「なんだ?あいつ」
「耳になんかぶらさげているぞ……でもよく見えない」
「このルート……尾いて来てるのは変なヤツらばかりだ」
「名前はゼッケンからのリストによるとミセス・ロビンスンて男……距離はここからおよそ150馬身差……」
「尾かず離れずさっきからこの間隔だ…」
望遠鏡で後方を確認するジョニィ。ロビンスンの後ろにも何人か…確認できる限りでは4人が砂漠突破のルートを選んでいる。
「なあ、ジャイロ」「スタートして6時間」
「トップが我々ってのは間違いないようだけど進路の方向は確かだよね?新鮮な水を手に入れるまで最低でもあと80qのルート!」
「確認するようだけど間違いないね?この方向にあんな山なんかのってないんだよね?………この地図には……」
地図を上に下にして見て、そのままジョニィに渡す。
「はい、大丈夫ッ!完璧に合ってるぜ!OK!たぶん」
「え!今なんて言った?」
「ちょっと待って!今、小さくたぶんてつけたさなかった?」
「たぶんッ!?」
ちょっと逆ギレ気味に声を荒げるジャイロ。
「心配すんなって!!合ってるよッ!気球だって後続だって来てんだから合ってんだよッ!きっと」
「なにそれ!?」「きっとォォ!?」
「水場まで80q!それを逃したら死ぬってルートだッ!」
「ぼくが聞いているのはあんたが砂漠に詳しいのかどうかってことだ!!」
アバウトに応答をするジャイロ。
「だからこれでいいんだよ!砂漠っていうのはだいたいでいいんだ!」
「それより『回転』できてんのかオマエ!教えたコルクの回転をよオオ―――」
ドシュウッ
空気を切り裂いてジャイロの横を何かが通り過ぎる。
後方のロビンスンを振り返るジャイロ。
「?どうかしたかい?」「ジャイロ…」「あんた…その耳」
ポタポタ シュ シュシュ ドシュウ―――――
ジャイロの左耳に穴が3つ。溢れ出す血。そして続けて前方から何かが飛んできてジャイロとジョニィの腕を切り裂く。
そして同時にロビンスンが動き出す。
「あいつ……走り出したぞ。ボクたちに並ぼうとしているッ!!」
「攻撃は『前方』からだ。岩の陰へ身を寄せるんだ、ヘタに馬を激しく動かすな」
「これはジャイロ、サボテンの針だ」
「砂漠には針を飛ばす種類のサボテンがあるって聞いたことがある」
「名前を『チヨヤッ』という」
「動物とかが近づくと……その巻きあがる空気の振動に反応して針を飛ばしてくるんだ」
「この『チヨヤッ』は針が種子でもあるからだ…」
思わぬ博識ぶりを疲労するジョニィ。種子(=針)を動物に食い込ませることで遠くまで運んでもらおうということなのでしょう。しかし、当たり所が悪ければ昇天する危険があるほどの勢いで飛ばさなくてもいいだろうに……いや、死んだら死んだでその肉体が肥料となって増えていくのか。
「あの針を繰り出させるには『チヨヤッ』にかなり近づかなくてはならない……あそこはライフルだってとどかない距離だぞ!!何かを飛ばして来てるとして……ボクたちを狙えるなんて…ありえない」
「だが動機ならものすごくありえるぜ」
「気球審判員にペナルティを喰らうことなく競争相手…つまりオレたちをうまく排除できる!」
「1st.STAGEでもあいつ!すでに密かにこれをやっていたのかも」
「走るぜー、ジョニィー」
この珍サボテンの群生地から離れようとするジャイロとジョニィ……しかし!
