1人の男がゴロンと寝転がっている。
「なにやってる?ポコロコ」
傍らで馬を使って畑を耕している老人が聞く。
「数えてる」
老人の訝(いぶか)しげな表情に気付いているのか気付いてないのか、マイペースに答える男…ポコロコ。
「雲の数をよォ……」
‘04 09号 #2 サンディエゴ ビーチ
1890年9月23日スタート2日前 その2 |
「一度数えてみたかったぁ〜〜〜〜〜」
「1日で雲を何個数えられるか……をなぁぁ」
わかる!!私もトライアウトしたら、空を眺めて面白い形の雲を写生して人生を終えたいですもン。
「わしが聞きたいのは」「なんで働かねえで一日中ゴロゴロしてるのかってことだ!」
「『天中殺』って知ってるか…じじい」
天中殺……易の言葉ですよね。19世紀末のアメリカでは珍しい言葉では(現在でもだと思うが)。
「もう一回言うぜ…はい!『天中殺』」
「街へ行ったんだ、3日前にな……」
「バクチですったんでジプシーの女に占ってもらった。する前に占ってもらえば良かったんだが」
「長い人生で一番ドン底の時期を『天中殺』って言うそうだ」「だが聞けよ」
「オレあその逆だってよ!!『最悪の逆』!!」
「来月から2ヶ月人生最高の至福の時期がやってくるんだと!ウキキ」
「その2ヶ月はなにをやったってハッピーの文字しかねーんだとよ」「ギャキキキィ」
「ジプシーの女って道端に夏だけ座ってるあのこぎたないババァのことか?」
ピースサインをするババアの姿をハッキリ思い浮かべるじいさん……あれ、もしかしてエンヤ婆?
「ああ…」「だからオレはそれを楽しむことにしたんだ」
「じゃあ、さっそくラッキーな事 紹介してやるぜ」
「あそこに林があんだろ…地主があそこに新しく畑作れって仕事くれたぜ」
「ごめんだね。あそこは湿地帯だ」
「これからのオレはラクちんにすごすことにしたんだ」「あんたがやれば」
すでにグータラ・モードに移行してるポコロコ。
「おまえの死んだ父親やオレは、20年前奴隷から自由の身になった」
「だが生活は何ひとつ変わっちゃいない。オレたちにラクちんな事なんて起こりはしない」
奴隷解放宣言は1863年、なかなか厳しい言葉を口にだすじいさん。
「地主は1ヶ月でやれっていうんだ」「おまえなら出来ると思ってな」
ボトボトうんこをする馬を興味深げに眺めるポコロコ。
「なぁ……馬のベルト、穴ひとつゆるくしてやった方がいい」
「妊娠してるぜ、その牝馬」「たぶん妊娠4〜5ヶ月だ………」
ふ〜む、ホントか?なんでわかるんだ……という訝しげな顔をするじいさん。
「フああ〜〜〜」「雲何個まで数えたか忘れちまったよ」
「どれが48個めだったけな……もっ回数えよ」
「ちぇっ」「せっかく耕す賃金を地主にかけあって1000のとこ1200ドルにしてやったのによ」
ガバッ!
いきなり反転してシート替わりにしいていた新聞を食い入るように見つめるポコロコ。
その記事は……そう「“スティール・ボール・ラン”レース開催」の記事である。優勝賞金は5000万ドル、参加料は……
「じじい…新しい畑の耕作の賃金………いまいくらっていった?」
場面は替わり……そういえばSBRになってから場面展開が唐突なような気がします。時間がないので確認はしませんが、6部までは場面展開の時はスペースを開けると言うか捨てコマがあったような気がします。閑話休題。
手からこぼれる2枚のコイン、いったい何が…いったい何が。
ガシィ!
