K'様作


 

 はじめに

 なのは:このお話は、わたしとくーちゃんがあの草原でクロノ君とリンディさんの二人と、また会う為のお別れをしてから、すこしたった頃のお話…。

 久 遠:くうん。

 なのは:おにーちゃんが病院のフィリス先生とお付き合いを始めたぐらいのお話…。

 久 遠:きょーや、ふぃりす。らぶらぶ。

 なのは:そんなころの、お話です。

 久 遠:……です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              レン‘S EYE

 

 翌日、うちはフィリス先生に言われたとおりに夕方に病院にやってきた。

 ―――しかし、フィリス先生はうちになにをするつもりなんやろ?―――

 そう、疑問を抱えながらも、うちは先生の部屋をノックする。

「フィリス先生。お見えですか?」

 「はぁーい。どなたですか?」

 「あ、あの鳳連飛ですけど…」

 「あ、はい、どうぞぉ」

 そう促されてから、うちは病室に入っていった。

 「いらっしゃい、レンちゃん。こんにちは」

 「あ、はいこんにちは。フィリス先生」

 フィリス先生は振り向いて、うちに椅子を勧めてくれた。

 うちはその椅子に腰掛けてから、今日呼び出された理由を聞いてみた。

 「あ、あの…。何で今日はうちを呼びはったんですか?」

 しかし、フィリス先生は答えずに、一口ココアを飲むと、おもむろに立ち上がり

部屋のカーテンを閉めた。

 「今日は、レンちゃんとお話しがしたかったからって理由ではいけない?」

 「べ、別にうちは全然かめへんですけど…」

 「そう、よかった」

 その後、フィリス先生はうちと話をした。内容はほとんど、お師匠に関する事ばっかやったけど。

 「そういえば、フィリス先生」

 「なに?」

 「いつも、先生とお師匠って二人っきりの時はなにをしてはるんですか?」

 「恭也君とわたしのこと?」

 「はい…。お師匠は家ではあんまりそうゆうことは教えてくれへんから」

 「ひょっとして、興味あるの?」

 「べ、別にそうゆわけでは…、あったりもなかったりですけど…」

 「ふぅーん。レンちゃんも気になるお年頃なんだ」

 「だ、だからそうゆうことでは」

 「でも、気になるんでしょ?」

 「は、はい…」

 

 Pi Pi Pi Pi

 

 ちょうど1600を告げるアラームが鳴る。どうやら午後の診察が始まるようだ、

 「あ、先生。ほんならうちはそろそろ帰ります」

 「あ、レンちゃん。ちょっと待って」

 「はい、なんでしょう?」

 フィリス先生は自分のメモ帳を見ながら話す。

 「今日の一番は恭也君からなの、さっきの続きってわけじゃないけど…」

 先生は一旦言葉を切ると、後ろのキャビネットを指差して、

 「覗いていく?恭也君の診察」

 「え?」

 

 

 ―――うう、結局断りきれなかった…―――

 若干のうしろめたさを感じながらも、うちはフィリス先生の提案に乗ってしまった。

 ―――すんません、お師匠。けどうちにはお師匠とフィリス先生の逢瀬を高町家の皆さんに伝える任務があるんです―――

 うちは、無理やり自分を納得させると持ち込んだ椅子に座りなおした。

 

 こんこん…

 五分程たった後に扉がノックされる。

 『あの、フィリス先生…。高町ですが…』

 『はぁーい、どうぞ』

 扉がゆっくりと開かれ、お師匠が部屋にはいってきはった。

 『ああ、恭也ぁいらっしゃい』

 『フィリス、約束通りに会いに来たが…。いった…』

 『もう、恭也ったら、恋人に会いたいという私の気持ちをわかってくれないの?』

 フィリス先生が、お師匠の言葉を遮り、すっと擦り寄る…。

 『い、いや。別にそんなつもりではないのだが…』

 『じゃあ、どういうつもりなんです?』

 フィリス先生が頬を膨らませて、お師匠を見上げる。

 『い、いや。診察時間中に私的な用事を持ち込むのはよくない』

 『あら、それなら大丈夫。だって、今日は私お休みですから…』

 そう伝えると、フィリス先生はおもむろに扉の鍵を後ろ手に閉めた。

 

