[夜桜]
 小学校の頃のある春の晩だった。
 私は縁側に出て雨戸を閉めようとしていた。
 庭からは春の木々の香りがしてきた。
 その時、塀の外の小道で女の人が誰かに話し掛けている声が小さく聞こえてきた。
 ―早よ、夜桜見に行くまっし―
 夜桜、という言葉が聞こえたとき、私には大手堀の夜桜、雪洞の淡い光の列に照らされ
てぽっと浮かび上がる桜並木が思い浮かんだ。
 それより前の春、いつだったかは思い出せないが、もっと小さい頃に、私は連れられて
大手堀の夜桜見物に行ったことがある。その情景を思い出したのだろう。
 紅い桟と白い紙の雪洞から漏れる光に映る夜桜は、昼間とはまったく違った、夢の中にいるような空間を作り出す。普段は人気も無く、緑色の水が静まっているだけの大手堀沿いの道も、このときだけは大勢の人が円い光の輪の中でゆったり歩いている。 
 私はいつ、あの夜桜を見に行ったのだろうか。

 




兼六園の瓢池(ひさごいけ)に
掛かる桜です。
うっとりするような景色です。

「兼六園+盆栽」のホームページよりお借りしました。
四季折々の兼六園の写真が豊富に載っている美しいページです。
http://page.freett.com/takasi/siki.htm












五月の大手掘

人通りも少なく、いつもひっそりしています。


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