『思い返してみるに……』
車椅子の少年ジョニーの独白が始まる。
『ぼくがこのビーチに来たのはいったいなぜなのだろう?』
『他の観客と同じく単純にレースのスタートが見たかったからなのか?』
『あるいは幼い頃からいつもそばにいた馬たちに対する郷愁…何かにひきつけられてこのビーチに来た』
『人は美しいものが好きだ…ピカピカに新しければさらに良く、そしてそれが走っているものならこの世で最も美しい』
サラブレッドは美しい…走るために造られたその身体は神々を模したギリシャの彫刻のようである。
『ぼくの名前はジョニー(ジョーキッド)・ジョースター』
『初めて馬に乗ったのは5歳の時』
『鞍の上から見た筋肉の動きやヒヅメが土を蹴る音を美しいと思ったし、走る動作をとおして馬が何を思ってるのかわかる気がした』
『父はぼくのその姿を見て『わが息子は乗馬の天才だ』と思ったそうだ…そしてぼくもその気になった』
『馬に乗ればほしい物は。みんなが馬の下からおせじを言い…金品を持って来た』
『ぼくのことを『ジョジョ』とか『ジョーキッド』と呼び、政治家や世界中の王族たちもやってきた』
競馬はアラブの金持ちとか王族も興味津々ですものね(スイマセン、よく知らないです)。
『16歳の時、ぼくがケンタッキー・ダービーで優勝した時はスゴかった』
『ある富豪の家に遊びに行くとそこの富豪の娘と友人が何にも言ってないのに勝手に衣服を脱ぎ始め「今夜は両親が留守なの」そう言った。あなたならどうする…?』
金と暇が充分にあると、後やることといえば……解かるよね?
『みんながぼくのことをルーキーと呼び、ちょっと本気をだせばぼくは誰よりも早く馬を走らせる事が出来た』
『馬に乗って勝つという事は人類の歴史の勝利の象徴であり権威の象徴である』
元々、馬はヨーロッパでは数が少なく貴重な生物でした。育てるためには労力も費用もかかります、そのため馬は国王や貴族など身分の高い人々の乗物となり転じて権威の象徴になったのでしょう。その逆に中央アジアなどでは馬は豊富にいて、モンゴルの民のように馬は家族であり民族全員が騎兵であるということは珍しくなかったそうです。
「おげっ」
ズラッと並ぶ人。「WILD HORSE」と看板が出ている。
「おい……カドを曲って向こうの道まで列が出来てる。スゲェ人だ……入れねって!今日は!」
「違う日にしようぜ」
賛成です、私は並ぶのが嫌いですから(好きなやつはいないか)。
「ええ―――っ」
ブチャラティみたいな髪型の女が間の抜けた声を上げる。
「人気の劇なのよォ〜〜。ドロシー・パーカーっていうカワユイ女優が出てんのよォォォ。これからはイケてる女優が芸術になる時代がくんだってばあ〜〜」
「ちぇっ、並んでまでみたいのか?」
「なんで並ぶのよ!あんたはジョニー・ジョースター、有名人なんでしょ?」
……………以後に起きた悲劇を詳しくは書かない。ジョニーは自分の傲慢さにより地獄に落ちた。徹夜並びの列の先頭に当然のように割り込み、正論を封殺した。その結果、背中を銃で撃たれて下半身が麻痺したのだ。
「でけえ声出してんじゃあねーよ、この天才ジョッキーさんよォ―――」
薄暗い病室に収監され、看護士に虐待されるジョニー。
「おまえの血を足からイタダイちゃってるだけだ〜〜〜。輸血用の血液はいいアルバイトになるからな」
「かまわねーだろ……?どうせ何も感じない下半身なんだからよ〜〜〜〜」
「おめーはもう父親さえさっぱりこの病院に見舞いにも来やしねえじゃあね―――か?」
「お知り合いの政治家とか貴族様たちもよォ〜〜〜〜〜」
「レース中の落馬事故ならともかくマヌケにも女と遊んでて下半身が麻痺した元天才ジョッキーなんかにはよォ〜〜〜〜〜〜〜」
「誰にとってもおまえなんかの姿は見たくねーのさ」
「誰も同情なんかしねッ!ここに来るだけでうんざりして来るッ!」
「彼女だって今ごろ他の男とよろしくやってらああああ――」
