K'様作
はじめに
このSSは基本的にはDVD版のおまけシナリオを基盤としています。
ですから、本編ルートではありえない設定がありますが、あまり気にしないで下さい。
筆者の中でこうあって欲しいという設定になってます。
月村とノエルから事の顛末を聞かされた俺は、一つ質問をした。
「ところで、月村。確認したいのだが」
「ん?なぁーに」
「一体、俺はどれだけ寝てたんだ?」
「えーっと、ノエル、高町君ってどれだけ寝てたの」
「はい、恭也さまが事故に逢われてから、89時間35分29秒が経過いたしました。日数に換算するとまる3日と半日になります」
ノエルの淡々とした説明をうけて、俺は愕然とした。
―――日曜日の昼に俺はかーさんに月村の家に行くとだけ伝えたきりだ。当然、俺が意識不明の4日間は連絡できなかった。つまり、4日間の無断外泊、そこからの高町家の会話は容易に想像できる。―――
「ねぇ、おかーさん。おにーちゃん今日もかえってこないの?」
「うん、なのは。おにーちゃんはね、今、とっても大事なお仕事をしてるの。もうちょっといい子にして待ってれば、新しいおねーちゃんと一緒に帰ってくるわよ」
「あたらしいおねーちゃん?」
「そう、あたらしいおねーちゃん」
―――むう、いまとても嫌な光景が目に浮かんだのだが。―――
「月村、電話を借りるぞ」
と、言い残し、俺は電話へと向かった。
ピッ、ポッ、パッ。震える指でボタンを押し高町家に連絡をとる。
『はい、高町でございます』
数回のコールの後にかーさんが電話にでた。
「あ、かーさん。恭也だけど」
『あ、恭也。どうしたの、こんな朝早くに』
「あぁ、ここ4日間ほど連絡もとらずに家にも帰らなかったから」
『もう、かーさんだって、野暮じゃないんだから、そんな事でいちいち詮索しないわよ。忍ちゃんと仲良く旅行中なんでしょ。もう、うちのことはいいからたまには自分の事にきを使いなさい。じゃあね』
ガチャン。ツーツー
と一方的に電話を切られた。
―――旅行?月村が気を利かせてくれたのか?―――
と、そこへ、月村がぱたぱたとやってきた。
「高町君、急にいなくなっちゃうんだもん。びっくりしちゃった」
「ああ、すまない。月村、家への連絡をしていてくれたようで、ありがとう」
「んー?そんなお礼を言われることじゃないよ。ちょっと二人で婚前旅行に行くって伝えただけだから」
「え?なんだって?」
「だから、婚前旅行。そしたら、桃子さん『恭也をよろしく』だって」
俺の脳裏に先ほどの情景がフラッシュバックする。いやな予感やはり的中。
俺は絶望的な気分で目の前の小悪魔を睨んで、ただただ深いため息をついた。
とりあえず、家の誤解を解くのをあきらめた俺は次なる懸案事項の解決にとりかかった。
「月村、とりあえず俺がロボットの体になったことと、その原因がそっちにあることはわかった。信じたくはないが理解することにする。そこでだ、俺はいつ、元の姿に戻れる」
「戻れないよ、そんなの。高町君はずっとこのままだよ」
一瞬、時が止まった。…ような気がした。
俺は、なんとか首だけをノエルに向けて。
「ノエル…。介錯を頼む」
と、伝えた。
おれは腰から愛刀の八景を鞘ごと引き抜くとその場に腰を下ろした。
「月村、おれはここで腹を切るから、あとのことはたのむ」
「うん、三年は影武者たてて隠しておくよ」
「では、恭也さま。覚悟はよろしいでしょうか」
―――て、誰もとめてはくれんのか。ノエルにいたってはブレードつけてるし―――
俺は、何事もなかったように立ち上がり八景をしまった。
背後で不満そうな気配を感じるがこの際、黙殺することにした。
「で、本当のところは?」
「あ、えーっと。体組織のおおまかな復元は終了してるから。あと50時間程度といったとこかな」
「2日弱か、その間この体で過ごすとなると少々きついな」
「あ、そのことについてだけど…」
体の調整を行う前に調べたいことがあると月村に言われ、俺は通常装備を身につけてひとり庭にたっていた。
「ごめん、高町君。ちょっと準備に手間取っちゃた」
と、謝りながら月村はやって来た。ノエルはその後ろで大きな包みを抱えている。
「やっぱり、体の調整をするには実際に比較しないと細かいとこまでわからないのよね。というわけで、普段の高町君がやってる剣術の動きといまの高町君の動きを比較してチェックしていこうと思うの」
「おお、月村。まるで、専門家の考えだな」
「私は別に高町君はいまのままでもいいんだけど」
