練馬市長としての役割を終え、宇宙番長はついに休暇となった。
すなわち官庁御用納めであり、約一週間の安息の日々が宇宙番長にもたらされるのである。
「休日。なんというすばらしい響きだ・・・・・」宇宙番長は自宅マンションの屋上で一人 感慨に耽っていた。
激務に次ぐ激務。
苦労して得た給料は宇宙征服基金によってその97%を徴収され、被害の損失補填に当てられる。自業自得とはいえ、その日々はあまりにも過酷だった。
しかし。
宇宙番長には休日があった。
年末休暇。
故郷へ帰省しようかとも思ったのだが、宇宙番長は休暇を世田谷で過ごすことに決めていた。
なぜならば、宇宙番長には練馬を守るという義務がある。
そしてなにより、おせちが食べたかった。
全部、一人で。
そして宇宙番長の自宅には、12月31日の午後1時におせちセットが届くことになっている。このおせちセットは近所のデパートで購入したものなので、合成着色料とか保存料とかいろいろ入っているのかもしれないが指摘してはいけない。
すぐに感化されて自然食は体にいいとかほざく輩もいるが、そんなことばかり気にしているとそのうち何も食えなくなるのだ。
そして宇宙番長はそんなことを気にするような繊細な神経の持ち主ではなかった。むしろ豪快で粗暴で無頓着でその上横暴というべきだがあまりこんな風に他人をけなしてもしょうがない。
何より宇宙番長は主人公ではないか。
主人公をけなしてどうする。
というわけで宇宙番長は自宅マンション『コーポ大都会』の屋上にいた。
「休日。休日か・・・・」その妙なる響きに快感すら感じる。
ただ、この呟きをもう35回も繰り返しているとなると、それは既に変人の領域である。
もちろん、宇宙番長はただ者ではないので一般人というには語弊があるのも確かだが、だんだん訳が分からなくなってくるのでこの辺でやめておこうかと思う。
ともかく休日なのだ。
輝かしい明日を思いつつ、宇宙番長は空想に耽った。
一方そのころ。
一人の男が地球へと迫っていた。
その男の名は。
ちょっと地球人には発音が無理なので、無理矢理表記すると「アンゴルモア」という音に近い。
いやほんとうは「ェゥイングゥァルムォァウ」みたいな読み方なのだが、彼の目的と地球上の伝承を掛け合わせるとこの表記が適当であろう。
彼の目的とは、地球征服。
人類を抹殺し、練馬を乗っ取ろうとたくらむ悪の帝王なのだった。
一人しか居ないのに帝王とはいかに、とも思うのだがどこにでも「皇帝」とか「帝王」と名乗りたがる輩はいる。領地もないのに。しかし、「王様」を名乗る者がいないのはどういうことか。
格が低そうに見えるからなのだろうか。
よくよく考えてみると帝王は王に含まれるのかも知れない。というか王という漢字がついている。
そう、賢明な読者諸君はもう判ったに違いないであろう。彼こそ恐怖の大王、アンゴルモアであり、人類滅亡を企む恐怖の存在なのである。
ちょっと遅刻したけど、ノストラダムスの言う事は合っていた!
凄いぜノストラダムス!
夢をありがとう、ノストラダムス!
やっぱりあんたはスゲェ奴だ!
そんなわけで悪の帝王であるアンゴルモアは火星で一時休息をとった後、伝説通り地球征服をたくらむことにした。
具体的な方法は人類を抹殺し、練馬を乗っ取るということなのだが、どうやって皆殺しにするとか、乗っ取るかとかそういうことはあまり考えていない。後先考えずに突っ走るタイプといわれればそれまでである。
魔王とか悪の帝王などそんなものだ。
取り敢えず、アンゴルモアは静岡県沼津市へと降り立った。
別に目的があったわけではないが、地球の地理に疎い彼は、沼津市を練馬と間違えたのである。駿河湾を東京湾と間違えたとも伊豆半島を千葉と勘違いしたとも言われているが、もちろん普通の人間は間違えない。
名前が違うから。
しかし、彼は宇宙標準語である日本語を、ほとんどというかほぼ完璧に読解できず、間違えたのである。
しかも、地理的にも練馬の位置にあるのは富士根とか源道寺とか富士宮のあたりで沼津の位置はほぼ東京のあたりに近い。
つまり、座標的にも全然あっていない。
ここで賢明な読者は気づいたことだろう。
こいつは馬鹿だ。
などと事実を指摘しては行けないのである。
指摘すると傷つくか弱い精神の持ち主だっている。
こいつは違うけど。
というわけで、アンゴルモアは練馬大破壊木端微塵作戦(仮)を実行した。
つまり、ところかまわず暴れたのである。
その被害は広範囲に及び、沼津市商店街はおろか都内へと通じる東名高速にもそのダメージは及んでいた。
一方そのころ、宇宙番長は近所のデパートへ待望のおせちセットを取りに行っていた。
スキップして10メートルも跳び上がるほどのはしゃぎようであり、有頂天であり、絶頂ウキウキぶりであるものの取りに行くのは一番安い奴である。
整理券を握りしめ、オバサンどもをなぎ倒し、目指すはおせちのカウンター。
そして今まさに!
