遠視と乱視

 定義が難しいので、多少の極論を交えて解説しよう。

 遠視というのは、一見して「遠くは見えるが近くは見えない」という認識が大多数であると思われる。

 で、これは実は間違い。

 遠視というのは、焦点が網膜の後ろ、言うなれば頭の後ろにあるようなものと思っていただきたい。
 若いうちは、目の水晶体がもつ「ズーム機能」がまだ十分に働いているので、遠視のぼやけた分をズームして遠くに焦点が合わせられるため、遠くがよく見えるような気がするだけである。
 実際には、普通にものを見るだけでも使わなくてもいい能力を使っていることになる。
 その上で、近くを見るためさらにズーム機能を酷使するため、近くが辛い、というわけだ。

 若いうちはいいのだが、年をとってズーム機能が衰えてくると遠くも近くも焦点が合いにくくなってくる。中度の遠視なら大体40代から既に老眼鏡が必要になるほどだ。だから「遠視は老眼になるのが早い」といわれるのである。

 遠視の補正には凸レンズ、つまりは光を収束させるようなレンズを用いる。
 これは「焦点が後ろに行ってしまうなら、光を集めて網膜にうまくフィットするような光にしてやればよい」という観点からだ。
 よって、実は、遠視のレンズと一般に言われる老眼鏡のレンズは同じ仕組みである。
 中度の遠視の人はよく駅で売っている老眼鏡の弱い奴を使ったりすると結構楽だったりする。

 そして乱視。

 これも説明が長くなる上、詳しく書くとやはり本が一冊書ける位あるので簡単に。
 乱視と言うのは角膜の形状が円ではなくて楕円形の人がなるもので、実は全人類の90%以上は乱視を持っている。
 だいたい、そんな完璧に角膜が円なわけは無い。誰しも多少は形がいびつなはずだからである。
 私の知る限り、測定して乱視の度が0であったという人間は1人しかいない。
 とはいえ、普通の人の乱視というのは本当に些細な度であるので、その程度なら人間は自力で調節できるし問題にはならないので安心してOK。
 店に来て「私、乱視があってね・・・・・」といってくる奴はほとんど大したことのない(無理に矯正するほどのことも無い)乱視の度である。
 ほかの店で「軽い乱視が入っていますよ」などと吹き込まれている場合が多く、何のフォローもされていないような人が大多数だ。
 基本的に「矯正が必要なほど乱視がある」というのは、前回示した表で言うところのCが-1.00以上、と考えてもらえばいいと思う。(無論、個人差はある。)
 で、話を戻そう。
 この角膜形状がいびつであると、網膜に届く光というのは当然ぴったり一点というわけにはいかない。
 多少のブレやズレがある。その光で像を結ぼうとするのだから、当然認識される像もぶれている。
 これが乱視である。
 乱視のレンズは、その角膜のひずみに合わせてうまく光を導いてやるようなレンズを使う。
 近視だけ、遠視だけのレンズはふちの厚さが均等だが、乱視の入っているレンズは実は不均等である。
 簡単な見分け方として、メガネをはずしてそれで物を透かして見ながらメガネを回転させてみるとよい。
 乱視が入っているなら、見え方が一定ではなくて横に伸びたり縦に伸びたりして見えるはずである。
 乱視のメガネを作ったのにうまく見えないというのは、この歪みに角度がうまくあっていない可能性が高いのである。

 ということで今回はこんなところ。
 次回は実用編、レンズについて。


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