きっかけ 3


「おこった…?」
「怒ってねぇよ。」
「おこってんじゃん。」
「怒ってねーつってんだろ。」

どう見たっておこっているじゃないか…とフッチは軽くため息をついた。
確かに自分が悪いと思ったから、素直に謝ったのに。自分から目をそらして、
一向にこっちを見ようとしないサスケの背中にもう一度ため息を吐いた。

沈黙に腹立ってくる。そりゃ、自分が悪いのかもしれないけれど…
自分としてはどうしようもないことだったし、努力はした。
なのにここまでむきになって怒ること無いのではないか…?
フッチのなかに、いつもケンカするたびに思っていたけれど、
口に出したことのない思いが再び湧き上がってくる。

「そういうところが子供っぽいっていうんだよ…。」

思わず口から出たセリフにしまったと思って口を押さえ、
おそるおそる顔を上げると…背中がゾクリとした。

いつもケンカしても、怒っていても、こんな怖い顔されたことは無かった。


きっかけはほんの些細なことだった。いつものような言い争いで、
いつものようにフッチが折れれば、こんなことにはならなかったのに。
あれからもう1週間以上口をきいていない。重苦しい毎日。

フッチはあれから何度目かもわからないため息をついて、
フッチの心とは正反対に明るい窓の外に目をやる。
「やっぱ…僕が悪かったのに…。もっとちゃんと謝れば良かった…。」

1週間前。城主とロッカクの里に戻っていたサスケの帰りを待とうと、
フッチは談話室の椅子に座ってブライトと遊んでいた。
ところが一行は夜になってもなかなか帰ってこなくて…。
その日の稽古がつらかったせいもあり、
フッチはそのまま寝てしまったらしかった。起きたら朝で、
自分のベッドの中だった。無意識のうちに戻ってきたのかと、
ぼ〜っとしていて・・・はっと思い出す。サスケとの約束。

「帰ってきたら真っ先に『お帰り』って言えよ!」
「うん。わかった。じゃあ談話室で待ってるね。」

慌ててサスケの部屋にいくと、そこに彼の姿は無くて。
ハンフリーがいたから一行が戻ってきているのは確実だったから
あわてて探しに飛び出した。やばいやばいと焦りながら、
見つけたサスケはレストランにいて…。

「おかえり〜。どうだった〜?」

などとシーナ達に声をかけられている途中だった。
その時目が合った気がしたけれどなぜか目をそらされて。
自分に声もかけずにレストランを出ていったサスケを追いかけて、
やっと声をかけたけれど…。

「おかえり。あの…ごめんね?」
「あぁ…。いいよ。もう。」

サスケはフッチを一瞥するとそれだけ言って去っていこうとした。
そしてあの後、あのやり取りがあって…、
自分は決して言ってはいけないセリフを言ってしまったのだ。
あれから一度も口をきいていないし、目が合ってもそっぽを向かれて…
泣きたくなってくる。



失敗した…。
サスケはあれから何度目かもわからないため息を大きくついた。
そう…自分は仲直りのきっかけを失ったのだ。ここまで話していないと、
なんて言って声を掛けていいのかわからない…。そのまま毎日がすぎていく。
再び大きくため息をつくと、手に持っていた大福を口にした。本当はフッチと
この談話室で食べようと思って持ってきたのに…。

別にフッチに対して怒っていたわけではないのだ…。
そう…腹立っていたのは自分自身に………。

あの日…。

帰ってきてすぐさま約束の談話室に行くとフッチが寝ていて。
疲れていたのにこんな時間まで、自分との約束のために待っていてくれたのか。
と、愛しい恋人の頬にキスをした。
風邪でも引いたら困ると思ったから、
「フッチ…起きろよ。」
と声を掛けてみたけれど、やっぱり起きなくて。
フッチは一度寝たら起きないからなぁ…。自分も何度これで泣かされたか。
と、苦笑して何か掛けるものを取りに部屋に戻った。

