諺と格言の社会学
You cannot eat your cake and have it too.(菓子を食べて、な
お、その菓子を持っているわけにはいかない)。
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和菓子は、目で見て美しく(視覚)、食べておいしく(味覚)、舌ざわりやさしく(触
覚)、ほのかに香り(臭覚)、その歯音は食
欲をそそる(聴覚)、まさに五感の芸術で
あると言われる。このような和菓子を前
に、食べたい、しかし、手元においてずっ
と眺めてもいたいというジレンマに立たさ
れる。その美しさを愛でておれば、そのお
いしさを味わうことはできない。おいしさを
味わえば、その美しさは消えてなくなる。
二つのを同時に味わうことはできない。一
方をとれば、他方をあきらめなければならない。このような状況を表現したのが、
この諺、「菓子を食べて、なお、その菓子を持っているわけにはいかない」である。
私たちの人生は、まさに、このような選択的な状況で一杯である。一方を選択
すれば、他方をあきらめなければならない。そのあきらめ、放棄した方の報酬をコ
ストという。 人は報酬を得るためにコストを払っているのである。この報酬からコス
トを差し引いた値が、その行為の純報酬(利潤)である。この菓子の場合、その選
択はその菓子が持つ食欲をみたす価値と美的欲求を満たす価値の比較によって
決まる。多分、空腹なら食べるであろうし、満腹なら飾っておくであろう。
しかし、一人の男が、結婚相手として、どちらの女性を選ぶか、というような、選
択的な状況では、選択行為が複雑になる。A子さんは大好きであるが、プロポー
ズを受けてくれるかどうか自信がない。B子さんはそんなに好きではないが、プロ
ポーズすれば受けてくれそうである。彼はどちらの女性にプロポーズするであろう
か。今、A子さんの彼にとっての価値を100とし、プロポーズを受けてくれる可能性
を50%としよう。他方、B子さんの価値を80とし、プロポーズを受けてくれる可能
性を90%としよう。合理的選択の理論では、人は価値に可能性を掛けた値の大
きい方を選択する。A子さんは、100×50%=50であり、B子さんは80×90%=
72である。したがって、彼はB子さんを選ぶであろう。
問題は、成功の可能性の判断を間違うことである。私の経験ではないが、お互
い孫のあるような年になって、同窓会で会ったA子さんに、好きだったけど、断られ
るとおもってプロポーズをあきらめたことを打ち明けると、A子さんが、ポッと頬を
紅くして、「あの時、待っていたのに」と言われたという話を聞いたことがある。
Faint heart never won for lady. 臆病では決して貴婦人は得られないのである。
「一押、二金、三男」という諺がある。振られても振られてもめげずにプロポーズ
すれば、その情にほだされて、彼女は受けてくれるかもしれない。しかし、現在で
は、その行為はストカー行為として罰せられるかもしれない。
しかし、また、こんな川柳もある。「初恋が実っていたら未亡人」。
人生は選択の連続であり、ひとつの賭けである。だから面白い。
参考文献 拙著『交換の社会学』 (世界思想社 2005) 第2章を参照
仲畑貴志編 『万能川柳名作濃縮版 上下』(毎日新聞社 2000)
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