諺と格言の社会学



持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが…




「持っている人は与えられて、いよいよ豊 かになるが、持ってない人は、持ってい るものまで取り上げられるであろう」。

 この現象は、社会心理学では、マタイ効果 と呼ばれている。なぜなら、これは、『新約 聖書』の「マタイによる福音書」の13章12節 の言葉であるからである。 


 このマタイ効果を、面白おかしく、多少エロチックに検証したのが、渡辺和博とタ ラコプロダクション作の『金魂巻』(1984)である。

 「私たちは・・・冷静に観察しているうちについにある法則を発見したのである。 (マルキン)の強みはお金が余って幸福なのでいつもニコニコしていることであ る。その結果、彼は善人に見えるので他人から好かれ、他の多くの仲間が合体し て、よりいっそうその地位を固めて行きます。一方、(マルビ)もになりたいと 願ってしまうことです。高級インスタントコーヒー。日焼けサロン。原宿竹下通りで 家内製手工業で生産されたコム・デ・ギャルソンのようなもの。の憧れを逆手に 取った気分や、のグッズは、世の中にあふれています。その結果、はやりく りが苦しくなって、ますますへの道を盲進してしまうのです。また、やっかいなの は、一度歩み始めたこのコースはなかなか変更ができないことです。」
 著者らは、この本で、いろいろな職域におけるという不平等の発生と再生産を、カタイ話を抜きにしながら、また、思う存分笑わせながら、具体的に検証 して見せてくれている。

 リーダーと部下の間にもこのマタイ効果が見られる。リーダーとは集団全体に指 示や命令を出し、服従される人である。部下はそのような行為は許されない。部 下はすばらしいアイデアを持っていても、直接集団に提示し指示することはできな い。彼はそのアイデアをリーダーのもとにもって行き、リーダーがそれを自分のア イデアとして集団に提案し指示を出す。部下はそれに服従する。こうして、リーダ ーはさらにその地位を確固としたものとする。

 学生たちと一緒にした「大貧民」というゲームを思い出す。カードが配られた後、 大富豪の地位にある者は、大貧民の地位にある者から一番いいカードを2枚取り 上げ、お返しに、大貧民に最低のカードを与え、そこからゲームがはじまる。まさ に、マタイ効果を取り入れたゲームである。いったん大富豪になると、人はなかな かその地位から落ちることはない。しかし、時々、大革命が起こり、すべてが入れ 替わる。現実を反映した面白いゲームである。
 こんな川柳や川柳ももある。
    「お金持ち金儲けできる金を持ち」。
     Money begets (or makes) money.《金が金を生む》

註 1 渡辺和博他『金魂巻』 ちくま文庫 1988.
    2 拙著『交換の社会学』 世界思想社 2005 第10章を参照。




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