4
イェースズがオピラ・コタンに帰りついてすぐに、この地方は雪に閉ざされた。それだけに、約一年もの間離れ離れになっていたヌプやウタリと共に過ごす時間ができた。そして今や、ヌプは元気な男の子の父親になっていた。
やがて春になり、立春の祭りも終えて一月半、ようやく辺りは春めいてきた。
思えば故国でのあの出来事から、もうまる三年の月日が流れた。イェースズにとってそれは、もう遠い出来事でしかなくなっていたのと同時に、決して過去にはなり得ないことでもあった。過去も未来もなく、彼の魂は現在という時間を永遠に生き続けている。神と一体となった境地には、もはや時間という概念は存在しないのだ。故国に残してきた使徒たちのことを考えないといえば嘘になったが、彼らの存在も彼らがすることも、イェースズはすべて神様にお任せだった。
春になって雪が完全に溶けてからイェースズは、湖を見下ろす皇祖皇太神宮の分霊殿の前に額づいて、まる一日を過ごすことが多くなった。その間、全く立つこともないのだ。
ヌプの父が心配して、ある夕刻に、
「ずっと同じ姿勢で来る日も来る日もずっと座っていて、疲れませんか?」
と、聞いた。イェースズは黙って笑っていた。
「尾籠な話だが、厠くらいにはお立ちになるでしょう?」
イェースズは微笑んでいただけだし、ヌプもそれを聞いてニヤッと笑った。そして、自分の父親に言った。
「あそこに座ってるいのはだね、先生の肉体だけなんだよ。魂はあちこちに霊的にお出ましになっているんだ」
イェースズは笑っているだけで何も答えなかったが、事実その通りであった。だから霊界現象を通して、自分の故国で自分の教えと使徒たちがどうなっているかも、つぶさに知っていた。使徒たちも信奉者も、今や二つに割れていた。イェースズの弟のヤコブを中心とし、ユダヤ教の中で教えを広めようとするヘブライオイたちと、ペテロを中心とし、ローマ帝国の領土にまで教えを広めようとするヘレニスタイたちである。ヤコブもペテロも、どちらも自分こそがイェースズの正統な継承者だと主張して譲らない。そもそも食事の配給によるトラブルが原因だったが、そんなことは導火線にすぎなかった。要は、イェースズの教えの解釈の相違である。ヤコブを奉じるヘブライオイたちはあくまでユダヤ教の中でイェースズの教えを広めようとし、ユダヤ教徒としての戒律は守る必要があると説いた。それに対してペテロを奉じるヘレニスタイたちはイェースズの教えをユダヤ教とは全く違う新しい教えと位置づけ、割礼も安息日も否定し、エルサレムの神殿への参拝も拒否するようになった。そしてヘレニスタイたちはすでにエルサレムを捨て、シリアのアンティオケという所に移っているようだ。総てはイェースズ自身が神霊界まで神上がりし、そういう状況を神霊界から見させられているのである。
やはり、総ては神様にお任せだとイェースズは思っていた。もはや故国での自分の役割は終わった以上はいたずらに関心を持つべきではないと、イェースズはハラに据えていた。神が許してそうさせた以上、分裂した彼らを責めることははできないと実感していたのだ。
夏にもなる頃、イェースズは不思議な夢ばかり見るようになった。それも故国かローマの夢ばかりだった。それは未練などというものとは断乎として次元が違うものであり、いわば一種の御神示とイェースズは受け止めていた。そしてその内容もイェースズの霊勘によって、自分がヨモツ国でなした使命を完成させるにはどうしてももう一つ重要なみ魂が必要らしいということだった。その思いは、日一日とイェースズの中でひしひしと強くなっていく。今やイェースズの内面的な思いは、もはや神の声といっても差し支えなかった。
そしてある日、いつものようにイェースズが社の前で額づいていると、肉体はその場に残し、魂だけが超高速で上に引き上げられていった。そしてまた、光に包まれた。光の中に、声があった。
――汝のみ魂ぞ.もう一つの重要な聖使命を握る魂を捜しに行け。そは、汝の助けなくんば、あまりにも哀れぞ。
その声は、イェースズの内面の声と完全に一致していた。やがて、光の洪水の中に、映像が浮かびはじめた。使いの神が見せてくれる表象のようだ。
そこには、地獄が展開されていた。祭司の兵が多くの市民を襲い、一つの建物につれていく。だが彼、彼女らの顔に、イェースズは唖然とした。おびただしい数にはなっているが、誰もがイェースズの信奉者だった者たちだ。もちろん、新しい顔ぶれもある。そんな彼らが鞭打たれ、監禁されていた。
――彼らを救え。
と、神は言う。しかし、迫害するものを憎んで、悪と決め付けて、それを滅ぼさんと考えることは、戦いの対極にある神の大調和の御想念に背くことになる。ましてや、物質的に迫害されているものを肉体的に救ったとしも、そのものの過去世の罪穢を迫害されるという形でミソイできれいにしてやろうという御神意の邪魔をすることにもなる。真の意味で彼らを救うには、ある一つの魂の覚醒が必要だとイェースズは感じた。感じたらそのことがすなわち神示である。
そしてついに、信奉者の中でも世話人のような役目をしていた男が、祭司たちの手によって処刑された。初めての殉教である。ステパノという名前までもが、見ているイェースズの霊眼によって見えた。その処刑にも立ち合っていた一人の男が指揮を執って、ひときわ残忍にイェースズの信奉者を迫害し始めたシーンが映った。ステパノの処刑の当日には、もうそれは始まっていた。イェースズより少しは若そうな男が采配を振るい、使徒たちの本拠地であるマルコの家の二階や信奉者の家庭にまで乗り込んで、男も女も片っ端から投獄した。子供でさえ縛りあげ、女をも殴る蹴るの悲惨なものだった。
だが、采配を振るう男の顔を見た途端、イェースズに衝撃が走った。自分より肉体的には少し若いだろうか、よく太ったいい体格の男で、服装からディアスポラのようだった。だが、その魂と自分の魂との因縁をイェースズは瞬時にサトり、懐かしさに涙がこぼれてもきた。
――このもの、やがて目覚め、後に大きな力とならん。神、このものを目覚めしむるに、汝その使いとなれ。
その声に心が従った瞬間にイェースズはものすごい上昇感をさらに感じて、そのままヨモツ国の霊界に投げ出されていた。
そこは、まぎれもなく故国の風景だった。街道は砂ぼこりの中に続き、わずかに春めいている様相を忍ばせて、大きな町へと続いている。イェースズはひと目見ただけで、初めての土地であるにもかかわらずここがデカポリスの一つ、シリアのダマスコだとすぐに分かった。南に、ヘルモン山がそびえている。いつもガリラヤ湖の湖畔から見えていたあの山を、今は反対側から見つめていることになった。そのヘルモン山に続くなだらかな丘陵に、この都は位置していた。シリアはローマの直轄地であり、このダマスコは町全体がローマ風の造りになっているが、またユダヤ人も多く居住していた。
その都の城壁近くで、イェースズはある一団と出くわした。中央に馬に乗っている男が一人、ローマ人のいでたちだが顔はユダヤ人だった。そして付き添っている人々は、服装からして完全にユダヤ人だった。そのローマの服装の男を見て、イェースズの中で衝撃が走った。高次元の表象で見せられたあの男、すなわちイェースズの信奉者を残忍な方法で捕獲している張本人だ。しかも、その男の顔を見た途端、肉体の中にいる時よりも数百倍に膨れ上がっているイェースズの霊勘によって、その男がキリキアのタルソの生まれのベニヤミン族で、今はローマの市民権を得ているサウルという名の男だということまでもが瞬時に分かってしまった。エルサレムのヘレニスタイの間で律法と神殿を冒涜する一派が現れたので、そのようなものを捕獲するお墨付きを大祭司から得ている。すでにそういう連中はエルサレムからは追放されていたが、多くはシリアに流れてきているのでここまで追ってきたのだということも、すべて今のイェースズには見通せた。そのヘレニスタイの一派というのが、イェースズの信奉者の中のペテロを奉じる人々にほかならない。
サウルの一団は、イェースズの脇を通り過ぎた。今のイェースズは幽体のみとなって霊的にこの地にいるので、彼らにはイェースズが見えないのである。イェースズはそのサウルの顔をじっと見ていたが、やはり表象で見た時と同じように懐かしさが込み上げてきた。当然のことながら、自分の信奉者を迫害しているからといって、イェースズにはサウルに対する対立の想念も憎しみもかけらもなかった。それは、実際に目の前に本人がいても変わらなかった。神との御神縁深きものということはすぐに分かるが、肉眼で見たならば分からないはずだ。何しろ今このサウルという男は、イェースズの信奉者を迫害している最先鋒なのである。しかしそれも、神がお許しなってはじめてできることなのである。それだけでなく、神の教えに楯突いているものの中にも御神縁深き人はいて、神はそのようなものでも探し出してお使いになろうとされている。そしてサウルの方も悪意ではなく、エルサレムの神殿に忠実であるだけに、異端を許さないという気概なのだ。
「とげがある棒を蹴っても、自分が怪我をするだけですよ」
イェースズは馬上のサウルの耳元まで浮遊して、そっとギリシャ語でささやいた。サウルは突然の姿なき声にはっとして、慌てて馬の上から辺りを見回している。
「サウル。サウル。あなたはどうして私を迫害するのですか?」
今度ははっきりとイェースズの言葉を聞き取ったサウルは、空耳ではなかったと気が付いて、馬を止めてますます怪訝な顔で辺りを見回していた。
