とても貧しい土地の――とても貧しい生活と人々――
その農村に生まれたばかりの男の子の両親は――
あまりの貧しい生活に疲れ果て――
ある日の夜中、山へ行くと地面にひとつの穴を掘り――― |
その眠っている赤ん坊を白い布でくるみ穴の中に入れた
―――そしてこの世のどこにも生まれては来なかった事にした |
だがしばらくすると雨が降り――
河の水かさが増してあふれ出した |
イギリスの田舎。1組の夫婦が夜の闇にまぎれて間引きを行なった。
どうしようもない貧しさの中、こんなことは特別ではない……特別ではない。
やがて豪雨が夫婦を打つ。その時、妻の方が何かに気付く。
「あああ!!ディエゴッ!!」
「おまえ、赤んぼに名前なんか付けていたのかッ!!行くなッ!あれはとっくに死んでいるッ!」
「生活に余裕さえできれば赤んぼなんていくらでも作れるッ!いつかまた作ろう!赤んぼは事故で死んだんだ。川で流されて死んだ事にするんだ」
先ほど埋めたはずの白い布がなんと川を流れている。間違いない…白い布から小さな腕がのぞいている。
「あたしたち間違っていた!お金なんていらないッ!あなたがお酒さえやめれば!」
「なんだと!てめえッ!女のくせに亭主の事をさげすむのかッ!」
そして妻を殴りつける。ひどい夫、ひどい男。
「ディエゴッ!!ディオッ―――!」
妻は水かさが増した川に飛び込み赤子のDioを掬い上げる。
「ク…クハ!ガボ!」
小さな呻き声と共に水を吐き出すDio。
「ああ〜〜〜〜っ、い…生きているわ……!なんて命の力の強い子!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!もう二度と!……決してしない!ありがとう神さま!!ありがとう」
雨がやみ、川のはるか下流で母と子が気を失って倒れているところを
農場に勤める男に偶然救われると |
女は姓を「ブランドー」と変えた
そしてその農場で雑用の仕事についた |
祝福はなかったが愛はあった。Dioの誕生直後のエピソードである。
ディエゴ・ブランドーは5歳になり
そしてその時すでに馬を世話する仕事についていた
だが貧しさはどこまでも変わらなかった |
「ディオ?おまえやせた?ほら!母さんの分もお食べ」
「おなかいっぱいさぁーーーーっ」「背が伸びただけ…やせてなんかいないよ」
5歳に成長したDio。利発そうな子どもであり、前髪の丸まり具合がジョルノを感じさせる。
「や……やめてください。や…やめて!」
いきなり濡場ッ!でもDio母は男を拒絶する。
「妻子あるあなたと付き合うなんてもし息子が知ったら子供ながらどう思うか」
アッサリと引き上げるDio母子の恩人。意外と良いヤツなのか…と思いきや……。
「ぼ!ぼくの食器に穴が開いている……か…母さんのもだ…なぜ?誰が?」
もちろんあの男しか考えらず、しかも御丁寧に食事係である。
配給されるシチューをどうやってもDioにあげようとしない。もちろん、この裏の思惑にはDio母の身体を要求しているのである。
「母さん、ぼくぜんぜんおなか空いていないから」「でもいい事思いついたぞ」
「クツがあるよ、この中へ…このクツの中にシチューをそそいでもらおうよ!スゲー考えだ!」
バシィ
Dioの頬をはたく母。そしてスッと再びシチュー鍋の方に行き…合わせた両手を出す。
「どうぞ…シチューをいただけますか?かまいません…この手の中へ…」
「そそいでいただけますか?ディオの分を…」
気圧されながらも、もはや後にひけない男もDio母の手にシチューをそそぐ。
「やめろォー―――ッ」
「母さん手を離して!!早く離してッ!ぼくはおなかなんて空いていないッ!」
熱々のシチューを受けた両手は火傷を起こしている。
「どんなに貧しくても気高さだけは忘れてはいけない」
「明日はどうするの?あさっては?次の日は?これを食べて大きくなりなさい……そして強くなって……もっと大きくなって……そうなって……お母さんのことを守ってね………」
「来月になったら食器を買いましょう。それまでは…さあ…これを食べなさい」
「ううっ!!うううううー――――――ッ」
号泣しながら母親の手のシチューを貪るディオ。しかし本当の悲劇はこれからであった。
ディエゴ・ブランドーの母親はその後、働いて働いて
そして1年後、破傷風という病気でたった23歳の生涯を終えた |
Dioは母の手のヤケドの傷から入った菌が悪い病気を
運んできたと信じ、あの『男』が母親を殺した原因と直感的に理解した |
そしてDioは成長すると共にこう自分に誓いを立てた
「あの『男』は必ず探し出して復讐してやる」と!
