夏の町

源氏物語雑記

私がこれまでかかわってきた『源氏物語』の姿を、ここに紹介します。

七宝縁

私と『源氏物語』との出会い

私が源氏物語と出会ったのは、多くの人がそうであるように高校の古文の授業であった。だが、源氏物語が私にとってただの教材で終わらなかったのは、ちょうどその当時『少女フレンド』に連載されていた「ラブパック」という劇画のお蔭であったといえる。そもそも、源氏物語にはまったきっかげが「あさきゆめみし」であるという人が多い昨今であるが、私がはまったきっかけであるその「ラブパック」という劇画の作者は、ほかならぬ後に「あさきゆめみし」を著すことになる大和和紀先生なのである。
  内容はシビアチックな「あさきゆめみし」とは対照的で、この「ラブパック」は源氏物語のパロディーともいえるどたばたコメディーである反面、泣かせるところはしっかりと泣かせる。この「ラブパック」の単行本(全3巻)片手に、高校生の私は中間試験の古文のテストに臨んだものだった。ちなみに内容は、幼い頃荘園で将来を契りあった貴族の幼い若君と姫、ところがその夢の若君はどうなっているのか見当もつかず、姫はとんだおてんばに。女官採用試験にも落ちた姫は、面白い顔だからという理由で当時名うてのプレイボーイの光源氏に雇われる。主な仕事は光源氏宛てのラブレターの整理とデートのスケジュール調整。そこへ、都中を恐怖に陥れる夜盗疾風かぜ)が登場。ところが貴族の邸宅から財宝を盗んで貧しい庶民に施す疾風は、庶民にとっては救いの神だった。そして姫はある日疾風と出会い恋に落ちそうになるが、心の中で袖を引っ張るのは幼い頃荘園で将来を約したあの若君。果たして疾風と若君と光源氏の関係は……?
  さて、何も私の小説作品のあらすじを説明しているわけではないのだから、もったいぶって落ちを隠さずとも、このあたりにカーソルを合わせて(クリック不要)しばらく待つと答えが出てくるかもしれない。
  さて、そんな私は大学はまずは国文ではなく史学に進み、日本史を専攻した。その間、源氏物語ともしばらくご無沙汰であった。そして卒業した後にもう一度日本文学専攻として同じ大学に入り直したわけだが、そのことが後の『新史・源氏物語』の執筆の大きなモチーフになっていたかもしれない。つまり、もし日本史だけ、あるいは日本文学だけのどちらかの大学しか出ていなかったら、あるいは『新史・源氏物語』は生まれなかったかもしれないのだ。日本文学専攻のときは、「日本文学演習2」で全員が「源氏物語」を読まされる。その時テキストとして無理矢理買わせられたのが、今泉忠義ほか編の「源氏物語」であった。「こんな分厚い、高い本を無理矢理買わせて」という学生たちの文句を知ってか知らでか、先生は言った。「この本が、将来君たちの一生の宝になる」と。然り、今やその本は私にとって宝であり、『新史・源氏物語』執筆のテキストにもしたものだった。では、『新史・源氏物語』はその本をテキストに翻訳していったものかというと、答えはノーである。古典『源氏物語』にというか、それに対する通説に疑問を投げかけ、徹底的に「古典・源氏」を離れようとして著したのが『新史・源氏物語』である。そしてそこには、ある一冊の本との出会いがあった。
  その本とは、藤本泉さんという人の「源氏物語の謎」というNON・BOOKから出ている単行本だ。この本と出会ったのがきっかけで、私は源氏物語の通説に疑問を抱き、その疑問が膨れ上がって『新史・源氏物語』の執筆となったわけである。同書の内容は、この雑記の中で追々触れていくことになる。

几帳布筋(のすじ)

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