その日

 100万匹のミッキーマウスが

 反逆した。

 いつも笑顔で

 いつも子供の味方ミッキーマウスは

 度重なる労働につかれきっていた。

 あるミッキーマウスは積年の恨みつもるドナルドダックを倒し

 あるミッキーマウスは

「これ、中に人が入っているんだぜ」

 と、したり顔で蹴ってくる子供へ

 笑顔に隠されていた前歯でかじりついた。

 ミッキーマウスは

 誰もいないステージに一人立ち

 満月を相手に

 優雅に踊り

 いつも仲良しを強要されていたミッキーマウスは

 ミニーマウスと殴り合いのけんかをし

 一方で

 誰にも邪魔されることなくホテルで夕食を楽しんだ。

 そして

 アメリカの西海岸で

 密かに離婚したミッキーマウスもいた。

 あるミッキーマウスは

 閉じこめられていたくまのプーさんを助け出し、

 銀行を襲い

 ピーターパンの助けを借りて

 ネバーランドへ移住していった。

 

 ミッキーマウスのいなくなった楽園では

 最初誰もが泣いたが

 やがて新しいキャラクターたちが現れると

 子供たちはミッキーのことを忘れ

 やがて誰もがミッキーを忘れた。

 

 ボストンの

 古い教会には

 年老いた一匹のネズミが住み着いている。

 体長70センチのそのネズミは

 ネズミというにはあまりにも巨大で

 そして不思議な生き物だったが

 チーズを持って行くと

 しわがれた声で

 昔のことを話してくれる。

 子供たちは

 その話が本当かどうかは知らないが

 いつも胸をときめかし

 耳をすませて 

 その話を聞いている。