[片町]
 子供の頃は片町に行くのが楽しみだった。
 親に連れられて出掛けた時のお目当ては、大和デパートの食堂だった。
 凝ったデザインのドアがガチャガチャと音を立てて開閉するエレベーターに乗り、食堂に着くと早速食券を買った。私の好物はホットケーキとソフトクリームだった。ホットケーキはこんがりと焼けて香ばしく、私はせっせとバターを塗り、シロップを掛けてぱくついた。
 家でも作ったが、表面もきれいには焼けず、何かもっさりして食堂のには敵わなかった。
 ソフトクリームは太い針金で作った台に差して持ってきた。コーンの部分と一緒に食べるのが何ともおいしかった。食べ終わった時は、いかにも名残惜しかった。
 家庭用クーラーなど無い時代だったので、デパートの冷房は珍しく、気持ち良かった。
 あの頃のデパートは何か心をわくわくさせる特別の場所だった。
 竪町に入った所の「砂場」の蕎麦も好きだった。落ち着いた和風の拵えの店内に入ると心が和んだ。仕切りで囲われたござ敷きの腰掛に座り注文した蕎麦が来るのを待った。
 夏には掛けそばを冷やした冷やしそばがあったが、私はどんな暑い日でも熱い掛けそばを食べていた。私は小さい頃から大の蕎麦好きで、後に父親から「お前は外で食べるとなると蕎麦だったので安上がりで助かった」と言われたが、その始まりは「砂場」だった。
 中学、高校の頃は宇都宮書店や香林坊の北国書林に行った。学校の帰り、友達と連れ立って参考書を選んだり、レコード売り場を覗いたりして時間をつぶした。
 ある時、宇都宮書店で五木寛之氏が本を選んでいるのを見掛けた。濃いグリーンの服を着て、一目で彼と分かるダンディー振りだった。
 今は住宅が郊外に移り、自動車で買い物に行くようになったためか、片町の商店街にも昔の賑やかさは無い。大和も宇都宮書店も移転した。北国書林も竪町の「郭公」も無くなった。

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