‘07 05月号
 #25 政府公邸の攻防 

「何と申し上げて良いのでしょう……本当にすみません」
 まだしっかりと服を着ているが、両胸のトップと鼠径(そけい)部に星のマークが…。輸入されたメリケンのビニ本かッ!
「そろそろあたし…おいとましませんと……」
「ご気分はどう?良くなった?」「カワイイお鼻してるのね?スカーレットって呼んで…お互いもうお友達……いいでしょ?ルーシー」
「スカーレットって…」
 ルーシーのカワイイお鼻にチョンチョンさわるスカーレット。
「そんな事とても…とても言えません…呼び捨てだなんて…。バレンタイン…大統領夫人」
「呼んで欲しいの…ルーシー、お願い」「みんなが大統領夫人って呼ぶ…スカーレットっておもいっきり!…なじるように呼び捨てにして欲しいの」
 その時、ルーシーの目が窓の外の、庭を歩く大統領の姿を捉える。何やら時計を見てボソボソと呟いている。
スカーレットッ!叫ぶルーシー。
「ああ〜〜いいッ!」「イイッッ!!とてもいいわッ!すごくっ」
「お茶でもいかが?午後はゆっくりしていけるんでしょう?」
「でも政府の皆様のお仕事にご迷惑が…」
「それは大丈夫。夫の部屋は3つ向こうだし、そろそろお昼休みの時間。知ってるでしょう?大統領はいつもお昼寝するのを?2〜30分…」
「いえ…初めてお聞きしました」
「そお?そんな事ないわ…大陸横断の専用列車でずっと一緒だった事もあるじゃない…」
「そうだった…かしら…まったく存知ませんでした」
 出されたお茶に口をつけるルーシー。
「そおーよね。どうでもいいわよね…大統領のお昼寝なんて」「ところでルーシー、ご主人とはうまくいってるの?あなたたち年の差35歳以上でしょ?かなりの犯罪よね」
 ズイズイッとルーシーに近づくスカーレット。
「あたしたちはうまくいっていない。なぜならあたしが彼の『権力』と『財力』を狙って結婚したから」
 沈黙…。
「ウッソーよ!うそ!」「知り合ったのは15年前。あたしは女学生、彼は同じ町の出身」
「パーティーでダンスをしたの…でも彼は『足音』がしないの。どこを歩いても足音がしない、そこに惚れたの」
「…?どういう事です?…それって」
「靴音よ!足音を立てずに歩くのよ…どんな床でもよ。どんな地面でも。今でもよ…それがセクシー」
「その時、ダンスホールの隅の床に置いてあったマンドリンの上に突然乗っかったの…彼、足でマンドリン弾けるのよ。あの体重で弦の上をピョンピョン足で踏むの」「モーツァルトの曲を弾いてくれた。あたしにはそう聴こえたわ」
 まぁ…なんてことを…。
「そして彼は2年前に大統領になった。彼はすごく決断が早いの…そして正確」「でもあたたかい男…切れ味鋭いんだけどあたたかいのよ」
「そこに惚れたの…15年その魅力は変わっていない」
 スカーレットの言葉に、今まで持っていなかった大統領のイメージを感じるルーシー。
「ん〜〜〜黙って聞いているそのお顔ッ!とってもカワユイの、カワイイのねェー」「お鼻クリクリさせて」
 といってルーシーの鼻をクリクリするスカーレット。
「お口も指でプニプニしていい?」プニプニ「2本指でプニプニしていい?」プニプニプニ
「ホッぺもツンツンしていい?」「スカーレットって呼んで!!」
「大統領の事は大好き!でもこのステキなプニプニはあなたにしかないわ、ルーシー。あなただけ」
「ねえ、お願いがあるの。あなたのお尻で座って欲しいの…そうして欲しいの」
 意味がわからないルーシー。
「いいでしょ?座って…」「ねっ」
「ギュッって圧迫して欲しいの」「お顔の上よッ!あたしの!そのカワユイお尻で押しつぶしてッ!ああー――っ早く!押しつぶして!」
「圧迫よォッ!呼吸が止まるくらいッ!興奮して来たわッ!早く!『圧迫祭り』よッ!お顔を圧迫してッ!」
「もっと乗ってルーシーッ!!強くッ!もっと!もっと!ああッ!乗っか…」
 オイオイオイオイオイオイ……と思っていたら…急に眠りに落ちるスカーレット。ルーシーが揺さぶっても起きない。
それを確認したルーシーは、スカーレットの口をつけていた紅茶を側の植木鉢に捨てる。

