「各界のみなさま方……よろしければ記者諸君や審議員たちと共にあの列車でレースの展開を追跡してごらんになりませんかな?」
「車内には各種、紅茶やお食事やワインもご用意してあります」
 角界…と書くと相撲の親方連中となりますが。スティール氏自ら接客するVIPと共にどうやら機関車に乗り込むらしい。「鉄の時代」を象徴する鋼の球…大量の蒸気と黒煙を吐き出す機関車。
 その横で時計塔を見上げるスティール氏の幼な妻…今週は瞳が点で描かれているため心を読みかねるミステリアスな美少女の雰囲気を醸(かも)し出している。時刻は10時、そして空に向かって打ち上がる3発の花火。


‘04 12号 #5
15,000メートル 丘陵地帯 午前10時

ドン  ドン  ドン

{花火が上がりましたッ!スタートの合図です}
{1890年9月25日午前10時00分北米大陸横断レース『スティール・ボール・ラン』がついに動き出しました}

『1st.STAGE』  15,000メートル

 山が動いた…3600組を超える「人と馬」という山がッ!!

「記者のみなさん方、ここでレースの展開とルートについて解説させていただく」
 ありがとう、こちらもありがたい(笑)。
「ここサンディエゴから大西洋ニューヨークシティまでの全行程6000キロメートルの間には地図のようにニューヨークを入れて全9ヶ所のチェック・ポイントが設定されております」
「このチェック・ポイントとは『レースの順位』と『走行タイム』、そして馬を交換してないかなどの『不正行為』を確認する場所のことです」
「そしてこのチェック・ポイントまでの各レースを『STAGE』と呼びます」
「全部で『9つのSTAGE』!!」
「この始まったばかりの『第1STAGE』は15,000メートル先のカトリック教会がゴールとなる短距離スプリントレースです」
「そして各『STAGE』でもそれぞれ優勝者を決め……賞金ボーナスを支払います!」
「STAGE優勝者には!『1万ドル(120万円)』『タイム・ボーナス1時間!』

 タイム・ボーナス!?それは何ですかスティール氏!

「レース後半になった時にとても有利になるものだな」
「たとえばタイム・ボーナスを持つものがニューヨークで2位でゴールとしても1位との差が1時間以内であれば優勝となるわけだ。つまり全走行タイムに1時間猶予がもらえるボーナスのことだ」
「しかしこの『タイム・ボーナス』」「みんなが生ツバゴクリもので欲しがるボーナスだがたった1頭の馬で全行程2ヶ月以上と予想されるこのレース…!!初めから馬をすっ飛ばし過酷な最前線に持っていったものかどうかは思案のしどころだな」
「イキナリ馬をつぶしかねないのだからな」

{おっと――――ッ!解説を聞いている間に1頭だけ3600の群れから飛び出したものがいるぞッ!}
 スティール氏の思惑をあざわらうかのように飛び出す1組!!何者だ?ジャイロか?その他の優勝候補か?それとも無名のニューカマー?少なくても砂男と自動車男爵ではなさそうである。
「ゼッケンは何番だァ!」
「ゼッケンはBの636!!636と確認しました」
「『ZEPPELI』……」
{ジャイロ・ツェペリと記録されていますッ}

{スゴイぞ!ゼッケン・Bの636 ジャイロ・ツェペリが群を抜け出た――――ッ!}
{単独!15,000メートルを逃げ切るつもりだァ―――ッ}

 前傾になりさらに加速するジャイロ!
「何者だね?」
「さあ、記録はありませんカウボーイかもしれないし鉱夫とかかも」

 そして彼を追うジョーキットもジャイロから多少離れた後方に駆ける。鐙(あぶみ)に掛けず正座のように脚を畳む、上半身だけでバランスを取れる平衡感覚はさすがである。
『こ…ここで飛ばすのか………』
『彼の乗っている馬は『ストックホース』と呼ばれる品種……。オーストラリア産をルーツとするものスゴイ スタナミがある品種とは聞こえている』
「そのスタナミに賭けてここで加速するのか?」
『だが15,000メートル。後半確実にバテる!しかも明日だってレースはあるのだッ!勝負を賭けるのは13,000を過ぎてからが妥当…』
『あんなスピードで走らせて…今後大陸を横断する気はあるのか?』
『いや…彼は『優勝する』と言った優勝するために大陸を横断すると……』

 すると隣の馬が…
「よれた」「彼が飛び出したので他の馬たちも興奮しはじめてるぞ!!」
 しかし右に左に巧みに操馬してかわすジョーキット。

{おーーっと転倒だァーー}{ぶつかりあってるッ!レースらしくなって来ましたッ!}
 クラッシュ!馬たちが次々と倒れる。
なお…体当たりはルール違反とはなりません。カウボーイは牛の体当たりをかわし群を操作します。体当たりはかわすのが当然ッ!}
{ここでジャイロ・ツェペリに挑戦する者がいるぞッ!また群から1頭抜け出して来ました!}
{追うッ!追うッ!ジャイロを追ってせまって行きますッ!}
 ザパラッザパラッと出てくる1組の選手。
{ディエゴ・ブランドーだーッ!!}{イギリス競馬界の貴公子が短距離スプリントなら我がもの!と競りかける気だ――――ッ!!}
{いや!待て!!すでに…すでに左後方からもせまっているものがいるぞォ―――}
 追手の馬の脚がアップで描かれる!が、このヒヅメは……このヒヅメは馬のものではない。
{巨大な塊は優勝候補、ウルムド・アブドゥルのラクダだあー――ッ!!}