宇宙番長待望のおせちセットが!
「おせちを取りに来たぜっ!」
しかし、店員は深々と頭を下げ、申し訳なさそうに言った。
「すいません、ただいま発送の方が遅れていまして・・・・」
「なんだと?そういう物は前もって搬入するもんだろうが」
宇宙番長は歯をむき出しにして迫る。
店員は一瞬腰を抜かしそうになって後ずさったが、すぐ後ろは壁だった。
逃げ場無し。
「た、た、た、大変申し訳ないのですが、ただいま東名高速が通行不能になっておりまして」
店員は勇気を振り絞り、自分の無実を訴える。
相手は宇宙の支配者である。
安物のおせちセットで殺されてはたまらない。
宇宙番長は民間人を虐殺した事など一度もないのだが、週刊誌では事実とも嘘とも判らぬ情報が飛び交っているのでこういう誤解もある。
「渋滞か」
宇宙番長は残念そうな表情で言った。
宇宙パンチが飛んでこない、という事で安心した店員はやや平静を取り戻し、事態の説明をする。
「いえ、路面全体が凍結してしまっているそうです」
「凍結?」
「なんでも、怪しい怪物が凍らせたとか、よく判らない情報で混乱していまして原因が不明なんです」
「……………………」
怪物。
思い当たるのはただ一人。
アンドロメダ番長。
あいつ、見た目は怪物だからなぁ。
しみじみと宇宙番長は思う。
アンドロメダ番長は宇宙番長のライバル(自称)であり、外見はミジンコとゴリラを足して2で割ったような凄い生き物である。
しかしその実力は宇宙番長でも認めざるを得ないほどであり、不死身に近い体力および生命力、そして怪しげな数々の必殺技を持っているために決して侮れない相手であった。
しかし腑に落ちない。
アンドロメダ番長は民間人を襲ったりはしないし、まっすぐに練馬へやってくるはずだ。
なぜ東名高速を狙ったのか。
まさか俺のおせち料理を。
そんな姑息な手段を使うような男ではないが、怪物といったらなんといってもアンドロメダ番長である。
本人が聞いたら乱闘になりかねない考えであるが、何せ見た目が悪い。
宇宙番長は宇宙の支配者だが、聡明かどうかと聞かれれば、どちらかといえば聡明ではない方なので短絡的にそう考えた。
アンドメロダ番長め。
怒りに燃えた宇宙番長はそのままデパートを飛び出し、静岡へ向けて走り出した。
全力で走る宇宙番長の速度は時速400キロにも達し、その背後では例によって突風や竜巻などの大災害が発生したがいつも通り怪我人は出ても死人は出なかったので良かった良かった。
とはいえ、師走の忙しい時なので怪我人はいつもの3割増しであり若干大変な事になっている。
しかし、これは事故。
走るからには風が起きてしまうわけで、そんな物を取り締まる事は誰にも出来ない。
風は人の心を通り抜けていくのだ。
春には暖かな、夏にはさわやかな、秋には愁いを帯びた、冬には厳しい風が。
風は全てを語ってくれる。
この突風によって吹っ飛ばされたあげく両足を骨折全治3週間の皆川 金太郎は後にそう語り、詩集「突風と俺」は全国で130万部を超えるベストセラーとなったがその続編「春風ルンルン」が著作権問題に引っかかって裁判沙汰になったりし波瀾万丈の人生の幕開けになったがそれはそれでまた後の物語である。
人生、いろいろある。
一方そのころ、世田谷区某デパートに届けるためのおせちセットを輸送する輸送業者、緑川 守は苦戦していた。なぜなら東名高速が分断されたために、移動手段が通常の道路しかなくなってしまったからだ。
だが、そこも同じだった。
全て凍り付いている。
路面の状態は極めて悪い。
ダメだ、身動きできん。
緑川は焦る。
