「ルーシー?」「あなたルーシー?その『顔』…」
「ここで何してるの?…とても困った顔をしている…」
ついに大統領夫人スカーレットまで来てしまった。前門の虎、後門の狼、天には龍、地には鬼…障害に囲まれているルーシー。
「大丈夫?…カワイそう、あなた…とてもおびえた目をしているわ……」
『バ…バレた…見つかってしまった……責任はあたしの『夫』まで行く。あたしは『遺体』や『大統領』や『この国』に対してどうしようとか…そんな気持ちは少しもない…』
『ただ何事も普通に戻ればいいだけだった、ただそれだけだった』
けなげな想いのルーシー…。まさしく乙女の純情である。この想いにはどんな人間でも…
「だがメス猫がッ!その顔ブチ抜いてやるわッ!ルーシー」
え〜〜〜〜!銃を抜いちゃったよこのおばさんッ!
ガアァァン ドバ
しかも本意気で発砲したッ!防御したルーシーの左手の小指薬指が砕け跳ぶッ!
「目的が何かは知らないけれど、あなた『スタンド使い』ッ!わたしを利用してここに入って来たのね…!!」
「愛し初めていたのに…ずっとずっと目をかけてあげようと思っていたのに……!!」
「このあばずれがァァー――ッ」「その乳房を両方とも弾丸で削りとってやるッ!」
ファーストレディとは思えない下品な発言をしながら次々と発砲するスカーレット。
しかしまだラッキーなことに2発目は当たっていない。
騒然とする公邸!SPが気付く。
「おい!なんだ。銃声だッ!」
そしてこの男、マイク・Oも!
「何て事だ…場所は大統領の寝室だ…!!」
前には拳銃、後ろには釘風船犬ともはや絶体×絶命のルーシー。
「このくそアマッ!立ち上がってんじゃあねェェェー―――ッ」
意を決してスカーレットに突進するルーシー。しかし釘の刺さった右足に続き、左足に被弾する。
そして倒れこむようにスカーレットの腰にタックル!テイクダウンで隣の部屋に雪崩れ込む。
そしてすかさず扉を閉めて釘風船犬を閉め出す。
しかしゴム状となっている釘風船犬のボディは扉の隙間から侵入を始め、ドアノブを回そうとしている。
「だ…だめだわッ!入って来てしまうッ!!このゴムみたいのがッ!」「われるまで!!」
「きっとわたしに喰いついてわれるまで追跡をやめないッ!!」
「きィイイイイイエエエエエー――ッ」
奇声を発してスカーレットが背後からルーシーにしがみつく。
「ルーシー、よくもやってくれたな……これから思い知らせてやる。このあたしをだましたらどうなるか…」
「オマエをただじゃあ『処刑』なんかさせない…そんな簡単な事。ギリギリまで生かしてからだ。いろんなモノを失うまで生きてもらうッ!」
といってルーシーの大腿に刺さっている釘をグリグリ回す。
ドンッ!
SPが大統領の寝室に雪崩れ込む。
「まずこのカワイイ両脚をさし出してもらうぞッ!この『ゴムの犬』たちに!!このあたしの手でッ!喰わせてやるわッ!!」
ついに釘風船犬3匹も扉の隙間から部屋に侵入。ルーシーに襲いかかる。
刹那!ルーシーは自らの顔の仮面を剥ぎ、スカーレットの顔に押しつける。
釘風船犬は臭いを追う。ルーシーの顔面に張りついて、汗と涙と鼻水をタップリすってルーシー臭を放つ仮面を、距離的に近いために犬は優先して襲う。
「ひィイイイ」「ひっ」
バン
顔に喰いついて破裂する釘風船犬!結果、スプラッターです。15歳以下は読書禁止ッ!
スカーレットの顔に十五寸釘が3本ブッ刺さっている!!!
