[兼六園]
 兼六園が無料だった頃はよく遊びに行った。いつも紺屋坂を上がって、石川門の前の桂坂から入った。入ると木々の発する甘い香りがした。
 両側から枝に覆われてほの暗い坂を上がっていくと、苔の色は柔らかく、漏れた光で斑に明るく光っていた。
上がりきって、霞ヶ池のことじ灯篭の所に出ると目の前が開ける。
 兼六園の景色は霞ヶ池が中心になっている。池の向こうの内橋亭が目を遊ばせてくれ、昔は白鳥がいて、緑の木々と池の面の間をゆるゆるとすべっていた。
 中学時代には、学校の帰りに唐崎の松近くのベンチでよく時間をつぶしていた。
 腰を降ろすと、かばんからワラ半紙にガリ版刷りのテストの答案を取り出し、赤インクで書かれた○や×や不本意な点数を眺め、やれやれと又畳んでしまっていた。
 霞ヶ池から下がった所に噴水がある。サイフォンの原理が使われているとのことで、一本の直線になって高く噴き上がり、いつも同じ高さで勢いを失って崩れていた。
 落ちた水が噴出口の石の枠を叩き続け、光の具合によって虹を作っていた。
 眺望台からは卯辰山、浅野川べりが広々と見渡せる。
 海の方を眺めると、遠く砂丘が見え、埋立てられる前は、その手前に河北潟も見えた。
 家々の黒い瓦屋根に混じって、学校のグラウンドや寺の大屋根が見えた。私の家もこの景色の中にある。
 五月には鯉のぼりが幾本か立っていて、晴れた日には竿の先の矢車が風を受けて、
からからと回り、金色の小さな光の粒を散らしていた。
 雲の影が一瞬家並みを覆って暗くしたかと思うと、卯辰山に向かってすべるように走り去っていくこともあった。その後は一際景色が明るく見えた。
 桜の季節が過ぎても曲水の周りはつつじ、かきつばたと華やかな時間が続く。
 以前は曲水に架かる雁行橋も渡れた。
 金沢の名の起こりである金城霊沢は裏の方にあるので人影も無い。
 屋根に囲われて暗く深い石造りの窪みが夏も冷たい水を湛え、底に沈んだ小銭が青く光って水神の眼に見える。
 今は時雨亭とその横の芝生になっている所には、以前は児童遊園があった。
 広場を囲んで藤棚とベンチ、遊具類が並んでいた。金網小屋で猿を何匹か飼っていたこともあった。猿達はさつま芋を切ったのをよく食べていた。
 砂場、遊動円木、シーソー、ブランコ、鉄棒、吊り輪、ジャングルジム、どれにもよく世話になった。もう無くなってしまった児童遊園と遊具達にお礼を言いたい。
 児童遊園の近くではどんぐりを拾った。積もった落ち葉の間を掻き分けて探すと艶のある小玉が見つかった。
 瓢池から真弓坂にかけては木々が深く、雪の降った後に通ると、誰もいないので、自分が雪を踏む音だけが聞こえた。
 時々枝から積もった雪が落ちてきた。音も無く首筋に落ちて驚いたこともある。
 雪を落とすと、枝はさわさわと跳ねて、又動かなくなった。













春の眺望台

  矢車を 回した風に 包まれる














初夏の噴水

 













雪の霞ヶ池


「兼六園+盆栽」のホームページよりお借りしました。
四季折々の兼六園の写真が豊富に載っている美しいページです。
http://page.freett.com/takasi/siki.htm


表紙へ戻る