道路に立っている黒い人影が口から吐く光線によって道路だけでなく付近一帯を凍らせている事は判っている。
目的があってではない。破壊そのものが目的なのだ。
俺の皆勤記録が。
皆勤賞で5000円貰えたらそれで宝くじを買って3億円当ててそれをさらに株と競馬で10倍に増やす計画が。
黒い人影がこちらを向いた。
長くもじゃもじゃとした体毛に、爛々と光る猫目。醜悪、という単語では片づかないような、耳まで裂けた口。そして虎じまのパンツ。
おとぎ話ではない、現実的な驚異。
口が大きく開いた。
そこから発せられる冷凍光線は、あらゆる物を凍結させ、粉砕するだろう。
それが、こちらを向いている。
俺の人生もここで終わりか。
緑川は死を意識した。
「何だ、アンドロメダ番長じゃないぞ」
若干拍子抜けした宇宙番長であったが、おせちが届かない原因を作っているのがこいつであるという事は既に明白である。
「この年末の忙しい時に俺の手を煩わせるとは不届き千万な奴め。二度と地球にこれなくしてやる」
アンゴルモアが緑川へ向けて冷凍光線を発しようと言う瞬間、宇宙番長は何の警告も無しにいきなり襲いかかった。
「宇宙キック!」
後頭部に蹴りを受けたアンゴルモアは前のめりになったまま凍った路面を滑っていった。
ボーリングの球のように乗用車をなぎ倒し、高速道路から滑り落ちて富士の平原へと滑っていく。
富士のすそ野は自衛隊の演習にも使われるようなだだっ広い平原である。
「こいつは都合がいいぜ」
思う存分暴れてもたいした被害にはならない。
無論、市街であろうと関係なく全力で暴れ回るので違いはないのだが、被害額の通知と請求書が回ってこないだけ気が楽である。
宇宙番長はすぐさま追撃にかかった。
その場にいた誰もが、自分たちに救いの手が差し伸べられた事を知った。
ある者は恋人に会うため。
ある者は仕事のため。
ある者は紅白歌合戦のため。
またある者は飲酒運転がばれないよう逃げ出すため。
理由は様々だが、そこにいた者全ての意識が、この場から脱出することを考えた。
事は一台のトラックから始まる。
この路面では思ったよりもパワーが出ない。そのトラックは積載量を減らすべく、積んだ 土砂の一部を捨てた。
軽量化された事により、トラックは凍った路面を難なく踏破する。
そして捨てた土砂は凍った路上の滑り止めになった。
次々と車が動き出す。
路面の氷の山は大型車両が粉砕していった。
そうして出来た道を乗用車が走り抜ける。
僅かな隙間を軽の車両が軽やかに。
乗用車はスタイリッシュに。
トラックは力強く。
思い思いの道を選択し、この場から離れる。
誰も料金を払わないが、命の危険がある時にそんな事を気にする人間は誰もいない。
破損した車両は駆けつけた整備車両が迅速に撤去し、怪我人は運び込まれていく。
そして皆が待ち望んでいたおせちセットもまた、東京都民の元へと向かっているのだった。
そんなドラマが巻き起こる最中、平原を貫く氷の滑走路を延々と滑っていったアンゴルモアは、ちょっと尖った石に脳天を激しくぶつけて止まった。
顔面から滑っていったので顔が真っ赤になり鼻血まで滲んでいる。
頭のあたりから湯気のようなものが出ているが、湯気である。つまりそれぐらい怒っているのだが口から出てくるのはよく判らない叫び声。
「○×△□☆−!」
アンゴルモアは日本語が喋れません。
「なるほど。言いたい事は判った」適当な事をいう宇宙番長。「だが俺の怒りは爆発寸前だ」
「□■◇!」
「貴様のような三流に俺の相手がつとまるものか」
全然会話になっていない舌戦が続く。
二人が業を煮やし、攻撃に出るのはほぼ同時だった。
「¥@!」
「ならば死ねい!」
宇宙番長の額に光が。