「すみません、言い過ぎました」
「わかればいいの。わかれば」
「忍お嬢様、準備完了しました」
と、一言告げてからノエルは包みの白布を下ろした。
「あれは…。イレイン、イレインじゃないか」
「はい、昨年の春に安次郎様がこの屋敷を襲撃した際に起動させた、イレインのオリジナルです」
「なんで、こんなものが。だいたいあれはノエルと俺が確かに破壊したはず」
「はい、ですがあの後、屋敷の瓦礫の中からイレインを発見した忍お嬢様は損壊した部品を集めて修繕をなさいました」
「だって、このタイプの技術を活かすことができれば、ノエルの体はより丈夫になって自由に動けるようになるんだよ」
「はい、ありがとうございます忍お嬢様」
にっこりと月村に微笑みかけるノエル心なしか嬉しそうにもみえる。
なるほど、と納得した俺はとりあえず復元されたイレインに近づく。
「確かに、あのときのイレインだな、しかし月村こんなものを持ち出して一体どういうつもりだ?まさか、俺にこいつと戦えとでも」
「ご名答。よく分かったね」
「なるほど、さっき俺に御神流をやってみろと言ったのはそういうことか、しかし何故イレインなんだ?別にノエルでもよいと思うのだが」
「それは駄目です。私ではいまの恭也さまの力量を測ることができません」
そこまでノエルが話した後に月村が続ける。
「ああ、高町君それはね、ノエルやイレインのような自動人形は一度戦った相手の技や癖、反応といった物を全て記憶するの。そして、自分の戦闘データと照らし合わせることによってレベルアップをするの。でも、記憶したデータはすぐに自分のものになるわけじゃなくて、何度もシュミレーションを繰り返してようやく身に付くの。ノエルの場合、色々な戦闘パターンを記録してもう、高町君の動きを再現することはできないの。だけど、イレインの場合は違う、あのとき、高町君に負けて機能を停止してからはまだ、一度も稼動してない、つまりイレインの最終戦闘データは御神流の高町恭也ってことになるの」
「ふむ…」
いまの月村の話を自分の頭の中で考える。
「つまり、このイレインは、一年前の俺の戦い方を完全に真似ることができるわけか」
「そうゆうこと。これなら、どこの調子が悪いのか分析もしやすいしね」
「しかし、月村。御神の動きがわかるのか?」
「わたしじゃそれは無理。だから分析はノエルにやってもらう」
と、まだ、なにやら屋敷の奥からなにか持ってきている。話を振られたノエルは
「はい、私も今後の参考になると思いまして見物させて頂きます」
「ああ、わかった。ところでノエル、その荷物はいったいなんだ」
「これですか。これは、長机と椅子ですが」
「いや、名称ではなく、使用目的を聞いたのだが」
「ただ見てるだけじゃつまんないじゃない。だからこうゆう物を用意してみたの」
と月村とノエルは二人でなにやらごそごそと机のセットアップを始めた。
「じゃーん。実況の忍ちゃんと」
「解説のノエルです」
と、ふたり仲良く椅子にすわった。
「わかった、もういい。しゃべるな、頼むから」
軽く目眩を覚えながら俺はイレインと対峙した。
―――さて、どうしたものか―――
おれは軽く自問しながら腰の八景に手を置いた。
―――1年前のおれが相手か。イメージでは何度かやったことはあるんだが―――
ゆっくりと体の重心を落としいつもと同じように呼吸をととのえ、
「ふっ!」
息吹と供に地を蹴った。
―――なんだ?体が重い。手足が付いてこない―――
上半身は前に進もうとするのだが、肝心の手足が付いてこない。当然のことながらバランスを崩したおれの体は無様に芝生の上に転がった。そこに、
「恭也さま、ひとつアドバイスをさせて頂きますがよろしいでしょうか」
ノエルが声をかける。
「ああ、たのむ」
おれは、上半身だけを起こして月村たちに顔を向ける。
「いまの恭也さまや、私の場合通常の生活に必要な能力と不必要な能力があります。私たちの場合、普段の生活の中で誤って人に危害を加えてしまわないようにと、リミッターを設け緊急時にのみリミッターを解除して戦闘モードに移行します。リミッター解除の方法は人それぞれですが」
「ああ、高町君の場合はね、腰の刀の鯉口を切ればスイッチが入るよ」
すかさず、月村が教えてくれる。
―――剣士ってのは、無闇に鯉口を切るものじゃないんだがな―――
そう。頭の中でつぶやいて、おれは再びイレインと対峙する。意識を集中し、そのままゆっくりと腰の八景の鯉口をきる。
どくん!
