「なんだ…!?この病室の中は!?」
「いったい……!?」

 ドアの隙間から中を窺(うかが)うエルメェス。
「神父のヤツは……!?」
 空っぽのベット。倒れた車椅子。机の上には食べかけの食事……数分、いや数秒前の異常は微塵も感じられない。


‘02 28号  Act.119 穴

 子どもから飛び出した弾丸は父親の右胸に命中している。

「『スタンド能力』っぽくない攻撃だ、本物の弾丸が発射されたみたいだ!」
「なんのために撃たれたんだ?」
 エルメェスの尤もな疑問。なぜあの男は狙われたのか?

「『試し撃ち』かも……。才能に目醒めたばかりのヤツだとしたなら、自分が何者なのか『試してみる』必要はある」
 正解だぞ徐倫。後は、狙撃された男が何か条件を満たしていたとかも考えられますが……。
           ガチャ
 ノブを回し突入する徐倫!

「おい徐倫!その「穴」の前に身をのり出すんじゃあねェェェェェェェェーーーーッ」

 穴!?穴!机の陰にある、だが机よりも大きい穴。直径1.5〜2m、人間が2、3人はゆうに入れる円形の穴。クリームが通過した時のように機械的な滑らかな縁ではなく、鉄球がドスンと落ちて床を抜いたような穴。そして神父とヴェルサスは…

「この中にいるッ!」
「どんどんここからどこかへ移動して行くのを感じるッ!」

 すぐにも飛びこうもうとする徐倫の肩を掴み制するエルメェス。
「誰が見てもこれは罠だ」
「この「穴」と、ろーかの男の狙撃に何のつながりがあるのか見極めるまで近づくんじゃあねぇ!」

「静かにエルメェス」

  コツーン        コツーン        コツーン

 かすかに、だがはっきりと響く足音。ベットの下の非常用懐中電灯で穴を照らす徐倫。
縦に真っ直ぐ進んだ穴はしばらくして行き止まりになる。そこからは横穴への入口が見える。その横穴の入口には、病室の机の上にあったフォークの対と思われるスプーンが落ちている。
「底の所で病院の庭の方向へ横穴が掘られているわ」「その先は見えない」

 この穴を創った行為は能力と関係あるのだろうか。

「神父と一緒の敵の名は「ヴェルサス」っていうらしい」「25歳」「男」
「左脚負傷のためこの病院に入院していてまだ完治はしていない」

「いいか徐倫!改めて言ってやるがこの「穴」には入らないぞ!」
「出てくるのを待つんだ!」「あるいはウサギのように追い出すかだ!」

 火を放って煙でいぶすというのはいいかも。少年マンガの主人公のやることではないが(放火だし)。

「この『穴』がミエミエの「罠」だということはわかり切っている」
「だが「神父」はこの『穴』の中で新月まであと『3日』待つつもりだとしたら?」「いえ…」
「神父ならやりかねないがこのままケープ・カナベラルまで逃げ進むつもりかもしれない」
 天国へ行くためには必ずケープ・カナベラルへ行かなければならないはずなので…しかしモグラ・タンクでもあるまいし、そんな地中をずっと進むなんて……ありえそうだが。
「3日たったら神父は確実に天国へ行くとかいう『とてつもないモノ』を身につける!…」
「現在の神父の能力は記憶を操る『ホワイトスネイク』にすぎない」
今なら勝てる!ヤツを止めるのは今しかない!」
「再起不能か場合によっては殺害もやむをえないと思っているッ!」

「これ持って……」「絶対に話さないでよ」
 エルメェスにロープを手渡す徐倫。唐突な事にロープを見つめるエルメェス。わずかな時間、徐倫から目を離したエルメェスが目を再び徐倫に戻すと……すでに穴に入っている!
「ヤバイ時は合図する!いい?何が何でも引っぱり上げて!」
 そして ズズズ と横穴に侵入していく徐倫。

「なんてこった……徐倫、この糸を集めたロープ」
「ヘリコプターから脱出する時使ったけど「体」からこれを出し続けたら一体何メートルくらい進めるんだ?」
「数十メートルか?百は行けるのか?」