アンゴルモアの口内に暗い輝きが宿る。
「☆〜!」
「ミラクル怪光線!」
二つの光条が激突する。
しかし、勝ったのはアンゴルモアの方だった。冷凍光線はミラクル怪光線を押しのけ、突き進む。
間一髪かわした宇宙番長だったが、かすめた光線が富士一帯を凍結させたのを見て、文字通り背筋が凍るようだった。
「俺のミラクル怪光線が出力負けするとは」
勿論、時間をかければ同等以上の出力まで上げる事は出来る。
しかし時間がかかりすぎるし、相手もそこまで待つつもりはないだろう。
続けざまに吐き出される冷凍光線は、間断なく宇宙番長を襲った。
ならば取る手だては一つ。
「貴様、どうしても俺を本気にさせたいらしいな」
宇宙番長は腕に嵌めたグローブを投げ捨て、ゆっくりと構えた。
腰を低く落とし、脇腹のあたりで右の正拳を固める。
声にならない気合いと共に大地が揺れた。
右拳が一瞬輝きに包まれる。
そして大きく一歩を踏み出し、突きを繰り出した瞬間、爆発と閃光が発生した!
宇宙番長に収束される宇宙エネルギーをフルに使い、その渾身の力を拳に込めた時、拳の先端の速度は音速を遙かに超え、瞬間エネルギーにして天文学的な量に達するほどの破壊力を生み出す。
拳の質量は遙かに小さいが、その加速度が常識ならざるものになった時、先端の大気は巨大な真空の渦を作り出し、僅かな粒子は加熱、発火し、プラズマ化寸前にまで燃え上がる。
この世に砕けぬ物など存在しない必殺の一撃。
燃え上がる拳を見て、人はこう呼ぶ。
「バーニング宇宙パンチ!」
燃える弾丸と化した宇宙番長の正拳は、絶対零度の光線を正面からうち破った。
周囲に凄まじい水蒸気が立ちこめる。
熱線と化した拳圧がアンゴルモアをまともに捉えた。
威力が半減したとはいえ、怯ませるには十分すぎるほどの破壊力である。
のけぞったアンゴルモアに、宇宙番長が猛然と殴りかかる。
「宇宙フック!」
10メートルも殴り飛ばされ、アンゴルモアの体が地面へと埋まる。
宇宙番長は容赦しない。
地を蹴り、一瞬にして間合いを詰めて攻撃を続行する。
だが、間合いにはいった瞬間、アンゴルモアの口が開いた。
必殺の冷凍光線を、至近距離から浴びせようというのだ。
「させるかっ」
倒れたアンゴルモアの顎を蹴り上げ、今まさに放たれんとしていた冷凍光線は遙か上空へとそれていく。
「とどめだっ」
宇宙番長は脚を振り上げた。
アンゴルモアは自らを踏みつぶそうとする宇宙番長の脚をすくい上げる。
背中から落ちるところを素早く体を捻って肩で受け、そのままタックルの姿勢に移行。
もつれ合いながら宇宙番長がマウントポジションをとる。
馬乗りの状態からパンチを浴びせる宇宙番長。
その凄まじい衝撃を受けながらも巧みにブロックするアンゴルモア。
グラウンドでの高度な攻防。
こいつ、寝技での戦いも慣れてやがる。
宇宙番長は相手の技量に驚愕する。
やはりただ者ではない。
不意に、殴りつけていた宇宙番長の右腕をアンゴルモアが掴む。
腕ひしぎかっ。
そうではなかった。
アンゴルモアが、邪悪そのものの笑みを浮かべて口を開いた。
「くっ」
宇宙番長は強引に腕を引き抜きながら、とっさに左手でかばう。
直撃こそしなかったものの、宇宙番長の腕が服ごと凍り付いた。
大きく後ろに跳躍して間合いをはなすが、左腕は動かない。
凍傷には至らないが、必要以上に強固な宇宙学ランも一緒に凍り付いてしまったため、腕の動きを阻害している。
片手でやるのは厳しいな。
焦りにも似た考えが宇宙番長の頭をよぎる。
右腕の一撃に賭けるか。
バーニング宇宙パンチを直撃させれば、必ず勝てる。
問題は、その一撃を放つ時一瞬無防備になる事だ。
