K'様作
はじめに
なのは:このお話は、わたしとくーちゃんがあの草原でクロノ君とリンディさんの二人と、また会う為のお別れをしてから、すこしたった頃のお話…。
久 遠:くうん。
なのは:おにーちゃんが病院のフィリス先生とお付き合いを始めたぐらいのお話…。
久 遠:きょーや、ふぃりす。らぶらぶ。
なのは:そんなころの、お話です。
久 遠:……です。
レン‘S EYE
「ほいっと。」
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
ボスンッ!ゴロゴロゴロ。バシャーン!
盛大な音をたてて、一匹のおサルが池に落ちる。
「うーし、今日も絶好調!体のキレもバッチリや」
「…いいた…いこと…はそれだけか。てんめぇー」
―――お、立ちよったか、あのおサルも成長したもんやなぁ―――
とはいえ、そこで素直に相手をしてはおもろない。続けてうちはおサルを挑発する。
「ああ、あきらくーん。いくらおなかが減っとっても池のお魚は食べたらあかんよ」
小さい子に言い含めるように優しい口調で話しかける。
「てっ、てめぇ…」
あまりの怒りに口が上手く動かないようだ。やっぱ頭の中身はおサルだ。うちは口撃を緩めることなく。
「あーあー。こんなに濡れて。はよあがらんと、風邪ひくで」
更に追撃を加える。
ドバシャーッ
ふいに、大量の水をかけられる。
「へん!おい、かめ。今日は暑くなるそうだからここで水浴びでもしてな」
―――こ、このおサル、ゆうに事欠いてなにさらすんや―――
「よーやってくれたなぁ。こんのおサルは」
うちは、服が濡れるのもかまわずに池の中に突撃する。
しばしハイレベルな攻防を繰り広げる。だが、所詮はおサル、高度な人間様にかなおうとは、身の程知らずもええとこや。
「うう。ふ、不覚。俺とした事が亀が得意な水中戦を挑むなんて…」
「なんぞ、ゆうたか?こらぁ」
うちは、小生意気な口をきく山猿に教育的指導を行う為に再び池に向かう。
「あー。こほんこほん」
ふと、後ろから声が聞こえる。
うちらは声が聞こえた方へ目線をむける。
「二人とも、元気なのは何よりだが、もう少し周りを確認して喧嘩をするように」
そこには、いましがた、夜勤のフィリス先生に付き合って病院から帰ってきたお師匠のお姿が。
―――あれ?でもなんで濡れてはるんやろ?―――
「あ、お師匠。おはよございます」
「師匠。おはようございます」
とりあえず、うちらは朝の挨拶をする。
「ああ、おはよう。しかし今日はいい天気だな。あんまりいい天気だからつい水浴びをしたくなった。お前らに水をかけられてから」
―――あかん。ひょっとしてお師匠、めっちゃ機嫌悪いんちゃうか?―――
「あー、こ、これはですねぇ」
「し、師匠。俺たちは別に、け、喧嘩をしてたわけじゃあ…」
「そ、そうですよ」
うちらは必死になって弁明する。それを見ていたお師匠は少し笑って。
「ほら、二人とも。なのはが起きてくる前に後片付けをして、風呂にでも入って来い」
と、うちらを笑ってから、家に入っていった。
「しゃーねぇ、おい、レン。とっとと風呂は入ってから朝飯つくるぞ」
晶はうちにそう促す。けど、うちは、
「あ、うちはええわ。汗かいてへんし。着替えて先に朝ごはん作っとくわ」
そう、返すと、晶の返事を待たずにうちは部屋に戻った。
うちは、自分の部屋に戻ると、着替えを取り出し、鏡の前に立つ。
「あー、あのおサルのあほに付き合っとったら。うちまでこんな目にあってもーた」
とりあえず、ズボンを脱ぎながら更に悪態をつく、
「だいたい、あのおサルはもうちょっと。落ち着きというか、女らしいという様な人としてなんか大事なもんをお山に忘れてきたんちゃうやろか」
そして、上着に手をかける。そこでうちの手は止まる。
鏡の前のうち、
―――まぁ、ここで悩んでもしゃーないな…―――
うちは、今まで幾度となく行ってきた自問自答を繰り返した後、覚悟を決めて上着を脱いだ。
細く、ほとんど凹凸のない。よく言えば発展途上。悪く言えば幼時体型の肢体が鏡の前に映し出される。白く、張りのある肌は若さの特権とも言える。
しかし、その肢体のちょうど真ん中に大きな違和感があった。
うちは、無意識のうちに自分の両手で胸元を覆う。
「やっぱ、いつ見ても慣れるもんやないなぁ」
幼少の頃から、レンの体を蝕んでいた病魔は彼女の体にはもういない。しかし、彼女の体と心にはいまだ大きな影を残していた。
「まぁ、このお陰で、うちは前よりも楽にあのおサルをぶっ飛ばせるんやからな」
まるで、うちは誰かに話しかけるように一人つぶやく。でも、うちは一度も鏡の前の自分はみられへん。
―――だって、いまのうちは絶対泣きそうな顔をしてるから―――