「だ。誰だ。今、私を呼んだのは!?」
そこでイェースズは、また小声でつぶやいた。
「私が残していった人々を迫害していますけど、それは私を迫害していることになるのですよ」
その言葉には、限りない愛情が込められていた。そして霊・幽体のまま、サウルに向かって手をかざした。肉体の中にいた時よりも遥かに強い霊流が、霊・幽体のみのイェースズから発せられ、サウルは目を抑えて馬から地上へと、大きな音とと砂ぼこりを立てて落下した。そこでイェースズは、一気に体を物質化させた。彼らから見ればイェースズが突然現れたように見えたので誰もが腰を抜かさんばかりに驚き、実際に地面の倒れたユダヤ人もいた。だが、馬から地面に転げ落ちたサウルは、目を抑えてのた打ち回っていた。そんなサウルを見下ろしながらイェースズは優しく笑んでサウルに語りかけた。
「私は、ガリラヤのイェースズです。あなたは、町に入って、直線街のユダの家で待ちなさい。あなたは何をするべきかということを教える人を、私は派遣します」
サウルは無言で何度もうなずき、よろめきながらも立ち上がって、同行のユダヤ人たちに両肩を担がせて歩いた。これでイェースズは、自分がなせと命ぜられたことの半分が終わったと感じた。
東門から西門までは真っ直ぐの大通りで、それが直線街だ。イェースズは再び体をエクトプラズマ化させて、ユダの家に先回りしていた。ユダとはこのダマスコに住むユダヤ人で、イェースズはもちろん面識はないが、イェースズの信奉者であることは分かっていた。実はイェースズがサウルに対してこの名を出した時は、全くユダなる男はイェースズは知らなかった。だが、自分の心に浮かんだ名前をス直に口にしただけであり、それはすなわち御神示にて知らされたことになるのであった。
サウルは失明していた。ユダの家では大弾圧者のサウルが来たということで大騒ぎになったが、そのままサウルはユダの家に着くや寝込んでしまった。
イェースズは眠っているサウルの部屋に、壁を通り抜けてスーッと入った。この男の改心を手伝うには、少々荒仕事が必要という御神示だった。だからサウルの身魂をそのまま肉体から引き出して、イェースズはサウルの魂と共に次元を一気に上昇した。かつて白い髭のある神様に案内されて幽界から神霊界までを探訪したイェースズだったが、今度はイェースズがサウルの魂を案内する番だった。サウルは現界的には肉体の目が見えなくなっていたが、肉体を脱いで高次元に入ると目が見えるので驚いていていた。だが、まずは自分の今の境遇がのみ込めずにぽかんとしていた。そしてそのサウルが最初に見たのは、イェースズの姿だった。イェースズは慈悲深くサウルに微笑むと、そのまま手を引いて次元上昇した。
そこはサウルにとって雲の上としか言いようのない世界で、空全体が明るく輝き、足元の雲のようなものも輝いていた。そしてそのあまりにも広大さにまずサウルは目を見張り、そして次にあまりにも自分の体が軽く感じるのにも驚いている様子だった。そんな姿をイェースズは笑みと共に見つめていたが、やがてイェースズの体全体から光が発せられた。そのまぶしさのあまりに、サウルは目を抑えて縮こまった。
イェースズは、想念だけでサウルに語りかけた。
――今のあなたは肉の目は閉ざされていますが、霊の眼が開いています。
「ここは、ここはどこなんだ?」
――あなたの住む第三の界よりも遥かに高い次元の、天国に少し近い第四の天です。神様のお許しを得て、あなたをお招き致しました。
「天? と、いうことは、私は死んだのか? そうだ、確かガリラヤのイェースズと、つまり、あのイェースズか? エルサレムの神殿を冒涜する連中が奉じている、あのイェースズか?」
――エルサレムの神殿を冒涜する人々に奉じられているかどうかは知りませんけど、確かに私はガリラヤのイェースズです。
サウルはかがめた身を少しずつ起こしながら、抑えた目のすき間からイェースズの姿をゆっくりと見た。
「ガリラヤのイェースズといえば、十字架にかかって死んだはず。まさか、あの連中が言っているように、蘇ったとでもいうのか」
――私をご覧なさい。私は、ここにおりますよ。
「では、私は? 招いたと言っていたが、まさか私がそなたの仲間を迫害するからとて、私の命を奪ってここにつれてきたのか」
イェースズは、ゆっくりと首を横に振った。
――あなたの命は、まだ現界にあります。今あなたは、魂だけがここに来ているのです。あなたの肉体はあのユダの家で、ずっと眠り続けるでしょう。あなたの魂がそこに帰るまでは。
「死んでいない……?」
サウルはようやく、あたりの様子を伺う余裕ができたようだ。
「肉体は眠っているといっても、私はこうして体があるし、足で立っているじゃないか」
――それは肉体ではなく、幽体というのです。さあ、霊の眼をしっかりと開いて、この生き生きとした実在界、実相界をよくご覧なさい。
サウルが言われた通りにしているうちに、心に微妙な変化があったのをイェースズは感じていた。そしてサウルは、ひと言だけ、
「本当なのか……」
と、力なくゆっくりつぶやいた。そしてしばらく間をおいてから、顔を上げた。
「なぜなんだ。なぜ私をここに呼んだ? 私を懲らしめるためか」
――いいえ、誰もあなたを懲らしめることなどできません。神様さえもなさいませんよ。あなたがしていることは、すべて神様がお許し下さっているからできるんです。それを裁いたり責めたりしたら、私が許している神様に異を唱えるという畏れ多いことになります。
「しかし、私を裁こうというのだろう? 私を悪人だと思っているのだろう?」
――思いませんよ。善だの悪だのと判断し、決めつける行為を、神様は人に許してはおりません。私はス直にあなたの存在を認め、そして何よりも私があなたを選んだのです。
「選ぶって、何のために?」
――あなたは私に代わって、私の教えを受け継いでほしいんです。そして世の人々に、神様からのメッセージを伝えてほしいんです。
「その神とは、どんな神だ? 異端の神じゃないだろうな?」
――天地の創造主はただおひと方ではないのですか? おひと方なら、どんな神様かと疑念を持つのはおかしいですね。
唯一絶対神、それがユダヤ教における基本であるだけに、サウルは黙ってしまった。途端に、イェースズの口調が変わった。それは、イェースズに下っている御神示を、そのままの口調でイェースズが伝えたからだ。しかも、ギリシャ語ではなく、霊の元つ国のヤマトの言葉でイェースズは伝えた。かつてイェースズの神啓接受の時と同様に、それはサウルの胸の中でどんどんギリシャ語に翻訳されていくはずだ。
――汝、神縁深きみ魂なれば、汝のみ魂の掃除を早く終わらせて、汝の口を通して今世の人々に伝えてくれよ。今は自在の世、逆法に満ちる世の中とは申せ、あまりにもこの方を忘れ、この方との真釣りをはずして真コトよりも魔コトのはびこる世の中となっておるが、いつまでそのような遊びを続けるつもりなのか。この方は、汝ら人々の総ての総ての親であるぞ。今、神と人との霊波線断ち切られ、自在の世となって、中つ神々もまた秩序なき逆法となっている神霊界であるから、人々の混乱もますます度合いひどくなる一方じゃろ。神が先、人が後じゃ。神を忘れ、ないがしろにせし罪あまりにも多く、本来なら神の怒りが一気に爆発してすべてを掃除することも可能じゃが、神は親であるだけに、我が子かわいさにそれもできないであるぞ。汝ら人は霊止にして、この方はすべてのすべての親であるぞ。親が子を心配するのは、当然じゃろう。このままにては人々の想念はこの方と離れ、この方の大調和の想念ともズレがひどくなろうとしているが、そうなると破壊の繰り返しではござらぬか。そうすると、神宝である汝ら人々と同様に神の被造物である自然もまた壊すに至らん。それは、この方にとってはたまったものではござらぬによって、今世の人々に、いつまで大調和を壊しおるのやと、物質のみ追求せん心になっておるのかおと申してくれよ。自然は至善であるのに、それをよかれと思ってであっても、壊しておるじゃろ。自然も汝らの肉体もすべてこの方が貸し与えたもの、汝ら人類より見れば、借り物であるぞ。自分のものなど何一つござらん。そのことに気が付いたものより心改め、元の親の神に元還り致せよ。三千年の仕組みも、早三分の一が過ぎぬるぞ。されど、汝らの世界の感覚の時間にて、この数字にこだわるでないぞ。神の世界は、汝らの世界とはまるで違うのぞ。逆ぞ、あべこべぞ。汝らがよかれと思うこと、この方の調和を壊すこともあるぞ。この方の常識は、汝らの目より見れば酷きことと映ることもあるならん。いつまで元の親神であるこの方に楯突き、反逆を重ねていると、今にギャフンの世が来るよ。神の世界では、三千年など瞬く間よ。これを民に伝えるには、汝の心に一点の曇り、一点の疑いがあればできんぞ。まず汝、改心致せ。それが大きな救いとなるのでござる。神、汝の内にあり。内なる神の命ずるまにまに、神の霊智を真コトとなりて吼え歩け。その神はエルサレムの神殿がどうのこうのとか、異教徒の神殿がどうのこうのとかいうちっぽけな、けちな神ではござらんぞ。汝が真コトであれば、真コとの神が付く。すべて相応ぞ。汝、神を選べ。神を選びし時に、汝はそのままその神に選らばるるのじゃ。この方は陰になりて、汝ら神の子・神宝を支えおるのぞ。そして無視され、足蹴にされ、反逆され、悪魔とされて封印されても、総てを許して耐えておるのぞ。神の耐える力、汝ら人とは桁が違うぞよ。今まで永きに渡りて逆法の世の続きしが、やがて天の時が到来し、天の岩戸が開かるる時が必ず到来することを思えば、今より改心して詫びの心持つが大事なり。詫びの心持てば口にて現し、体にて現せ。口、心、体は三位一体ぞ。まずこれを真釣りせよ。そしてすべて霊が先、体は後ぞ。これが正法ぞ。逆法の世にては体、もの、金が先、霊も神もあとまわしになり、ないがしろにされるが、いつまでもそのままでは神も困るゆえ、やがて大立替大建て直しの世来るよ。その時になって気づいて慌てふためいても。二度と神は救いの手を差し伸べられぬ。汝ら人は神の子・神宝であるのに、どこまで親神に反逆を続けるのか。自然を司る万物の霊長でありながら、その至善を破壊する一方とは何事か。それはこの方を破壊するものぞ。神の神体を破壊するものぞ。人間が、どの被造物にまして、神のミチよりズレておるぞ。
