‘01 30号  Act.75 本物の愛

テキサス州 ダラス郊外某所 SPW財団施設内


「彼は今、眠っている状態です。修行僧のような姿勢のまま目を覚まし、数時間起きたかと思うと24時間も眠りつづけます」
「当然です。「記憶」が完璧にないのですから………。」
「言葉を話したりナイフとフォークで食事をする事……自体を失っているのです」

 ヨガの行者のように胡座をかき、両掌を上に向け親指と人差し指で輪をつくっている。頭を垂れて眠る承太郎。全身にコードを付けられ、身体の生命情報を記録されている(でも帽子はかぶっている)。その承太郎を見つつ、彼の状態を話すドクターと(恐らく)その助手…。変形の白衣に頭巾をかぶっている。
 サヴェジ・ガーデン作戦のときに「ダラスにはいない」という言葉は嘘だったらしい。盗聴を警戒していたのだろう。

ドクター
「死から蘇生した後の学習能力は?」


「正常です……。脳波も心電図も全て正常です。シャワーを浴びることを覚えました。英単語も30ほど覚えました」
「しかし、自分の名前が空条承太郎である事や「WATER」という単語の意味そのものは理解しません」

 今の承太郎は「WATER(水)」と「CUP(コップ)」の区別がつかないだろう。ただ、家庭教師の先生が井戸へ連れて行って手に水をかけてあげれば「これが…これが水なのね、先生」と感動するはずです(ヘレン・ケラー伝記より抜粋)。


「肉親のことも……娘の写真を見ても何の反応もありません……」
「しかし、この施設が彼を守る限り何の心配もないでしょう……彼の完全なる健康を維持させます!」

 2つの写真立てにそれぞれ徐倫の写真(カワイイ!)と承太郎の写真。承太郎の写真は半分ほど徐倫の陰になっている。承太郎とイッショに誰かが写っている可能性は大きいだろう。恐らく、徐倫の母親ではなかろうか?

ドクター
「………それはどうかな………」「彼の体重に変化はないが【筋肉】の数値が落ちている。どういう事かわかるかね?」
「記憶がまったくないということは…当然「生きる目的」というものも彼には存在しないというわけだ…」
「『生きる目的のない』人間の肉体はどうなるのか?」

 無言のA。

ドクター
「あっという間に『筋肉』が退化していくのだよ…!行動しないわけなのだからな…」
「その退化は想像している以上にのスピードだ!そのうち…」
「呼吸する事も苦労するくらいに体力が落ちていき、肺を動かす筋力がなくなっていく」


「…………………」
「対策は…?ドクター……」

ドクター
「わからない」「「記憶」を取り戻すしか方法はないのかもしれない…」

 承太郎の帽子に触ろうとするドクター。


「ドクター、彼の頭部に触れないで!」

ドグシャアアァアァ

 スタープラチナが一瞬見え、承太郎の裏拳がドクターを襲う!間一髪!Aがドクターを後ろに引っ張る。
 空振った承太郎の拳は点滴のビンを殴り割ってしまい、その破片でパンチを出した右腕を傷つけてしまう。


「ケガをしたぞ手当てをッ!」


「す…すみませんドクター。注意するのを忘れていました」
「帽子というか、彼の頭部に決して触れようとしないでください…生理的な防御反応をします

ドクター
「『スタンド能力』をだしたのか?」


「ええ…。しかし、くどいようですが『記憶』ではありません」「本能的な反応なのです」

 疑問点は2つ。Aはスタンドが見えるのか?何を指して『スタンド能力』と言っているのか?
 とりあえず置いておこう。

 承太郎の手当てをするために新たに2人の白衣の財団員が来た。そのうちの1人がガラスで切った傷が文字に見える事に気付く。


「JOLY……NE」「徐倫?」
「い…いや」「見間違いか……なわけないよな」

 所は飛んで…GDSt刑務所 厳正懲罰隔離房 地下死刑執行場脇階段。
目が虚ろに横たわる徐倫。付き添いをするF・F。上を警戒しているアナスイ。

 あの日の事を思い浮かべる徐倫…。

 レオタードに股下が狭い迷彩服のパンツ、首元に蝶のバッジ。髪型はだいたいイッショだが、後ろ髪をワイルドに伸ばしている。左腕にはまだタトゥーはない。左眼の周りに星のペインティングを施している。
 徐倫は落ちている財布を見つけた。周りを見渡すが人は見当たらないため、財布を拾い中身を確かめる。

「ちぇっ!なんだよ」「スゲーラッキーと思ったけど5ドルぽっちか…」
「ピッツァも食えねーぜ」
「拾ったサイフに文句いうあたしもどーかしてるけどね―――」

 金をとりだしポケットにしまう徐倫。

「ねえ…」「パパ」「ねえってば!」
「ぼくのおサイフがない」「どこ?ねえっ!」

「今まで持ってただろ!よく探してみろ!」

 徐倫の後方で買い物をすませた親子がもめている。父親が徐倫と、彼女の持っている財布に気付く。

「………」
「さ…ディビッド、車に乗るんだ……は…早く」「い…い…いいから急いで…!」
「の…乗れって!ディビッド」

「も…もしもし警察ですか?今、サイフを盗られたんだッ!」
「ショッピングセンターの駐車場で…あのクソを捕まえてくれッ…まだいるんだ!!」

 子どもを車に乗せていきなり警察に電話をかけだす父親。

「え!?」
「ちょ!ちょっと待て…何やってんだよあんた!」
「う…うあっ」「早く来てくれッ!」「目の前に犯人がいるんだッ!子供もいっしょなんだッ!」
「これのことなら ち…違うって!…これはつまり…話を聞けって!
「うわああああ く……来るッ!」「パパァあああ」

 アメリカ人ならダディと言え。

「なにドアッ!閉めてんだよッ!」
                 「おい…!その電話切れってッ!」
                                     「切れってばッ!」
「わあああああああああ」

 細かいセリフの積み重ねが混乱をかもしだす。徐倫も!父子も!

