願いの詩
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穂村が明日の僕の誕生日を覚えていた。お祝いしてくれるって。
明日は学校休みだけど、もちろん部活がある。
じゃあ部活休んでお祝いしてくれる?と頼んでみた。
どうせ断られると思っていたので冗談ぽく。
そしたら穂村はあっさりと「いいよ」と言いやがったので、僕も部活を休むことにした。
穂村でも部活サボることあるんだ・・
僕の中の穂村は、
バスケ(里見センパイ)>僕 という図式が成り立っていたので。
そういえば穂村は僕のことを好きだと言ったっけ。
でもあまりにも余裕のある顔して言うもんだから、僕は「ふーん・・」としか言わなかった。
人に本気で告白する表情としては不十分だと思ったものだ。
今まで僕に告白してきた子は、もっと真剣そうで・・いっぱいいっぱい、って感じの。
なんて僕が言っていいセリフではない・・かな?
だって、僕から誰かに告白したことなんて一度もないから。
その日の夜は、成二が僕の部屋にやってきて恐る恐る聞いてくる。
「兄ちゃん・・明日、さあ」
「金」
「は?」
「金がほしい」
「なっ、可愛くねえこと言いやがって!」
「だって今ほしいものなんてないんだよ」
「そんな可愛くねえヤツには何もやらねえ」
「じゃあ僕も成二の時には何もあげない」
成二が うっ という言葉と共に、ひとまず黙った。
成二いじめってのはもはや日課だね。
「・・・まあ、考えとく」
そう言って成二はパタンと扉を閉めて出て行った。珍しく大人しく引き下がったなあ。
明日の夜はどうやら家で僕の誕生日パーティとやらを開いてくれるらしい。
かなり気恥ずかしいのだが、親からもらえるものはもらっとかないと。
成二からも当然搾取する。
じゃあ明日の予定は朝から夕方まで穂村の家、
夜は家に戻ってくると。それでいいや。
+++++
穂村の家は相変わらずでかい。初めて来た時はかなり驚いたものだが、
まあ穂村の性格を考えるとこういう家で育って納得・・という感じだった。
インターホンを鳴らす。
『ハイ』
あれ、一発で穂村が出た。珍しいな。
「ほーむーらーくん、あそぼー」
『ハイハイ』
自動で門が開く。すごいっちゅうの。
「どうぞ」
「お邪魔しまーす」
穂村が玄関でお出迎え、僕を招き入れてくれる。
相変わらず静かな家だけれど、今日は特に人の気配がしない。
「・・誰もいない?」
「ああ、今日はオレだけ。祖父母は留守だし、恵さんは3日間休みとってる」
「ふーん」
穂村の部屋に入り、僕は持ってきたバックを投げる。あ、やばい母さんから
お菓子持たされてたんだっけ。潰れたかも。
「あ、潰れ・・・ っっ!?」
わっ、ちょっとなんだよ!
穂村が後ろから抱きついてきて、一気に押し倒された。
「ちょ、待てよ」
「待たない」
「そんながっつかれると怖いってば」
「・・・久しぶりだからな」
そう、久しぶり。前にやったのはどれくらい前だったか。
僕は穂村に好きと言われた時から身体だけは穂村を受け入れた。
別に男同士だし何がなくなるってもんじゃないし。
穂村ならいいかって思った。
でも、感情は追いついていない・・・・それは今も。
僕は穂村が好きなのだろうか。
正直、「好き」って気持ちがわからない。
誰か好きな人いる?って聞かれると「キヨ」と答えてしまいそうな
自分がいる。
でも穂村とエロいことするのは正直気持ちいいから・・
若さゆえの暴走ってやつだろうか。
穂村に深くキスをされると僕も段々そういう気持ちになってくる。
っていうかそういうつもりで今日、穂村の家へ来た。
あとは邪魔になった服をお互い脱ぎ捨てて、肌を重ねるだけだ。
久しぶりの、若い身体は正直だった・・・。
僕は思った、そういえばまだ穂村に返事してないやって。
「うーーーー、なんだかだるい・・ベトベトする・・・」
「すごい新記録、もう夕方だな」
1日不健康に過ごしてしまった・・。何の新記録なんだか。
確かに色々驚かされたよおまえには。
ムクリと起き上がって時計を見る。
「5時・・そろそろ帰る。」
「もう帰るのか?」
「うん。家でプレゼント貰い損ねるのイヤ・・・って穂村」
「ん」
「プレゼント」
「お」
「お、じゃなくってプレゼント。まさかこの新記録がプレゼントとかぬかすんじゃないだろうな」
「まさか」
自分からプレゼントーなんて言わなきゃいけないもの正直恥ずかしいんだぞ!