そうこう、自分の中で葛藤を繰り広げながらようやくうちは着替えを終える。
「そろそろいかんとみんな起きてきてまう。はよ、いかんとなぁ」
うちは、結局一度も鏡の中の自分の顔を見ることもなく部屋をでていった。
「はーい、みんなぁ。プリントはいきわたったかな?」
うちの担任の鷹城センセが話し出す。
「えぇ。コホン。今年の海中宿泊研修の説明をしまぁーす」
鷹城センセはともすれば、うちら生徒よりも嬉しそうに見える。
「毎年恒例のこの企画。今回の行き先は海でぇーす」
―――アレは嬉しそうやない。本当に嬉しいんや―――
「しかも、今回は例年一泊二日の日程から、二泊三日に期間が伸びまぁーす」
うおぉぉぉぉぉぉ。
途端にクラス中は大騒ぎ、中には涙を流して感激している者もいる。
―――に、二泊三日!あ、あかん。その日程は非常に危険や―――
通年通りに一泊二日の予定やったら、晩の入浴は『あかん、今日うちは女の子の日なんや。せやからお風呂には入れへん。みんな、ごめんな』と言い訳をして回避するつもりやったのに…。流石に二日間も入浴しないしないわけにはいかれへん。そ、それ以上に。
―――うちも一応、女の子や。やっぱみんなの目は気になる―――
うちが考え込んでる間にクラスは研修についての話題で盛り上がっている。友人の何人かは楽しそうに話しかける。うちはあいまいな返事をしながら
―――ここは、宿泊研修を欠席するしかあらへん―――
などと考えていた。
放課後。うちは職員室の鷹城センセを訪ねた。
「あ、あの。鷹城センセ、ちょうご相談がありまして」
「んん?あ、レンどうしたの?」
と、鷹城センセは口に咥えていた煎餅を飲み込みながら振り向いた。
「あ、あの…。じ、実は…今回の宿泊研修をできることならお休みしたいなーなんて思ったりしてるんですが…」
「ん?どして」
「あの、うち体が弱いですから、みんなと一緒に海に行っても迷惑かけちゃうんやろかと思いまして」
「大丈夫、わたしが引率としてついていくから。レンは心配しなくてもいいよ」
「そ、そうゆうわけには…」
「うーん、そこまで気なるんだったら。病院のフィリス先生と相談して、それから欠席かどうか決めようか」
「…は、はい…」
うちは力なく答えると職員室を後にした。
「それで、悩んだ末に私のところに来たと…。そういうことね、レンちゃん」
結局、お医者さんに相談ということで、うちはフィリス先生に会いに来ていた。
「は、はい…。うちが鷹城センセに研修欠席の相談に行ったら、病気は治ってるんやからだめだよーってゆうはるんです」
「でも、レンちゃん。どうしてそんなに行くのが嫌なの?せっかくみんなと海に行けるんだから、行ったほうがいいと思うんだけど」
「そう、言われましても。うちにはうちの事情がありまして」
「ふーん、あ、ひょっとしてレンちゃん悩みがあるとか」
「はい、そんなとこです」
「それは、体の悩み?」
「は、はい…」
うちの返事を聞いて急にフィリス先生はなにか確信めいた顔になって
「大丈夫よレンちゃん。多少他の女の子に比べて成長が遅くたって。きっとレンちゃんにもきっと素敵なヒトが表れるから。ええ、きっとね」
―――素敵なヒトって絶対にお師匠のことやろな―――
放っておくと、段々と惚気始めるフィリス先生。うちは話しを元に戻す
「せ、せやなくて。た、確かに成長遅いのは悩みですけど…。それとは別に」
「別に?」
「あの、病気のことで」
「それは大丈夫よ、レンちゃん。あなたの病気はもう治ってる。まだ、体力は完全に戻ってないから過激な運動は厳しいけど、宿泊研修程度なら心配いらないわ。だから安心していってらっしゃい」
「あ、あの。うちは別に病気の事で悩んどるんやちゃいます。うちが…。うちが悩んどるんは…」
そう答えながら、うちは自分の胸を隠すように身を縮こませる。
フィリス先生はうちの話をじっと聞いていた後、うちにゆっくりと話しかける。
「レンちゃん、ありがとう。あなたの悩みは大体わかったから。このお話はまた今度にしましょう」
「え?で、でもうちはまだ…」
最後まで言い終わらんうちにフィリス先生は自分のメモ帳を見ながら、
「明日。うん、明日の夕方4時にまたここでお話しましょ」
「は、はい。でもなんで明日なんですか?」
フィリス先生は笑顔で、それはとても優しい笑顔で
「明日までのお楽しみです」
と答えた。
続く
あとがきみたいなもの
こんにちはK‘です。
こんかいのメインは以前リクエストがありました。
「レン」と「フィリス」がメインのお話です。
上手く表現しきれるかどうかわかりませんが頑張って書きます。
また、読んで下さると嬉しいです。
今回も筆者の駄文にお付き合い頂いてありがとうございます。