‘07 08月号
  #28  氷の世界  


「いったい何があったんです?」
 またもや過去の話である。
「事故よ…労働中に石段から落ちたらしいわ…」「頭部に挫傷と左肩が骨折している」
 治療室、いや手術室の中と言った方がいいだろう。
ドシュウウウウ
 うつぶせにしてある患者の背中に回転する鉄球を置く。すると傍らに置いた水を張ったパッドに、身体の中身―神経や骨が浮かび上がる。
すると、それを見ていた助手が…
「ジャイロ…いったい何を考えているの?よけいな事は考えないで…ケガの手当てだけに専念して…」
「母さん…父さんは今どこですか?」
 助手の人はジャイロの母親であった。
「フィレンツェに行ってるわ…すぐに連絡しても帰宅は3日後」
「この女性会った事がある。父さんが看ていた患者だ。眼の奥…視神経のところに損傷がある」
「………」「それは父さんに聞いて。この女性…目が不自由だったらしい…だからこの事故にあったのかもしれない…。それより事故の状況、患者の命に別状は?」
「その点は問題ない…。命は失われずに済む」
「じゃあ、父さんならきっとこう言うわ」「『命を救えるならその事だけに感謝すべきだ』『よけいな領域には踏み込むな』…と」
 患者に…そして死刑囚に感情や感傷を持つな、さもないと完全な仕事をすることはできない…ということでしょうか。
「なぜ父さんは目の治療をしないんだ?見て、ここのこの傷だ…視神経のここの部分。たしかにムズかしい傷だ…でも鉄球の回転なら手術できる…修復は可能かもしれない…。もし回転が正確なら鉄球の回転でこの針を回し…」
 すぐ横にある医療器具の1つであろう細い針を言ったとおり鉄球で回転させるジャイロ。
「切れた神経の傷をつなぎ合わせられるかもしれない…そうすればこの女性の目に光が戻る…」
「ジャイロ…わたしには『医術』も『鉄球』の心得もないけど忠告はさせて…この女性の目の事はあたしたちには関係ない…。今は事故の傷だけ手当てして…」
 わずかの時間ながら立ち尽くすジャイロ。
「外の廊下に誰もいないようですが…この患者の家族は?」
「…誰も来てないわ…この女性」「身よりはいない。元護衛官の兄がひとり彼女の離婚のゴタゴタで決闘が起こり亡くなったとか。だからうちに運ばれて来た…でも誰も彼女の面倒を見る事はタブー」
「元護衛官……」
 窓の外を眺めるジャイロ。自然とその眼は黄金長方形を感じる。
「彼女はタブーなのよ、ジャイロ。彼女によけいな事をしてはいけないッ」
「『ネットにひっかかったボール』はどちら側に落ちるのか?この人のは違う!何もしなければ永久に闇に浮かんだままだ…ボールはどちらにも落ちない」
 鉄球を掴むジャイロ。その時、ストーブにかけていた鍋から蒸気が鉄球を掴んだ手に噴き出す!
『!!』『何!!蒸気…』

 ここで過去の話は終わる。再び舞台は氷の世界に戻る。
「これはいったい…。な…何だ!?ジャイロッ!」
「君の体半分がッ!」「ぼくの『左半身』がぁああああああ」
「落ち着けジョニィ。あわてるんじゃあねッ!」
 不可思議な現象に襲われるJ&J、そして鉄球はウェカピポに帰っていく。
「やつの名は――『オレの祖国の護衛官だった男』……『ウェカピポ』」「これは『左半身失調』ッ!」
「今、やつの『鉄球』をまともにくらっていたら死んでいたが…『鉄球』の衝撃波でもこうなる!!」
「ツェペリ一族のとは違う…!王族護衛の戦闘のための鉄球の能力なんだッ!『WRECKING BALL』『砕けゆく鉄球』と―名付けられているッ!」
 ジャイロの鉄球とは違う鉄球術!!
「左?」「何?」「『左半身』が何だって?」
 まだ事態がのみこめないジョニィ。それほど不可思議で衝撃的な現象なのであろう。
「自分から見て『左』!『左』が見えていないッ!衝撃波のせいで全ての『左側』半分が無くなっているように見えるッ!『そういう能力』!」
 この場面ではジャイロの右半身が無くなっている。つまりこの画はジョニィの主観である。
「だが左腕も左脚も実はある!」ジャイロの説明は続く。「目で見ていても自分の脳が失くなっている認識しているだけなんだッ!そうさせられている!」
「そ…それはお…おかしいッ!みっ、見ろ触れないッ!」「右手で左腕を探してもどこかに行っちまってるッ!ゼンゼン無いぞッ!」
「だからそう思い込んでるだけだ!仮に触れても触ってもいないと脳が思ってしまっているッ!」「いいかあわてるな!『衝撃波』は十数秒で消えるッ!まもなく元に戻るッ!!」