毛布を持って再び談話室に入ろうとして…目に入ってきた光景が…。
フッチを抱きかかえるハンフリーの姿で。
すごくショックだった。だって、自分には絶対にフッチを抱き上げる
ことなんて出来ないから。軽々と抱き上げているハンフリーの太い腕やら、
ハンフリーのマントを軽く握り締めているフッチのあの柔らかい手やらが、
今でも脳裏に焼き付いている。
むなしくて、くやしくて、せつなくて。夢中になって部屋に走って帰り、
布団にもぐりこんだ。見てしまった光景を忘れたくて、
眠ってしまおうと眼をぎゅっと瞑った。

眠れはしなかったけれど。

まだガキの自分に腹立って、いらいらしていたところでフッチのあのセリフ。
『子供っぽい』
あれは正直きつかった。前夜に見た光景よりもきつかった。
心臓が締め付けられたみたいに苦しくて。

あれから口を聞いていない。目を合わせることも出来ない…
それがまたガキくさくて、くやしくて、なさけなくて…バカみたいだ。



6個あった大福も残り1つしかなくて。
話しかけるきっかけさえあれば、素直に謝れるのかもしれない…。
考え込みながら、サスケが最後の大福を鷲掴みにして口にしようとした瞬間。

「なぁ、なぁ、フッチ〜。」
ふと耳に届いた言葉にその動きを止めた。声の方に目をやると、
そこではフッチとシーナがお茶を飲んでいた。
相変わらず、シーナのフッチを見る目つきが気に食わなくて、
サスケの胸にもやもやとしたものが涌き出てきた。

「だからさ、いいじゃん?街にいこうって。」
「えっと…でも、今そんな気分じゃないんです。」
(なにやってんだ?あいつ?)
フッチの口調が、断りつつもはっきりしていないことにまたイラつく。
シーナの目つきがやっぱりムカツク。
その時、サスケの目が捉えたシーナの手の動きに、
反射的に立ち上がるとサスケは大きく振りかぶった。

        

「だからさ、気分てん…かあっ!?」
後頭部に大福の直撃を受けたシーナが前に倒れ、フッチの腰に
まわそうとされていた手がとまった。
「シ〜ナ〜ぁ。こいつは俺のなんだから手出すなって、前も言ったろ〜がっ!!」
「さ、サスケ!?」
驚いて振り返ったフッチの首に腕を回して後ろから羽交い締めにする。
あぁ…。久しぶりにフッチがじぶんの名前を口にした…。
などと幸せを感じたところで、起きあがってきたシーナにまたまたむかついた。
「だって、おまえら別れたんじゃないのかよ?うわさんなってんぜ?」
そのセリフに、シーナを思いっきり睨み付けて、
「別れてねぇよっ!!」
不機嫌丸出しと言った声で怒鳴ると、苦しそうにもがいているフッチを
引っ張って、そのまま談話室を後にした。



「うわっ!?」
じぶんの部屋に戻るとフッチの手を思いっきり引っ張る。
引っ張られたフッチがバランスを崩して、サスケのベッドに倒れこんだ。

「なにすんだよっ!!」
「お前なぁ〜!!シーナの誘いには乗るなって言っただろうがっ!!」

噛み付きそうな勢いで文句を言ってきたフッチの腕を掴み、
サスケも怒鳴り返す。

「ただの買い物の誘いだろ?!」
「あいつの誘いは全部ダメっ!!」

睨み付けてくるフッチを、自分も負けじと睨み返す。
久しぶりに交わした言葉。久しぶりに交わった視線。久しぶりに触れた肌。

なんだか寂しくなってきて…なんだか辛くなってきて…
サスケはフッチの目から自分の目をそらした…。
フッチの腕を掴んだ手の力が抜けていく。
サスケはそのまま倒れこむように床に座った。

