[成巽閣]
 成巽閣(せいそんかく)には小学生の時、祖父に連れられて行ったのが初めてだった。
 後には独りでもよく行った。長い廊下や部屋を次々と伝い歩いていくのは面白かった。
 庭に面した長い廊下は軒を支える柱が無く、広く庭を見渡せた。
 鎧武者が馳せ違えている襖絵があった。赤と白の旗が描いてあったから源平の戦いの絵だったのだろう。武家御殿らしい題材だった。
 小さい座敷の障子には小さいギヤマンの板が嵌め込んであり、板には小鳥の絵が描いてあった。同じ部屋にはルビーを散りばめた小さな金色の置き時計もあった。
 春には雛人形を飾っていた。大きな人形達の豪華な衣装には古色が出ていて、箪笥や鏡台などさまざまな調度品と一緒に行儀よく並んでいた。
 酒井美意子さんの随筆に、前田家では季節になると使用人も一緒になって雛人形の飾り付けをしたが、飾り終えた時は並んだ人形達の美しさに見とれて、皆がほっとため息をついた、というのがある。
 階段を上がると、二階には群青の間という小さな部屋があり、壁を群青一色に塗ってあった。私はそのくっきりと密度の濃い空間を見て、初めて群青色というものを知った。
 成巽閣は十三代藩主斉泰の母の隠居所として建てられたので、数奇屋風で軽やかな印象がある。今は、兼六園に面した小庭から入って縁側に上がるようになっているが、本来の玄関である広い式台のある正面玄関から入ると、武家御殿としての造りがよく分かる。
 廊下や部屋を過ぎていくと奥の謁見の間に着く。
 上段の間は広く、堂々とした書院造で、金色の手あぶりや脇息が置かれ、主の威厳を示すため重厚で豪華な空間になっている。
 その主も去ってしまった今は、ガイドさんに連れられた観光客が案内書を手に部屋から部屋に流れ歩いている。その流れがふと途絶えて静かになった時、謁見の間には、いっとき加賀百万石の時間が現れる。

  雛飾り 今日もあるじは 來まさんね



(左)出羽町側の正門                              
AtsuさんのHPよりお借りしました。           
http://www.sam.hi-ho.ne.jp/flow/menu.htm

(右)兼六園側入り口
門を入って上がると謁見の間
写真は「Sight-seeing Japan」のHPよりお借りしました。
全国の観光地の写真が都道府県別に載っています。
http://www2c.airnet.ne.jp/m-ito/sight-seeing/index.html


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