SBRと書かれた帽子を被った警備員2人に両脇から取り押さえられ武装解除させられるNY帽の男(先週は確認できなかったが「サンディエゴ→NY」と書いてあったのね、帽子に)。
すでにNY帽の男改めスリ師に見切りをつけ、スタートまで休むテントを物色し始めるジャイロ。
「終わっちゃいねーぞッ!てめええッ!」「こっち向けえッ!たかが20ドルぽっちでいい気になりやがってッ!」
よほど悔しいのか悪態をほとばしらせるスリ師。
「オーラ死んだああ――――ッ」
警備員の銃をスリ取りジャイロに向かって構える。
「オレがその気だったらな」「ヒャハハハハハ!」
「今死んでたな」「スキだらけなんだよォォ……勘はいいみてーだが!」
「だがオメエはオレがさっき!おめーのカネを抜き盗った瞬間は見えちゃいねえ!」「聞いてんのかッ、この野郎ッ!」
「もう、おさまらねえ」
「恥をかかせやがって……テメーに付きまとってやる事に決めたぜ………」
「オレもレースに出てやるッ!!ずっと付きまとっててめーのレースを邪魔してやる事に決めたぜッ!」
「オレはオメーをトコトン困らせてやりてえって心の底から思い始めたぜッ!」
口から生まれたのは確定、ペラペラ悪口雑言をしゃべりまくるスリ師。
「しゃべるのが終わったら、そいつに銃を返してやれ」
歩みをやめ180度回転し、肩に載せていた鞍をズシャッと地面に落としてスリ師と対峙する。
「そいつを訴えるのをやめた…とり下げる……放せ」
「そして銃を返してやれ」
呆気にとられる警備員の手から銃を取り、スリ師の目の前に放り投げる。自らはガンホルダーの釦を外す。
「拾え」
「ただし、拾ったらそれが『合図』になる」「オレを困らしたいっていうんならな……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
当然、周囲も騒然となる。中には車椅子の少年も居る。しかし…
「こっちです、保安官」
どうやら保安官が到着するようである。
「イエエ〜〜〜イ!」
「本気(マジ)に受けとってんのか?」「冗談だって……あんた」
冷ややかに見つめるジャイロを前に、さらにしゃべり続けるスリ師。
「ビビるだろーがよオ〜〜〜コワイ顔しちゃって………言ったこと冗談…」
「オレはただのスリ…がんばってよ……レースをよ」「ヒヒ」
両手を上げて銃を拾わない素振りをするスリ師。
「おまえらっ!何をしている」
何か中国人みたいなヒゲをはやしている保安官が到着。これで一区切りか……
ドゴオオオ
何の音だ?銃を構え様としていたスリ師の右腕、二の腕の付け根にジャイロの投げ放ったあの「球」が命中した音である。
猛烈に回転した後、スリ師の身体に螺旋の後を残し生物のようにジャイロの手の中に戻る。そしてパシィィンと「球」をホルダーに入れるジャイロ。
狡猾ッ!保安官が到着したのを知ってから戦意を喪失したようにふるまい、ジャイロの気を外そうとした。そして保安官が話し掛けてそちらに意識が傾いた処で撃とうとしていた……しかしさらにその上をいったジャイロ!全てを読みきっていた。
「おれはやさしくないぜ」「その銃を指からはなすんだ……そして医者へ行け」
「昼飯前までにな……」
私、残酷ですわよと告白するゴージャス・ジャイロ、何で昼飯前なんだろ?
「このくそ野郎がァ――――ッ」
銃を撃とうとしたスリ師…しかし操られたかのように自らに銃口を向け撃ってしまう。もちろん死亡!!そして立ち去るジャイロ。
「保安官!!どうします」
警備員の質問に答える保安官。
「なんて事ない、ただの『決闘』だ」「別に法に触れてる所はなにもない……行かせろ」
「お互い納得ずくの…『決闘』」
そして騒然とする野次馬。
「見たか!何をしたんだ?」
「腰に持ってる鉄球みたいのを銃を持ったヤツの腕にブチこんだんだ」
「それが偶然はね返ったんだ」
『ち…違う―』
「どけッ!」
「てめーらどけって言ってるんだッ!オレを前へ行かせろ!!」
車椅子の少年が何かに気付いたようだ。と言うか、何でそんなに攻撃的なんだよ(笑)。
『違うぞ…今のはそんなんじゃあねえ!』
『……鉄球は回転していた…高速で!……そして銃を持つ腕にくい込んでさらに回転していた』
「ちょっとあんた!その鉄球はなんなんだ?」「もう一回見せてくれッ!」
スッとジャイロのガンホルダー(スフィアホルダーとでもいうべきか)に手を伸ばす少年。
「おい触るな!まだ回転している!」
ズキュウウ〜〜〜
球に触った少年の身体が突き上げられるように車椅子から飛び出す!!刹那、交錯する視線!
『この『物語』はぼくが歩き出す物語だ』
『肉体が……という意味ではなく青春から大人という意味で………』
『僕の名前は『ジョニー・ジョースター』』
『最初から最後まで本当に謎が多い男『ジャイロ・ツェペリ』と出合ったことで……』
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