不眠的夜
〜熱きペナンの夜〜


「ペナン」というのは、マレーシアの「ペナン島」の事。
ラオスの事を中心にしたHPに何故?という気もしないでもないが、
旅の…アジアの…という事でご了承ください。


僕の泊まった宿は、何故だかいつも不機嫌な顔をした、華僑のおじさんが経営する「旅社」だった。
疲れていたので、値段と部屋の作りでとっとと決めてしまった。しかし、これが失敗の元。

夜、10時頃、日記もつけて「さあ、そろそろ寝ようか」と思っていると、突然、
「バン、バン、バン」
窓を叩く奴がいる。
「なんだ〜?」
窓を開くと、そこには明らかに
「普通の商売じゃないな、おまえは」
という、派手なワンピースを着た女性が立っていた。

彼女は僕を見ると、これ以上はないというぐらいの笑顔で、
「ハロー」
と言った。
「ハ、ハロー」
僕が泊まっていたのは一階の部屋で、確か、窓の外は庭になっていて、
そこに人なんか入って来ないはずだ。
宿のオヤジがロクに手入れもしてないみたいで、木や草が鬱蒼と茂り、明かりがないので真っ暗…。
しかし、どっから入って来たのだろう?
今、そこには一人のお姉ちゃんが「ハロー」と言って、立っている。
しかも、その「ハロー」は、明らかに僕に向けられた「ハロー」だ。
僕の部屋の明かりが照らし出しているので、なんとか彼女の姿が確認できるものの、
そこは普段、真っ暗なデッドスペースのはずだ。
予期せぬ出来事に混乱する。
しかし、彼女が次に発した言葉は、ますます僕を混乱させた。

「部屋に入れてくれない?」
「は?」
「眠いの」
「……」
「いや、あの、ここは僕の部屋だから…」
「知ってるわ。さっき、宿のマスターに聞いて来たから」
「あの親父ぃ!」
彼女は、僕の答えなど待ってられないという風に、構わず窓から入って来ようとする。
「ちょっ、ちょっと…」
「買ってくれるんでしょう?」
「待った、待った。僕は、今日ペナンに来たばっかりで…。それに、とても疲れていて…。ひ、人がいると寝れないし…」
もう、しどろもどろである。

しかし、彼女のほうは冷静なもんで、
「私も眠いの。だったら、寝かしてくれるだけでもいいわ。なんにもしない。もし泊めてくれたら、明日は町を案内してあげる。それでどう?」
などと言って、一向に引き下がらない。
「まいったぁ」
その後、彼女との攻防戦は30分も続いた。

次の日、僕はすっかり寝不足である。ペナン島の観光もそこそこに切り上げ、
「今日は、早めに寝よう」と、9時前にベッドに入り、ウトウトしていると、
「バン、バン、バン」
「ひえ〜!」
「ハロー」
「ま、また、おまえか!」

翌朝、僕は速攻で宿の親父に文句を言い、2階の部屋に代えてもらった。