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わたしを月につれてって!(NASA公式時計顛末記)2006/3/25写真追加・修正
(2004/12/31)


ういっす。ご無沙汰しておりました。お元気?
忘れた頃にやってくる。音叉時計のコーナーですよ。


さて、今回の骨子は「アキュトロンは果たしてオメガ・スピードマスターのライバルだったのか?」
と、いうことについて論考しようと思いますのでよろしくねー。

さて、このお話は、1963年のNASAのマーキュリー計画において、ゴードン・クーパーがスピードマスターと
アキュトロンのアストロノーツの両方をつけていたことから始まります。この当時は宇宙飛行士の腕時計については
特に取り決めはなかったようで、スピードマスターはともかく、アストロノーツは彼の私物だったといわれています。


as&am.jpg
 ちゅーコトで、左がアキュトロン・アストロノーツです。しかし24時間計と回転ベゼルを付けただけで、「宇宙飛行士」を
名乗るのもどーかと思いますね。右の時計はベトナム戦争時に非公式ながらパイロットに人気のあったという
グリシン・エアーマン。写真は最近発売されたレプリカモデルですので赤いGMT針が付いていますが、オリジナルは
短針が24時間計となりGMT針はありません。機能としてはこのふたつの時計、似ているのですねぇ。


で、上記の事実と、後のブローバ社のNASA公式時計へのあくなき(というかかなりあざとい政治的な)駆け引きが、
「アキュトロンVSスピードマスター」の図式の基になっているらしく、結構、本やWEBでも定説になっているようなのですが、
NASAの公式時計の必要項目に対して、アキュトロンでは?と思えるところがあったために、今回こうして考えて見ることにしたわけです。
参考書はワールドフォトプレスの
「20世紀の記憶装置 オメガ・スピードマスター」これ一冊で充分?だ。

さて、長々書くのも面倒くさいので最初に書きますと、NASAの公式時計の概要というのは1964年に出されているのですが
その中での必須項目のひとつというのは、

「クロノグラフであること」
これでアキュトロンが公式時計には名乗りをあげられないことがわかります。だって当時の音叉式時計には
「クロノグラフが存在しない」んですから。(音叉式時計の発売は1960年の10月だしねぇ)
注1) 音叉式クロノグラフの発売は1972年 モサバ系のムーブメントによるものであり、ブローバ製ではない。

ですからNASAが最初の選定時の見積もり依頼を行ったメーカーとされる10社
エルジン、ベンラス、ハミルトン、ミドー、ルシャン・ピカール、オメガ、ブローバ、ロレックス、ロンジン、グリュエン
の中には当然ブローバもあるワケですけれども、このさい提出されたクロノグラフは全て機械式の時計なのですね。
そしてスピードマスター関連の本に書かれている「宇宙では無重量状態のため自動巻きの時計は動作しないのでスピードマスターは手巻きなのです」
についても?です。これは現在、機械式時計=ほぼ自動巻きな世の中になっている中で、スピードマスターの独自性?をアピールするためには
必要なことらしいのですが、心配しなくても大丈夫!何故かといえばこの時期にはまだ世の中には

「機械式の自動巻きクロノグラフは発売されていない」のです。
注2)しかしNASAのテストが過酷なのも事実であり、よくまぁ平気な時計があったもんだと思います。凄いぞ!スピードマスター。
 テスト内容を見ると、「これってG−ショックじゃん」と言いたくなるもんなぁ。よーするにスピードマスターってのは「機械式のG-ショックなのね」うはぁ。


機械式の自動巻きクロノグラフの発売は1969年、しかもクォーツ式の腕時計の発売も同じ1969年、アポロ11号の月着陸も同じく1969年のことで、
このさきクォーツショックでスイス時計業界が大打撃を受けるのが1975年ごろですから、
NASAは時計の駆動方式については特に制約は行っていませんでしたが、アポロ計画に間に合わせるには

「手巻き式のクロノグラフ以外に選択肢は無かった」というのが実情でしょうねぇ。
注3)機械式の自動巻きクロノグラフは1969年にクロノマチック(ホイヤー・レオニダス、ブライトリング、ハミルトン・ビューレン、デュボア・デプラの協業による)
  セイコー(諏訪精工舎)のcal.6139、ゼニス、モバードによるCal.3019 PHC(いわゆるエル・プリメロ)の三種がそれぞれ発売されている。


chronomatic.jpg
右がハミルトンのクロノマチック 左竜頭なのが特徴

実際、NASAの公式時計としてのプレステージ?が最高潮に達するのはやっぱり例のNASA最高の失敗アポロ13号における
スピードマスターの活躍ぶりだったようで、ブローバ社はなんとしても最後の月着陸に間に合わせようと、NASAにあらゆる
コネと手管を使って揺さぶりをかけるのでありますが、このさいに提出した時計というのも、傘下におさめていた
ユニバーサル・ジュネーブが製作したムーブメントを使っていたということですので、やっぱり音叉式時計ではないようです。

注4)ちなみにアキュトロンはアポロ宇宙船の計器パネルに組み込まれており、月に宇宙飛行士が設置してきた時計も太陽電池駆動のアキュトロンである。

ということで、結論は、
「スピードマスターのライバルはアキュトロンではなく、ブローバ社であった」
ということで、この項を終わりにしたいと思います。では、また。

as2.jpg
おまけ 右の時計は80年代にブローバから発売されたクォーツ式のアストロノーツ復刻?版
逆回転防止ベゼルや竜頭ガード付き&ねじ込み式竜頭と「アストロノーツじゃなくて只のダイバーウォッチじゃないか!」
とツッコミを入れたくなるところではありますが、渋いダイヤルと面白いカレンダー、曜日表示と、なかなかセンスは良いと
思うのだけど…。いかんせんこれをアストロノーツって言って売るのはどーかと。