「シズク」解説

Ribroid_design :yosino

 開発名「シズク」はワーカーデトニクス社により開発された要人護衛用リブロイド試作体の一機である。

 基礎設計および駆動アーキテクチャの構成を当時天才と謳われたバスター・アレン氏に依頼し、氏の才能を遺憾なく発揮して作られたこの駆体は従来のリブロイドとは異なるアプローチの元で構成されている。
  シズクの設計は、「人を模倣する」というリブロイドの基礎からは離れ、あくまで「人の形をした機械」と割り切った上でいくつもの設計変更が為されている。その最たるものが関節部の設計と、それに伴う内蔵ハードポイントの存在である。

身体中身

 シズクの内骨格は強化チタンのフレームを採用し、軽量化と剛性を確保している。当初はより堅牢な合金の使用、バイタルエリアには立方晶窒化ホウ素を構造材としたケーシングなどが検討されたが、コスト増加のために見送られた。 駆動方法は従来のリブロイド同様に高分子繊維による人工筋肉によって行われているが、最新の素材によりその出力が大幅に高められる一方で極端なコンパクト化によってそのサイズは通常のリブロイドの半分以下に抑えられている。
  これは武装を施すにあたってその多くを内装式とするためであり、事実シズクの駆動部のほとんどは関節周囲のパーツのみで構成されている。
  そのため、上腕部や大腿部といった部分に内蔵のハードポイントを備えることが可能になっているが、その代償として通常のリブロイドのような循環式の冷却機構が貧弱とならざるを得ず、廃熱にやや問題を抱えている。

頭部
  シズクが備える長い髪はこの問題を解決すべく装備された熱伝導素子であり、冷却が追いつかなくなった場合には空冷装置として機能する。
  また、駆動OSは熱量管理のために徹底した効率化が図られており、通常の駆動を想定している限りでは熱によるダウンは起こりえない。最大稼働における想定戦闘活動においても内装した電源をほぼ使い切るまでの戦闘が可能である。

 シズクにはリブロイドの原則を逸脱した武装が想定されていた。

腕ロケット弾
上腕部には単発式の無反動ロケット弾を内装し、一方の腕はガス圧駆動式有線ロケットアームとなっている。

腕ロケット 

 ロケットアームの射出部は上腕部であり、射出質量が大きいため初速が大幅に低下するという欠点があるが、主な利用方法としては立体戦闘や要人移送のためのウインチの代わりに用いる事を想定しているため問題視されなかった。
  単分子のカーボンワイヤーに高分子被膜を形成した導線の張力はきわめて強く、カタログスペック上では1500キロの荷重に耐える。 想定外の使い方ではあるが、複数体のシズクが居れば、車両の運搬さえ可能である。

スタンガン

 掌には接触式のスタンガンが内装されており、剥き出しになっている電極を相手に押しつけることで生物および精密機器へダメージを与えてダウンさせることが出来る。開発段階ではカートリッジ式を検討されていたが、サイズ的な問題のために駆体試作段階でコンデンサにチャージした電力を使用する方式に改められている。

スライドギミック・脚

 大腿部には連装式マイクロミサイルユニットを内装し、車両の撃破もしくは中距離における面制圧を目的としている。射出ユニット自体には汎用性があり、通常の爆薬のほか煙幕、フレシェット弾、ゴム弾、ガス弾、粘着榴弾など様々な弾頭が選択可能である。現状では(つまりデチューンして黒崎に払い下げられている状態では)上図のように汎用のデータ処理機材を積んでいるが、設計段階からこうした使い方も想定はされていた。その際はミコトの補機として機能する、遠隔端末のような役割を果たすことになる。
  総弾数は片側12発、計24発。使用時にはそれぞれ外側へ露出する形でスライドし、通常は外観からは判らないように秘匿されている。

 そのほか踵には飛び出し式のアサルトナイフが内装されている。
  これは切断を目的とした物ではなく、格闘時に相手の衣服や装備に引っかけるための装備で、タングステン鋼による強靱な物ではあるものの、対装甲用としてはそれほど効果のある物ではない。

足裏

 足裏には接地圧センサーなど多数のセンサーが集中しており、地面の反射音をソナーのように分析することで、周囲にいる人物の足音や、体重の変化に伴う識別などに役立てられている。

 シズクのコンセプトは「攻撃対象の無力化による安全の確保」であり、護衛用とはいうものの攻撃に特化した構成となっている。 これは、同時に開発された「スメラギ」および「ミコト」との連携を考慮したためで、その脅威の度合いによりミコト一機に対し、スメラギ二体、シズク一体もしくは二体という構成が想定されている。

 シズクに防弾装備が施されていないのは、バリアブルメタルによるモーフィング装甲を持つスメラギの防御力が突出して高いためであり、万一戦闘になった場合にはスメラギを盾にして応戦する。
  その際には量子通信能力を持ち、強力な電子ジャマーとスキャン能力を持つミコトの電子戦闘能力がバックアップすることで、弾道予測や戦力判断などの恩恵を受けることが出来、対象を速やかに無力化する。
  シズク2体とミコトの戦術連携は武装した戦闘サイボーグもしくは複数名の能力者と互角かそれ以上という試算が為されており、こと戦闘力においてはシズクは特A級の性能を持つリブロイドと言えよう。

 しかしながら、この過剰なまでに高い戦闘力はリブロイドの規制に抵触するとの指摘があり、「格闘プラグラムと武装を非殺傷のものにすることで解決できる」という開発側の意見は退けられた。 護衛にあたってはペア運用することで簡易シェルターにもなり得るスメラギと、広範囲のスキャニングにより事前に危機を把握できるミコトで十分である、と言う経営判断によってシズクの開発は凍結。
  これには原則に抵触すると言うだけでなく、シズクに施された種々の武装がサイズの制約上独自規格にならざるを得ず、相対的にコストの上昇を招く事を嫌ったことも挙げられる。
  このような事情が重なった結果、試作体一機の廃棄をもって本開発は終わりを告げた。

 なお、黒崎の手元にある「雫」はこの試作機をデチューンしたものであり、名義上は「廃棄されたリブロイドをレストアした物」である。
  本来、機密の塊であるはずの試作品が何故一民間人となった元開発者に払い下げられたか。その理由は憶測の域を出ない。 デチューンの際には全ての武装の撤去と火器管制システムの削除、それに各駆動部の汎用品への置き換えが行われている。

 それでも「雫」のスペックが一般のリブロイドの数段上なのはひとえに基礎設計の優秀さによるものである。


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