穂村が裸のままベットから降りて、机の引き出しをガタガタ引っ張りだしている。
なんだ、小さいもの?と首をかしげて見ていたら穂村が何かを手のひらに包んだまま戻ってきた。
「羽深、手を出して」
「・・・こう?」
不信ながらも両手を差し出す。まさかマニキュアとか差し出すんじゃないだろうな、ネイルアートセットとかだったらどうしよう。確かに僕は爪を噛むクセがあるけれどそこまで変な気遣いはしないでほしいんだが。
「左手だけでいいよ」
「?」
穂村が僕の左手をスッ持ち上げて、・・・薬指に?
指輪。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
穂村が微笑を浮かべている。
「あ、あのー」
「ピッタリだな」
「確かにピッタリだけど・・・」
どうしろって言うんだ。どう反応したらいいんだ?怒るべきか笑うべきか。
それとも喜ぶべきなのか。
「困ってる困ってる」
穂村がとうとう笑い出した。
うっわ、む か つ く 〜〜〜!!
「半月前のお祭でさ」
「?」
「買ったんだよ、それ」
「お、お祭って・・・僕んちの田舎に行った時のお祭り?」
「そう」
僕は指輪をじっと眺めた。
よくみると、シンプルなデザインだけど・・・わ、メッキだメッキ!
「超安っぽい・・」
「そうか?結構見た目はいいと思ったんだけど」
なんか脱力したけど・・・もういいか・・・
「うん、いいよもう。もらっとく・・・」
「あれ、素直に引きさがったな」
と言って穂村はベットの下からちゃんとした包みを取り出した。
「ハイ、プレゼント」
「穂村・・」
こいつどこまで本気なのかわからない。
本物?のプレゼントはきっちり受け取り、指輪もしっかりと頂いとくよ。
穂村最大のギャグ(超くだらない)としてネタにできるかもしれないし。
「いい加減帰らないと・・あ、穂村風呂かして」
「オレも入る」
後はもうバタバタと帰る準備を。穂村がドライヤー持ってきて僕の髪の毛を
かわかしてくれた。
「羽深、指輪はずさないのか?」
「はずさない」
「ふーん」
せっかく貰ったから・・というよりは、おもしろいからつけとく。それだけの
つもりだったんだけど。
「んじゃ、早く行こう」
「え?」
「穂村も。僕んち来なよ」
「いいのか?」
「いいよ、とっとと帰ろう。いい加減母さん怒りそう」
僕がそういって穂村の腕をひっぱると、穂村が嬉しそうに笑った。
珍しく可愛いと思える笑顔だった。
+++++++++
「キーーーーーーーーーーヨーーーーーーーーーー、
見てみてーーー!!」
僕は左手をスッと差し出してキヨにアピールする。
どうしたの羽深くん?と東野まで顔を出してきた。
「・・・なんだよ、その指輪」
キヨが嫌そうに聞いてくる。その表情がたまんないなあ、キヨったら。
「穂村にもらったの」
「え、穂村くんに?」東野が驚いて答える。
「ん、僕昨日誕生日だったから」
「そうだったんだ、おめでとう羽深くんー」
「ありがと」
本当天然だな、東野は。
「で、おまえはオレにどう突っ込んでほしいんだ。
そのためにわざわざオレの教室まで?」
「キヨのツッコミだったら色々な意味で大歓迎なんだけど」
「うわ、なんだかキモチワリい・・」
キヨが後ろにスススと引いていく。それが普通の男子中学生の反応だと思うよ。
「羽深くん、綺麗な指輪だねえ。羽深くんに似合ってる」
「そう?」
そう真面目に返されるとどう対応していいかこっちも困るよなあ。
あくまでもネタとして用意しただけに。
「羽深くんも気に入ったんだね、それ。ねえキヨちゃん」
「オレに振られても困るんだが」
「だって羽深君嬉しそうだもの」
う れ し そ う ・・・・?