ヒュイン  ヒュイン  ヒュイン  ヒュイン

 パトカーが接近する。もはや混乱の極みの徐倫。

ちくしょおお―――ッ
 車降りろォ―――ォォ

この野郎ォォ――――

 父子を外に放り出し、自動車を奪い、バックで逃走しようとするも、次々と駐車してある他の車にぶつける。

 ………。




 左腕を手錠によって壁につながれている少女。不敵な態度ながら、伏せ目がちである。

「車の窃盗の罪が加わりました」
「ですが年齢が14歳ですし」
「今回は幸運にも書類だけで済みました…」「…しかし もしナイフ一本でも持っていたならどうなっていたかわかりません」
「………」「…なにかの間違い……」「うちの徐倫……」「……」「…」「」

 制服警官が書類を持って歩き回っている、ここは警察署だろう。私服刑事と少女の母親とおぼしき女性が話しあっている。そっちの方をみた瞬間だけ少女の眼には陰がよぎる。
 部屋の向こうのほうからキャップを被ったロングコートの男が歩いてくる。
 それを見た少女の態度が一変する。イスを倒す勢いで立ち上がる。しかし…、男の顔を確認した後は、明らかに落胆し、再びイスに座り込む…。

「あなた……」
「何て人なの…自分の娘がこんな事になっているというのに……」
「これから東京行きの飛行機に乗るですって!」
「明日に延ばしたら!」

 母親の電話を黙って聞く。

「そうでしょうよ!大切な急用でしょうとも!」「それでも父親!」
「待って!切らないでッ!もしもし…もしもし!」

 もう涙ぐんでいる母親の方も見ない。顔は無表情となり、瞳は無気力に満ちる。手錠が外されても、自由になっても、何の喜びもわかない。
 母親と帰る少女、別の部屋でカウンセラーらしき年配の男性が他の子どもの両親に解説をしている。

「いいですか…ご両親…。
 父親に見捨てられたと思っている少女は将来人を信頼できない大人になります。具体的な事を言いますと「彼女」は人を好きになろうと努力はします。しかし…、父親に裏切られた「彼女」には『本物の愛』を見抜く能力が育っていません………愛情は人一番強いのです。たとえば…、口先だけのいいかげんなボーイフレンドの言葉を魅力的で真実だと感じ………最終的には彼にだまされてしまうのです。彼女の青春はそれのくり返し………、彼女の心のキズ口はより深く深くなっていくのです。人間として一人前にはなれないのです…。心理学的にそういう結論が出ているのです。そういう少女はどうすれば良いのでしょう?ムズかしいです……とても」

「父親が教え…彼女が学ぶしか…ありません」
「結局のところ……」

 父親に見捨てられる。恋人に裏切られる。刑務所に入れられる。父親が記憶を奪われる。…だが少女は学んだ。父親から。自分が愛されていたことを……。




「おかしい……」「あんたの負傷……」
「応急処置はしたのに……」「治したはずなのに……その右腕に」

 訝(いぶか)しがるF・F。徐倫の右腕から血が流れている。「JOLYNE」とも読めるキズ。

「でも なんか文字みたいに見えない?この傷…」

「待って!」
「これは治さなくていい…」「別に傷でもなんでもないわ…」
「何かだんだん治って来た」

 F・Fを制する徐倫。

『いまのは夢…?気を失った一瞬のただの……』
『いや…あたしの『父さん』は…あの人は…あたしが生まれる前からいろんな者を守ってきた…』
『あたしのそばにいなかったのも…今ここで起こっているみたいな事に…ママや…あたしを巻き込まないためだった……

『通じた』のよ…』
『今……父さんを理解出来たと体で感じる…』


 さて、今回のジョジョはどうでしたでしょうか、皆さん。おおまかに分けて前半の「あの人は今ッ」と後半の「不良少女と呼ばれてッ」ですが、前半はともかく後半はチョットいらないかな。まずこのエピソード(後半部分)がある理由を考えたのですが、(1)承太郎の徐倫に対する愛情を表現(2)父娘(おやこ)の絆の強さを表現(3)単に徐倫の過去。(1)はやはり3(66)巻「面会人 その9」が最高エピソードだと思っており、またその感想は今週号を読み終わってもまだ変りません。「おまえのことはいつでも大切に思っていた」普通に「いつでも愛していた」とはいわないこの言い回しも承太郎らしくて好きです。(2)ジョジョにとって家族の絆は非常に重要に扱われます。唐突でも、これを表現することは必要なことだと思います。そんでもって(3)なんですが、今回の過去話と現在の徐倫の状況が直結しないことが「チョットいらない」と思ったメインの理由なんです。
 ただ知人に言われたのですが、こういう一見、無駄のようなエピソードが「キャラクターの厚み」をつくるんじゃないかと。それを聞いて「あぁ、なるほど」と思いました。そういえば、徐倫のレオタードを見れて私も少しフィーヴァーしたし。
 というワケで、あのエピソードは要ります!(なんだその替わり身の速さは!?)

 ではマタ!!