「そして父親のわからない子供を生んだからといってただ傍観していただけの
無関心な農場のヤツら!お前らはただ母親を見捨てた」
「母と自分を捨て去ったどこかにいる父親も!農場の領主も!決して許さないッ」
「どいつもこいつも!有罪だ!」 |
「くそ田舎者どもッ!オレは必ず社会の頂点に立ってみせる!」
「そしてオレを邪魔するヤツらは靴の中にシチューをもらうことより
もっと屈辱的に『誇り』を切り裂いて地面の上をはいつくばらしてやるぜッ!」 |
ディオの母は息を引き取る前に我が子にこう言い残した
「悲しまないで全ては私の罪。あなたが悪いんじゃあない。
でもディエゴ…この農場のどんなあばれ馬でさえおまえが近づくと
言う事を聞いておまえの手から餌をもらって食べている。
もう少し大きくなったら馬の背中に乗ってみるといい……
それがお前の才能だよ………」 |
Dioの過去…貧窮ゆえの悲劇。しかし我々はDioのことを「可哀想」だと言ってはいけない。
心の中で思っても口にだしてはいけない。なぜなら我々もDioを蹴飛ばした世界の一員であるから。
そしてどんな悲劇が根底にあるとしても、犯した罪は罪。罰が巡るのを見守らなければならない。
そんな真理を知ってか知らずか、Dioはその才能でのしあがることを決意する。
「スティール・ボール・レン・レースでの栄光ッ!それはイギリス王室さえも動かす権力ッ!」
「それを掴むためにはいかなる手段も厭わないッ!」
「ギャアアアアー――――ス」
満月を背にディオナソーが再び雄叫びをあげる。Dioの引き裂かれた心のように、夜を引き裂く咆哮が轟くッ!!
「GOッ!ジョニィGOッ!Dioが戻って来た!!奥へ行けッ!」
「排水溝で向こう側へまわるんだッ!」
鉄球術により身体をグニョグニョにして鉄柵の向こうの排水溝へと進むジャイロ&ジョニィ。
ディオナソーは鉄柵に阻まれて侵入はできない。
「なんなんだ!?Dioの能力ッ!ヤツが喰い殺した熊ッ!熊まで恐竜化したッ!!」
驚き続けるジョニィ。
「あの北斗七星の『岩山』はそこの谷を渡った真向かいの崖だ!!おそらく『遺体』はあの頂上の窪みにあるッ!登るまでたったの200か300メートルだろう!!このまま外に出たら崖を下って闇にまぎれて谷を越えるぞ!!」
ジャイロが解いた「movere crus」の謎。
「ああ!…あの山から先に『遺体』を手に入れてここをおさらばだッ!」「だけどジャイロ!ぼくたちの馬はどうする!?」
「…馬はッ!Dioに喰われてしまうッ!」
さすがにレース中だけあって愛馬の心配をするジョニィ。
「いや!ヤツはそんな事はしねーな!Dioの目的はおまえさんの『左腕』と…オレらの命だ」
「しかも騎手としてのし上がって来たヤツが馬に対し殺すなんて事はしない!」
「朝になったら『ヴァルキリー』の方がここを出てオレらを見つける」
何気ない言葉であるがこの物語の聖域を表しています。この物語において乗馬が傷つくことはないということでしょう。
ただし!もし馬を傷つける者がいた場合、そいつは死ぬ以上の苦痛を受ける…例えば5ページに渡って殴り続けられるとかね。
カサカサ
その時、後ろから何かが来るッ!
「おい、なんだあああッ!!『小さい』ヤツが入って来たぞォーーーッ!」
「恐竜だッ!小さくても恐竜だッ!Dioのヤツが送り込んで来やがったッ!」
小さな恐竜が3匹せまる。
ドバ ドバドバ ドバドバ
「こいつらも動体視力ッ!!全然『爪弾(タスク)』が命中しないッ!」
足から発した弾(たま)だが俊敏な動作でよけられる。
「うおおッ!小便をかけられた!」
そして喰いつかれるジャイロ&ジョニィ。奥に目をやればさらに追加の小恐竜が数匹見える!!
「ま…また来るぞッ!臭いだッ!自分らの小便の臭いを追ってくるッ!」
しかしここでジャイロが鉄球を発動。狭い排水溝内部を螺旋の形で走らせ小恐竜を撃退する!
「鼠だッ!」ジャイロ。「おっ死んだらよォ!元に戻った!この『小っこい』ものはドブ鼠が恐竜にされたものだ」
熊だけではなく鼠まで!元の動物の大きさに比例している恐竜化。
この時、またも奥からガサガサという音が聞えてきた。
「ジョニィ早く出ろッ!排水溝から出ろッ!次のが来るッ!次の鼠をDioのやつに送り込まれるぞッ!」
「崖の岩陰にへばりつき絶対に動くなッ!ここは必ずやりすごしてからこの谷を降りなくてはならないッ!」
しかし逡巡するジョニィ……。
「何してる!早く岩の下を降りろ!!」
「だ…だめだジャイロ」「い…行けな……い」
「崖の下へ……ぼくらはこの谷を越えてあの岩山へ行くことなんか出来ない…」
目を疑うような光景…。ディオナソーと同じ大きさの恐竜が崖を登ってくる…しかも複数ッ!少なくはない数ッ!!
「か…囲まれているッ!あれは村人だ…村人たちも全員すでに恐竜にさせられていた」
「やすやすと崖を登ってくる…右からも左からも…」
「このDioの『能力』は…この村にいる者を人間も動物もみんな恐竜化して『支配下』におく事だったんだッ!」
あの悲劇の村「ウィンド・ナイツ・ロッド」の再現…いやそれ以上か?人間だけではなく全ての動物がDioの下僕になるのだ!
波のように押し寄せる恐竜に加えさらなる魔手がジャイロ&ジョニィを襲うッ!!
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