『眠った…』
『この時点で…やめるわけにはいかなくなった…』『やらなきゃ、やられる…』
『大統領の胸の中にある『心臓部』を奪って…』
『この政府公邸を脱出する!……あいつを倒す…』
『『遺体』は『遺体』と引き合う…』
 スカーレットを何らかの手段で眠らせて、『遺体』奪還作戦発動ッ!
まず廊下をチェック!コンパクトミラーを使って護衛の数を確認する。そして、3つ向こうの大統領の部屋に部屋伝いに移動する。
庭を歩いていた大統領はこう言っていた。
「これから昼休みにする。30分したら起こしに来てくれ…」

 慎重に足を運び、辺りを警戒しながら大統領の部屋に着く。そしてドアを細く開けて中をうかがう。
『いたッ!大統領がッ!あそこが『大統領の部屋』』
 しかし覗いていたルーシーは気付く。大統領の眼が閉じられていないことに。
「誰だ、そこにいるのは。スカーレットじゃあないな!」
「出て来い…何者だ…?」「もう一度言う、出て来いッ!」
 ギギギ…と扉をきしませ中に入ってくるルーシー。
「…………」「何だ…どういうつもりだ?わたしが昼休みを重要に考えている事は知っているはずだろう…」
「お互い昼は邪魔しないと…」
 不思議なことに、部屋に入って来たのはスカーレットであった…。だが服装はルーシーのそれである。

「このスプレーを見ろ…ルーシー・スティール…。見るんだ…この『ホット・パンツ』のスプレー缶のノズルを…」
 いきなりのホット・パンツ。そしてルーシーの顔に肉のスプレーを吹きかける。
「一度だけだ…いいか、君は一度だけ…誰でもいい。これで他人に自由に『変装』出来る。その他人に君が触れれば変装開始だ。これは『肉スプレー』で…今ふりかけたのは君の顔の皮膚と一体化している…『変装』をやめたい時は指ではがし取るだけでいい…」
「逃げ出すのは君の自由だ…しかし落ちついて考えた方がいい…」
「ミシシッピー川で気を失っているジョニィとジャイロの体を調べた。その時『右眼球』だけがどこにもなかった」
「そしてこのシカゴに来た時…政府の人間たちが『女』を追跡している情報…体重が51kg以下の……『ピン』と来たよ」
「そして運よくわたしが先に君にたどり着いた。だがまもなく大統領たちも君が内部にいる犯人だと気付くだろう…」
「もうすぐにだ………!!」
 恐るべき勘でルーシーにたどりつくホット・パンツ。
「だ…誰なの?あなたは何者!?」
「味方とはいえないが『敵』ではない。君に協力するためレースより優先してここへ来た…あの大統領から身を守ろうとしてるのだろう?ルーシー・スティール!そのポケットの中の『右眼球』で……」
「…何なの?いったいなぜみんなこれを集めるの?この『遺体』は何なの?」
「そういう話は口に出来ない」
「『ローマ法王庁』―『ヴァチカン』の者とだけ言っておこう。このレースを通じてわたしはこの遺体を全て回収したいだけだ…誰を倒したいとかはない…」
 やはりヴァチカンの者であったホット・パンツ。
「いいか、ミセス・スティール…」「顔に吹きかけた『スプレー』は髪や眉の色…瞳の色、声色まで変えられる。体臭があるならそこまで記憶できる」
「その『皮膚』で君なら大統領に近づける…そしてヤツの『力(パワー)』は謎だが、君が『心臓部』を抜き取ったらヤツは無力化するはずだ…」
「それをやれ!」「覚悟はできたかじゃなきゃあ追い詰められて君はヤツらに『処刑』される!君の夫も……」
「ほ…本当にこの『眼』を大統領の胸にかざしただけでその『心臓部』が抜き取れるの?」
 ホット・パンツが左腕を『眼』に近づけるとズギュゥゥゥンと『左腕部』が飛び出す!
「こうやって『奪って』…館から逃げる…」
 緊張で息を乱しているルーシー。
「あ、あなたが自分でやればいいッ!」
「それが『不可能』…この『遺体』はスプレーで細かくミンチに出来ない…仮にわたしが大統領の館に侵入ができても『遺体』を外に持ち出せるのは君だけだ…」
「そして今だけだ…やるのは正体がバレていない。今しかない…」
「そのためにジャイロから『眼球』をあずかったのだろう。『決意を固めろ』!」「ミセス・スティール」