サウルはもはやただぽかんと口をあけて、うつろな表情でイェースズの語る神伝えを微動だにせずに聞いていた。
――太陽も月も星も海も大地も泣いておるぞ。それはすべて、汝ら人間の仕業によってぞ。泣いているうちはよいが、やがて怒りだしたらどうするおつもりか。とりわけ大地は、何にも増して被害をこうむっておるぞ。火と水の相反するものの大調和がこの方の本質なれど、土はこの方の命ぞ。神の子を生かさんための食べものぞ。霊の元つ国をはじめとして、ヨモツ国に至るまで、土は神の体にして、汝ら御神体の上に起き伏ししあると心得よ。それを穢し、濁らせ、毒化させ参りし罪は大なるも、この方が自然の怒りを鎮めまいりしは、すべてかわいい神の子ゆえのことなるぞ。この方、やがて暁の時を迎えんその日まで辛抱に辛抱を重ねて、人間が神の与えし自由意志でもって自ら改心するのを待っておると、自然にも言い聞かせておるのざぞ。されど天の時が参りし時、神の仕組みし至善の法に乗りゆかんとせず、この方の元に還ってくることもなく、み魂の掃除も改心も出来得ざる魂はこの方が大掃除せざるを得ざる状況になりしも、その時になりてこの方を怨むはお門違いと申すもの。すべては身欲と我善しの想いで、大地と自然壊してまいりし人間の果てにあらざるや。自然は善に至るもの、ゆえに至善よ。善一途よ。悪はないぞ。神は悪など創りてはおらん。悪と見ゆるは、すべてこれ汝等おのもおのもの心の内面にある悪が、型示しとして外に現れたものであるぞ。ゆえに現界は写し世よ。霊界の写し世なるぞ。内面の心の写し世なるぞ。鏡なるぞ。彼我身よ。現界のすべての現象は、想念の物質化なりとも申すならん。今世の人々の想念にここらで歯止めかけねば、この方が大掃除せねばならん。苦しいよ、むごいよ、悲しみも出るならん。汝等神の子が苦しみ悲しむ時は、この方もまた苦しみ、悲しみにて泣いておるのぞ。神、天地初発に仕組みし置き手の法は、万物万生の繁茂繁栄生成化育、ひと言で申すなら万世の弥栄の法よ。自然を含め、すべての生態系、万物万生は神大愛の中に生かされており、その順序立って秩序立った営みはそれはそのまま創造主たる神への賛美の波調となりて天にも昇るものなれど、ただ神の子、神宝であり、万物の霊長としてすべての自然を司る使命を与えし人類のみが、自然を穢し毒化させ、その罪が天にまで聞こえあるにまだ気づかぬか。宇宙の大根本の神は現界の総ての人々一人一人を見ておるはとてもできるものではないが、汝らが天使とでも申すおびただしい数の眷属の神々を網の目のように配置しておるため、一人一人の想念と霊相は手にとるように分かるものよ。一瞬一秒の思い、言葉、行いは総て種魂にも記録されており、誰もそれから逃れることはでき申さん。守護霊を通して、眷属の神々を通して、汝ら漏れなく一人一人の一瞬一瞬の想念を神は見ておれば、汝らは皆神の前では丸裸でござるぞ。現界では、他人の目をごまかすことはできるならん。しかし、神の目にはごまかしは効き申さんぞ。すべてが丸裸よ。服のない裸よ。この服とは肉体よ。裸とは肉体のない魂よ。肉体とは神より貸し与えられた仮の入れ物、服にすぎぬ。本体はあくまで魂でござるぞ。霊が元よ、霊が主よ。心それに従い、体は属しているにすぎぬのぞ。神は、魂を見ておるぞ。人の本体は霊よ。すべて神には筒抜け、丸見えで何も隠すことはでき申さぬ。それをまずはサトることが、み魂の掃除の第一歩でござる。されば、現界に生かされつつあるその一瞬一瞬の想念、一瞬一瞬の祈りが大切になってくることも分かるであろう。
サウルの顔は、蒼ざめていた。全身を振るわせて、そしてその場にひざまずいた。イェースズは一歩サウルに近づき、優しいまなざしのまま立つように促し、
「ついてきなさい。あなたに天国と地獄を見せてあげよう」
と口を開いてギリシャ語で言った。その瞬間、イェースズの体から発せられている光は高度を増し、またもやサウルは正視できない状態になって顔を覆ったが、その手を本当に魂に感動の震えを味わわせるような愛の波動に満ちた手につかまれ、そのままスーッとサウルは上に引き上げられた。
果てしなく蒼穹のごとく高い空の下に、神の智・情・意のすべての力が漲っている世界だった。そしてサウルが見たのは世界が何重にも重ねて見えるパノラマで、上の方が明るく、下の方はどんどん暗くなっていった。ここは空間がないだけに、距離という概念がなかった。遥か彼方の遠くに見える景色でも、見たいという想念で細部までが手に取るように間近に見えるのである。その霊層界の上の方にいる人々の顔は太陽のごとく輝き、優しさと憐みに満ちていた。
「あの、上の方の世界の人たちは?」
と、恐る恐るという感じで、サウルはイェースズに尋ねてきた。
「神と真釣りにあ神の波調のある人たちです。やがて地上の大掃除、三歳苦難の暁には聖霊となって真コトの人々を引き上げるお役もあるでしょうね」
「どんな人でも、死ねば道案内のような方がいるのですか?」
イェースズは微笑んだ。
「すべての人が神に向かう霊智は一本で、神理の峰もただ一つです。世の中、一人として例外はいません。どこへ行っても神の御手内、逃れることも責任転嫁も、他人を責めることもできません。魂の掃除さえ終われば、すべてが自由になります。でも、すでに掃除の終わった人は、神様がちゃんと導いて下さいます」
「あのう」
サウルのイェースズに体する物腰は、最初とはかなり違って軟らかくなっていた。
「善人と悪人は、死の瞬間にどのように魂は肉体から離れるのですか?」
イェースズは笑った。
「世の中に善人も悪人も存在しませんよ。神様は善と悪というふうに、二つに分けて創造されてはおりません。神様は大調和の、善一途のお方ですからね。悪人なんて、いないんです。ただ、神様の調和を破り、置き手を破って魂を曇らせて、今なお逆法の真っ只中に生きている魔釣りの人と、正法に生き、曇らせた魂を掃除し、み魂を磨いて神の子である真我の吾を取り戻し、神との真釣りに生きる真コトの人というのなら分かります。下の方をご覧なさい」
イェースズに言われてサウルが足元を見ると、立っていた所が見るみる口を開いて、遥か下の世界が見渡せた。そこは地上、すなわち現界であった。
「おお、なんと小さな世界だ。ほとんど無に等しい。そこにうごめいている人たちの、なんと生気がなく弱々しいことか。あれが偉大な人間の、本当の姿なんですか?」
と、サウルはぽつんとつぶやいた。
「あの人たちは、逆法の真っ只中に生きていますからね」
イェースズが答えると、たちまちどす黒い雲が湧きあがって、下の方の世界のすべてを覆った。
「この雲は?」
「身欲に走った我善しの自己愛の人々の悪想念が、迷蒙の雲となって神理を覆い隠しているのですよ」
それを見てサウルは最初はため息をついていたが、やがてやりきれなくなったのか涙を流し始めた。そしてしばらくしてから、サウルは顔を上げた。
「正法に生きる人と逆法の人は、どのような死に際を迎えるのですか?」
「もう一度、下をご覧なさい」
すると下の世界のごく細部が、目の前に拡大されるようにサウルの目に映った。そこには、まさに死を迎えんとする人が横たわっていた。
「あの人は、魂が浄まった人です」
と、イェースズは言った。今のサウルには、この現界で死を迎える人の想念までが読み取れるようになっていた。そればかりか、その人の魂の経歴まで分かってしまう。その人は、神に絶対的な信頼を持っていた。そしてその人が微笑んだまま死を迎えると、光の指導霊と邪霊が同時にその離脱した魂のもとへ吸い寄せられたが、一定の範囲内に邪霊は入れずにいた。そして指導霊が優しく死の事実と、これからの幽界生活のことをサトし、幽界に誕生したその人は守護霊、指導霊とともに霊層界の自分の想念にふさわしい上の方の温かい世界へと吸い寄せられていった。
「神様は、すべての人に自由をお与えになっています。でも、それは自分のしたことに責任を持つということです。したことは返してもらう、清算をしなければならない、それが大調和の宇宙の置き手なんです。人は誰一人とて例外はなく、自分がしたことをその苦しみの中に見ることになるのです。神様がお悲しみになるようなことをしなかった魂は、神様から悲しめられることはありません」
イェースズはそう言ってから、
「さらに下をご覧なさい」
とサウルに言った。
サウルが下を見ると、今度も同じように死に際の人が見えた。その人は病に非常に苦しんでおり、苦悶深刻だった。そしてその男も死んだ。光の指導霊と邪霊が近づいて行ったが、今度は邪霊もすぐそばまで入れた。