「それよりも問題はソリに乗って『左側』に回り込んだもうひとりの敵だッ!」そうマジェント・マジェント(以後、「マ・マ」と表記)の姿を失調している。「もうひとりのヤツがここへ近づいて来てるはずだッ!それがオレの国の『護衛官が使う戦闘方法』だッ!!」
「や…『山』まで半分になっている!!山斜面の左側が!ない」左側の視界が欠落している、徐々に理解してくるジョニィ。「本当に近づいて来てるのかァッ!?馬のヒヅメもソリをひきずる音もまったく聞こえないぞー――ッ!!」
「いいかジョニィ、今!『左側』は絶対に見えない……あきらめろ!だからおまえは『右』を探せ!」「『右』なら見える!」
「『右』へ『右』へ!視界の方向を一周するんだッ!『右』へ『右』へと見てもうひとりのやつを探せッ!」「首をまわして一周したらどうなる?」

 コロンブス的発想で―つまりインドへ行くのに大西洋を横断すればと言う逆転の発想を行えというジャイロ。
「右へッ!右へッ!」
 するとついにジョニィの右目がソリを捉える。そして……
「ジャイロォォォオオオ」
 ソリを降りてショットガンを構えたマ・マも!!

ドン ドン ドン ドン ドン

 ジョニィが右手の弾爪5発を発射する。

ドグオオオ

 それに気を取られて、弾丸はJ&Jの手前の岩に当たる。と同時に、マ・マの背後からスタンドが顕れる。
バッタのようなスタンドは、マ・マを抱きしめるように包み込む。そしてマ・マは両膝をつき、両手を大地に置く。
すると、マ・マに命中したはずの弾爪が、表面を走って大地へと逃げていく。
 これを見ていたウェカピポが呟く。
「『ツェペリ家の息子』……ジャイロ・ツェペリやはり知っていたか…。このわたしと…このわたしの技術…」
「『砕けゆく鉄球(レッキング・ボール)』の事を…」
 左半身の感覚が戻る二人。しかしジャイロが左手に散弾の一部を被弾していることがわかる。
「オラアア!!」

ドグシャアア

 マ・マの顔面に右手で鉄球をブン投げるジャイロ。しかし命中すれども、やはり地面へ回転の威力が放たれる。
「やったのか!?ジャイロ!?左側のやつ…あいつ死んだのかッ!!」
「動かないぞッ!でも何か…命中した回転の衝撃が氷原を伝わって逃げていってるように見えるッ!」
「まさか、こいつ…防御している!?爪弾も回転もダメージがないのではッ!」
 左人差し指の爪を撃つがやはりマ・マを通り地面は逃げていく。
「おいおいおいおいおいおいおい」これはジャイロ。
「命中した『爪弾』が逃げていく…やっぱり衝撃が表面上に散っていってるように見えるぞッ!」これはジョニィ。
 そしてウェカピポが下馬して近づいてくる。
「ジャイロッ!?あの2人の事を知っているのかッ!?」
「右側の『ウェカピポ』だけな。だが名前だけだ、知り合いというわけじゃあねぇ」
「ジョニィ…またやつの『鉄球』が来るぞ!次のに備えろ!そういう技術だ!」
「鉄球の『衛星』を食らってしまうか……もしくはその衝撃波で『左側が失調』する……」
「『衛星』の攻撃で『左側』が見えなくなったら…こっちのやつが動いてぼくらに近づいて来るって事かッ!」
 恐るべしネアポリス王族護衛隊の戦術!!
しかしジョニィも黙っていない。ハーブをムシャムシャ食べて爪の補填をする。
「ハーブで爪弾が再びはえそろうまで数十秒かかる!でも!kの2人の目的は何だ?この場所で攻撃してくる理由がわからないッ!この氷原は春になったらドボンって場所だぞ!」
「ぼくらが遺体をひとつも持ってないって知ってるのに…たとえぼくらを始末するにしても『遺体』をみつけたあとのはずなんだッ!!」
「もしかするとあのウェカピポ……『両脚部』…!!次の遺体の埋まってる『位置』をオレらより先に気づいたのかもしれない……!!」
なかなか衝撃的なことをいうジャイロ。「この場所に来てからどういう理由かで知ったのかも!それなら…まずオレらを始末にかかるな」
「あ、ありえないッ!『地図』を示す遺体部位は『脊椎』だけ!今はあの『ホット・パンツ』が持ってる…ぼくらより先にわかるわけがないッ!!」

 様子をうかがうウェカピポ。その目がジョニィを追ってきた狼の子どもをとらえる。そして思い出す。
『『11人の男』たちのたったひとりの生き残りが命からがら…。ジョニィ・ジョースターから『両耳部』と『左腕』を手に入れて帰って来た時…彼は言った…』

オレが『耳』と『左手』の遺体を受けとった時…一瞬だが雪の上に『地図』が現れた…
ジョニィ・ジョースターの足元にな…
地図は大ざっぱだったがマギナック海峡だった
しかも…地図といっしょに一瞬だが何か『動物』の姿形が雪の上に現れていた
確かに見た。『動物』だよ……その姿は
オレが『耳』と『左手』を受けとるとすぐに消え、2度と見えなくなった

