥くように…マニアックな言い方をすればマスク・ジ・エンドを受けたキン肉マンのマスクのように鉄球が削げていくッ!!
 そして二条の細い紐となった鉄球は彼岸と此岸…いや崖だから彼崖と此崖になるか…。そんな日本語のアレコレはともかく、からみあって簡易ワイアーと化した鉄球があっちとこっちの崖に突き刺さり橋となる。
 そして仰天なことにッ!!そのワイアーの上をジャイロとジョニィは駆けぬけるのだ!!
「な…なんだあ…ありゃあぁ……っ!!」
「や…やつら!!なんだよォー――ッ、クレバスをなんなく越えていったぞッ!」

 風雪渦巻く中、その寒さを上回る熱き観客の歓声と怒声が選手を迎える。
ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!ジャイロ・ツェペリ!!
{その後に続くのはジョニィ・ジョースター――ッ!!}
{ブリザードと氷の海峡を越えてきたのはジャイロ・ツェペリだッ!!}
{一着でゴーォォォオオオルッ!!}

 そのころ……渦巻く歓声からはるかに離れた雪の上で一人の男が倒れ伏した。
「ひ…飛行機…くそこんなあ…こんな場所で…もっと早く飛行機が発明されてりゃあ…なあ…」
しに…死に…たくねえ……」「あの野郎…ウェカピポ…許さねえ…ブッ殺す裏切り…やがって…」
「くそっ…オレの…オレの目が…よくも!……」「ルーシー・スティールだと…?
聞いたからな!!
 なんと死んだと思われていたマジェント・マジェントだった。

 そしてレースは続く。

7th.STAGE フィラデルフィア・トライアングル

マッキーノシティ ヒューロン湖 → フィラデルフィア
(走行距離 約1300km)
(推定日数 約22日)

今週のめい言

「ルーシー・スティールだと…?」

○ジョジョと言えばネーム(文章)が多く、時には「説明のしすぎ」と批判されますが、それはそれとしてセリフの言いまわし方など確固としたスタイルを築いているのは確かです。さて、序盤にジョニィの独白のかたちをとって書かれたネームは、まるで旅の紀行文のようでなかなか美しいものがありました。この雰囲気を私の稚拙な筆では表現できないので、ジョニィの言葉だけを追いましたけど、読んでいるだけで心が浮き立つものがあります。年末に漠然と冬の京都にでも行こうかなと考えていましたけど、今すぐにでも旅立ちたい気分です。

○1st.STAGEから「ポコロコの幸運とは何か?」というのはケッコウ議論のテーブルに上っていました。1st.STAGEでジャイロが降格したとはいえ、別に1位になったわけでもなく、その後のSTAGEもブッチぎりとなったわけでもない。しかし今号で幸運の正体がわかりました。それは「騎手としては三流、操馬技術は素人よりは上という程度でありながらも、他の一流や超一流の選手に遅れをとらない」ということでしょう。

○バケットヘッドの影響はレースのみならず、サヴァイヴァルにも活かされているに違いありません。例えば、強盗がいそうな場所を通っても何も起こらない…またはそもそも強盗のいる道を通るはめにならない等等。もしもポコロコが一流とは行かなくても二流の操馬の腕を持っていたならばダントツの1位だったのではなかったのでしょうか?

○バケットヘッドが「残るのはどんな差だ?幸運だ」というセリフを言っていましたが、最近たまたま立読みした「影武者 徳川家康」でも同じようなセリフがあったのを思い出しました。日本史で最も幸運だったのは誰でしょうね?源頼朝、豊臣秀吉、徳川吉宗…そのあたりかな。世界史は知識がないので、メイルでもしてもらえれば、それこそ幸運です。

閑話休題――しかしこのポコロコの幸運を、技術と発想で打ち破るのがジョジョ流です。鉄球をワイアーと化す(恐らく普段から鉄球とタスクの有効な組み合わせを思考/試行しているのでしょう)という発想、ワイアーの上を駆け抜けるという技術の高さ。まさしく人間力の勝利というやつでしょう!

○ついにSTAGE優勝という名誉と100P、タイムボーナスを得たジャイロ。しかし火種は残っています。生きていたマジェント・マジェントッ!!!しかもウェカピポが大統領側にいるトロイの木馬に味方すること、その木馬の名がルーシー・スティールであるというド級の爆弾を携えています。このまま失血死か凍死をしてもらえれば安心なのですが……帰りついてしまうんだろうなぁ〜(笑)。大統領夫人(ファースト・レディ)に変装しているルーシーはしばらくは無事であろうが、正体がばれるのは時間の問題でしょう。そして情報がばれたことを知らずウェカピポが大統領陣営に帰ったらそれこそ悲劇です。

○ジャイロ1位獲得と比例するように状況が悪化をたどる。ますます油断できない、今後をカツモクせよッ!!

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