「あの男は、自分の世界がすべてだと思い、肉体が死んでもこうして魂は生き続けるということを断乎として認めなかった人です」
と、イェースズはサウルに説明した。サウルにはやはりこの男の想念のすべてが見えた。それは欺瞞と高慢に満ちていた。そして今も、自分が死んだという事実に気付かないでいるようだ。死ねばすべてが終わって無に帰るなどということを日頃主張していた男のようで、死んでも生きているという現実が受け入れられずにパニックになっている。
「あの男の霊は、やがて自分の魂の重さ相応の世界に、自ら選んで行くことになるでしょう。神様は善と悪という二つの世界をお創りになってはいません。従って、悪などというものはもともと存在しないのです。神様の大愛は人間が人知で考えるような、善人と悪人などという区別をなさいません。人々が勝手に善人と呼んでいる人の上にも、悪人と呼んでいる人の上にも同じように雨を降らせ、同じように太陽を上らせます。自らの自由意志で神様に反逆し、置き手を破り、調和を壊したものの魂は重くなって、重くなった分だけ自然に下に沈んでいくんです。人間界では王であっても金持ちであっても、そんな現界の地位や名誉は幽界では何の意味もなさないのです」
イェースズがそう言い終わった瞬間に、あたりの景色が一変した。そこは遠くに山が見え、湖があり、森もある世界だった。サウルは驚いて辺りを見回していたが、すぐにイェースズを見た。
「ここは? 元の世界に帰ってきたのですか?」
イェースズはニッコリと微笑んだ。
「いいえ。まだ現界には戻って降りません。ここは幽界の入り口の世界。死んで肉体を離れた魂がまず来る精霊界です。ここで人は生前の仮面をはいで自分の本来の魂が顕わになるのです。それから、本当の霊層界へと旅立って行くんです」
すると二人のそばに、まだ死んだばかりと思われる人が、二人の白い衣の霊人に付き添われて歩いてきた。そしてその男は、イェースズがものすごい光を発しているのを見て、泣きながらひざまずいた。
「おお、大いなる光のお方。私はこの世界に来てもう七日になりますけれど、一向に天国に召される様子もなく、この二人の人にあちこち連れまわされるだけなのです」
イェースズはゆっくりうなずいて、やはり微笑んでその男に語りかけた。サウルはそばでそれをじっと見ていた。
「すべては、相応なのですよ。あなたはこの二人の方のことを言っていますが、そのような目に遭わされるのは、あなたに原因があるのです。あなたの内面をよく見つめてご覧なさい」
「そんな。わたしは生きていた時、罪なんかかけらも犯してはいません」
男がそう言った瞬間に、それまでは外見上は身なりのいい顔立ちも整った男であったのが、急に背中は曲がり、二目と見られないような醜い顔に変わってしまった。サウルはそれを見て驚いたが、さらにイェースズはその男に言葉を続けた。
「ここは現界とは違います。現界では肉体があるだけに、ごまかしがきくんですね。自分の心の中を、他人に見られることはないでしょう? 本当の自分というものを、自分の本質を誰にも知られずに暮らすこともできましたね。でも、ここでは、肉体がないだけに、想念は他の誰にも筒抜けです。何一つ隠すことはできません。今の想いも、かつてしてきたことも、すべてが分かってしまうんですよ。ご覧なさい、今のあなたの姿を。それがあなたの魂の姿なんです」
男はますます激しく泣いて、その場に崩れた。すると、周りにいつの間にか多くの霊人が現れ、男を囲んだ。中央の指導霊のような霊人が右手を上げると、たちまち空中に映像が浮かび、男の一生をものすごい速さで映し出した。それを、霊人たちは皆で見ていた。男の一瞬一瞬に考えたことや行動、罪が映像という形で映し出され、ほんの短い時間に長い人生のすべてが表示された。
「やめてくれ! やめてくれ!」
男は頭を抱えて、その場に転がっていた。イェースズはゆっくりと、口を開いた。
「五年以上にわたってどんなに罪を犯し続けても、最後の一年にそれに気づいてお詫びをし、アガナヒを通して形に表したなら、すべての罪は消えていたのです」
それからイェースズはサウルに、
「よく、分かりましたか?」
と、聞いた。
「はい」
「では、天上の世界にお連れしましょう」
その瞬間に、また周りの景色は一変した。
そこは、今まで以上にもっともっと明るい世界だった。空は何とも言えない妙なる光を発し、全体が明るくまぶしいくらいだった。見ると地面は一面の花畑で、遠くの方に巨大な山と、また屋根すべてが黄金である巨大神殿がそびえているのが見えた。
今、サウルとイェースズは、そんな黄金神殿の入り口の門の前に立っていた。門の柱も、すべて金だった。
「今、この門を入ることが許されるあなたは、素晴らしいみ魂だ。本当に身魂の掃除を終えて真釣りに至ったものか、あるいは太古よりの御神縁深き人しか入れない門なのですよ」
歩きながら、イェースズはサウルを見て微笑んで言った。そうして門をくぐると、そこに一人の老人が立っていた。その顔は太陽のように輝き、白いひげは胸元まで伸びているその老人は、かつてイェースズが霊界探訪をした時にも案内してくれたあの白髭の神様だった。
「おお、神にこよなく愛されているサウルよ。ようこそ」
最初は相好を崩して老人はサウルを迎えたが、次第にその顔が曇り、苦痛の中で泣き出した。サウルはそれを見て、むしろ慌ててしまった。
「どうして、お泣きになるのですか?」
地上にいた時とはまるで別人のように、慈悲深くサウルは尋ねた。
「地上の人々は、その罪ゆえに苦しんでいます。自分がしたことには、神様は気付かせるために花と情けの仕組みを下さります。ところが人々はそれとも知らず、ただそれは苦労、災難、不幸であると嘆いて苦しんでいるのです。原因が自分にあることを、彼らはどうしてもサトリません。そして、地上の人々が苦しむと、神様も苦しまれます。地上の人々が泣くと、神様もお泣きになります。人々は、皆神の子だからです」
サウルは、いたたまれない気持ちになっているようだった。
「神様は人類に、すべてを与えたくて与えたくてしょうがないのです。しかし、人類の方がそれを拒絶してしまっています。それは人類が物欲、身欲に走って、我善しで実相が見えなくなってしまっているからなのです」
それだけ言うと、老人の神様はまた急にニッコリと笑った。サウルが不思議に思っていると、イェースズがそれをフォローして言った。
「この世界は、一点の曇りもない世界ですから、地上の人々のことを思って泣くなど、あまり長くはできません」
「でも、この方はずいぶん長く泣いておられた」
イェースズは笑った。
「この世界には、時間や空間はないのですよ。本当はあるんですけど、人間界の時間や空間とは桁が違い、また質も全く違うものだから、ないと断言しても過言ではないのです」
サウルはもう一度、辺りを見回した。そこは美しいというような言葉では表現できないほどの、至高芸術界だった。だが、一つ気付いたことは、ほとんどといっていいくらい無人なのである。人がいないからといって陰気になっているわけではなく、すべてが生き生きと明るく輝いているのに、人がいない。またイエスは、サウルに言った。
「さあ、宮殿の中に入りましょう。でも、そこで見ることは、地上の誰にも話してはいけませんよ」
そうして、イェースズはサウルを誘って、宮殿に続く階を昇って行った。その上にはやはり黄金の大扉があり、二人が階の上に達すると、音もなく扉は開かれた。中は光が充満し、サウルは思わず目を抑えていた。
「履物を脱ぎなさい。ここは聖なる場所なのです」
建物の中に入るのに履物を脱ぐ習慣などないであろうサウルはイェースズに言われて一瞬途惑ったが、言われた通りにした。足を踏み入れると、まるで空中を浮遊しているような感覚に襲われ、前後左右上下ともが光の渦の中に巻き込まれた。やがて妙なる音声とともに、雷のような高らかな声がサウルの胸に響いた。
――カンナガラトホカミ、エヒタメ、ヒフミヨイムナヤコトモチロラネシキルユヰツハヌソヲタハクメカウオエニサリヘテノマスアセヱホレケウイエ
そして、さらにその獅子の吼えるような声はサウルの胸に響き、同時にイェースズの耳にも届いていた。
