宇宙番長


前回までのあらすじ

宇宙番長は宇宙征服のために練馬を支配することにした。


第一話 強襲!練馬市役所!


「宇宙キィィィィィィック!」

 その男の放った飛び蹴りは練馬市役所の玄関のガラスを木端微塵に破壊した。
「何事だ!」その破壊音を聞きつけた練馬市役所戦闘公務員の鈴木 太郎が駆けつける。
 練馬市役所は不測の事態に備え、知力体力共に優れたエリートを育成し、雑用から格闘まであらゆる状況に対応した究極無敵の公務員を完成させていた。その第1号が彼、鈴木太郎である。
「俺の名は宇宙番長!市長に会わせてもらおう!」
  飛び蹴りを放った男は言い放った。
  たしかに番長というだけあってその風体は異様だ。
  日の丸の描かれた金属製のプレートを額に装着し、髪の毛はホウキのように逆立てられている。身につけている長ランにはしっかりとカラーが付けられ、手には巨大なグローブをはめていた。
「キサマ、ここがどこだと思っている!練馬市役所だぞ!」
  鈴木は威嚇する。
「そんなことは百も承知。だからこそ、俺はここに来た。退け、雑魚に用はない」
「フ、それはこちらの台詞よ。市長の元へは行かせん!」鈴木は軽くステップを踏んで構えを取った。「行くぞ!」
 鈴木は常人を遥かに超えたスピードで宇宙番長と名乗る男に襲いかかる。
  そしてやや前傾の姿勢から右ストレートが宇宙番長の顔面に向けて放たれた。
  鈴木の必殺技、『凄いストレート』である。
 勝った!鈴木は己の勝利を確信した。
 バキィ!
 しかし次の瞬間吹き飛んだのは、鈴木のほうであった。
「バ、バカな……?」
「その程度で俺を止めるのは百年早いぜ!」
「う、宇宙番長……恐るべし」鈴木の体から力が抜けた。
 宇宙番長は市役所内へと歩いていった。

 宇宙番長は市長室へとたどり着いた。途中、一般公務員の妨害にあったが、すべて粉砕した。粉砕したと言われてもよく分からない人もいるので具体的に言うパン粉と同じぐらいに粉々にしたのである。パン粉はハンバーグには欠かせない。

「宇宙パァァァァァンチ!」

 気合とともに、市長室の扉が爆砕する。
 市長室には書類の積まれた机と、初老の男が一人いるだけであった。
「お前が練馬市長か」
 初老の男は頷いた。「して、何のようかな?」
「市長とはすなわち、この練馬の支配者!お前を倒せばこの練馬は俺のものだ!お命、頂戴!」
「小僧。お前もまたこの練馬を狙う愚か者の一人か」市長は静かに言った。
 古来より練馬は世界の、いや宇宙の中心であった。それは『世界征服はまず練馬から』という諺がすべてを物語っている。
  アレキサンダー大王がペルシャ帝国を倒し、インド方面に向かったのもこの練馬を見つけ出すためであった。
  また、ドイツ第三帝国のヒトラーもまた日本と同盟を結んだように見せかけて、密かに練馬についての探りを入れていたことが最近明らかになっている。
  また日本の歴史においても、最終的に天下人となったのは大阪を選んだ秀吉ではなく、練馬を手中に収めた家康であった。
 すなわち、練馬を征するものは世界を征するのである。
「お前のような小僧に、この練馬は渡せん。私も練馬のマイク・ハガーと呼ばれた男、欲しければ力ずくで来い!」
  市長はネクタイを取り、ワイシャツを脱ぎ捨てた。その肉体は中年肥りした醜い体ではなかった。引き締まる大胸筋、逞しい上腕二等筋、六段に分かれた腹筋……紛れもない格闘家の身体であった。
「面白い。ただで手に入るのではつまらんと思っていたところだぜ。お前を血祭りに挙げてその勝利で輝かしい未来の第一歩としよう!」宇宙番長は既に臨戦態勢である。
「はぁぁぁぁぁっ!」
  市長の口から呼気とともに空気を振るわせる音が発せられる。それが武道で言う『息吹き』である事は宇宙番長には分かっていた。
 市長の身体は一回りも大きくなり、全身に覇気がみなぎっていた。市長は眼前で両手を交差させ、構えを取る。

