[かきもち]
 私の家では、大晦日に正月用の餅を切っていた。
 大きなのし餅を届けてもらい、新聞紙を拡げた上に干しておく。そして白黒テレビで紅白歌合戦を見ながら、餅専用に使っていた包丁で家族が交代で切っていく。
 餅が粘りついて切れ味が悪くなった包丁は、炭火にかざすと又切れるようになった。
 一緒にかきもちも切る。巨大な羊羹のような四角い餅の棒を薄く切っていく。
 切った板は藁で並べて縛って長くつなげ、天井から吊るして横に渡してある竹の竿に振り分けにして下げる。  干せた頃に、火鉢に金網を置いて炭火であぶって食べる。
 火箸で何度も裏返したり延ばしたりして、気長に焼き上がるまで待たないといけない。
 自分でも焼いたが、祖母によく焼いてもらった。黒砂糖入りはほのかに甘くておいしかったが、すぐ焦げてしまうので焼くのが難しかった。他には豆入り、昆布入りがあった。
 かきもちには北陸のような適度な湿り気が必要で、関東の冬のような乾いた気候で作ると、アラレのようにばらばらになってしまうらしい。
 干してあるかきもちは乾くと縮むので、時々藁から外れて落ちることがある。
 すると、一つなぎのかきもちがバランスを崩して、束ごと竿から落ちたりする。
 金沢を舞台にしたテレビドラマで、何かの落ちる音を東京から来た人が聞いて、何だろうと思い、家の主婦があれはかきもちの落ちた音ですよ、と話す場面があった。
 金沢の情緒をよく表した情景だった。
 炭火も使わなくなった今は、かきもち作りをする家もあまり無くなり、出来あがったのを買うようになったが、やはりこんがりとした焼きたてを食べてみたい。

表紙へ戻る