捨て身の一撃など柄ではないが、やるしかないか。
冷凍光線の一撃に耐えられれば撃つチャンスはある。
左手で受けて、右手で仕留める。
今までのパターンからするとアウトレンジからの攻撃で来るはずだ。
ならば勝機はある。
宇宙番長は決死の覚悟で間合いを詰めた。
アンゴルモアは動かない。
いや、動いていた。
足下にあるのは枯れた雑草ではなかった。
それはいつの間にか伸ばされていたアンゴルモアの体毛だった。体毛は触手のように絡みつき、宇宙番長の自由を奪う。
片腕しか使えない上にその残った腕を封じられては為す術はない。
間髪入れずにアンゴルモアがタックルしてくる。
受け身もとれずに吹き飛ばされ、宇宙番長の体が埋没した。
「ぐっ」
肋骨が軋む。折れてはいないが、相当こたえた。
力を込めて体毛を引きちぎろうとするが、左腕が凍っているので右手だけでは力が十分ではない。決して千切れないわけではないが、時間はかかりそうだ。
形勢逆転。
アンゴルモアは大きくジャンプし、口を開いた。
空中から冷凍光線を浴びせてとどめを刺すつもりなのだ。
ミラクル怪光線では相殺できない。そして空中からの攻撃ならば避けられない。
そう考えたうえでの命中度100%の一撃。
絡みついた毛はもう少しで引きちぎれる。
一瞬でいい。
体勢を立て直す時間があれば。
左手を溶かし、拘束を解く方法。
その唯一の方法を思いつくが、ためらう時間はなかった。
身動きできない体の中、唯一の必殺技を出す事の出来る部位。
すなわち、額から発するミラクル怪光線。
宇宙番長はそれを放射した。
上空のアンゴルモアではなく、自らに。
無論、ただの衣服ならば瞬時に燃え尽き、全身火傷の重傷だ。
だが、宇宙学ランは大気圏突入すら可能にするほどの丈夫さを誇る。少々の事ではびくともしない。それを信じた上での行動だった。
体毛は瞬時に燃え、体に自由が戻る。
気合いと共に拘束を引きちぎり、宇宙番長は立ち上がった。
そして体に炎をまとわりつかせたまま、上空に向けてジャンプ。
だが、アンゴルモアとの距離が近づくということは、冷凍光線を至近距離から浴びるということだ。
炎は瞬く間に消失し、宇宙番長の体が凍り付く。
だが、その僅か1秒の時間があれば十分だった。
ジャンプの加速度に加え、全エネルギーを込めた拳。一個の弾丸と化した宇宙番長の一撃は、まさにロケットとなってアンゴルモアを打ち上げる。
「ロケットアッパー!」
二段階の加速を経た拳のエネルギーは地上で放たれたバーニング宇宙パンチの比ではない。それは指向性の衝撃波、爆発力とも言うべき凄まじいものだった。
渾身の力で打ち上げられたアンゴルモアは成層圏を突破して地球外までぶっ飛ばされ、そのままアンドロメダ方面へと消えていく。
きらめく尾を引いて。
恐怖の大王アンゴルモアは宇宙の支配者によって地球外追放となったのだった。
地球の平和とおせちセットは守られたのである。
後日談。
飛んでいったアンゴルモアは、吸い寄せられるようにアンドロメダ番長の宮殿へと落下し、穏やかな年末を過ごしていたアンドロメダ番長と壮絶な死闘を展開する事になった。
アンドロメダ番長とアンゴルモアの戦いは3日間にもおよび、59時間24分、アンドロメダ番長が新必殺技「丸かじり」で勝利したがその詳細はここでは語らないものとする。
そして東京に帰宅した宇宙番長は感謝状と共に無事おせちセットを手に入れる事が出来たのだった。
かくして都民の食生活を守りつつおせちを無事ゲットした宇宙番長。
来年もまた数々の強敵が現れるだろう。
その日のために英気を養いつつ
行け!宇宙番長!戦え!宇宙番長!