「市長ビーム!」

 叫びとともに市長の両眼から真紅の光線が放たれた。宇宙番長は横に飛びのいてそれをかわす。
 市長室の壁を突き破った市長ビームは会社員田中 宏の自宅の台所を貫通し焼きかけのさんまを破壊しつつ公園でゲートボールをしていた老人会の連中をビビらせ、朝鮮と韓国の国境付近で新たな紛争の火種を蒔きちらしながら北上した。恐るべし、練馬市長。
 今の一発はやばかった、さすがの俺もあんなのを食らったら生きている保証は出来ないぜ。宇宙番長は舌打ちした。
 しかし、市長の猛攻は続く。
「オラオラオラオラオラオラ!」
  市長からは一秒間に約9発のパンチが矢継ぎ早に繰り出され、宇宙番長は防戦一方となる。
「ほらほらどうした。その程度で練馬を支配しようとは、百年早いぞ!」市長が嘲笑を浴びせる。しかし、市長の攻撃には反撃する隙もない。
「死ねい!」市長の拳が迫る。
 宇宙番長の眼が一瞬ぎらりと光った。そして二人の身体が交錯する。
「ぐわぁ!」
  市長の身体が吹っ飛び、市長室の壁に大きな歪みを作った。
「馬鹿な!」

「必殺。いいかんじカウンター」

 それは戦闘公務員鈴木を倒したその技であった。
 具体的に解説すると、いいかんじカウンターとは宇宙番長の持つ必殺技の一つで、打撃攻撃をかわしつつストレートを放ち、文字通りいいかんじに相手にヒットさせて倒す技である。どれくらいいいかんじかというと、風呂上がりに新品のパンツを履いた、あのくらいいい感じである。わかったかな?
「ぐふぅ」
  市長は立ち上がった。その足元はおぼつかない。
  市長在職12年間の彼も、さすがに今の攻撃はこたえたようだ。
  「なかなかやるな小僧。だが、これを食らって果して生きていられるかな?」
 再び市長の両眼に光が収束する。

「メガ・市長ビィィィィィム!」

 その破壊光線の威力は市長ビームのおよそ50倍(当社比)。鉄をも溶かし、ナウマン象を一撃で屠り、ミジンコ5億匹のパワーを持つ。
 危うし!危うし宇宙番長!
 だが、宇宙番長は冷静に対処した。
「一度見せた技は、二度は通じないぜ!光線白刃取り!」
  宇宙番長の手は、真紅の破壊光線を捕らえる。
「な、何ぃぃっ!」
 宇宙番長は、受け止めた破壊光線を地球外へと投げ捨てる。その光線は、ちょうど地球を征服しようとやって来たユル遊星人の円盤を粉々に破壊したが、地球には何の被害もなかった。
「本当の技とは、こういうものだ!」
  番長の額のプレートに光が収束する。

「くらえ!ミラクル怪光線!」

 番長の額から放たれた虹色の光線は市長を直撃した。
 ミラクル怪光線。それは額に熱い男の心意気を収束させ、物理的エネルギーに変換させて発射する、驚異の必殺技である。
  さらに、宇宙番長は日の丸プレートを着用することによって大和男児の魂と神風、八百万の神に高野山のパワーを上乗せし、その相乗効果によって威力を数十倍にも増幅させていた。もちろん、良い子は真似しちゃだめだ。
「ぐおおおおおっ」
  市長はガラス窓をぶち破って外へと飛び出し、下の駐車場にあった公務員坂田 隆の乗用車(ローン未払い)を破壊しつつ転げ落ち、立ち上がってぐふと呻きながら7歩半後ずさって倒れた。
 一方、勢い余ったミラクル怪光線の方はキリマンジャロをぶち抜きつつアメリカ方面へと向かい、アメリカ大陸を横断したあと太平洋で紫外線によって分解された。
  ニューヨーク在住のミュージシャン ボブ・ワトソンはこの目撃を元に新曲『虹を見た』を完成させプロデビューを果たしたが、それはまた別の物語である。
「とうっ」
  宇宙番長もまた、駐車場へと降り立つ。その着地点は先程の坂田の乗用車である。彼の車はもはやそこに潰れた洗濯機があったと言われても納得してしまうほどめちゃめちゃになった。
 宇宙番長は、市長の元へと歩み寄る。
「フフ……やはり、儂も歳には勝てなかったようだ……」
  市長は言った。
「だが、お前は違う!若さに溢れ、野望もある。お前なら打ち勝つことができるしれん……『運命』という奴にな。ゆけい!若者よ!」
「あー。カッコいいこと言いたいのは分かるが、とりあえず、あんたの負けな」
「ぐふっ。ロマンのない奴……」市長は倒れた。
「恐ろしい相手だった……市長、ナイスガイ」宇宙番長は惜しみない賛辞を贈りつつ練馬を後にした。

 こうして宇宙番長は、宇宙を支配した。
 しかし、宇宙番長の戦いは終わらない。彼は宇宙を支配するものとして、これから無数に現れる挑戦者と戦い、勝利していかなければならないのだ。
 ゆけ!宇宙番長!戦え!宇宙番長!


第一話、完。