 カチャ…

 

 静かな部屋の中に鍵を締める音だけが響いた。

 『だから、これは完全な私用…。仕事は関係ないわ…』

 再度、お師匠に抱きつきながら、

 『恭也…。服を脱いで…』

 真っ赤な顔で、フィリス先生が呟くと。お師匠も自分の服に手をかける…。

 ―――え!?え?ちょ、ちょう待ったって下さい!いきなりそんなこと始められても覗いてるうちの心の準備が…―――

 『フィリス…』

 『恭也…』

 二人は部屋のベッドに腰をかけた…。

 フィリス先生がお師匠をベッドに横たえる。

 ―――あ、あかん。これ以上はうちにとっては刺激が強すぎや―――

 そう思い。うちは思わず両手で顔を押さえて、その光景を見ないようにする。

 しかし、その努力の甲斐も無く部屋からは衣擦れの音と、二人の息遣いが聞こえてくる。

 ―――あー、あかん。目にはまぶたがついてるけど、耳には耳ぶたがついてへんかった。目ぇ閉じても筒抜けやった―――

 そう気付いたうちは、両手で自分の耳を塞ぎ全ての音をシャットアウトする

 

 しばしの沈黙

 

 『く、フィ、フィリス…。こ、これ以上は…』

 『ふふ、なに言ってるの?恭也…。まだまだこれからよ…』

 塞いだ手の隙間から微妙な音量で二人の声が聞こえてくる…。

 ―――あ、あかん!これじゃあ、余計に逆効果や…―――

 『し、しかし…。うっ…、お、おれも限界なのだが…』

 『ふふふ…。だらしないのね、でも駄ぁ目。この間は私がどんなに御願いしても許してくれなかったから…』

 『……………………………………………』

 『だから、これは。仕返しです…』

 『ふぃ、フィリス…。なんだか用法をまち…がってる…ような…』

 『はぁい、恭也。今度は私が上になりますよ…』

 『ま、待て…。フィリス…。そこは…』

 『そこ…は…。なぁーに?ふふふ…』

 ―――あかん!これ以上はうちのような純真なお子さんには刺激強すぎやわ―――

 これ以上は耐えられない。咳払いの一つでもして、こちらの存在をせめてフィリス先生にだけでも伝えなければ。

 私は、一大決心をして目を開けた。

 そこには二人がベッドの上にいた。

 フィリス先生はお師匠の腕を捻ったり、引っ張ったりし、その度にお師匠は苦悶の声を上げていた。

 ―――なんで、整体マッサージやねん!―――

 うちは、激しい脱力感の中、二人にツッコミを入れていた。

 

 『ふぅ、まったく恭也は、もう少し自分の体を労わったらどう?右膝ばっかり気にかけて、それ以外の部分が調子悪くてもそのままなんだもの』

 『いや、決しておざなり―――』

 『なんですって?もーっとキツイのが欲しいのかしら?』

 『いえ、なんでもありません…』

 『わかればいいんです…ふぅ。』

 先生はお師匠の体から降りるとおもむろに体に触り始め、

 『でも、ホントいつみても凄い数のキズ跡ですね…』

 『まぁ、確かに…』

 『やっぱり少しはみっともないとか、恥ずかしいなぁなんて思うときはあるの…』

 お師匠はゆっくりと首を横に振って、

 『いえ、そのことについては別になにも…』

 『やっぱり、男の子ですね…』

 『そういったわけでは…。この体のキズ跡一つ一つには、いろいろな想いと思い出がありますから』

 『想い…。ですか?』

 『はい、例えばこのこめかみのキズは美由希が初めて俺につけたキズ。この左腕のキズは美沙斗さんが昔の…、おれの知ってる頃の優しい美沙斗さんに帰ってきたときについたキズ。といったところです。ただ…』