ブチイィ
飛んできたサボテンの針がジョニィの手綱を切断ッ!脚で操馬できないジョニィにとってはこれはかなりヤバイ状況。しかも追打ちをかける状況として、サボテンの針が数本、ジョニィの顔面に突き刺さった!!あふれ出る血液が視界を奪う。
「先に行けッ!目に血が入った。だが眼球は無事だ」
「行けってッ!」「ゴールまではいっしょに行くと約束したがお互い競争相手(ライバル)でもあるぜ」
「この地帯は先にぬけろッ…」
「レースはレースだ……オレを待つ必要はない………血をふいたらすぐに行くッ!」
馬鹿である。そう、ジョニィは馬鹿なのだ。ここはジャイロに助けを求めるべきなのです、そのためにタッグを組んだのだから。
命を落とすかもしれない状況で他人を気づかうとは馬鹿以外の何者でもない。
でも、彼は人に愛される。得てして最後に勝利するのはこういう人物なのである。ジョニィとは愛すべき馬鹿なのである。
そしてこういう馬鹿な善人を見はなさいのが我らの主人公なのである。
「わかった……お互いライバル同士だ、先に行ってるぜ」
「ただし方角はあの野郎の方だがな」
ロビンスンに向かって脱兎の如くに駆け出すジャイロ。腰のスフィア・ホルダーを外し、両手に旋回する鉄球を装填する。
「そんな……武器なんか使ったらレース失格になるぞッ!」
「ヤツが犯人だなんて証拠はなにもないッ!」
「ここでまた攻撃行動なんかとったら!今度という今度、ペナルティなんてもんじゃあ済まなくなる」
しかしかまわず鉄球を投げ付けるジャイロ!!その時、ロビンスンの眼がピカッと光る。
ビームか?ビームが出るのか??
ドギャァアアアァア
鉄球をはじき返した!やはりビーム(違います)。サボテンの針、これでロビンスンがサボテンの針を操っているのが確定した。
それにしてもロビンスンの左目…いや左目のあった穴からはビームよりも気味の悪い者が出てくる…虫である。
「ある砂漠の村ではもめ事で殺し合いが起こった時…敗者をサボテンに鎖でくくりつけてわざと『死ぬ』のを待つ……」
「サボテンは死人に『呪い』をかける」
「死んだあとも奴隷にできて復讐とか恨んだりできないようにようにとな」
アップで迫るロビンスン。耳にぶらさげているものが判明…目の形をした物が連なっているアクセサリー。
まさか自分の眼もこの中に入っているとは思わないが、何にしても鬼太郎の親父が泣いて逃げそうな装飾品です。
「オレはそんな村で育ち、人に支配されねえようにワザを身につけた」
「誰にも負けないように体内に虫を飼ってな…この『虫たち』をおまえらの周囲に向かわせたッ!」
「虫たちの『高速の飛行風圧』は!チョヤッの針を標的に向かって自由自在に飛ばせるッ!」
ロビンスンから飛び立った虫がチョヤッの側を通ると針が発射される。
「そしてオレの秘密を知り終えたなら…」
「くらえッ!このレースでオレの前を走るやつはいねえッ!」
「じゃあ〜〜〜基本的にオレと同じ考えだぁ〜〜〜〜っ」
「『鉄球』をただ落としたと思ったか?地面に!大切な鉄球をよォ〜〜」
ミセス・ロビンソンの周りを土埃(つちぼこり)と奇妙な鳴動音が響いている。
「オレの狙いは正確じゃあねーが……でも回転の振動はそっちへ行ってる……」
「地面を伝わっておまえをとり囲んだ……とばっちりこねーよーに離れとっかな」
チョヤッの針の対象をロビンスンに移したジャイロの頭脳プレイである。
「どばああああああああ」
チョヤッの一斉攻撃を受けて断末魔をあげるロビンスン。馬のエル・コンドル・パサは無傷なのが不幸中の幸いです。
それにしても撃たれる寸前に左目をカッなどとやっていたが、何をやるつもりだったのだろうか。虫で針を全部防ぐ気だったのかな?
兎にも角にも「ミセス・ロビンスン→リタイヤ」である。
そして、どうやら幾時が過ぎた模様…伝説のカウボーイ兼イケメン兼保安官助手のティム・マウンテンが主のいないエル・コンドル・パサを見つける。
そして馬の蹄鉄をチェキするティム。
「こいつじゃあない……オレの追ってる殺人犯は…蹄鉄の形が違う…」
「だが追跡は間違っていない!…カケた『蹄鉄』は……ここをすでに通過している……30分前ってとこか……」
ロビンスンは殺人者ではなかった!ということは本当に今週でおさらばっぽいロビンスン。
いやいや問題はそんなところではない。殺人者はジャイロたちを追っているのだッ!
まさしく危険が背中に迫っているジャイロ&ジョニィから目を離すなッ!
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