「あああああああああ」「ああああああああ」
口から漏れる絶叫!目の前で血まみれになって人が死んだのだから当然である。
「なんて事…なんて事に!大統領夫人を!!やるしかなかった…しかたなかった。やらなきゃあ……やられていた!!」
「大統領ッ!バレンタイン大統領ッ!ご無事でッ!」
大統領の寝室。
「どうした、何の騒ぎだ?昼寝の途中だぞ」
記憶の欠落がある、寝起きだからであろうか。
「大統領ッ!銃声ですッ!この部屋からでした!」「ここへ何者かの侵入がッ!」
「あああああああ」
覗いてるッ!外から覗いているマイク・Oにおののくルーシー。
しかし室内が暗いため、マイク・O側からはよくみえない。手で影をつくり再び覗いて見ると……。
血だらけのバスルーム、落ちている自分の釘…そして排水溝から出現するホット・パンツ。
「何て事だ…このバスルームの世界は…おまえは……」
「レース選手の『ホット・パンツ』」
「ルーシー」
マイク・Oに気付かれないように小声で話しかけるホット・パンツ。
「『心臓部』は…遺体はどうした?回収出来たのか?」
「カバンの中に持ってきたわ……でも『心臓』だけじゃあなかった…『右腕』と『両耳』。遺体は『3つ』あった…。3つともここにある…!!」
ほぼ同時に、大統領は自分の体内から『遺体』が紛失したのに気付く。
「『3つ』だと?ルーシー」「予想外だ…この世にはその『遺体』のために無償で…喜んで…生命を差し出す者も大勢いる」
「たとえばその者が『女』であろうと…修道女のような…」
「すぐに終わる…目撃されたのは窓の外のヤツだけだな?ここは…わたしがヤツを始末したら脱出だ」
ホット・パンツVS.マイク・Oの闘いの幕があがる。
マイク・Oがガラスに口をつけ息を吹き込む。するとガラスを嵌め殺しているビス、ガラスに埋め込まれている網の目状の金属が次々と膨らみ、室内にむかって浮かび出す。針が十字状に4本突き出している。
「く…来るッ!『金属』が風船のように膨らんで追跡してくるわッ!体内に入られたら終わりッ!血管に入り内部から破裂して串刺しにされるッ!!」
やけにスタンドに詳しくなってるルーシー。
「何も問題はない…我がスプレー『クリーム・スターター』が攻撃するのは『本体』…あいつだけだ。狙うのはスタンドではなく本体のみッ!」
ドシュウウ
ホット・パンツの左手首がろくろ首のように伸び、途中の金属風船を破壊しつつマイク・Oのところに突進する。
そして金属がなくなり脆くなったガラスをブチ破り、クリーム・スターターの射出口をマイク・Oに向ける。
ズドオォン
突然、天から雨戸が降ってきて左手首を切断したッ!!
血をぶちまけて、ホット・パンツの左手首が地面に転がる。
「『チューブラー・ベルズ』…窓の雨戸に使われている『ブリキ製のシャッター』をすでに全てバブル鳥にして空中に飛ばしていた世界…この場所の全ての金属を飛ばしてやるぞ」
確認できるだけで9匹のブリキ風船鳥が宙を舞っている。
さらにブリキのシャッターで、地面に落ちた右手とC・スターターを砕く。ホット・パンツはさらに激痛に襲われて膝をつく。
「我が『チューベラー・ベルズ』は防御シールドにして、おまえへのギロチン処刑の世界を兼ねたッ!
「よくもここへ侵入してくれたな…ホット・パンツ。肉体を溶かす事のできる能力なのか!?大統領護衛警備のわたしの顔にドロをぬった世界だ…」
「許される世界ではない…じっくりと捕らえて拷問してやる…おまえの国とその仲間が二度と我々に歯向かわないように恐怖と見せしめで思い知らせてやる世界をなッ!」
バブル鳥が部屋内に侵入してくる。
「じっとしていろ。そこを動くんじゃあない」
恐怖の悲鳴を漏らすルーシーに声を掛けるホット・パンツ。
「壁の後ろに誰かいるのか……?侵入者はおまえひとりじゃあないのかッ!」
ルーシーを背中に隠すように移動するホット・パンツ。
ズドオォン
今度はホット・パンツの左二の腕がギロチン・シャッターで切断される!!