屈辱と絶望と失意と暗黒、その中でウメクことしか出来ないジョニー…。
「うごおおおおおおおお」
「おおおおおおおおおおおおお」
場所はサンディエゴビーチ、時は1990年9月23日。ジャイロの腰の「球」を触ったジョニーが跳ね上がるように立った…。
しかし、再びドザァァッと座ってしまうジョニー。
『なんだ……!?今…何が起こったんだ!?……いや確かに…今…確かに……』
『だが……もう動かない…(本当に動いたのか)』
心中穏やかではないジョニー、フッと気付くとジャイロがいない。キョロキョロしてみるとすでに馬に乗って行きかけている。
「ま…待てっ!」「あんただッ!」
「知りたいッ!今オレに何をしたッ!!」
『あの日以来―――あれから2年立つ』『あんな事がなければ…女優の劇なんかオレは見たくもなかった……』
「どっ、どけッ!邪魔だッ!くそっ!通せッ!このウスノロ野郎ども!!」
ジャイロを追いかけて車椅子を走らせるジョニーだがあいかわらず強気、口だけでなく農民っぽい人にはグギギとのど輪をかましている!
「まっ待てッ!知りたいッ!教えてくれッ!今、何が起こったのかオレは知りたいッ!」
『1ミリだって動いた事のない……オレの両脚が……』
『世間はオレにあきらめろと言った………言葉で…あるいは無言』
『この男はいったい…こんなヤツがなぜこのビーチにいるんだ!?』
ジョニーがジャイロを見上げる、太陽を背にしたためチャリオッツ・レクイエムのようなシルエット。
「死因のトップは何か知っているか?」
「蚊が媒介する伝染病が1位で馬に蹴られて死ぬやつがその次だ」
「おまえさんがその順位を入れかえるつもりか?」
砂男にも聞かせたい言葉である(笑)。
「そして妙な期待をするなよ」「おまえの事情がどんなものか計り知れないが、そのイスから立ちあがったのは偶然にすぎない」
「単なる肉体の反応でそれ以上のものは何もない」
雲を背景として馬の上からジョニーを見下ろすジャイロ、超然としたものを感じさせる。
「やっぱりそれが原因か!?その『鉄の球』!…回転していた」
「たとえばこのオレにもそれが出来るのか………!?」
しかしとりあわないジャイロ……そこで、
「ならばこっちからもう一度触ってやるぜェェ―――ッ」
さっきのど輪をかました農民、今度は足を発射台にして宙に飛び出す。今週のアンラッキー賞はこの人ですナ。
ジャイロの腰の球に向かって伸ばした右手が指の先からグルグルッと捻れる!!そして傍らの屋根にブランとぶら下がる。
『指が……なんで柱をつかんでるんだ………?…ねじれて…』
「けなす事言って落ち込ませる前に誉めといてやる」
「なかなか鍛えられた筋肉をしている………上半身はな」
「そしてはっきり言っておく、この『鉄の回転』はたしかにオレの武器だ」
「だがおたくさんのような歩けない者を歩かせる事なんか出来はしない……」
クレイジー・Dやゴールド・Eではないということですか。しかしどこまで本当なのか?
「実際こんな事が起こってそのままでいられるか―――ッ」
「あばいてやるッ!その「回転」の正体をあばいてやるぜッ!」
「馬にも乗れねぇくせに………『スティール・ボール・ラン』レースはいよいよスタートする」
「オレはもう大陸を横断して優勝するために…このビーチにはいないんだからな」
そして泣きながらドサァァと落ちるジョニー。
『1980年の夏――――ただひとついえる事は』
『このビーチには『美しいもの』が確かに存在していた…』
『暗闇の中に見える『美しいもの』――――ぼくは何かにひきつけられてこのビーチに来た』
『希望という『光が存在する』のか――――』
何にしてもジョニーの心に炎が…執念?執着?希望?意地?…肉体を行動に衝きたてる炎が宿ったのは間違いない!
「乗りゃあいいんだろ…………ちくしょぉぉ」
「もう一度馬に乗ってやる……おれもレースに………」
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