「3500を越えてるらしいぜ」
1890年9月25日早朝―07時06分―スティール・ボール・ラン・レース スタート3時間前
『サンディエゴ西海岸』
「なにが?」
「参加者の数だよ。3500人以上だ!当初の予想の7〜8倍の人数がこの大会に集まっているらしい」
出場者だろうか?スタッフかもしれない。
「ひぇ〜〜〜そんな数、みんな公平にスタートできんのかな?」
「スタートはな。そのためにビーチを選んだんだろ…………だがな」
そして柵にもたれかかり立ち話をする2人の後ろのテントでレースの準備をしている者がいる。
「オレ個人の意見を言わせてもらえるなら最初の1週間で半分以上は脱落するとみてるね…いや、2/3以上かも」
「このレースはスポーツじゃあなくてサバイバルだから」
‘04 11号 #4
サンディエゴビーチ 9月25日 スタート |
結構ヘヴィな…そして恐らく的確な言葉を交わしている2人を尻目に数々のアイテムに囲まれているジャイロ。
「ちょい重いか?」
磁石 |
地図 |
ナイフ |
時計 |
薬 |
テープ |
時計 |
レンズ |
鏡 |
缶詰 |
ローソク |
水筒 |
マンガ本 |
ハサミ |
歯ブラシ |
ハミガキ粉 |
針と糸 |
マッチ |
ナイフ |
フォーク |
ワイヤー |
手袋 |
双眼鏡 |
エンピツ |
コップ |
靴下 |
トイレットペーパー |
タオル |
鞍 |
バケツ |
馬用ブラシ |
毛布 |
ロープ |
ヌイグルミ |
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|
歯ブラシとハミガキ粉は植物の茎で代用できるし、鼻水とケツは葉っぱを使えば何とかなるッ!
筆記用具もいらないッ!時計も本もいらないッ!ハサミはナイフがいるからいらないッ!熊ちゃんのヌイグルミは替わりがないからいるッ!
要るのかよッ!!!
「それで…だ」「ロッキー山脈を越えるころには1/10にもたりてねーだろーな」
「200〜300人くらいかな、残るのはよ」
熊ちゃんをしまったジャイロが外で雑談をする2人に気付く。
「優勝候補たちはよォ〜〜〜ニューヨークまでたどり着くかなぁ〜〜〜〜?」
「そりゃ可能性はでかいぜ。ヤツらは実力に加えて持久力用に交配させて育てたすげえ馬に乗ってくるっつーからな」
うーむ、なるほど…競馬に興味がないので馬にも性能というか個人差(個馬差?)があるのは全く考えていなかったです。
スタート場にでも向かうのかテントを出たジャイロの目に…倒れた車椅子の姿が飛び込んでくる。周囲を見回すジャイロ。すると柵の中を走っている馬を見つける……ジョニーを引きずって走っている馬を!!引き回し刑ッ?
「おい見ろよ、あいつだ…元有名ジョッキーだったとかいうヤツまだやってたのか?車イスを捨てて昨日から夜中ずっとか?」
「あの体でレースに出るつもりらしい」「本当にカワイソーだ………」
「しがみつかれる馬の方が…」
「ギャハハハハハ」
下らないアメリカンジョークを言っている間に馬に跳ね上げられたジョニーが柵に叩きつけられるッ!
