さみしいきもち


 この城にひとまず落ちついたことを知らせていなかったことに気がついて、
ハンフリーはヨシュアへの手紙を書いていた。ここにきてから、
自分が毎回のように戦闘に参加していたということに改めて気がつく。
書き終わった後、持っていたペンを置くとハンフリーはゆっくりと
部屋を見まわした。

フッチがいない。
それだけで何か、寂しいような、華やかさのなくなった部屋だと
感じてしまっている自分に苦笑する。

自分が戦闘メンバーに参加せず、フッチが参加している。
というのは初めてだった。
今回は若いものたちの実践訓練を兼ねてということで、
このようなことになっているのだが・・・。

自分が休みの日はフッチが必ず傍にいたし、目の届く範囲にいた。
なのに、今ここにはフッチの気配はなく、あるのは愛用しているコップだとか、
枕に染み付いた残り香だけで。

「ふぅ・・・。」

 軽くため息をついて、お茶でも飲もうかと立ち上がる。
確かこの辺からフッチが取り出していたな・・・と、棚の前に立ち、
暫くしてハンフリーの身体が固まった。

ハンフリーは再び苦笑してそのまま部屋を出て行くと、レストランへと足を向ける。

フッチがいなくなってから、3日が過ぎていた。




レストランに行くと、一番端のテーブルにフリックがいるのに
気がついてそのテーブルへと近づいた。

「よぉ。」
笑顔で片手を挙げるフリックに自分も片手を挙げて挨拶し、
ハンフリーはその向かいの席へと腰を下ろす。

「あれ?いつもの連れは?って、フッチ出てんだっけか。」
「あぁ。」
昼時のせいもあって活気づいている辺りを見まわし、
やってきたウエイトレスにメニューの中から適当なものを注文し、
置いていかれた水を飲みほした。

「で、どうだ?」
「なにがだ?」
笑って自分を見てくるフリックに、眉を潜めてハンフリーは聞き返す。

「フッチがいなくて。」
「あぁ・・・。そうだな。酒がまずい。」
「レオナに聞かれたら殺されるな・・・あとは?」
「部屋が・・・広いな。」

ハンフリーの言葉にフリックがおかしそうに目を細めた。
「お前がそう思うってことは、いつも一人で待っていたフッチはもっと、
広く感じていたのだろうな。」

 フリックの言葉に、ぴくりと眉を動かしたハンフリーに、
フリックはまたおかしそうに笑う。

「しっかし・・・お前も一応ふつうの人間だったんだな。」
フリックの言葉にハンフリーがフリックの顔を見返すと、フリックが苦笑した。

「気を悪くするなよ。俺だって寂しいと思うこともあるんだ。」
そう言って、ふと、ハンフリーを見る。いや、いつもハンフリーが
座っている席にいるはずの、ビクトールのことを思っているらしい。

「ビクトールは?」
「シュウに何か頼まれてどこかへ行ったみたいだな。・・・さすがに、
いつも一緒にいるわけではないし、一人じゃ何も出来ないわけじゃないから・・・
困ることはないが・・・。」

フリックが切なそうに瞳を伏せる。
「さすがにあそこまで存在感があるやつが、
いつもの場所にいないのには・・・なんだか、生活のペースが崩れるな。」

苦笑したフリックにつられてハンフリーも苦笑した。
ウエイトレスが持ってきたサンドウィッチを口にして目を伏せ、

「それならまだ良い。俺は・・・紅茶のありかすらわからなかった・・・。」
ぽそりと言葉を呟く。そして黙々とサンドウィッチを食べるハンフリーの言葉に、
目を見開いたあとフリックはこらえきれないように吹き出した。
「お前それ、フッチに甘えすぎ!」
笑いつづけるフリックに、なんだかくすぐったいような気がして、
ハンフリーはウエイトレスに水のおかわりを頼んだ。
暫くして落ちついたフリックが、

「お前、変わったよ。良い方にな。」
そう一言だけ言うと、レストランから出て行ってしまった。

残されてみるとやっぱり考えるのはフッチのことばかりで。
フリックの言っていた『生活のリズムが崩れる』と言う言葉に、
自分もかなり当てはまることに気がついた。

フッチのいない1日目の夜はなかなか寝つけなかったし、
更には夜中に目が覚めた。それも3日間ずっとだった。これは日課だ。
あの時間はいつもフッチが毛布をはぐ時間で、自分はいつもそれを掛けて
いてやっていたから。さすがに3年間もそれをやっていると、
毎回同じ時間に目が覚めてしまう。

