クリスマス談義


 夜も更けたころ、たかしは不安そうな顔で父親の元へとやってきた。
「お父さん、サンタクロースって本当にいるの?」
「もちろん。どうしてそんな事を聞くんだい?」
本を読んでいた父親は手を止めてたかしと向き合う。
「だってクラスの子がサンタなんていないっていうんだ。サンタの正体はお父さんだって」
「それは可哀想な子だなあ。サンタはいるし、正体はもちろんお父さんじゃないよ」
「逢ったことある?」
「いや、直接はないんだ。サンタは動きがとても素早くてね、壁から壁を影のように飛び移る。掌が吸盤のようになっているからどんな壁にも張り付けるし、ロープの扱いも巧みだ。力も強いから木にぶら下がったりもできるんだよ」
「じゃあどうしてトナカイの引くそりに乗っているの?」
「そりを使えば静かに空を飛べるからね。あのトナカイは、普通のトナカイとは違ってルドルフ・クランプスという全然別の生き物なんだよ。だけど戦争をしている国は危ないから超音速攻撃ヘリでプレゼントを配りに行くんだ」
「サンタさんはどこでおもちゃを買うの?」
「悪い子は大人になるとさらわれて地下工場に送られるんだ。そして工場でおもちゃの組み立てをすることで今までの罪を償うんだよ。死んだら無事天国に行けるから働いている人も安心さ」
「ふーん。サンタさんはどうやって家に入ってくるんだろうね」
「昔サンタはある泥棒を助けたんだ。泥棒はお礼にピッキングの技術をサンタに教えたので、サンタはどんな鍵も自由に開けられるんだよ。」
「その泥棒はどうなったの?」
「もちろん、天国で鍵屋をやっているよ」
「お父さんは物知りなんだね」
「そんなことはないよ。サンタには五十六万八千の秘密がって、お父さんが知っているのはほんの一部にすぎない。サンタの多くは秘密のベールに包まれている。だからこそ、サンタはいないなんてことを言う人もいるんだね」
「僕もいい子にしていたらサンタさんが来てくれる?」
「来るとも。必ず来るよ。だから今日はもう寝なさい」
「うん、お父さん。おやすみなさい」
「靴下をちゃんとベッドに下げておくんだよ」
「もう下げてあるよ」
「よしよし。それじゃおやすみ」

  たかしが寝室に入るのを見届けた後、父親はパジャマを脱いで支度を始めた。
 時は来た。世界中の子どもたちが彼と彼の仲間を待っている。
 赤い祭服を身につけ、父親は音もなく自宅から飛び出す。
 その姿は一陣の流れ星となって空へ舞い上がっていった。


終わり