ナイショ


壁にかかった時計を見て、ため息を一つ。
自分の耳に全神経が集中していることに気がついて、またため息を一つ。
頬杖している手とは違う方の手の指が、イライラしたように、そして暇そうに、
とんとんと机を叩いた。

「はぁ〜〜〜〜。フッチ、おせぇ・・・・・・・・。」

ため息と共にお腹から声を出す。
約束したのは今日の稽古の時。夕飯を一緒に食べようといういつもの約束。
別にお腹がすいてイラだっているわけではないけれど・・・・。時間に正確なフッチだから、
ちょっとでも遅れると何かあったのではないかと心配になってくる。
最初から自分の方がフッチの部屋に迎えに行くと言えば良かった。
と、今更後悔したところで、どうにかなるわけでもなく。

「迎えに・・・・行ったほうが良いのかなぁ〜?」

もう一度時計を見てサスケは再びため息をついた。
ところでフッチがどのくらい約束の時間を過ぎているのかというと・・・・・。
約束の時間はレストランの混雑を避けるために5時。
そして今時計の針が指しているのは・・・・5時5分。
そこまで遅れているというほどでもないけれど、
4時半から待ち続けているサスケとしてはなかなか耐え切れなくなってきたらしい。

暇だから。ふっと、昨日の夜を思い出す。
フッチが『唇が荒れる』と怒っていたけれど・・・・・・・。

「あれってさ〜。もしかして・・・・・。自分のせいじゃねぇの?」

思い出す。フッチの癖に。
キスの後、濡れる唇が気になるのか、いつもフッチは自分の唇を舌で舐めるのだ。
その姿がまたサスケを誘っているとは気がつかずに。
(大体、あん時エッチの癖とか言ったけどさ、フッチ以外知らないのに・・・・・
フッチの癖なんてわかるわけねぇじゃんかよ。)
ただ単に、真っ赤になるフッチが可愛くて、面白かったから。
口から出た嘘だったのに。あの時のフッチといったら・・・・・。
自然とにやけてきた頬を抑えるように両手で頬杖をする。

その時・・・・・・。
とんとん、と、小さくドアがなって慌てて立ちあがる。
あまりにも急で、頭の中が遠いところに行っていたから。
勢いよく立ちあがってしまったために、倒れそうになった椅子が視界の端に映った。
思わず出そうになった声を飲みこんで、慌てて足で支える。なんとか音をたてずにすんで、
ほっと胸をなでおろすとそのままドアの方に視線を向けた。

取り敢えず呼吸を整える。
そしてまた、戸惑ったようにドアが小さく叩かれる。
ここで駆け寄ってドアを開ければ良いのに、サスケは絶対にそんなことはしない。

だって。フッチを待っていたなんて気付かれたくないから。

約束の時間の30分も前から、フッチを待っていたなんてバレたくないでしょう?

フッチのことを考えていたせいで、忍なのに自分の部屋の前に人が来たのにも
気付けなかったなんて、知られたくないでしょう?

椅子を倒してしまうくらい、慌てたなんて、待ち望んでいたなんて、
気が付かれたくないでしょう?

だって、これじゃまるで自分の方がフッチのことを好きみたいだから。
自分の方がフッチのこと好きなんて、最初からわかっているけれど・・・・何か悔しいから。

だから・・・・・・、これはナイショ。


ゆっくりと、慌てないように、ドアを開ける。
そこには顔の前に『ごめん』と手を合わせたフッチがいた。

「待った?」
「別に。・・・・・・行こうぜ。」

不安そうな瞳でサスケを覗きこんでくるフッチに、
ぶっきらぼうにそう言うとフッチの背中を促すように押す。
『待った。』なんて言葉は死んでも言えない。


でも・・・・・本当のところ。
フッチだって約束の時間の30分前に仕度は終わっていたけれど・・・・・・。

あまりにも早く行ったら、サスケに早く会いたかったって、バレちゃうでしょう?

サスケとの約束が、とても大切で、大事で、喜んでたって、知られちゃうでしょう?

午前の稽古時の約束なのに、ずっとずっと楽しみにしてたって気付かれちゃうでしょう?

こんなのは自分の方がサスケのこと好きって言ってるようなものだから。
何時の間にか・・・・・自分の方がサスケのこと好きだなんて、わかっていたけれど・・・・
何か悔しいから。

だからわざと、時間を遅らせたりして。
だからやっぱり・・・・・・・これは、ナイショ。






は・・鼻血が止まらぬ!!このお話、「癖」の続編なのですが
思わぬ少女漫画ぶりな描写に思わずグラスを掲げて乾杯してしまいました。

「癖」の続編というからには裏ゆきかと思いきやなんとかわいらしいお話に・・!!
年頃のサスケとフッチのの心情を垣間見て、ワタクシも忘れたあの頃を思い出しました。

かわいいお話をありがとう〜まこりん!
ステキな描写ぶりはさすが「ほのラブマスター」だけあると思いました!