 数十mか百mか、などと考えていると数メートルで終わることもよくあることで。

 徐倫の背中の星のアザから命綱を出しながら前進する徐倫。まずスプーンの所までたどり着く。そのスプーンに今にも触れようとする徐倫。

フッ

 懐中電灯の光が消える。
「徐倫?」
「おい!なぜ返事しないッ!徐倫」

 スプーンを拾い上げる徐倫………どこだ!?
徐倫も立ち上がり周囲を見回す。スチュワーデスが接客サーヴィスをしている…どうやら飛行機の中?新聞を読んでいる男、その新聞の日付を見てみると「2005年7月21日」。
「こ…ここは!?」
 窓から外を見る徐倫。そこに広がっているのは果てしない青空でも見渡す限りの雲海でもなく、間違いなく地中。そこに3つの人影が…。

「オイ」「見ロ!」「アイツ」
「ロープを引きズッテ来テイルゾ」
 誰?ヴェルサスのスタンドだと思うが、アゴがないねこの人。顔のノッペリ具合がムーディー・ブルースを思い出させる。
「切断シテ来ルヨ」
 ドシュン と行動を起こすノッペリ顔。

 しばらく呆けている徐倫だが、ロープの存在を思い出す。ロープは天井近くの空間に、水面から垂れ下がっているような感じで徐倫とエルメェスを繋いでいる。
「エルメェスッ!」
「なんかヤバイッ!聞こえるか!」
「引っぱり上げてくれッ!早くエルメェスッ!」


 

今週のめい言

「見極めるまで近づくんじゃねぇ」


○非常に危うい徐倫。虎穴に潜らなければ虎子を得れないとはいえ、あまりにも危うい。いつもの「危険を承知で踏み込む」と言うよりも「焦っている」ようにしか見えない。エルメェスが何回にも渡って忠告した危険が現実になるのでは。つまり、来週徐倫はヴェルサスの能力に捕われる

○あの「穴」は能力で掘られたものか?普通に考えれば穴を掘る際に出る土が跡形もないことから、能力で掘ったと思われます。この事が「子ども」や「機内」と関係あるのか?(なさそう…)

○それにしてもヴェルサスのスタンド、ずいぶんと地味ですね。スタンドの装飾も少なめで、顔もノッペリしているし。6部の中でスタンド像があるモノの中ではベストで地味のような気がします。スカイ・ハイとB・ラプソディーの2つも無い(に等しい)ヴィジョンでしたが、能力がバカみたいに派手でしたけど。

☆さて、そのヴェルサスのスタンド。スプーンが能力のスウィッチになっていたようです。私的な考えとしてはヴェルサスの能力は「時間を戻した」のではなく「空間を再現した」と思いますが。「穴」というキーワードから「再現」というよりも、機内を再現した空間を「創った」…そして徐倫を空間=穴に落とした。

☆先週の予想では、ケガの原因を再現して攻撃。原因を再現された患者は全快。密かな予想としては、戦闘の最後でヴェルサスが徐倫たちのケガを治してやるのではと考えていました。神父に対するある意味での“裏切り”を行うヴェルサス。故にスタンド名は『ジューダス・プリースト』(ジーザス・クライストを裏切ったユダを意識して)と予想。

☆とりあえず来週は徐倫が捕われる…と予想したけど、もう1つ予想。

☆「機内」からの脱出をするために必死にエルメェスに合図を送る徐倫。エルメェスも合図の激しさから危険が迫ったことを理解する。「機内」から脱出しようとする徐倫の前に現れるヴェルサスのスタンド。ロープを切断。再び「機内」に戻ってしまう徐倫。その時、「機内」の様子が一変していることに気付く徐倫。飛行機が墜落しかかっている!因みに徐倫は人々と接触できない、過去に行っているのではなく過去を再現しているだけだから。そして飛行機が墜落する直前にロープが徐倫を引っぱり上げる。エルメェスがロープにシールを貼って、2本にしていたから。飛行機墜落直前に「機内」から脱出!

☆正反対のことを両方とも予想するのはヒキョウなのですが、まぁ、書かずに後悔するよりも書いて罵声を浴びよう!

 今週はここまで!ではでは。