――今の世は、すべてが逆さまになっておるぞ。正法とは秩序正しきこと、順序正しきことを申すのでござるぞ。順序とは、神が先、人が後ぞ。霊が先、体が後ぞ。つまりは、霊が主体で心は従、体は属しているにすぎぬ、霊主心従体属の順序正しきことを、正法というのでござる。今の世は物質、肉体が主となっておるので、ゆえに逆法の世ぞ。正法の順序をわきまえ、大調和の神と波調をあわすことが、すなわち真釣りでござるぞ。真コト人の真姿ぞ。善と悪と申すものは、この方は創ってはおらぬ。創ってはおらぬものを、さも当たり前に存在するかのごとき錯覚に陥っておるのではござらぬか。すべては物を主体としたゆえに、そこに競争心生じ、物欲生じ、我善しの想念生じ、逆さまの地獄絵となってしまっておるのが今の世の中よ。真釣りをはずし、調和を壊し、天の置き手をも破る重罪犯人、同じマ釣りでもそれは魔釣りとなって、魂に曇りをかけて重くし、神の光も入らない魂となり果ててしまっているのが今世人類ぞ。神には善も悪もござらん。ただ善一途で、すべてを抱き参らせる真コトの調和よ、よ。火と水のごとき相反するもの十字に組むとは、その一つの形の表れでござる。二つに別れているものを、無理やり一つに組み合わせるのではござらんぞ。もともと一つのものが調和している姿でござる。それが十でござるのぞ。そなたらの分かつ知でもともと一つのものを善と悪などに分け申し、悪よ善よといずれも偏りあるものの見方で他人を裁き、他人に責任をかぶせ、他人を型にはめて、自分をも人知の法律や戒律、律法、道徳と申す型にはめて手も足も出ぬように制限をかけ、自分で自分を苦しめておるではござらぬか。自らは善人面しておっても、この方にはすべてお見通しであるぞ。心の中はモノ、カネ、地位、名誉を得んと身欲、物欲いっぱい、我善しの競争心でひたすら上に上がろうとし、時には争い、他人を引きずり降ろし、上に上れば上ったで下のことなど考えずただ保身のみ。されど、この方は、そのような人々とて神の子ゆえ、かわいいゆえ、踏みにじられようが、この方は悪神なりとて封印されようが、足蹴にされようがじっとじっと耐えておるのでござるぞ。そして、宇宙大根元の神に、なり代わりて詫び申しておるのぞ。そして神の情けの仕組みにて過ちを知らせ、気付かせ、改心させんと型示しを見せても、神の声も神の声と聞けない人々がほとんどではござらぬか。それをただの災難、不幸と嘆き、不満を申し、愚痴を申してますます神のメグリをとって差し上げようとの情けの仕組みも無駄にし、ますます魔釣りに陥って魂を曇らせ、包み積み枯れせしめて、いったいどうしようと申すのぞ。現界的な対処を講じても、それではいつかは滅びゆかん。このままにては人類の手にて人類は滅ぼされ、この方のものであるお土さえも穢すに至らん。そのため、このものを地上に降ろしたのであるが、そなたもまたご苦労ではあるけれどそれを食い止めてくだされよ。一人ひとりが周りの現象は自分の心の合わせ鏡、彼我身であることをサトり、すべての原因は自分にあって決して他を裁くことも責任転嫁することも他のせいにすることもできないということを自覚することが、真釣りに向かう身魂の掃除の第一歩よ。まずは、癖を取ることでござる。永き転生再生の過程にて染み付いた癖であるから、それはなかなかのことでござろう。苦しいぞ。つらいぞ。されどそれをせずに苦を避け、楽のみ追い求めていては、いつまで立っても掃除は終わらん。そなたらの世界の時間では、天の時までにはもう少し時間があるから、時間のあるうちに、逆法の今の世のうちに少しでも身魂を掃除し、心を正法に切り換え、霊が主体であると心得て、精進して下されよ。人の本体は霊でござる。人間とは、霊が肉体という服を着ている姿にすぎぬ。その肉体も、この方からの借り物であるぞ。保身保身とて、何を守ろうと申すのか。守ろうとしている肉体は、この方のモノではないか。自分の体は自分がいちばんよく知っているなどと申すものもおるが、そもそも自分の体などと申すものはどこにもござらん。すべてこの方からの借り物、さればいちばんよく知っておるのはこの方ぞ。体のことなどは、この方に任せておればよいのぞ。病気をすれば、それはすべて自分のしたことが返ってきておるだけ、メグリを清算する神の情けの仕組みであるから、感謝しかないであろう。それを小賢しい対処療法とやらで抑えこみ、果ては予防などせんも、どこまで神のメグリ取りの情け深いお仕組みをお邪魔するおつもりか。命を大切になどとも申すが、死んでも命はなくならんぞ。肉体という服を脱ぐだけでござる。魂は死なぬ。ゆえに、保身など必要なきことと分かるならん。そなたはご苦労ではあるけれど、今世の逆法渦巻く世に、このものの跡を継いで、正法の一滴でも落として、来たるべき天の時に供えての歯止めをしっかりとかけてくだされよ。分化対立、ばらばらの、何から何まで逆さまの世にあっても、心に持ち合わせしものだけが、神の大調和の波調とあった者だけが、ミロクの世へと入ることができるのぞ。苦労はやがては身魂の掃除を終えた時には、すべて消えるぞ。そうなると、そなたはもう、何でも自由ぞ。してはならんことはないから、何でもできるぞ。苦労の合間にひと言でも不満や愚痴、文句を申したなら、その場でチーンと音を立てて一からやり直しぞ。そなたらの世界にのみにある時間というものの無駄遣いでもあるし、遠回りぞ。無駄を廃し節約に努めたことにはならんぞ。神、頼んだぞ。今より、このままにては現界がどのような結末を迎え、どのようなすべてをひっくるめての神幽現三界にわたる神の大掃除を受けるのか、ここに示さん。されど、今後の人類の改心次第では、どうにでもなることぞ。すべてはこの方のさじ加減ひとつ。
それからサウルが見せられたのは、戦争、地震、大津波、一面の炎という地球の遠い未来の戦慄の映像だった。サウルの足は震え、その酷さに涙を流していた。そばにはずっとイェースズがいたが、そのイェースズはサウルの涙を見て言った。
「涙はいけません。直視するのです。今のままの人類では、やがてこのような状況に到達するでしょう。一見地獄絵のように見えますけれども、神の裁きではありません。人間の我欲が、自ら引き起こしてしまう状況です。今の人類のままに行けば、やがて人類は神様の体ともいえる大地を汚し、完全に破壊してしまうのは明らかなことです。だから神様は、そうなる前に、このような大掃除をなされるでしょう。人類は自業自得ともいえるのですが、いちばんお悲しみになるのは神の子の親である神様なんです。しかし神様は御自ら手を出して、このような状況を消そうとはなさいません。神様が人々にお与えになった自由意志と智恵で、人類自らの力でこのような状況を回避することをお望みです。そうする意志を持って実際に行動するものにだけ、神様はお手をお貸し下さいます。そして神様のひとまとめの大掃除の前に自らの身魂の掃除を終えたものには、このような状況が起ころうと関係ないのです。今あなたがこれを外に見ているように、あるがままの外として見ることができます。空を飛ぶこともあり得ます。何千万の聖霊が降下して、一時空中に引き上げることも起こり得るのです。肉体の死が魂の死ではありません。肉体は服にすぎないのです。地上での死とは、その服を脱ぐことに他なりません」
それでもサウルは、歯を鳴らしていた。
「再度言っておきますが、このことは誰にも語ってはいけません。先ほど聞こえた言葉は、天の岩戸が開かれる天の時の到来まで、口にしてはいけません」
そう言ってからイェースズは、サウルを見てニコリと笑った。
「それでは、人々に語るべき世界、神と人との約束の世をお見せしましょう」
イェースズの言葉が終わるや否や、イェースズとサウルはまた別の世界に来ていた。天の蒼穹はより高く、遥か彼方の天を突く三角の山々を見ながら、空中に浮いている自分にサウルはまた驚いた。そして目の下には、大いなる川が全土を潤していた。サウルの隣には、イェースズが常にいた。そして空は果てしなく明るく、空全体が大地を輝かしていた。太陽はあったが、それは目の高さにどちらの方角を向いても正面にあり、それは光よりもすべての魂の命の根源である霊流を放っていた。
「今あなたに、神と人との約束の地であるミロクの世を見せているのですよ」
と、イェースズは言った。
「すると、これからできるものを、私は先だって見せて頂いているのですか?」
サウルの問いに、イェースズは笑った。
「地上の時間の感覚では天の御国、ミロクの世は未来に来るものと考えがちですけど、神霊界や神界には時間というものが存在しませんから、天の御国、ミロクの世は未来にできるものではありません。もうすでにできています。あとは人類がそこに入れて頂けるかということだけです。だから、身魂の掃除をしなさいって言うんですね。ただ、地上世界では時間というものがありますから、時間を追って順に完成していくもののように見えるだけです」
サウルにはまだ難しいらしく、首をかしげていた。イェースズは続けた。
「話がよく分からないのを、頭で理解しようとしても意味はありませんよ。神理は耳で聞くものではありません。血とし肉とするもの、つまりしっかりとハラに収めるべきもの、そのためには実践することです。頭で聞いただけだとそれは知識で、体験を腹に入れるとそれは智慧になります。魂が肉体を離れても持っていけるのは、この体験だけです、それ以外の物は地位も名誉も財産も、何一つ持っては行けません」
すべては神のお仕組みだと、サウルはいつの間にかそういうことを考えるようになった。イェースズはさらに言葉を続けた。
「その天の時が来たら、大地のすべてが次元上昇します。今度の大立て替えはこの大地だけではなく、神幽現三界にわたっての大立て替えなのです。人類の行く末が光り輝くものとなるか、一人ひとりが自分で決めなくてはなりません。神様はそのための自由意志を、人類にお与えになっています。その人類史上、いや宇宙始まって以来の大立て替えの時が過ぎ、神による建て直しが成就すればもう幽界はなくなります。霊層界の中の天国も地獄もなくなり、今目の前に見せられている光輝くミロクの世があるだけで、そこで人々は永遠の命を得るのです。本当の意味で神と人とが一体となって、神様のご計画はすべて完成します。そこで人々は、新しい食べ物を食べるのです、その食べ物とは、新しい教え、真理、即神理なのです」
サウルがその世界を見渡していると、何本もの川がそこには流れており、その川岸にはおびただしい数の木があった。それがまた一本の木が何種類もの実をつけていたが、それが神のあらゆる業を示しているとすぐにサウルはサトッた。また、木々はそれがナツメヤシであれぶどうの木であれ実が一本につきざっと一万個は実っているようだった。それを見て不思議に思ったサウルの想念を先読みして、イェースズは言った。
