きっかけ



「オレ、フッチのこと好きなんだけど…。」
はき捨てるように、ぶっきらぼうに、放たれた言葉に驚いて言葉を失う。
「友達として……じゃなくて。」
きっかけはそれだった。



 それはフッチにとっては未知の領域だった。
別に男同士だろうと、女同士だろうと、否定はしないつもりだったけれども、
いざ自分の身に降りかかってくると、すこし戸惑いを隠せない。
肺いっぱいに息を吸い込んで、そして大きくため息をつく。
「どうした…?」
同室の男に声をかけられて、はっと口を片手でふさぐ。
顔が熱くなった。
「いえ、なんでもないですっっっ。」
カゴの中でうとうとし始めていたブライトを抱きかかえると
「ちょ、ちょっと散歩してきますね。」
逃げるように部屋から飛び出した。



 長い長い階段を上っていく。城主の部屋の更に上。屋上。
一昨日告白されてから、自分は彼の顔をまともに見ることができなかった。
どきどきしてしまって、ギクシャクしているのが自分でもバカみたいによくわかる。
『オレ、フッチのこと好きなんだけど…。』
目を自分からそらしてぶっきらぼうに言っていた少年。
『友達として……じゃなくて。』
その後、自分の目を見て真剣に言われた言葉に胸がどきどきした。
少年の真剣な瞳と、声が、フッチの頭の中をくるくると回りつづけている。
「くぁ……。」
腕の中で鳴くブライトの頭をそっと撫でる。
夜風にあたりながらあたりを見まわすと、どこまでいっても闇が広がっていた。
遠くに町の明かりが見える。フッチは苦笑した。
闇は彼を思い出させる。彼の色だから。
「ねぇ…。ブライト。サスケ…本気なんだよね?」
言われた瞬間、多分自分はとても困った顔をしていたのだろう。サスケが少し困ったように、
切なそうに笑って去っていったのを思い出す。
「でも、どうしたらいいんだろう。」
サスケは告白しただけでフッチに答えを求めるわけでもなく、どうしてほしいのかも言わなかった。

 サスケ…。言われてみればなんとなく…覚えがある気が…する。
戦闘中何気にフォローをくれたり、いつもぶっきらぼうなくせにたまにやさしくしてくれたり。
フッチの嫌いなにんじんを、バカにしながらもハンフリーにバレないように食べてくれたり。
友達だから…。だと思っていたのはどうやら自分だけだったらしい。
(あ、声変わりの相談…とか、しちゃった…。)
別にそれがいけないのかは良くわからないけれど、なんだか恥ずかしくなってきて、更に。
(……お風呂…一緒に入っちゃったな…。)
ユデダコみたいに真っ赤になりながら、フッチは口を片手で覆った。
(なんか、急にサスケのことばかり考えてる…。)
いやいやをするように頭を振った後、ため息を軽くついた。
(とうぶん…。サスケには会いたくないな……。)



「よぉ!フッチ!」
突然目の前に現れた人影にビックリして、ブライトを支えていた手を離す。落ちそうになった
ブライトが、小さな翼をばたつかせるのに気がついて慌てて抱きかかえる。
「さ…サスケ、なんで…。」
(会いたくないと思った矢先に現れるんだこいつは!!)
叫びたいのをこらえているフッチなどおかまいなしにサスケは小さく笑った。
「フッチがいるの見えたからさ。」
さらっと、全然まったくいつもと同じ口調のサスケに腹が立つ。
自分はねむれない日々を過ごしているというのに、サスケのいつも通りさにいらいらしてきた。
睨みつけてやろうかとした瞬間。
「そだ、フッチ、ちょっとこいよ。」
「えっ!?」
突然勢いよく手を取られ、フッチはバランスを崩す。そのまま引きずられるかのように勢い
よく階段を駆け下り始めた。



