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音叉時計の前と後(余談、多いっす) 2006/3/25写真追加・その他修正


 音叉時計という電池駆動による時計はいきなり世に出てきたわけではありません。
それ以前に電磁テンプ式と呼ばれる電池駆動の時計がありました。
1957年にアメリカのハミルトン社から発売されたこの時計、
ベンチュラとヴァン・ホーンが
先駆けとなり、この後、フランスのLip社が1958年に独自の電磁テンプ式時計を発売、
以後電磁テンプ式の時計が続々と開発・発売されました。


 電磁テンプ式とは従来の機械式時計における、ゼンマイの代わりに電池を動力源とする方式の時計のこと。
調速装置(テンプ)を電気的なスイッチに置き換えているものの、精度においてはさほどの向上はみられず、

『手で巻かなくても動き続ける時計』として販売されました。
テンプの動作イメージとしては、クルマの『ポイント式点火装置』が近いかなぁ?。


*この左右非対称の時計、ベンチュラをデザインしたのが、後に『クルマに初めて羽根を付けた』といわれる
 リチャード・アービブ(59年型 キャディラック・フリートウッドがそのクルマ)である。
 また、LipのMach2000も初期のモデルはこの電磁テンプ式時計として発売されていることを考えると、ちょっと面白い。
 (ベンチュラもMach2000も共に左右非対称デザインで、現在、復刻版がクォーツとして発売されているし、
 Mach2000のデザインを行ったロジェ・タロンも後にフランスの新幹線=TGVの内装をデザインすることになる)


m&v.jpg
ちゅーことで左がLIP Mach2000 右がハミルトン ベンチュラ
Mach2000の方は電磁テンプ式のオリジナルモデル、ベンチュラは現行復刻版のクォーツモデルです
実はベンチュラはレディースモデルなので小さいのです。
(ウチの母の私物なので…)



 で、電磁テンプ式時計の後、1960年に最初の音叉式時計としてブローバ社からアキュトロンが発売されます。
時計に電池、という構成は変わらないものの駆動方式は全く異なり、精度は劇的に向上しました。
簡単にいうとー、時計というのは調速装置の振動数の多いほど高精度!?なワケですけれども(乱暴な表現)
機械式&電磁テンプ式の振動数の限界が一秒あたり10振動程度とすると、アキュトロンは360回も振動することで
その高精度を達成しているのです。きゅいーん。


 60年代のブローバ社の鼻息はそれはそれは強かったようで、パテントを盾に音叉時計の製造を他社に
許さず、ライセンス生産のみを行わせていました。ブローバ社もクォーツ式時計の可能性については
理解していたようですが、まだまだ時間がかかるものと思っていたようです。(いつ?90年代?)


*パテントで権利主張、廻りが別の方法を検討・実用化の図式は飛行機=ライト・フライヤーのようですな(まァ似たようなハナシはどこにでも)
 その鼻息の荒さからNASAの公式時計を巡って色々とあるわけですが、そのネタは別の機会に…


 ところが、日本のセイコーが1969年に世界最初のクォーツ式腕時計、『セイコー・クォーツ・アストロン』(イヤミな名前だね)
を発売し、以降電子回路の小型化と共に世は急速にクォーツ式時計に傾斜し(いわゆるクォーツ・ショック)
機械式・電磁テンプ及び音叉時計も70年代半ばには息の根を止められてしまうのでありました。きゅいーん。


 音叉時計が一秒間に360振動ならば、クォーツ式時計は32768振動である、はっはっは。(実際にはクォーツは減速?してますが)
このへんの諏訪精工舎の活躍?については、NHKのプロジェクトXの第64回「逆転 田舎工場 世界を制す」〜クオーツ・革命の腕時計〜に
詳しい。アキュトロンもスペースビューが敵役?としてどーんと登場しているヨ。必見!!


 さてさて、上記をふまえて考えると、電磁テンプ式時計と音叉時計というのは、結果的には『電池で動く時計』
最終形態である、クォーツ式時計のために、時計用の電池の地ならしを行う役目を担ったことになる。
電池で動く時計には当然ながら電池の性能向上が不可欠であり、電磁テンプ式も音叉時計も
その開発の初期段階において電池では非常に苦労をしているのである。
その点、10年をかけて『時計用の電池』が開発されてから現れたクォーツ式時計はその苦労がない分、
電池に関しては楽だったといえる。
音叉式の時計は
電池で動く時計をあたりまえにするために生まれたのです。



参考文献 エレキウォッチ大図鑑