「あれは神様が、それを受けるにふさわしい人々にありあまるほどの恵みをお与えになるからですよ。そのふさわしい人とはただ神様の御ためということだけに自分の生涯を捧げ、その魂の曇りを取り払う神様の情けの仕組みによる苦しみをも甘んじて受けた人たちなのです」
それからサウルはイェースズに案内され、この大いなる世界の中を探訪した。そこで目にしたのは喜びに満ちあふれ、常に神を賛美してやまない光り輝く人々であった。誰もが「ハレルヤ」と神を賛美していた。だが、彼が出会った人々の数は、そう多くはなかった。
「どんなに神の教えを知り、またそれを忠実に守っていても、神の教えを知らない人々を見下すようでは、ここには来られません。ここは九割九分神と一致していても、心に一点でも曇りがあれば入れない厳しい世界なのですよ」
と、イェースズは言った。それから、サウルはいくつもの森や宝石の湖を越えて、また最初に来た場所に戻っていた。
「さあ、これからは、心に穢れと曇りのある重い魂が沈んで行く世界をお見せしましょう」
イェースズの言葉と共に、サウルの全身はものすごい速さで飛行した。周りはまるで夕暮れ時のように次第に暗くなって行く。そして大きな川を渡った時には、周りは光のない暗い世界になっていた
しばらく行くと、そこには火が燃えたぎった川が流れていた。その中には男ばかりでなく女も、相当の数の人々が業火で焼かれていた。サウルは驚いて、イェースズの顔を見た。
「この人たちは、なぜこんな目に?」
「まずは、何日かは祈って生活していても、ほかの日は全く神を忘れて俗世間の中で生活していた人々もいますね。そういう人たちは、ここでまず膝まで火の中に浸かっていることになる。会堂に来て天の御父の神様に祈りを捧げても、礼拝が終わると女同士でぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、会堂を一歩出たら、もう関係ありませんって感じでね。つまり、本当の神様に祈りを捧げるという信仰心などないくせに、ただおしゃべりだけが目的で会堂に通っていても、結局はこういう世界に来るんですよ。人の世では外見で判断されますから、そういう人でも敬虔な信仰者のように見えるんですね。でも、この世界は内面のすべてが出て、ごまかしの聞かない世界なんです。おしゃべり自体は別に悪いことではないのですけれど、結局は神様を利用したということになるんです。自分がしたことは自分に返ってくるというのが宇宙の法則です。中には会堂の中で裁き合い、中傷し合う、これでは魂はどんどん曇りを積んで重くなり、自然とこの世界にまで沈んでくるんです。そうなると膝どころか腰まで、あるいは首まで火の中に浸からなければならないんです。これは、神様の裁きでも罰でもないんですよ。魂の状態がそうだから、自分の魂と相応の世界に引き寄せられる。相応の世界を自分で選んで来るんです。もっと究極的に言うと、そういう想念がこういう世界を作り出しているということなんです」
それから目を転じると、暗いじめじめした世界のあちこちの地面に、大きな穴が空いているのが見えた。その一つをサウルがのぞきこむと、おびただしい数の男女がその穴の中でひしめきあってうめき声を上げていた。
「この人たちは神の存在を認めず、神にすべてをお任せするという想念のなかった人々ですよ」
イェースズに言われて見てみると、その穴には最近死んだ人ばかりでなく、遠い昔の人も底の方に入っている。しかも、全身血みどろの人も多いのだ。
「こんなにあとからあとからこの穴に入る人が増えたら、穴が満員になって入らなくなるのではないですか?」
それを聞いて、イェースズは笑った。
「この世界には限りがないんです。穴の底にはまだまだ下の世界へと繋がっていますからね。深い池に石を投げても、そこに沈むまでかなりの時間がかかりますね。それと同じです。この穴に投げ込まれた魂は、五百年たっても底には届かないでしょう」
サウルはそれを聞いて大いにため息をつき、身をかがめて泣きだした。穴の中に次々に投げ込まれるおびただしい数の人々を見て、哀れに思ったのだろう。だがイェースズは、その背中に言い放った。
「なぜ泣くのですか? あなたは同情して、彼らを憐れんでいるつもりでしょうけど、神様の憐れみに比べたら人知の憐れみなどものの数ではないですよ。同情してはいけません。あれはあの人たちのメグリに対する神様の情け、罪穢を消除する洗濯なのですから。ここでへんな同情をかけると、神様のお仕組みのお邪魔になります。人のことはいいのです。あなたには関係ありません」
イェースズの言葉に、少し驚いて涙眼でサウルはイェースズを見上げた。イェースズはゆっくりうなずいた。
「あなたは私の言葉を、意外だと思ったでしょうね。冷たいと思ったでしょうね。でも、それが神理なのです。神様は立て別け厳しきお方です。でも決して悪を懲らしめるためではなく、罰ではなく、かわいい神の子の魂が汚れたのできれいに洗ってあげようという親心なのです。でも、今は立て別け厳しい正神の神様はご引退なされている逆法の世の中ですから、現界の常識では他人の不幸は助けるべきだ、それが人の道だなどと考えられていますね。同情もかけないと、人でなしと言われます。でもそれは、逆法です。仏心はホドケ心なんです。人の悪を裁くのと同じ結果ですよ。それに、同情は同じ情けを受けることになる、だから同情というのです。まず、自分を見つめなさい。人に憐れみをかけてあげられる魂か、人を裁ける魂か。皆、同じ穴の狢なんですよ。他人の目のおがくずを気にするより、自分の目の丸太を抜くことです。それに気付いたら、他人の目のおがくずなんてどうでもいいでしょう? 自分にできるのは自分の身魂の掃除だけです。自分でしかできないんですよ。誰も、人の重荷を代わって背負ってあげることはできないんです。人の重荷のことを気にするより、自分の重荷をまず何とかすることです。人のことは、神様にお任せしていればいいんです。どんな悪に見えるようなことでも、神様はお許しになってさせているのです。それを裁くなんて、神様を裁くようなものでしょう? 神様は人類に、自由意志をお与え下さっています。そして常に神様が人間の下となって、下からこの世界を支えて下さっているのです。よほどの感謝と下座が必要でしょう? 感謝ができれば下座できる、人のことを言えない己に気付いたら、それでも下座はできます。下座と卑下は違いますよ。皆それぞれ神様の分け身魂が入っているんです。人の体は神様の分けみ魂を迎える神殿なんですね。本質は尊いんです。それでも、いえ、それだからこそ下座なんです。神様は、いつも我われの下にいらっしゃいます。下にいて陰で支えて下さっているんです。どんなに足蹴にされても、批判されても、サタン呼ばわりされても、神様は陰で支えて、人類の改心を忍耐強く待っておられます。神様は支える働きの火であり、縦だからです。神様が、最大の下座をなさって下さっているんですよ」
そこまで言うとイェースズはサウルを立たせ、また続けた。
「究極の下座は、赤子が生まれる時ですよ。赤子は母親の胎内にいる時は、常に頭を下に向けています。頭を下に、頭を下にし続けた結果、この世に生まれてくるんです」
泣いていたサウルも、感心してイェースズの話に聞き入っていった。それからイェースズに促されて、サウルも歩いた。その肩に、イェースズは優しく手を置いていた。
するとまた、一人の老人が火の小川の業火に焼かれていた。
「あの人は、会堂の長老だった人です。それが身欲に走った贅沢な生活をし、遊びに夢中で、時折役目の礼拝をするくらいで、ほとんど神様を担ぎ上げる山車くらいにしか考えていなかったのです」
暗い、じめっとした世界のあちこちで悲惨なうめき声が不断に上がって、それが余計に不気味だった。しばらく行くと、また火の川で焼かれている人がいた。
「あれは会堂の執事ですね。神様へのお供え物ばかりを食して、遊ぶことしか考えていなかったです。それでいて人々に説教する時はもっともらしいことを言うんですけど、それもまた嘘八百の話でしてね。そしてあれは」
本当に次々に、火の川にも人々が投げ込まれる。
「あの方は祭司だった人です」
サウルは、唖然としてしまった。会堂の聖職者がよもやこのような地獄で苦しんでいようとは、サウルにとって常識外のことだった。
「彼らは人々の前で聖書を朗読して立派なことを話しますが、彼自身にとってもそれは知識にしかすぎなかったんですね。知識は頭の中にあるもので、やがては消えます。でもそれをハラに入れて、実際の行動に移すと智慧になるんです。自分の体験に裏打ちされたことですから、一生、いえ死んでからも持ち続けることのできる宝となるんです。ところがあの人たちは、口でこそ立派な教えを説いたけど、自分の行動が伴っていなかったんです。実践に移していなかったんです。知らないで、知らないから実践のしようもない人よりも、知っていて実践しなければご覧のとおりに魂が曇って、重くなって、こんな下の世界に沈んでくるんです。口と心と行いが一致していないと、神様はその人を真とはご覧になりません。口と心と行動は、霊・心・体の一致を意味します。三位のミロクが一体となった真姿を、神様はたいへんお喜びになるんです」
サウルは震えていた。そして最初は弱々しく、しかしやがて力強くイェースズに言った。
「私はこれまでパリサイ人として、律法を守らない人々をサトしてきました。それが義なる人と思っていたのですけど、そんな行動だけじゃなくて、何よりも信仰が大事なんですね」