 そして、その報告を受けた大統領はかく語る。

いいか…ウェカピポ…『遺体』だからといって必ずしも地中に埋まってるとは限らない
移動して『動いてるのかもしれない』
何か『生き物』や『砂』の中に同化してな…
『ジョニィ・ジョースターを追跡して観察しろ…』
『遺体』の方がスタンド使いを選ぶのだからな

「また…あいつだ」「どうやら馬を狙ってるんじゃあないらしい…」
「だが昨夜からずっとジョースターたちにつきまとっている…。2人は気付いてないようだが」
「これでまちがいないないな」
 つまりウェカピポ達は『遺体』の在り処の見当がついていたのだ。

「ジャイロ……どうやら早く指の『爪』が戻って来た…。でも…その…さっきのぼくの爪弾の回転だけど」
「ぼくはいつも馬の『たてがみ』とか見てそれをスケールに回転させてる。あるいは木の枝や葉っぱ、近けりゃ小鳥の翼を見てる…」
 マ・マはまだ動かない。
「黄金の回転の話をしているんだよ。さっき正確に回せば一瞬早くあいつに命中したかもしれない…」
「でも正確に回せなかったんだ。君はどうしている?この場所でどうやって回せばいい!」
 歩き近づいて来るウェカピポ、未だに微動ともしないマ・マ。
「『黄金長方形』の事だッ!どうしていいかわからない…樹木のある向こう岸から離れてしまった。『植物』がない…ぼくは何を見て『爪弾』を回せばいい?」
 ウェカピポが鉄球を投げる!
「ジャイロ、あいつ次のを投げたぞォォー――ッ」「また来るッ!」
「『2発』だッ!『2発』来るぞォーーッ」

 ジャイロもホルダーから2発抜いてウェカピポの鉄球にブツケルッ!が、弾かれて地面に落とされるッ!!
『た…たたき落とされた…まさかジャイロの鉄球が……』

「ツェペリ一族の求めるもの!『黄金長方形』から得られる…無限の回転パワーは…『生命』と『自然』への深い洞察から生まれる…。彼らの鉄球に『敬意』を払うならな…」
「だがここは『氷の世界』。その『黄金のスケール』がどこにある?」


今週のめい言

「その黄金のスケールは 
 どこにある」 

○やや唐突で、謎を感じる冒頭のウェカピポの妹に関するエピソード。何故にジャイロの父であるグレゴリオ・ツェペリは可能なはずの目の治療を行わなかったのか?そしてジャイロは治療を行ったのであろうか?このエピソードを直観してみると、機密である「死刑執行」職についているツェペリ家とはいえタブーを侵し権力者に睨まれるのは怖いということになってしまう。逆に、機密を保つために権力者に逆らうような目立つ行動をするわけにはいかないのかも…。

「感傷をもつな」と常々言っているグレゴリオであるが、ウェカピポの妹を看ているというこの中途半端な対応には彼の迷いを感じる。感傷を持つなというならば一切関わるべきではない、ツェペリ家からは遠ざけるべきなのだ。そして、関わってしまったジャイロがどのような判断を下したかは非常に興味をそそる。ウェカピポとの闘い決着後に、彼との会話で語られるかもしれません。

○恐るべし「護衛官式鉄球術」!ツェペリ家だけではなかった鉄球術ですが、例えるなら、江戸時代の剣術が諸派あったように鉄球術も諸々の流派があるのかもしれないですね。便宜的に「護衛官式鉄球術」と名付けました。攻撃としては鉄球本体、続いて衛星、それをかわされても衝撃波により左側の五感をうしなってしまうレッキング・ボール(砕けゆく鉄球)という三段攻撃!!感覚は失調していても、麻痺しているわけではないので慣れれば動き回ることが可能だが、初体験のものにはパニックをもたらすであろう。右脳のどこかの部分を共鳴振動させて機能を止めてしまうらしい、珍しい現象を生み出す。王族護衛という立場からは、襲ってきた者を生け捕りにして情報を聞き出すという目的もあるのでしょう。

○そのスタンドが彼を包み込むと、ジョニィの弾爪もジャイロの鉄球は命中すれどもその威力は大地へと返ってしまう。両膝両手をついたユニークな格好だが、もしかしたら両手を接触したものにダメージが行くのかもしれない。久しぶりに身体に纏うタイプ―通称「スーツ系スタンド」である。(他にはイエロー・テンパランス、ホワイト・アルバム、オアシス)

○何故か「動物」というヒントが顕れないジョニィの地図つくり。せっかく顕れても本人はみていないで、敵にバッチリ見られたのでは間抜けというしかない。それにしても、ウェカピポ&マ・マがこの場所この時機(タイミング)に襲ってきたのは全て計算尽くだったのは恐れ入る。黄金長方形のスケールを封じるためのこの場所と『遺体』の在り処を悟ってのこの時機、まるで天がウェカピポの見方をしているようである。

○ジャイロの手のひらも黄金長方形だったような気がするからそれを見て回せばいいのでは…と思いつつも、やはり鍵を握るのは狼の子どもであろうか?次回も注目不可避ッ!!

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