「違う…。こんなの…じゃなくて。」

サスケの口から漏れた言葉にフッチははっとした。さっきまでの怒りは消えていた。

「仲直りする…きっかけがほしくて…。今度話せたら…謝れると、思ったんだ。」
「サスケ…。」

フッチは今にも泣き出しそうなサスケの頬を両手で掴むと、自分の方を向けさせる。

「ごめん…。僕。本当は…、サスケがいるの知ってたんだ。
だから、きっかけがほしくて…サスケが話しかけてきてくれたらって思って…。
シーナさんの誘いをはっきりと断らなかったんだ。
でも…。仲直りなんて、本当は簡単なんだよね。」

久しぶりに聞いたフッチの言葉は、やっぱりサスケの心を包み込んでくれるもので…。
目の前にあるやさしい笑顔にサスケもつられて笑い返した。

「仲直りなんてさ…。」

フッチはそう呟くと目を閉じてゆっくりとサスケの唇にじぶんの唇を触れさせた。

「素直になって、こうしてキスすれば簡単なんだよ…。」
フッチのセリフにサスケが驚いたような顔をして…そしてすぐにまた笑顔になる。
そしてフッチの腕を掴んだ手に力をこめると、そのままフッチをベッドに押し倒した。
今度はサスケからフッチにキスをする。

「ほんとだ。すげー簡単。」
「ね?」

真っ赤になって呟くサスケにフッチはくすくすと笑った。

「ごめんな?」

今にも消え入るそうな声で、呟いたサスケに

「僕こそひどいこと言ってご…。」
自分も謝ろうとしたフッチの言葉がサスケの唇でさえぎられた。





「で………、君って、実はバカでしょ?」

ベッドの中で顔を白黒させるサスケを見下ろして、
フッチの口からまたまたひどいことが吐き出される。
「だってさ〜。ぎりぎりまで、食うのやめときたかったからさ〜。」
「だからって、1週間以上も前に買ってきた大福食べる?!どう考えたって腐ってるよ!!」
そう…。あの後二人はなかなかいい雰囲気になってきて…。
仲直りの情事に入ろうとした瞬間…。サスケが腹痛で倒れたのだ。
聞けば1週間前の大福…。いくらなんでもこのくそ暑い時期に
そんな古いものを食べる奴がいるだろうか…?

「まったく、ばかばかしいっ!」

フッチはかなり怒っていた…。だって、サスケと久しぶりに
肌を重ねられると実は結構喜んでいたのだから…。
サスケがロッカクに戻っていた5日間とケンカしていた1週間ちょっと。
そんなに長い間触れていないのも初めてだったのに…。

「ワリかったって…。」
「もう知らない!」

まだまだお腹の痛みはつらいけれど、愛しい恋人の膨れっ面にはかなりまいる。
サスケはフッチの手を取り、抱き寄せると軽く頬にキスを贈る。

「俺だって、したかったんだからな〜!」
「ばっ、ばかっ!!」

怒鳴って自分に背を向けてしまった恋人の背中に苦笑する。
まぁ…。怒って怒鳴ったわけではないみたいだから良しとしよう…。

サスケは微笑んだあと、
「いてて…。」
とお腹を押さえて眉間にしわを寄せた。









こ・・・これは!!な・・なんとケンカサスフチですか!?
読んでてワタクシとってもどきどきしました!なんとお上手な描写!!
サスケ君かっこいい&かわいい〜!!(といったらサスケに怒られそう)
ハンフリーさんにいいところもっていかれてショック気持ちは良くわかるぞ!
大丈夫、君もあと2〜3年すれば平気でフッチをもちあげられるようになるから!
そしてフッチさん・・・。あなた年上の貫禄ばっちりですね・・・。その仲直りの仕方に
サスケ君同様かなり私もくらっときたわ〜。年上の恋人に戸惑う年頃の少年・・・!!
このシチュエーションにかなりの鼻血をふきました。(だんだん話脱線してきてないか?)

とにかくステキ小説じゃ〜!!まこりん、いつもすまないねえ。
でも君の贈り物は私の心のオアシスとなっているのじゃよ・・・・。ありがとうございます〜。

ああ・・鼻血が止まらぬ・・・!!