 『ただ…?』

 『この右膝のキズは俺にとっても特別なキズです』

 『特…別…ですか』

 そう聞かれたお師匠は自分の膝を触って無言で頷きはった。

 『もし、よければ…。そのわけを―――』

 お師匠は黙って起き上がり、服を着るとベッドに腰を下ろした。

 『この膝についての事は、フィリスはよく知ってると思う。昔からこいつはおれの足枷になって来たことも。でもおれはこいつのことを最近は疎ましく思わなくなってきた。

 こいつはたくさんの事をおれに教えてくれたから。

 かーさんは、これが直る見込みが出てきたことが判ると、まるで自分の事のように喜んで、泣きながらとーさんに報告をしてた。

 フィアッセは、入院中のおれを本当に心配をして、泣きながらおれを叱ってくれました。

 美由希は、膝が悪いのは自分に責任があると感じ、おれの負担になるまいと無茶な修行をしました。結果的にはおれに心配をかけましたが。

 晶は、荒んでいた心を見直して、本当に心も体も強くなりました。

 レンは、自らの病気に立ち向かって、前に進む勇気をおれに教えてくれました。

 なのはは、本当に嬉しそうに祝ってくれました。

 それに…』

 『それに…?』

  『こんなおれを心配して涙を流しながら叱ってくれて、一つの希望を与えてくれた、自分にとって、この世で一番大切なヒトに会わせてくれました』

 そこまで話してからお師匠は照れた顔を隠すように背けて、

 『で、ですからおれについているキズ跡は、今まで出会ったたくさんの人の想いや思い出の込められた大切なものなんです。

 ですからおれは、キズ跡についてはなんら負い目を感じてはいませんよ』

 お師匠はゆっくりと自分の膝をなでて、

 『もっとも、こんな気持ちに気付いたのはつい最近の事なんですけどね』

 そういって、ゆっくりと笑うお師匠の顔は今まで見たことのない優しい笑顔でした。

 『…恭也…』

 ポスンっとフィリス先生はお師匠の胸に跳びこんで、そのままキュっと抱きついた。

 『フィ、フィリス?』

 『ごめんなさい恭也…。それからありがとう。できればしばらくこのままで居させて下さい』

 お師匠は黙ってゆっくりとフィリス先生の背中をなでてはりました。

 

 

 

 そんな、お師匠とフィリス先生の話を聞いて、うちは自分の事を思うととてもかなしくなった。

 ―――このキズはうちが、病気と闘って勝った証―――

 でも、うちはこの証を恥ずかしい、みっともないと思ってきた。

 この証は…。

 ―――病気の事を知っても今と変わらずに接してくれたお師匠―――

 ―――入院中、毎日欠かさずにお見舞いに来てくれた美由希ちゃん―――

 ―――うちが、寂しくないように毎日、家のことを教えてくれたなのちゃん―――

 ―――病気が治って退院したうちを優しく抱き締めてくれたフィアッセさん―――

 ―――手術が終わった後に泣きながら祝ってくれた桃子ちゃん―――

―――うちの為に、自分の拳が壊れてもかまわずに真っ直ぐぶつかってきた晶―――

そんな、たくさんの人の想いが込められたうちにとっての一番の宝物やった。

うちは、それを自分自身で隠して、恥ずかしいと思っていた自分がうちは恥ずかしかった。

うちは、狭いキャビネットの中でいつのまにか声を殺して泣いていた。

 

 

『さてと、フィリス。今日は仕事が休みなら何処かに出かけないか?』

 ようやく落ち着いたフィリス先生にお師匠は声を掛けた。

『あ…。ごめんなさい恭也。今日はちょっと先約があるの』

『そうか、わかった。じゃあ、今日のところはここで帰ろう』

『うん、またね。恭也』

『ああ』

 そう言ってから、お師匠は部屋を出て行った。

 完全に扉が閉まってから

 『まったく、別れ際の挨拶ぐらいもう少し何か言ってくれてもいいのに…。

 でも、恭也らしいと言えば恭也らしいのかな』

 そう言いながら、フィリス先生はキャビネットの扉を開けた。

 