人の良さそうな小太りの方が叫ぶ。
「誰かやめさせろよォ〜〜〜」
「昔の栄光を夢みてんのか知らねーがそのうちケガするぜ」
「知らねーのか?」「ケガなら!あいつもうしてるぜ、きのうの夜にな」
「見ろ、ヤツの脚」
ジョニーの右足にはグサリと木の破片が突き刺さっている。恐らく下半身麻痺だから痛まないのだろうが、失血死の危険がある。
「木の破片がヤツの脚を貫いている……感じねえんだ…もともと痛みはな」
「馬に乗ろうとするのを止めさせようとすると火をつけて自殺するとさけんでやがる」
「キレちゃってるのさ」
「しかも三重苦なのはあいつ馬売りのやつに『駄馬』を売りつけられた」「年取ったあばれ馬だ。性格のいじけた馬さな」
「仮に乗れたとしてもちゃんと東へ向かってくれるか怪しい馬だぜ」
「だが、ま!やりたいだけやらせようぜ…『無理な栄光』…ここに集まってくるのはそんなヤツばかりだ」
言っている間に今度はその『駄馬』に踏み付けられようとされるジョニー。
「おい!踏み殺されるぞッ!」「見てられねえ!やっぱりやめさせろって!!」
「なあ、そこのあんたもそう思うだろ?」
2人の横で柵にもたれかかり、無言でジョニーを見つめていたジャイロ。
「オレに意見を求めたのか?」「ただ視界に入ったんで眺めていただけなんだがな」
「だが言わしてもらえるなら、ヤツには決して乗れない……あれじゃあ乗れないね」
「逆にいうなら」
「あれに乗れたら人間を超えれるね」
「とりこみ中申しわけないが」
柵から離れ歩き出したジャイロに道を尋ねる男が…。
「レースの参加を申し込む場所はどこか尋ねたい…」
チラリとその男を見るジャイロ。肩に「太陽に蛇」のタトゥー。受付場所を指し示すジャイロ。
「どーも」に「イッツ・マイ・プレジャー」と答える。
パサァ
目の前に置かれた20cm×60cm程の布の包みに呆れた目を向ける受付係。
「あのな〜〜〜勘違いすんなよ」「参加料がいるんだぜ」
「120ドルでもなけりゃあ12ドルでもねーつーの」「白人の金でよ…」
「1200ドルだぜ!消えなインディアン!」
そう、あの男…砂男(サンドマン)である。ポコロコではナカッタノネ…予想失敗。それにしてもこのマンガ「インディアンとは現在では使われておらず正しい呼称はネイティヴ・アメリカンですが物語のリアリティのためインディアンとします」という注釈とか出ないですネ…もう常識の範疇に入っているのかな。
フッ!!
息を噴いて包みを解くと、中から棒状のキラキラした者が!!
『砂男…だったら……必要でしょ…?……持って行きな……父さんと母さんのカタミよ……』
空に浮かぶお姉ちゃん…美人だッ!!
「エ…エメラルドか?……本物!ど…どこで見つけた?インディアン」
虫眼鏡でエメラルドを凝視する受付係。するとエメラルドから砂の手(手の形をした砂?)がズルズルと凝視している目に伸びる。
「ゲッイデデ!目に砂が!?!!」
「釣りはいらない。参加許可証をくれ……」
泣きながら参加の説明をする受付係。馬の鼻紋をとるというくだりになって砂男が答える。
「必要ない」
「この足のみで大陸を横断して優勝する」
朝09時30分前 レーススタート30分前
晴れ渡る空、打ち上がる花火。サンディエゴビーチに溢れる人と馬!
