コイノプロセス


(ネムイ…)

枕を抱えてベッドにすわり、右へ左へと身体を揺らしてフッチは睡魔と戦っていた。
眠ってしまうわけにはいかなかった。
どうしても聞きたいことがあったから…。もちろん、
いつもしている大切な人からの「おやすみのキス」がまだのせいもあったが。
大切な人…。先の解放戦争のリーダーであるティル・マグドールが
フッチの大切な人だった。

椅子に腰掛けて本を読んでいたティルは、その様子を横目で見て
小さく笑みをもらすと、本を閉じて机の上へと置いた。
「フッチ、もう寝ようか?」
かけていた眼鏡をはずして本の上に乗せると、羽織っていた上着を脱ぎ、
さっきまで座っていた椅子にかけた。明かりを消してベッドまで歩いていく。
「はい。」
眠そうに返事をしたフッチの横にもぐりこみ、愛しい恋人の額にキスをする。
「おやすみ。フッチ。」
次についばむように軽くフッチの唇にキスをすると、
フッチを包み込むように抱きしめて目を閉じた。
聞くなら今しかない!と意気込んでフッチは口を開いた。
「ねぇ…?ティルさん…。『せっくす』ってなんですか?」
問い掛けるフッチの言葉に、さすがのティルも動揺する。ピクリと
身体が反応したのが抱きしめているフッチにも伝わったらしく、
フッチの目に不安やら不思議やらの色があらわれた。
「……誰に聞いたの?」
「シーナさん。」
ティルの口からため息が一つこぼれた。
「まったくあいつはいつも余計なことしかしない…。」
「ティルさん…?」

たぶんことのはじまりはこうなのだ。
あのお気楽シーナがフッチをからかおうと思って、フッチに
「ティルとエッチしてんの〜?」
とか聞いてみたところ、フッチの反応が思っていたのと違って。
「毎晩一緒に寝ているのに変。」
とかフッチに言ったのだろう。
まぁ…。まさか本当にフッチも知らなかったとは…。
わけがわからなそうに覗き込んでくるフッチの頭を優しく撫でる。

初めてフッチにあったのは、彼がまだ無邪気な11歳の子供のころで。
そのころのフッチは竜のことしか頭にないくらい子供だった。
そしてそのまま竜洞をでて、戦いに明け暮れる日々だったし、
あのハンフリーが教えるはずもないし、二人っきりになっても、
一緒に寝ても無邪気に本当に寝てしまうから、あやしいものだと…
思っていたけれど…。
やっぱり知らなかったのか……。

「いや、ま、知らないだろうな〜とは思っていたんだけどね。
でもフッチには少し早いかなと、思ったんだけど…。」
ティルの瞳がフッチから逃げるように天井に向けられる。
フッチはその態度に少しムッとした。フッチがされて
一番嫌いなのは、子供扱いされることだったから。
「こ、子供扱いしないで下さい!それに、シーナさんが…
『恋人同士には大切なプロセス』って、言ってたのに…。」
僕達付き合っているはずなのに…。と、フッチの少し怒ったような
瞳が不安そうな瞳に変わり、ティルはドキリとした。

フッチの小さな肩を抱き寄せて額にキスをする。
「フッチ…。」
月明かりの中お互いの目が合う。
ティルはそのまま肩を引き寄せるとその唇に深く口付けた。
驚いて逃げようとした唇を追いかけて、その舌を絡めとる。
初めての濃厚な口付けにビックリしたように、困惑したように
見開かれた瞳と目があった。
「ティルさ…?」
ビックリした瞳のままのフッチを再び抱きしめて、
その細い首筋に顔をうずめ、フッチの頭を優しく撫でた。
「ねぇ…?フッチ。僕がほしいと思う?」
「………?」
「好きだから自分だけのものにしたいとかじゃなくて、
心と身体が僕を求める?」
「ティルさん…?」
よくわからないといった瞳を返すフッチに苦笑して掴んでいた肩を離す。
「僕、ティルさんとなら何だって出来るよ?今も、ちょ、
ちょっとビックリしたけど……でも!」
しがみつくフッチの肩を力強く掴み、
「フッチ。」
真剣に名を呼ぶ。
その時、フッチの肩が小さく反応したのに苦笑すると、
そのまま手の力を抜きフッチを抱きしめた。
「おやすみ。」
背中を軽くさすった後、ゆっくりと目を閉じてしまったティルの
顔を見ると、フッチは胸が切なくて、苦しくて、なんだか
とてもつらかった………。



次の日の朝。
レストランでいつものように朝食をとっていると、
「で?どうだった〜?フッチ。」
いつものようにニヤニヤとシーナが声をかけてくる。
シーナは横目でちらりとフッチの横にいるティルを見た。
相変わらず無表情で考えの読めない顔をして食事をとるティルに、
少しつまらなそうに顔を引きつらせたのがフッチにもわかった。
昨日の夜の一件で、実は二人少しギクシャクしていた。
ティルはいつもどうりだったが、フッチはなぜか距離を置いてしまう…。
シーナさんのせいなのに。
と、シーナをキッと睨み付けて食べかけていたフォークを置く。
「教えてもらえませんでした。」
「あっ、そう……。」
こいつ!!と立ちあがりかけたところを、シーナに頭を軽くたたかれる。
「めっちゃ、愛されてんじゃん。フッチ。」
「えっ?」
真っ赤になったフッチはもちろん、ほんのり頬を紅くしたティルを
シーナは見逃さなかった。軽く口笛を吹いてひらひらと手のひらをふると、
「それだけ、大事にされてるってことだろ?」
去り際に言葉を一つ残していく。
シーナの言葉に、フッチが何か言葉を求めるように自分を見つめて
いることに気づいて、ティルはため息をついた。
「本当に…あいつは余計なことしかしない…。」
(あれ…?)
フッチは初めて見るティルの表情に目を丸くする。

ティルは飲みかけの紅茶を置いて、
「これからもずっと一緒にいたいから…。」
逃げるように立ちあがると、
「無理はさせたくないんだ。」
さっさとレストランを出ていってしまった。

残されたフッチはというと…。
「ごめん…。ティルさん。」
耳まで真っ赤になりながらフォークに刺していたいちごを頬張り、
「嬉しかったけど…なんか可愛くって…。」
一言こぼすと、こらえるように口の中で笑った。






ぼ・・・坊フチ!?坊フチなのですね!?
フッチ受けスキーとして心より歓迎致します!!なんと純粋な
フッチ!!しかし坊をかわいいという彼に小悪魔的な妖美さを
感じさせます〜!密かに照れてる坊に祝杯を!!
シーナってのはいつもいい役とりますね〜。

ナイスバカップル!この一言につきます。(ってそりゃひどい・・・)
ありがとう、まこりん!!

そしてまたアップしてしまった私を許して下さい・・・。