「その通り、でも、今のあなたの言葉にも、本当はもっともっと深い意味ががあるんですよ」
それからイェースズは、視線を別の場所に移した。サウルもその方を見ると、首に鎖をかけられた黒い服の少女、手足を切られて氷の中に投げ出されて蛆虫にその体を食べるに任せている男女の群れ、水の中に吊るされていながらのどが渇き、目の前に多くの果物が並べられているのにそれを食べる事ができずにいる人などの姿が次々に目に映り、サウルはまたとめどなく涙を流し続けた。
「同情はやめた方がいい。同情するというのはされる人と波調を合わせることで霊の交流交感が起こり、同じ神の情けの仕組みを受けることになりますよ。また逆に、裁いてもいけません。神様でさえ、裁きはされません。ここにいる人たちは裁かれているのではなく、一定の法則通りの結果を享受しているにすぎないのです。神様は人類に、すべてを許しておられます。してはいけないということはないのです。人々は人知で勝手な律法や道徳などを作り上げて自分で自分の行動を規制し、自分を不自由にし、自分を枠にはめ、そして不自由であることを呪って不満の悪想念を発したいるのです。しかし、自分がしたことだけは自分で責任を取らなければなりません。それが法則です。したことをした分だけ返して0にならないと、魂はいつまでも曇ったままです。そうすれば、本当に自由になれるのです。自分の心にス直に従えば、人は自由になれるのです。それなのに人知の枠、規制で自分に嘘をつき、自分の首をしめているのです。そしてうまく行かないと他人のせいにし、責任転嫁し、果ては争い、競争をし、四つ足獣人ともいっても過言ではない程に身欲に操られ、我善しの想念で生きる、これが今の逆法の世なのです。人目や世間体ばかり気にし、それでいて人よりも上に行こう、人からよく思われよう、人を支配しよう、人に勝とうと、人のことばかり考えて自分を大切にしない、常に罪悪感と共にある、そんな人々の集まりを逆法の世というのです」
そう言われても、まだサウルの涙はなかなか引かなかった。そこでイェースズはさらにサウルを連れ、下の方の世界へと進んで行った。そこには大きな泉があり、門があった。
「今、門を開けますけど、あなたは下がっていた方がいい。ここの悪臭にあなたは耐えられないでしょうから」
イェースズのその言葉とともに門が開けられると、確かにものすごい悪臭がサウルを襲ってきた。門の中には闇に覆われた巨大な泉があり、それをのぞくとその底の方のあちこちにかすかに火のかたまりが無数にあるのをサウルは見た。それは、そこに投げ込まれた人々の、かすかな魂の残り火だったのである。
「ここまで落ちた魂はよほどのことがない限り、再生転生することは難しいですね」
イェースズが言うと、サウルは今度は全身が震えだした。また閉ざされた雪と氷の世界ともいえる場所に出て、人々の体が五、六百匹はいるであろうと思われる蛆虫に侵食されていた。
「ここにはもう、霊界の太陽の霊流は届かないのです。そうなると、ここにいる魂にとっては、祈りも悔い改めも遠い存在となってしまうでしょう。生きている時にいくらでもその機会があったのに、逆法の世の中に流されてしまったのです。逆法の世の中で正法を貫けば人々からはあざけられ、憎まれ、顔をしかめられ、非常識な人という張り紙を張られ、住みにくくなってしまうからです」
サウルは、身につまされる思いだった。イェースズが歩き出した。
「あなたは、すべてをご覧になりましたか?」
「拝見させて頂きました」
と、サウルは力なく答えた。
「では、次の所に行きましょう」
イェースズの言葉とは同時に、サウルは自分の体がますます軽くなり、上の方にスーッと引き上げられるのを感じていた。
そこは、再び光明の世界だった。あれほど嘆き悲しんでいたサウルの魂がどんどん浄化され、たちまち喜びに満たされていくから不思議だった。何もかもが明るい。数十年来の知己に会ったような感激と喜びが、懐かしさとともに込み上げてくるのである。サウルはまた涙を流した。しかしそれは下の方の暗黒の世界で流した涙とは、全く異質の涙だった。
たちまちほかの何も見えないほどに、光一色になった。前も後ろも左右からもそして上からも、下からさえも光の洪水となって、その真っ只中にサウルは浮いていた。
すると前方に二十四の巨大な光の玉が現れ、背後にも同じように二十四の光の玉が現れた。その光の玉が動く時は、龍のように見えた。その光の玉の間に、光の玉と同じくらいにと巨大化して同じように光に包まれているイェースズをサウルは見た。その時サウルははじめて、このイェースズという人が人であって人でなく、その御神業はこの神霊界にまで及んできることをサトッた。
イェースズは言った。それはサウルにではなく、その光の玉たちに言っているようであった。
――四十八の神々様方。皆々様の祈りは、何に向けてでありますか。
光の玉から、声が上がった。それは獅子の吼えるような雷の声で、本来サウルには解せないはずの言語だったが、不思議と意味は理解できた。
――我われの分けみ魂を持つ人類のため、我われは苦しみおるなり。泣きおるなり。大根本の神への詫びの祈りのほか、今はすべなからん。
――大天津神々様方。やがて主神の経綸も進展しましょう。今しばしでございます。御父、国祖の神様の三千年の仕組みも、すでに三割がた進みつつあります。ここに私は人々に悔い改めの場を与え、また逆法の世にあって神理正法より人々が離れすぎないよう、御前におりますサウルを派遣します。
それを聞いたサウルの胸は、ますます熱くなった。イェースズは確かに、自分を派遣すると言った。今までいちばんのイェースズの迫害者だったのにである。
サウルが途惑っていると、すぐに周りの世界の様相が一変し、光輝く大地がサウルの前に展開された。そこには巨大な四本の川が流れて全土を潤し、それは点にまで届く巨大な木から流れ出ていた。
サウルの隣に、また元通りのイェースズが来て立っていた。
「園の中心には、善悪の知識の木があります」
「え? あのアダムとイブが実を食べたという? それによってエデンの園を追われたあの木ですか?」
「すべては型示しであって、そのまま受け取ってはいけません。アダムとイブのいた時代を今から四千年前などという人もいますが、人類の歴史はそんなに新しいものではありません。天地創造以来、地上に人類がいなかった時代はなかったのです。地玉の修理固成のため巨大なオオトカゲが地上を徘徊していた時代にも、人類はいました。善悪の知識の木の実を食べたというのは、人間が善と悪に分ける知、分かつ知を身につけたことをいうのです。それによって、本来は半神半人で神様と直通だった人々が神様から離れ始めたのです。神界においては天の岩戸が閉ざされ、国祖の神様がご引退あそばされ、大根本の神様もすべての糸を断ち切られて自在の世となり、少し遅れて地上人類も身欲、物欲、保身、競争の我善しの状態、すなわち逆法の世が始まったのです。そのようなあやま知ともいえる善悪の知識を人類は身につけてしまいした。本来、「善と悪」とは存在しません。二元対立的に考えること、それ自体が逆法なのです。逆法の世は、火と水がほどけたホドケの世となってしまっています。例えば、神の前に義なる人たらんと戒律を守り、律法を守ってきたところで、自分に不自由の制限枠をつけるだけであって、それで人々は不自由になり、一見不幸とも見える現象も起こるのです。そもそも、神様は人類に一切の制限もお与えになってはおらず、すべてを受け入れ、すべてを許して人類を地上に生かして下さっています。神様は、戒律も律法もお創りになっていません。神様の世界には、戒律も律法も道徳さえもありません。そのようなものはすべて人知の所産で、それだけに自分の首をしめる縄となっているのです。そういった人知の戒律や律法から自分を解放してはじめて、天国入りの一つの要件が満たされます。神様は善一途の方で、そもそも「善だ」「悪だ」という分けた考え方自体が存在しないのです。自分はこんな逆法の世の中にあって正法を貫いていると考えたら、すでに自分を善とすれば、自分以外の外の世界に悪が存在することになります。つまり、善と悪の二つに分化分析しっぱなしなのが悪です。今は何もかもが逆さまの世の中です。善人は悪です。善人であるいうことは善と悪を分け、善もあるなら悪もあると認めることになるからです。悪の存在を認めるのが悪です。神様には善も悪もない――だから、悪を裁き、命をも奪うなどは言語道断。悪を裁く心が、そのまま悪です。神様の世界は大調和です。火と水を十字に組んだゆるぎない真十字です。その大調和を乱す、神様の掟(置き手)破りを、いわば罪というのです。神様は、決して人類を裁きません。救いもしません。すべてがあるがままなすがまま、それが自然、すなわち至善なのです。自分を救うのは、自分です。悪が存在するのは、それは大根本神の大経綸の裏の経綸によるもので、すべて方便なのです。己の心の中に悪があると、外に悪を見せられます。そうして神様は、気付けよ、改心せよと示しておられる、そのために外の世界に悪があるのです。神様は人類に、すべての自由をお与えになっておられます。してはいけないことなどないのです。それを勝手に戒律や律法でしばり、がんじがらめにしているのが今の逆法の世なんです。正法に近づく第一歩は自分を自由に解放すること、枠にはめないこと、ものごとの白黒を判断しないこと、決め付けをしないこと、人の悪を裁かないこと、愚痴や不満を言わないこと、そこから始まります。外の世界はすべて戯曲、自分とは何の関係もないのです。悪が見えたら悪を裁かず、自分の内なる悪が合わせ鏡に映し出されていると心得て悔い改めればいいだけです。原因はすべて自分にある。その自覚と認識が薄い。すぐに人のせいにする、責任を押し付ける。だけども、自分のしたことの責任が取れるのは自分だけです。自分で責任を取らないで、あいつが悪い、こいつが悪いで責任を押し付けあっては、魂がますます曇りを包み積んで重くなります。下の世界に沈んでいきます。すべて原因があって結果があるもので、今自分の周りに憩っている現象の原因はすべて自分にあるわけです。ですから、外を変えようとしても、自分が変わらなければ疲れます。無駄です。外の世界を変えよう、操ろうというのは身欲から出た我善しの想念です。人を操ることはできません。人はいいのです。まず、自分の中に内在する神のみ声を聴くことです。神様を外に求めず、心の中にを持つのです。自分自身が、神様のお住みになるお宮なのです。自分を救えるのは自分しかないのです。その自覚が、そして自分の中に正法を確立することが、人を救うことになります。後ろ姿で導くことになるからです。自分にとって自分自身こそが最大の救世主であることを、人々に知らせることになるからです」