 「どうだったレンちゃん?」

 うちは、なにも答えなかった。…答えられなかった。

 「レンちゃん、そのままでいいから聞いてくれる?」

 先生は続ける。

 「レンちゃんがそのキズにコンプレックスを持つことは別段恥ずかしい事じゃないの。

 女の子が自分の体が他人と違うことに、ましてやキズ跡を恥ずかしがって隠すのは普通のことなの。正直、私だって気にするわ。

 でもね、レンちゃん。さっきの恭也君の話じゃないけど、そのキズには高町さんのみんなやたくさんの人がレンちゃんの事を思ってくれてる証拠でもあるの。

 今すぐにとはいかないけど、いつかそのきずあとの想いに答えてあげられる日がきっと来るから。」

 そこまで聞いて、うちはもう限界やった。

 椅子を蹴り飛ばすように立ち上がると、フィリス先生に抱きつくとうちは声を上げて泣いた。

 その間、フィリス先生はただ優しくうちの背中をなぜてくれていた。

 

 

「はー、泣いた。とことん泣いた」

 そういって、うちはフィリス先生から顔をあげた。

「落ち着いた?」

「はい!フィリス先生どうもありがとうございました」

「いいのよ。気にしないで。レンちゃんが嬉しそうに笑ってくれるとこっちも嬉しいから」

「あははは。こんなもんで良かったらいつでもええですよ」

「そうね。ふふふ」

 うちと先生はしばらく病室で笑っていました。

 

 

 「はーっ、すっかりおそなってしもた。先生、今日宜しかったらうちで、ご飯食べてかれません?」

「え?いいの」

「はい、今日の食事当番はうちですから、おサルの作った料理よりもおいしい思いますよ。それに…」

「…それに?」

「お師匠も喜びます。さっき、うちのせいでお出かけ邪魔してしまいましたし」

「そうね、そういうことならお邪魔させて頂くわ」

「はい、是非そうしたって下さい」

うちと、フィリス先生は並んで病院を出て家に帰りました。

 

 

「おーい、亀!なにやってんだ。今日はお前が食事当番だろ!」

家の屋根からおサルが声を掛ける

―――あのおサル、なにやってんねん。近所さんに迷惑っちゅうんがわからへんみたいやなぁ―――

「やぁかまし!いまから準備するからそんなに吠えるなや!」

うちは晶に怒鳴りつけると、

「すんません、先生。ほんならうちは先に戻って食事の準備をしてきますので、後からゆっくり来たってください」

「ええ、わかったわ」

そう伝えて、うちは家に、自分の部屋に向かった。

 

うちは、自分の部屋に戻ると、着替えを取り出して鏡の前に立った。

「まったく、あのおサルは近所迷惑っちゅうもんをしらんのやないか」

しばし、晶に悪態をつきながら着替えを続ける。

上着に手を掛けて、うちは鏡の中のうちを見つめ、

―――もう、大丈夫やからな―――

ゆっくりと上着を脱いでからうちに笑いかけた。

―――丈夫、まだ正直キツイけど、きっともう大丈夫やから―――

そう、うちはうちに伝えた。

 

「おーい!レン!早くしねぇと俺が作っちまうぞ!」

階下から、晶の声が聞こえる

「やぁかましい。いまいくわ!」

晶に怒鳴り返しながら、うちはキッチンに向かうために部屋をでていった。

 

 

 

                           

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 こんにちは、K‘です。

 今回のレンとフィリスのお話如何でしたでしょうか。

 今回の話のためにレンのシナリオをやり直したわけですが、あの手の話に弱い筆者は感動の嵐でした。

 このお話はレンの後日談として書きましたが、少しでも本編のよさが伝わるといいなぁと思います。

 

 今回も筆者の駄文に付き合っていただきましてありがとうございました。

 それでは、また。お目にかかる日まで…。


 

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