[雪融け]
 金沢の春は、家の屋根に積もった雪が融け出して始まる。
 日が照り出すと、被さっている雪の一番下から、水が少しづつ染み出てきて雨樋に落ちる。やがて滴る水は増え、日の光できらきらと弾んで、音も賑やかに樋一杯に流れ込む。
 何日も経つうちに、厚かった根雪も次第に薄く痩せてくる。
 そして最後には、耐え切れなくなった雪の塊は屋根瓦の列毎に一本、また一本とザッと音を立てて滑り落ち、下から黒く光る瓦の列が顔を出す。
 私の子供の頃は、今と違って積雪が多かったので、雪の重みでよく屋根瓦がずれたり傷んだりした。そこで屋根の南側の雪が無くなったら、まず一階の屋根に出て、瓦の具合を調べてみた。日に暖められた瓦の感触を裸足の足の裏で確かめながら登り降りした。
 大屋根には一階の屋根の上から梯子をかけて上った。
 そろそろと一番上まで上がって見渡すと、そこには窓からでは見えなかった景色が大きく拡がっていた。
 石川門の銀屋根が見え、兼六園から小立野にかけての森、浅野川に向けての家々の屋根が見え、卯辰山がまだ半ば雪の白のまじった全身を現していた。
 そして、さらに遠くの山々が晴れた空の下で蒼白く輝いていた。
 あちこちの屋根や卯辰山には雪が点々と白く残っていたが、景色全体が日の光で明るく光り、四方から暖かい風が吹き寄せていた。
 その頃になると、半ば融けて薄汚れた雪の被っていた道もだんだん白く乾いてきた。
そうなれば、又自転車で走れるのだった。
 私は玄関から自転車を引っ張り出し、日の光がハンドルや車輪に反射して銀色に光るのを見て、うれしい気持ちになって漕ぎ出した。



私の家の近くの浅野川と天神橋。左側が卯辰山。
天神橋を渡って少し登った所に泉鏡花の句碑があります。

写真は岸本英昭さんのHP「まわるまっし金沢」よりお借りしました。
金沢の美しい写真が豊富に載っています。
http://www.fuji.ne.jp/~kissy/index.html

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