他には、風呂に行くときも、酒場に行くときも、
フッチに一言声を掛けようと、部屋を出る寸前に振りかえってしまったりする。
朝起きたとき、いつも感じるはずの寝息を感じないことに戸惑って
飛び起きてしまったりもした。

ここまで考えて、なんとも言えない気分になってきてこめかみを押さえた。
ため息を軽くついて立ちあがる。
食事代をテーブルに置くと部屋へと戻った。




部屋にある窓に軽く腰掛けて、じっと眼下を見渡す。
今日は一行が帰ってくる日だからそろそろかと・・・、
なぜか予定されている時間よりも1時間も早くここにいる自分に苦笑した。
自分が遠征に出ているとき、帰ってきたらフッチは
必ずここにいて手を振っていた。その時のフッチの気持ちが
なんとなくわかる気がして、ハンフリーは笑みをもらす。

フッチと離れたことが無かったわけではない。
ただ今までは立場が逆だったわけで・・・。
戦闘メンバーに参加しているときは、戦闘中、移動中共に気が張っていて、
寂しいと感じることが無かった。ただ、宿屋でいつも隣にいる
フッチがいないことや、食事の時などに、寂しいと感じたことはあったが。

「ここには・・・。フッチを思い出させるものが多すぎる・・・。」

ふと口から出た自分の言葉に驚いて眼を見開く。
そのあとゆっくりとハンフリーは目を閉じた。
心地良い風が頬をなでる。
そういえば、フッチは風の封印球をつけていたな・・・。
と、またフッチのことを考えてしまっている自分に、今日何度目かの苦笑をした。




「ただいま〜!!」
元気に部屋に入って来るなり、飛びついてきたフッチを抱きとめる。
「ハンフリーさん!ムクムクってすごいね!」
嬉しそうに楽しそうに笑うフッチに、何だか寂しさを感じた。
自分の胸に抱きついているフッチの背中を、軽く叩いてハンフリーは苦笑する。

(寂しい・・・か。自分の知らない話をするフッチに・・・こんな感情・・・、どうかしてる。)

「でもなんか、やっぱりハンフリーさんがいないと動きにくくって・・・。
まだまだだな〜。僕は。」
「フッチ?」
ふと、違和感を覚えてハンフリーはフッチの顔を覗きこむ。
「声が・・・?」
「あっ、わかります?少しのどが痛くて・・・。たぶん風邪かな・・・?
起きたら毛布が無くなってたからだと思う・・・。竜洞出てから
そんなこと無くなっていたから・・・てっきり、寝相よくなったと
思っていたんですけど・・・。」

 不思議そうに首を傾げるフッチにばれないように・・・
小さく笑みを洩らすと、ハンフリーはフッチを抱き上げベッドへと運んだ。

「今日はもう寝た方がいい。」
「でも、話したいことがたくさんあるんです!」
起き上がって来たフッチの頭を軽くなでると、ハンフリーは優しく微笑む。
その瞳にあきらめたようにフッチは頷くと、ハンフリーに
差し出された寝間着に着替え始めた。

着替え終わった後ぽすりと枕に顔をうずめ、
「あ、ハンフリーさんの匂いがする・・・。」
嬉しそうに笑うと、フッチはそのまま寝息をたてはじめた。

「疲れていたのか・・・。」
 愛しそうにフッチの前髪を何度か掻き揚げたあと・・・
ハンフリーはそっとその額に唇を押し当てた。

 取り敢えず今回の教訓として、ハンフリーが絶対に一人で
本拠地に残るのは止めようと・・・決意したことを知っているのは、
目安箱の中の手紙を見た若き城主だけだったらしい・・・。







ハンフチ・・・!!
この2人はもう離れられない運命なようです。
そしてフリックさん、何気にいかしてます!
さりげにビクフリです!

もうこの年の差カップルには私
口出しできませんわ・・!!
っていうかステキ・・!
このお話には続きがあるとか!!
まこりんさん、待っています〜。