「待て!止まれッ!おかしいな…そこで止まれと言っているのだ!!スカーレット!!」
 ホット・パンツによって顔を変えているとはいえ、やはり不自然さは隠せない。大統領が制止する。
「君がわたしの寝室に来るのは今が初めてだ…なぜだ?」「なぜ黙っている?」
「どうした?なぜしゃべらない?」
 その時ッ!ベッドの下、柱の陰、引出しの中からチューブラー・ベルズの釘風船犬が唸りながら登場する。
『スタンド!?』『これがッ!大統領の?い…いや、何か違う…』
『そもそも今のあたし…大統領夫人は『スタンド』の事を知ってるの?自分の夫・大統領が『スタンド使い』である事を…?』
『そして何よりカンザスでの侵入者の事を…大統領がその追跡をしている事を…?いや知らないハズ…仮に知ってたらあたしをこの館に招いたりしない…』
 状況を必死に読み取ろうとするルーシー。
「どうした!?部屋にきておきながらなぜ黙っている!?なぜ声を出さないッ!?」
「な…何…これは!?怖いッ!何なの?ウウ〜〜って言っている…。こ、怖いッ!とても」
「そうだったかな?そうだった…君は知らなかったかな…」
 ややリラックスした感じになる大統領。…もしかして、会話の中にトラップがあったのかな?
「名前は『チューブラー・ベルズ』っていう…最新鋭の『護衛兵器』だよ。だが君は怖がらなくていい…ある『侵入者』があってね…」
「『チューブラー・ベルズ』はそいつの『臭い』だけを覚えていて自動的に追跡するようになっているッ!!」
「だが君は心配しなくていい!!たとえこいつらを蹴飛ばしても安全だ…決して襲ったりしない…」
 どうやら本当に安心したらしい大統領。スタンドの正体をベラベラと喋っている。
『臭い』?…な、なんですって…『臭い』って…誰の?ま…まさかッ!!』
 ヤバイッ!チューブラー・ベルズが反応した!!
『どこであたしの『臭い』をッ!?まさかッ!ま…まずいッ!』
 ダッシュッ!!大統領に向かっておもむろに駆け寄る!
「スカーレット!?」
「わたくし、あなたのお口をプニプニしに来たの!それがとっても!とっても!したくなって…」
 大統領の口に指を付けるルーシー。
 ここでホット・パンツの施した策がもう1つ明かされる。

「ルーシー・スティール、もうひとつ」
「ついでに睡眠薬を君の人差し指、爪の下に埋め込んでおく」
 右の人差し指にもクリーム・スターターが吹きかけられる。
「『爪』を紅茶にでもひたせ。この薬を飲ませれば確実に『2分間』だけ眠らせる事ができる。2分程度なら本人自身が眠った事に気付かないからだ」
「2分間!」
「その間に『心臓部』を抜き取って脱出すれば『侵入者』がルーシー・スティールだとはバレないし、抜き取られた事にさえすぐには気付かないだろう」