イェースズはその長い言葉を一気にしゃべったが、その一言一句が吸い込まれるようにサウルの腹の中に入っていった。そしてあらためて、涙を流すサウルだった。
すると、サウルの前に次々に光の中から浮き出るように人物が現れた。イェースズもそれを一人ずつサウルに示した。それはアブラハム、イサク、ヤコブ、エレミア、ロトなど、名前を知っているにすぎなかったかこの聖者たちが、こぞってサウルの前に立っていた。そしてサウルを見て微笑み、どの顔も喜びに満ち、涙を流してサウルを見つめている聖雄聖者もいた。
イェースズの説明を聞いて、これにはサウルも驚いてしまった。過去の聖者が実在して、目の前にいるのである。もはや、言葉はいらなかった。彼らとサウルは、無言のまま心で交流していた。そしてロトが心の声で言った。
――あなたがこれから神様の御用をなさるなら、神様は必ず数倍にしてお返し下さる。
また、ヨブと紹介された人が、サウルの前に歩み出た。
――地上での苦しみは、それを乗り越えた時の喜びに比べたら小さいものです。苦しみから逃げず、受け入れて感謝で乗り越えれば魂も浄化され、魂の掃除が済んだらミロクの世に入ることができるわけです。
次の瞬間、サウルのからだは急降下し、町のユダの家に横たわるサウルの肉体にすーっと入った。
サウルを幽界からさらに神霊界にまで探訪させている間に、現界ではすでに三日たっていた。だからサウルは、三日間人事不正で眠っていたことになる。そこでイェースズはすぐに幽体を物質化・可視化させて、サウルのいるユダの家を訪ねた。
出てきたユダという初老の男に、
「私はアナニヤといいます。こちらでお世話になっているサウルという方を訪ねて来ました」
と、適当な名前をギリシャ語で言った。ユダはそれを信じきって、イェースズを中に入れてサウルのいる部屋に通した。サウルは肉体に戻ると、肉体から離れる前と同様に目が見えずにいた。そのそばに近寄って、イェースズは作り声で、
「私はこの町に住むユダヤ人で、アナニヤといいます」
と、サウルに告げた。普通、生来目が不自由な人ならどんなに作り声をしても、同一人物の声を聞き間違えるはずはない。しかしサウルはまだ目が見えなくなってから三日しかたっておらず、しかも見えなくなってすぐに幽界でしっかりとものを見てきており、そして先ほど戻ったばかりなのだ。まだ、目の不自由な人特有の勘は養われていない。
「はあ、何か御用で?」
サウルは見えない目を開いたまま虚空を見て聞いた。
「あなたが出会われたガリラヤのイェースズに、私も会ったのですよ。そしてここへ行けと」
「おお、おお、イェースズのお使いで……」
イェースズという名を聞いた途端にサウルはまた目から涙を流し、その場で伏し拝んでいた。イェースズは、サウルに手をかざした。それにしても、イェースズがサウルにしたことはかなりの荒療治だった。しかし、あそこまでしないと、頑ななサウルは心を開かなかったに違いない。サウルとて悪意でイェースズの信奉者を迫害していたわけではなく、イスラエルの神の神殿への忠誠ゆえに異端を排除するという心構えであったはずだ。だから言葉で語っても、貸す耳を持たない。人が悔い改め、改心するいちばんの方法は体験なのだ。耳から入った教えは知識としてアタマに残るが、それを実践し、体験することによって智慧となってハラに収まるのである。だから、サウルにも問答無用の体験をさせることがいちばん手っ取り早かった。それは、サウルのみ魂が特殊な魂だったからである。
「さあ、そっと目をお開きなさい」
サウルの目は開かれてはいたが、見えずにいただけだった。ところがこの時、サウルの目から鱗が落ちた。故郷ではガリラヤ湖で取れた魚を貴重な食べ物として食べるが、生から調理する場合はまず鱗を落とすことから始まる。その時に弾け飛んだ鱗が目に入ってしまって、実際にそのまま失明してしまった人もいる。その鱗が、目から落ちたのだ。サウルの肉眼に再び光が戻り、嬉しくてサウルはあたりをキョロキョロと見回した。
「見える! 見える! アナニヤ、見えるぞ!」
うれしくて、本当に嬉しくてあっちを見てはこっちを見てで、それからイェースズの顔を見て声を上げてベッドの上で尻で下がってしまった。
「あ、あ、あ、あなたは!」
イェースズはニッコリ微笑むと、
「あなたは今ここに存在しているということは、すべて親神様からゆるされてのことなのです」
と言った。
「あなたは、私を派遣するとおっしゃいましたね」
早速サウルは、今まで腑に落ちなかったことをイェースズにぶつけた。
「そうです。私の教えを世界に広めるためには、あなたを神様は必要とされています。あなたはイスラエルの民ではあるけれど、今まではイスラエルの外のタルソにいた。そこにはいろんな人々がいるでしょう。ギリシャにもローマにも、すぐに行ける土地だ。あなたはそういった異邦人の人々にも、私の教えを広めないといけない。だから名前もサウルではなく、同じ名前のギリシャ読みであるサウロとよく似たラテン語の名前のパウロと名乗り、お行きなさい。私はあなたを、地の果てまでも派遣します」
「どうして、どうして私なのですか? 私がエルサレムで何をしてきたか、当然ご存じでしょう? この町でもあなたの信奉者を縛り上げようと、血眼になっていたんですよ。私でなくても、もっと熱心なお弟子の方はいらっしゃるではないですか」
「もちろん、あなた一人ではない。そのうち、私の使徒たちとも話し合うべきだ」
サウルはまたうなだれて、涙を流していた。イェースズは続けた。
「あなたを選んだのは、あなたの身魂が因縁の魂だったからですよ。あなたは過去世においても、私たちといっしょにいました。私との魂の結びつきは、使徒たちよりもあなたの方が強いかもしれない。あなたには特別に、本当の特別だが、すべてを見せた。その体験を元に、伝道するんです」
「異邦人にもですか?」
イェースズはうなずいた。
「ギリシャでもゼウスの神、オリンポスの山の神々など、独自の教えを持っています。その中にあって、決して操られないように。少しずつ神に近づいていけばいい。本当の神理正法は、地上の宗教などとは関係ないのです。私の話したことも、宗教ではありません。あなたが見たことすべてを人々に告げることは今の時代ではできませんけど、何を告げるべきで何を伏せておくべきかは、あなたの内在する神に尋ねてみるといいでしょう。神様はどこにいるのかという質問には、永遠に答えは出ません。私たちが神様の中にいるのです」
「私の、私の罪は許されたのですか?」
「そんなのは神様に聞いて下さい」
と、またイェースズは笑った。
「自分を卑下してはいけません。卑下と下座は違います」
「しかし、私は心が醜い」
「はい、確かにあなたは醜い! しかし、それと同じあるいはそれ以上に、あなたは尊い。まずは、尊い自分を自覚するんです。神様から頂いた魂が入っているのですから」
「しかし、私は罪が重すぎる」
「そうやって自分に罪悪感を持つことは、自分で自分を裁くのですから、人を裁くのと同様に逆法の考え方です。もちろん、したことは返して頂きますからこれから数年は苦しみがあるかもしれませんけど、その霊的意味を理解して自覚し、感謝で乗り越えればその試練は魂の向上に役立つのです」
「まずは、どうすれば?」
「エルサレムへ行って、ペテロという人に会いなさい」
それを聞いて、サウル=パウロの顔が幾分輝いてきた。
「頼みましたよ。神様の御用が許されるということは最高の栄誉であり、幸せですよ」
仕事は終わった――と、イェースズは思った。そこでイェースズはまた体を幽体物質、エクトプラズマ化させた。パウロから見ると、イェースズは突然パッと消えたことになる。だから、何度も目をこすっていた。
イェースズは一高次元界に戻り、そこから霊の元つ国に帰れば、それがいちばん楽に、しかも瞬時に地球の裏側までの距離を移動する方法となる。だがそれは、今回のように三日が限度であった。
そのままイェースズは、オピラ・コタンはずれの丘の上の、トー・ワタラーを見わたす皇祖皇太神宮分霊殿の御神前に残してきた肉体へと、すーッと入った。