「よかったねー穂村くん」
東野は更に僕の後ろに向かって声をかける。ハッと振り向くと、そこには
穂村が立っていた。
「げ」
「羽深・・そんなに気に入ってくれてたのか。学校にまでつけてくるとは」
「そうみたいだぜー、穂村」
キヨがからかうように声をかける。しまった穂村がいたのかしくじった。
「じゃあ今度はちゃんとしたの、買ってやるよ」
「へ?」
また馬鹿なこと言ってる?
「え、それってちゃんとしてないの?」
東野が首を傾げる。これ以上余計なこというな!
「まあ、すぐにメッキがはがれるだろうね」
「そうなんだー、羽深くん指輪したままバスケしちゃ駄目だよ。
指輪壊れちゃう」
ああもう東野って本当に苦手だ・・・・・・
この指輪の意味なんて、別に知る必要はないと思う。
穂村はきっと冗談でくれたのだから。
確認なんて、する必要もない。
左手薬指にはめてきた時点でなんとなくわかるものの。
あくまでも、冗談・・だろ?
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でも、それから約半年後。この指輪が重く感じる日が来てしまった。
穂村との付き合いはダラダラ続いていたけれど、特にこれ以上
かわることはなく。僕は穂村に相変わらず返事していない。
鷹鳥一中に正直、いずらいんだ。
転校すること、皆に黙ってた。
穂村にも。
鷹鳥一中にこのままいても、僕は何も望めない。
ここにいたって僕のためにはならないもの。
結局皆に告げないまま3月に入った。卒業生を見送った後は僕も部活には出なくなり。帝北中への転校の手続きも済ませ、寮に入る準備を進めている。
鷹鳥一中時代もそれなりに楽しかったよなあ、東野が来るまでは。
東野が来なければプライドが傷つくことも、
・・・悔しいけれどバスケへの向上心が上がることもなかっただろう。
ああ、でもキヨと穂村には余計なことまで言っちゃったっけ。
帝北に行けば大学までエスカレートとか、鷹鳥一中バスケ部に未来はないとか。
思ってても黙ってればよかったのに、どうしてあーまで言ってしまったのか。
大好きなキヨと、・・・穂村を前にして・・気持ちが高ぶっちゃったのかなあ。
キヨがうちまで来た時、本当は嬉しかったのに。
止めに来てくれたのかなーって。でも、結局は僕個人への執着じゃなくって、単にバスケ・・東野のためだったんだろうなあって思ってしまったら、つい余計な言葉が口から飛び出してしまった。
これからの僕は、鷹鳥一中の連中から裏切りもの扱い。
まあ自分で選んだ結果だけれども。
だから、穂村との関係もこれ以上続くことはない。
あいつは結局里見さんの夢追っかけて鷹鳥一中にとどまるんだから。
やっぱり バスケ(里見センパイ)>僕 の図式は正解だったんだと思う。
じゃあ、穂村が一緒に帝北中に転校してきたら、僕はどうしたんだろう。
嬉しいとかそういう簡単な問題じゃない、僕は・・
穂村が、僕のために転校したら って思った時。
すごい胸がうずいたのも事実だった。
ドキッとした、痛かった。苦しかった。
穂村がずっとついて来てくれたら、・・・傍にいてくれるのならば。
痛くて、苦しくて・・・とても満たされる僕がいる。
そう、僕はずっと誰かに愛されたかった。「特別な存在」になりたかった。
そして、その「誰か」を愛したかった。
キヨに大事にされている東野が本当にうらやましかった。
・・・段々惨めになってきたから、よそう。涙で視界がにじんできた。
別に穂村は・・悪くない。
穂村だって独りの人間であって、僕の分身じゃない。僕の傍にずっといるなんてことできるはずないんだから。
そうやって離れてしまっても、僕を少しでも好きだったことを覚えていてくれれば・・とか無意識に思っている自分にアレ?と思った。
僕はやっぱり穂村が好きだったのかもしれない、と今更ながら気がついた。
穂村にもらった指輪を左手薬指にはめてみる。
相変わらずピッタリだ。
穂村は僕の指のサイズ、知ってたのかな。
あ・・・、今更思い出したくないこと、思い出した。
お祭に行った日、珍しく穂村が僕と手を繋ぎたがる。
大人しくされるがままにしていたら、僕の左手をジッと観察し始めた。
なんだよ最近爪は噛んでないよーと言ったら「そうみたいだな」だって。
違うよね、爪見てたんじゃないよね。
僕の指を見てたんだ。
僕の左手にボタボタと水滴が落ちてくる。視界は完全に閉鎖された。
やっぱ、指輪返そう。
忘れられなくなるから。
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