 狙い通りに即座に眠りに落ちる大統領。
そして『右眼球』を胸にかざすルーシー!
ズギュウゥゥン
『で…出たわ…やはり…『出た』…。心臓部が…つ…ついに…』
ガブゥウ
 同時に釘風船犬が鼻っ面をルーシーの右足首辺りにブッ刺す!
「こ…これは何!?噛みつかれたの?ゴムみたいに伸びるッ!あ、脚の皮膚を食い破ってあたしの…あたしの…」
「肉の下に入っていく!!」「脚の内部にいるってわかるッ!筋肉の中を登ってくるッ!!!」
 必死に引っ張るが、ゴムのように伸びてどんどん体内に潜りこんでくる。
「はッ!」
『こ、これは何!?』『『心臓』だけじゃあないッ!他にも出て来た『手』と…『両耳』……!!』
『『3つ』ッ!』
 心臓と右腕と両耳なら4つでは?…というのは置いといて。
『ジャイロからも…あのホット・パンツからもそんなの聞いてない…。大統領には…遺体が『3つ』もあるッ!!』
『あたしが持ち出さなくてはいけないのは『心臓』ひとつだけでいいのか?』『いや!』
『『3つ』あるというなら…きっと『3つ』全部持ち出す必要のはずッ』
「だめだわッ!ぬ…ぬけないッ!!伸びるだけだッ!どんどん入っていくッ!」
バン
 今度はいきなり釘に戻る。それにしても大きな釘だ…5寸どころか13寸(約36cm)ありそうだ。
「あああああああ」
 さらに迫る3匹の釘風船犬!ベットの下に落ちたルーシーは側にあった姿見鏡を盾にして対抗する。

「……何してるの?」「この騒ぎ?」
「ルーシー?あたしの夫の…部屋で…」
 なんと本物のスカーレットが早くも眠りから復帰して大統領の部屋を覗いてきたのだ。
『何…!?なぜ!?まさか……こ、こんな時に……そんな…そんな…』
 事態が…事態がややこしくなる一方!今にもパニックになりそうなルーシー。
「だ…誰?あなた…その顔…」「その顔は!!」
『バレた…もうおしまい…あたしの存在が全部バレた……』

 ここでさらに事態をややこしくなる出来事がまた1つ。
大統領の部屋!我が犬が一匹、破裂した!?


今週のめい言

「脱出する!あいつを倒す…」


○おいッ!?14歳相手に何やっているんだ?という感じの今月号でしたが、皆様は身体の一部が熱くなりましたか?

○またタイムリーなことに、アメリカでは高級娼婦を頼んだの頼まないの、頼んだのはマッサージだけだの大騒動になっています。もし高級娼婦の顧客リストの中にブッシュ政権閣僚の名前があったら、大統領選挙をまだずに政権交代かもしれないという大スキャンダルです。

○閑話休題―まぁ、少し下世話なストーリィーでしたけど一種のギャグですからね。良かたい良かたい。

○超即効性の睡眠薬という都合のい…ゴホッゴホッ…とっても便利なアイテムによりついに大統領の身体から心臓を、そして両耳と右腕も引きずり出したルーシーですが、もはや絶体絶命といってもいい状態。(1)2分以内に目覚める大統領。(2)チューブラー・ベルズ3匹。(3)足の負傷。(4)部屋に来たスカーレット大統領夫人。(5)そしてチューベラー・ベルズ本体のマイク・Oにも大統領の寝室に異変が起きていることが知られる。

○そして問題なのは、このまま官邸を脱出してもルーシーが「裏切り者」だということはバレルので何の問題の解決にもなっていないということでしょう。

○これ…ルーシーに有利な材料はあるのかな?『遺体』がこんなに集まったら何かしらのパワーが発動されたりしないのかな…?

○最悪の結末として、ルーシーはこのまま処刑されて、『右眼球』も取られて、スティール氏も更迭されて……

○予想として、まずルーシーは口車を動員してスカーレットにチューブラー・ベルズを排除してもらう。目的の臭いの持ち主以外には無害のようなのでこれは出来るでしょう。そして何とか官邸の外へ脱出する。そこでホット・パンツと合流することが肝心である。ルーシーと合流したホット・パンツは大統領に向かってこう言えばいい―「もし我々を見逃さないのならば、次の選挙でおまえは負ける」

○ホット・パンツのバックにはヴァチカンがいる。ヴァチカンの指示でアメリカ国内のカトリック教徒が大統領を支持しないことは可能であろう。この時代のカトリックはどれくらいいるかは解らない。イメージ的にはプロテスタント教徒の方が多そうである。手元の資料によると、2003年にはアメリカの人口の20%はカトリックであるらしい…100年前以上の話だとしても、大統領はカトリック教徒の票を無視できないであろう。大統領がその地位と『遺体』を天秤にかけるかどうかも自信は無い。なんせJCの『遺体』であり、超人の能力を得られるアイテムなのだから。

○正直な話、この状況を打開する手段としては政治的駆け引きしか思いつきませんでした。さてルーシーの運命はどうなるのでしょうか?また来月!

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