{全参加者のみなさん}
{各自の番号はスターティング・グリッドの番号でもあります…公正をきすため}
{10時のスタート2分前までに各自の番号のスターティング・グリッド内にお並びください}
{9時58分より10時までの2分間……並ばなかった参加者…あるいはグリッド内から出た者はフライングとみなしペナルティが加算されますので注意してください}
{それでは大会マスコットである『手乗り馬』の行進と楽団の演奏のあと、『スティール・ボール・ラン』レースの大会理事であり主催者のスティーブ・スティール氏の開会にあたってのあいさつがございます}
ステージに立つスティール氏の周りを、楽団が奏でる曲に合わせて手乗り馬がクルクルパカパカ走る。
ウワ〜〜〜、手乗り馬って居るんだ?手乗り象は知っていたけど…。
そして演目が終わり、高々と挙げたスティール氏の右腕が降ろされると同時に後ろの布も降ろされる…。
「この「氷」は……」
顕れたのは巨大な氷…中には「スティール・ボール・ラン」レースのエンブレムを飾ったトロフィーらしき物が見える。
「どこの国にも所属しない南極という場所から運ばれて来ました」
「学者によると3億年前に凍ったものだそうであります。この氷の中に穴をあけ優勝者が手にするトロフィーを埋め込みました」
「これを「スティール・ボール・ラン」の「聖氷」とし……!!そのしてこの氷を溶かすのは我々の熱き思いだッ!」
「あなた方がゴールに到着する時を計算して溶けるように列車でニューヨークへ運ばれますッ!」
「健闘と前身のシンボルッ!そして無事を祈るッ!」
恐るべしッ!南極からあんな氷を持ってくるとは。多分、あの氷の何十倍の大きさの物を船で牽引してきたのだと思うけど。
「開会のあいさつはこんなもんで」
「ああ〜〜〜イイッすかねェェエエエ〜〜〜〜」「と」
絶句する人、人、人。しかし幼な妻だけはパチパチと拍手する。
氷とアイス(あ〜イイッす)をかけていたのね。5回読んでも気付かなかったです(滝汗)。
「サンディエゴニューヨーク!」「サンディエゴニューヨーク!」「サンディエゴニューヨーク!」「サンディエゴニューヨーク!」「サンディエゴニューヨーク!」「サンディエゴニューヨーク!」「サンディエゴニューヨーク!」
そして怒涛の如く怒号が飛び交う!!
{優勝候補者たちが入って来たァ――――ッ}
次々とスタート準備をする優勝候補ッ!イケメン・カウボーイ<}ウンテン・ティム、英国競馬界の貴公子<fィエゴ・ブランドー、サハラを流浪する民<Eルムド・アブドゥル、騎馬帝国の血統者<hット・ハーン。太陽の脚<Tンドマンやザ・ラッキー・ワン<|コロコも用意に着いているだろう。続々と選手が入っている中で………。
「おい見ろよ」「あいつだぜ」
「やっぱりイッちゃってたよ」
「みっともねーー」
冒頭の2人が蔑(さげす)みの言葉を投げかける。スピニング・アラウンド<Wャイロ・ツェペリが視線を向けたその先には墜ちたヒーロー<Wョーキット・ジョースターがいた。未だ馬に乗ることもできず、鐙(あぶみ)に左腕を掛けて馬にズルズル引きずってもらっている。
死人のように顔を伏せているジョニーの顔を優しい目で舐めるジョニーの馬。気付いたように顔を上げるジョニー。
「ちくしょう……」
「おまえの『鉄球』の正体……あきらめねーぞ………」
「絶対につきとめてやるからな…『回転』なんだ……今はついて行けなくとも……レースが終わってからでも…絶対に…いつか……」
「その馬の選択は正しい」
ジャイロ。
「老いた馬には経験がある…」「このレースのような場合、足をくじいたりするような危険な土地にいきおいで突っ込んでいったりしない…体力だけの若い馬のようにな…」
「おたくに興味がわいたからヒントをしゃべってやろう」「おたくはすでに答えを掴んでいる」
「馬に乗ろうとする意志を持つならなぜそれを使わない?」
鉄球をさするジャイロ。これもヒントなのか?
「ニョホ」
{いよいよスタート時刻2分前!!}
{参加者総数3652名!}{各馬グリッド内に入って行きますッ!列の向こう側が見えません!!}
{ビーチ沿いに全員が並びますッ!なんという圧倒的な光景でしょう!まるでひとつの都市ですッ}
都市とはヨク言ったもの、一斉に並んだ選手たちの端は地平線のかなたにと消えている。
{これが動き出すのですッ、大地の彼方に…!!それに続く偏西風の彼方にッ………!}
{世紀の事件がいよいよスタートしますッ!}
「もう一度……もう一度……オレの顔を…なめてくれ…」「オレの馬」
顔を下げた馬の頭に身体を預ける。
『回転』
馬が頭を上げる動作に呼応してジョニーの身体が回転して鞍に収まる!
『回転』『すべての希望は『回転』の動きの中にある!もっと知りたい!もっと『鉄球』を……』
そしてついに……!
{『スティール・ボール・ラン』スタート時刻ですッ!!}
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