髭男爵はバナナパンケーキがお好き
日本人はチャレンジャーだ。
何でも食べる。
中華、イタリアン、フレンチ、エスニック…。
現地の人にとってみれば、なんと付き合いやすい民族だと思う事であろう。
アジアを旅していても、よっぽどの偏食家でない限り「食」で困る事はない。
バンコクやシンガポールなどの大都会には、日本食のレストランだってあるし、
実はカンボジアのプノンペンや、ラオスのヴィエンチャンにだってある。
だから困らない。
でも、日本料理がないからといって、それで困ってしまう人はきっと頭にちょんまげを結っているのだろう。
旅行中は現地のものを食べる。これが基本。
だって美味しいし、安いし、ゲテモノを出されるとさすがに辛いものがあるが、
それ以外はそんなに摩訶不思議な味ではない。
一時期のエスニックブームのせいか、旅行者の中には「タイ料理やベトナム料理を食べる」
という事を目的にしている旅行者だっている。
が、欧米人はそうではないのである。
彼らの多くはかなり保守的だ。
以前、マレーシアのペナン島で、暑かったのでサトウキビのジュースを買って、
それを飲みながら歩いていたら、欧米人の旅行者に
「それは何だ?」
と聞かれた。
「サトウキビ」という単語が咄嗟に出なかったので、
「アジアのオリジナルの飲み物だ」
と答えたのだが、
「美味いのか?」
などと聞かれ、結局は値段を聞いて初めて、彼は「買おう」と思ったらしい。
別れて10分後、右手にサトウキビジュースを持った彼に「ハーイ!」と声をかけられた。
「ナイス」だって。
屋台なんかでご飯を食べていても、他に欧米人がいれば彼らは溜まるが、
一人でずんずん店に入っていく欧米人はあんまりいない。
彼らが好きなのはハンバーガーであり、米ではないのである。
アジアはなんでもあると言ったが、ラオスの場合、全く選択肢がない事がままある。
地方都市や、移動中の小さな村、そういうところでは、大体「フー」と呼ばれる米から作ったビーフンみたいな麺を食べる事が多い。
毎日これじゃあ嫌だけど、移動中の事だし、まあいいやと思って僕は食べてるんだけど、
欧米人の旅行者の中には
「私の食べられるものがない」
と言う人も多い。
前に会ったベジタリアンの女性はジュースとビタミンの錠剤で生きていた。
日本人も旅行先では自然と固まってしまうが、それは「食」の問題ではなく「言葉」の問題である。
しかし、欧米人はやっぱり「食」。
ブレックファーストのメニューがあるレストランやゲストハウスは常に欧米人の旅行者で混んでいる。
最近は、そういう状況を察知してか、欧米人に合わせたお洒落で無難(?)なカフェが
続々とOPENしている。
そんな中で彼らに大人気のメニューがバナナパンケーキ。
文字通りバナナを丸ごと、もしくはスライスしてこれでもかっ!というぐらいの生クリームと共に
パンケーキに挟んでみました!という食べ物である。
僕は、見ただけで胸焼けがしそうになってしまって、未だに注文した事がないのだが、
見てると、女性よりも男性のほうがよく注文している。
で、気がついたのだが、立派な髭を蓄えた殿方たちが大好きなのである。
何かと言うとバナナパンケーキ。
朝も早よからバナナパンケーキ。
夜も食後にバナナパンケーキ。
ビール飲んでもバナナパンケーキ。
中には
「バナナが少ないっ!」
「丸ごと一本入れてくれ。その分の金は払う」
などと文句を言う人までいる。
ヨーロッパには売ってないのか?
髭を生クリームだらけにして嬉しそうにバナナパンケーキを食べ、
手や髭についた生クリームを名残惜しそうに舐めている髭男爵達。
甘いものが苦手な僕は、ただただその光景を見守るしかないのである。