ドドドドドドドド……   ドガアアァァン

{体当たりしたあーーッ}
 巨大なラクダがジャイロの馬に激突ッ!堪らずよろけてしまう!!
「ラクダの走り!スローモーションに見えるが脚の長さは馬の約2倍!」
「その歩幅!十分馬とはりあえるスピードに加速できるッ!!」
「しかも体重は800キロを越え馬の約1.5倍!近づくものを押しつぶしてゴールを狙うつもりだッ!」
 ジョニーが後ろから解説をする。まさしく「小山」と言えるラクダ…呆けた顔をしていながらも油断できない存在だったのだ!!
 そして、さらにもう一撃体当たりをかますラクダ!!よろけてスピードが落ちた隙をディオも狙うッ!!

シュルシュルシュルシュルシュル……

 スフィアホルダーのホックを外して「球」を取り出したジャイロ、すでに球は猛烈な回転をしている。
そしてジャイロの手から放たれて何処かヘと飛んでいくッ!

「木立に突っ込む!まずい―――ッ、あれじゃ木との間にはさみ込まれるぞー――――ッ!!」
 ジョニーが叫ぶ!

ドガアァァン

 木とラクダにはさみ込まれるジャイロ、バランスを崩しつんのめる。
「誰かが『タイム・ボーナス』を手にするというのならそれはこのアブドゥルだ」「気の毒だが」
「最後の一撃…」
 アブドゥルがトドメに動く…。

{恐るべしラクダの走り、恐るべし砂漠の流浪民ウルムド・アブドゥルッ!}
{またせまった――――ッ}{耐え切れないッ!}{撃墜だああ――――ッ!ジャイロ・ツェペリ――――}
 ラクダの巨躯がジャイロへとのしかかる……が!
{サボテンですッ!アブドゥルが群生サボテンに突っ込んでいるう――――ッ}
 かなり豪快に群生サボテンに突っ込むラクダ。針の山にラクダも「ブバァア」と悲鳴をもらす。
{転倒したああ―――ッ}{転倒です!転倒していますッ}
{転倒しているのはウルムド・アブドゥルだァ――――ッ}
{ジャイロは無事ですッ!ジャイロは無傷ッ!ジャイロはサボテンに突っ込んでいません}

{脱落(リタイヤ)だぁあ―――}{なんという幕開けッ!}
{1st・STAGE!!まだ1000メートルも走っていないのになんという波乱!}
{動きませんウルムド・アブドゥル!リタイヤです!!}
{なんと優勝候補が早くもひとりレース脱落です}
 気絶して倒れ伏すアブドゥル…(ちょっとカッコワルイ)。
そしてジョニーは見た…知った!アブドゥルがサボテンに突っ込んでしまった理由となった、木立と岩のブラインド…そこの岩の方に先ほどジャイロが放った鉄球が回転しながらめり込んで埃を巻き上げている。その巻き上げた埃が群生サボテンの像を結んでいる!次の瞬間、鉄球は駆け去ったジャイロを追って飛んでいき無事にジャイロの手に納まるッ!
『今のは!鉄球!またあの鉄球のせいなのかッ!?』
『鉄球の回転、サボテンの像が岩にほこりとなって浮き出ていた』
『回転の振動で!振動の波で見えないサボテンの位置を探したのか?スイカの中身をたたいて探るみたいに岩の陰を回転の波で……』
「そしてアブトゥルをそこにさそい込んだ!」

「もらえるものは病気以外ならなんでもイタダくぜ………タイム・ボーナスはとくにな〜〜〜〜〜」
 そして歯をキランッと光らせるジャイロ・スマイルを披露ッ!
ニョホ


今週のめい言

「タイム・ボーナス1時間」


○なるほどナルホド、つまり予想されるゴール前の混戦がさらに混ぜっ返されるということなんですね。ジャイロがNYに1位で入ったがタイム・ボーナスの差でディオが優勝…かと思いきやNY分のタイム・ボーナスが加算されて逆転優勝!という筋書きも予想されます。

○いやしかしッ!ついにレースが始まり、今までのノンビリムードから一転のアクションシーン満載で私も失禁寸前です。でも大丈夫、女性の5人に1人は尿漏れですし赤ん坊の9割9分はションベン垂れです。皆でもらせば怖くないッ!!

○そして優勝候補から早速の脱落者!主な参加者についてはこちらで確認ください。

○そういえば「リタイヤ」が「再起不能」から「脱落」になりましたね。どうやらSBRでは死人は出なさそうです。これは戦闘ではなく「競技」だから当たり前といえば当たり前ですが、それにしても荒木作品では「競技」を扱ったものって初めてではないでしょうか?

○とりあえず#5はここまで。ではでは。


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