そして今度は水平方向に振られた複数のシャッターがルーシーの隠れていた壁を破壊して剥き出しにする。
「……………………………………」ブルブル震え出すマイク・O。「お、おまえは…そこで何してる?」
「ルーシー・スティール…」「?」「い…や…」「『彼女』は!?」
「そこの」「その『死体』は……」
「何だと?……」「まさか…!!」
「まさか………」
それはそうだ…大統領警護とは、大統領の家族の警備も兼ねているのだ。
「ホット・パンツ、きさま夫人に何をしたぁぁぁぁあああー―――ッ」
「浴室だッ!」「マイク・Oと何者かがいるッ!このドアの向こうの外にいるッ!」
「ドアをブチ抜けッ!!」
すでにルーシー達のいる部屋の外には多数のSPが銃を構えて立つ。
「もう貴様に拷問はなくなったッ!!今!ただちに処刑するぅぅぅー――ッ」
激昂したマイク・O。例の十五寸釘を無数に取り出し、息を吹き込む。
「!?」
ブウウウウウ
なんと釘ではなく、マイク・Oの方が膨らむ。
「ハァあああー――ッ」「くっ」「くっ」「!?」
「やめろ…おまえはもうそのまま楽に気が遠のいて『逝く』だけだ…」
「君への攻撃はすでにさっきで終わってる。飛び散ったわたしの『左手』の肉片だ…スプレー化されたわたしの体」
「わたしが君の顔にぬったのはドロじゃあない…飛び散った『肉スプレー』だ…左手の肉片は君の肉体と一体化してのどや肺の奥まで達している」
なんか聞いているだけで鳥肌がたってくる攻撃である。
「君が何かを呼吸で膨らませようとすればするほど自分自身が膨らんでいくぞ…」「終わったんだ…」
「何も悲惨に死ぬ事はない…そのまま楽に『逝け』」
それでもマイク・Oにも意地がある。さらに息を吹き込む…が!
バンッ
喉の骨が剥き出しになる勢いで身体が破裂してしまう。
ドォォーーーン
SPが死闘の場の浴室に雪崩れ込む。
「だ…大丈夫ですかッ!?何て事だ…これはッ!」「おケガは!!」
「おケガはありませんかッ!?」
「『大統領夫人』ッ!!」
もちろん…スカーレットのはずがない。服装からして間違いなく変装したルーシーである。
「大丈夫…」「大丈夫…わたしならケガは…」
残念ながらルーシー…
この状況…ここから君を脱出させるのは不可能だ…
この排水口の大きさまで君の体を『スプレー』で細切れにして通過させたら君は死んでしまうだろう
『遺体』も運よく持ち出せるのは『両耳』と『心臓』部位だけで『右腕』は大きすぎる
無理だ…置いて行かなくてはならない…
来る時『左腕』も『脊椎』も通らなかったからな
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だから君はこのまま『スカーレット・バレンタイン大統領夫人』
になり切るんだ…
(死んだ『本物』はこのままわたしが処理する)
それしかない…生き残る道は…
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そしていいか…
ここに侵入した『犯人』はわたしだけだ…
わたしひとり!
『ホット・パンツ』が全ての犯人!ヤツらにはそう言え!必ずそう言うんだ!
説明を合わせろ…
(体重51kg以下)(女)(嵐のカンザス・シティ)
(一晩に100km走る馬の乗り手)
そしてそのまま耐えろ…『大統領夫人』として…
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残りのレースが終わるまで…全ての遺体部位がそろい終わるまでだッ!
…あと少し……!もう間もなくだ…
君の夫スティール氏にはわたしから密かに君の事を告げておく…
全てがうまく行く道はそれしかない…
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「スカーレット……ここで何があった?」
大統領が近づいてくる。高まる鼓動、荒ぶる呼吸、張り詰める緊張!
そして打ち合わせ通りに……
「『ホット・パンツ』……レース参加者の……あなたの寝室にいた…」
「あたしが拳銃で撃って…ゴムの犬が守ったけど…その排水口から逃げて行った……」
その報告を受けて踵を返す大統領。
そして過酷な運命に涙を流すルーシーが残された…。
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