以前の告白
5月9日
部屋をきれいにした。ようやく人の住める環境になった。部署異動の挨拶ハガキをようやく書き始める。「四月吉日」と印刷されているが、気にしないことにする。
最近読んだ本。
●貴志祐介『硝子のハンマー』(角川書店)
期待して読んだが、密室トリックは某作と類似。プロットも陳腐。なぜ途中から倒叙になるのか。犯人あてとしてよくできてはいるが、これでは小説として体をなさない。本作の後半の展開は、小説家としての努力の放棄である。
●乾くるみ『イニシエーション・ラブ』(原書房)
驚きはするが、それだけ。歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』について僕は好印象を持たないが、それ以上に唖然とする作品である。こういう作品が公然と書かれてしまうこと、版元側も喜々としてこれを本にしてしまうこと、ここに「新本格」ブームのもたらした大いなる罪がある。
なお、官能小説愛好家として付言すれば、本作の主人公(のひとり(ネタバレか?))の童貞喪失シーンは、とてもよく描けていると思う。
10月19日
急に忙しくなり、部屋も再び汚くなった。常に身体がだるく、いくら栄養ドリンクを飲んでも頭が重たい。
何人かの友だちから更新に気づいたとの連絡をもらった。いきなり滞ってしまって、どうもすみません。
さて、最近読んだ本。
●島田荘司『ネジ式ザゼツキー』(講談社ノベルス)
傑作。最初から最後まで研究室の中だけで物語が進むのに、このテンションの高さはどうしたことだ。会社近くの喫茶店で昼食をとりながら読み終えたのだが、クライマックスで何度か泣きそうになって、一生懸命我慢した。隣の席で、女子大生三人組がサンドイッチを食べていたからだ。最近、心が弱っているのか、すぐ涙が出そうになる。まだ物語が動き出してもいない冒頭、
「マーカットさん、人生というものは何でしょう」
ぼくは言った。
「人生とは記憶そのものなのです。友人も知人もできなければ、それは人生と
はいえない」(62頁)
こういう何ともない一節でウルウルしてしまうのは、やっぱりちょっと病んでいるのかも。プロット、特に伏線の見せ方などはいかにも最近の島荘流だが、ひとつひとつの完成度が極めて高いのでまったくマンネリを感じない。ここぞというところで畳みかける節回しも健在。間違いなく本格ミステリ今年のトップ。傑作。
10月14日
今日は部屋の掃除をした。不可触領域だった水回りに挑む。G5匹退治。
もうすぐだ、もうすぐ人間の住める部屋になる。
10月13日
二年間、更新をしなかったのは、飽きてしまっていたからである。
最近は会社でも干され気味なのか、あんまり忙しくもないので、また、ひっそりと、こっそりと、ここを見てくれている(た)数人の人たちだけに向けて、更新を再開しようかと思う。
最近、読んだ本。
●トマス・フラナガン『アデスタを吹く冷たい風』(ハヤカワ・ミステリ)
復刊フェアで購入。テナント少佐、渋い、渋すぎるよ。しかし、テナント少佐ものが途中で終わってしまうのはショック。絶対的な権力関係の中に探偵を置くところが斬新。
●マレー・ラインスター『ガス状生物ギズモ』(創元SF文庫)
これも復刊フェアで購入。何のひねりも驚きもなく、あっという間に読了。タイトルだけが面白い。
●浅草キッド『お笑い男の星座2』(文藝春秋)
カバーの下にすごいものが隠れている。これを眺めるためだけにでも買う価値がある。
●岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』(岩波ジュニア新書)
評判がいいので読んでみたら、期待に違わず面白かった。ギリシア精神史からハイデガー、レヴィナスまで、極めて見通しよく語られていて、大学時代の思想史の講義を思い出した。ロールズが西欧のリベラリズムを「重なり合う合意」によってのみ基礎づけた(つまり、理論的、哲学的な基礎づけを放棄した)ことの理由が、「普遍性を要求すれば、人々が分裂してしまう」としか説明されていないのは本の性質上やむをえないとして、学生時代、ロールズを勉強していた頃に、この「重合的合意」とは「郵便空間」みたいなもので、この一点で、デリダとロールズを(ローティを経由することで)重ねあわせて読むことができるんじゃないかなどと漠然と考えていたことを、今、突然、思い出した。
胎内回帰