「どこ行くの?」
「こっち、こっち。」
建物から外に出る。あまり遠くに行くとハンフリーさんが心配するかも知れない。
フッチが心配そうに城を振り返ろうとしたその時。
「うわっ!」
そこは。城の陰にある小さな池だった。
「な?ちょっとすごいだろ?期間限定〜。」
青々と茂る草草の間に、光るなにかがちらちらと飛んでいる。
「何!?コレ!!」
「ホタルだよ。」
その幻想的な世界に目を奪われて息を呑む。へへっと珍しく年相応な笑顔を見せて
サスケが笑った。
つられてにっこりと笑い返したところではっと我に返る。
いまだつながれたままの手が熱かった。ドキドキしてきて、手に汗がにじんでくる。
体の全神経がそこに集中しているのが自分にもわかった。先ほどのイラ立ちはもうなかった…
やっぱり、あれから微妙に変わってきている。二人の関係。フッチが離そうと引っ張った手を、
サスケは強く握り返した。
「………。」
「………。」
お互い自分の心臓の音が、相手に聞こえてしまうんじゃないかと思うと、
それが更にドキドキさせる。
なんだか気まずくてうつむいたフッチの目に、足元を揺らめくホタルの光がうつる。
「フッチ。」
「はいっ!?」
(しまった。声が裏返った。)
思わず口に手を当てて、おそるおそる顔を上げるとサスケの真剣な瞳と目が合う。
(あ…。)
どきりとする。一瞬見た、真剣な瞳にときめく。
(ちょっと…かっこいいかも。)
一瞬だけ思ってしまった考えを否定するように大きく頭を振った。
「オレ、フッチと付き合いたいんだけど。」
(うっわ〜!!直球!!!!!!)
頭の中が真っ白で、なのに顔は熱くて、手に汗がにじんで泣きたくなってくる。
離そうと手を引っ張ってもサスケがそれを許してくれない。
「…イヤなのかよ?」
サスケの瞳に切なそうな光がともったのに気がつく。
「イヤ、とかじゃなくて、急に、そんな。」
「これから好きになってくれればいいから。」
「でも、その。」
掴まれていた手がぐいっと引っ張られる。気がついたときにはすでにサスケの顔が
フッチの目の前にあった。
(あ、サスケって意外とまつげ長い…。)
遠ざかっていくサスケを見ながら、のほほんとそんなことを考えていたフッチが
はっとして唇を押さえた。
残ったのはあたたかくて柔らかい感触。
「フッチ…。」
「………。」
(嫌じゃなかった気がする…。)
つながれた手があたたかかった。
真剣に自分を見つめているサスケの瞳にくらくらした。
あんなに高鳴っていた心臓の音が、いつのまにか落ちついて心地よいリズムを刻んでいる。
とくん…。とくん…。とくん…。
「……うん。」
小さくうなずくと
「フッチ!!」
急に抱きしめられる。驚きと、恥ずかしさと、力強い抱擁のせいで息苦しさを感じて、
フッチはサスケを引き剥がそうとした。
「ちょ、ちょっと。」
「いいじゃん。恋人同士なんだし。」
ちょっと、失敗したかかも…。と思ってしまったけれど、その時のサスケの笑顔が見たことも
ないくらいに子供っぽい笑顔だったから、これはこれでいいか。と思う。
フッチはサスケの手を強く握り返すと
「これからよろしくね。」
律儀にぺこりとお辞儀をする。その姿にこらえきれないようにサスケが吹き出した。
「フッチのそういうところ。好きだよ。」
「サスケ!?」
真っ赤になって怒鳴った後、フッチもこらえきれなくなって吹き出した。

まわりでほのかに光るホタルは、二人のこれからを祝福しているかのようにゆらゆらと
二人を包み込んだ。
お互いの指と指を絡めて、二人視線を交える。フッチがにこやかに笑い、
サスケが照れくさそうに笑った。
「こんな、恋のはじまりもいいのかもしれない。」
フッチのつぶやきがサスケの唇の向こうに消えた。







ぎゃー!!サスケ幸せ編〜!!
看板に偽り無し!(私いつも叫んでばっかですな。)

横恋慕サスフチもいいけどちょっと
サスケがかわいそうだねえと話してたら
こんなステキな作品を頂いてしまいました!
大胆サスケがいい感じです!

 ありがとうまこりん!
そして載せてしまってごめんまこりん!
世間様にもみせたかったのじゃよ・・・。
次はサスフチ初夜編かね?(目が本気)