体中の筋肉が一気に収縮する。それと同時に自分の五感の感度が上がっているのが自覚できる。
―――これが、戦闘モードか、この状態でどこまでやれるか―――
イレインとの距離は約5m。重心を落とし、再度イレインに向かって駆ける。そのまま走りぬけ、振り向きざまに飛針を投げる。がら空きの背中にあたるはずの飛針はイレインの足元に刺さる。間髪いれずに鋼糸を操るがそれは巻き付くことなく地面に落ちる。
―――飛び物の狙いが悪い。距離感がつかめない―――
そう、考えた瞬間、視界が広がり、相手との距離感に違和感がなくなる。
―――なるほど、考えたことがダイレクトに体に伝わり瞬時に調整するのか―――
もう一度、鋼糸を投げる、今度は狙い通りにイレインの首と右腕に絡まり拘束することに成功する。
―――ならば、こっちはどうだ―――
腰の八景に手を置き体を前傾姿勢に持っていく。御神流の基本的な抜刀スタイル。
「はぁぁぁ。たぁっ」
裂帛の気合と共に一刀を抜き横薙ぎに斬り付ける、続いてもう一刀も引き抜き、追の一撃を加えようとするが。またも、反応速度が遅れ、ニ撃めが繋がらない。
―――流石に『薙旋』は使えないか―――
そう判断したおれは八景を腰に戻した。
「どうだった。高町君」
と、月村はよく冷えたタオルをおれに渡してくれる。別段汗をかいたわけではないが、体のあちこちが熱を持っている。おれは礼をいってそれを受け取る。
「ああ、だいたいイメージした通りに体は動く。体のキレも悪くない。ただ…」
「ただ…って、なに?」
「鋼糸や飛針などの投げ物に関しては正直今ひとつだな、指先の微妙な力加減の調整が必要だと思う」
「ふーん、そうなんだ。ねぇノエル、で、客観的に見てどう思う」
「はい、恭也さまの指摘は間違いがないと思います。あと、左腕の動きが右腕のそれに対して対応しきれてないように思えます。最後の恭也さまの抜刀はあきらかに連撃を狙っていましたが、左の抜刀のタイミングが遅れたために不発だったようです」
「ほぉ、そこまでわかるのか。たいしたもんだ」
「ありがとうございます恭也さま。もうひとつ言わせてもらいますと、動きの中に若干ながら右足を庇って動いているように見えますが、いまの恭也さまの状態ならその必要はありません」
「そうか、言われてみれば右膝が痛むことはありえないな」
「でも、ノエル。高町君の左腕ってやっぱり、あれ…」
「はい、まちがいないと思います」
またしても、二人だけの会話。
「なんだ、まだなにかあるのか…。悪いがここまで非常識な事態なんだ、おれももう少々のことでは驚かない。いいから、わかるように話してくれ」
「いいの、高町君」
「よろしいのですか、恭也さま」
ふたり同時に聞いてくる。むぅ、いいチームワークだ。
「あたりまえだ、ここまで異常事態なんだ。少々の事では驚きはしない」
おれは少し憮然として答えた。
「じゃあ、まずは左腕を前につきだして」
言われたとおりに前に出す。
「あとは、遠くのものをつかむ感じをイメージして」
とりあえず、庭先に止めてあるおれのMTBを的にする。
「腕の筋肉で引き金を引くように、瞬間的に収縮させる」
腕の筋肉に瞬間的に力を込める。
ドンッッ!
一瞬、肩まで抜けるような衝撃と肘の部分から閃光と白煙があふれ出す。
煙が晴れ、視界が回復したとき。おれの目の前には愛車をただのガラクタに変えた左腕があった。
「あぁ、高町君。駄目じゃない、せっかく修理してあげたのに壊しちゃ」
「……………………………………………」
「おーい、高町君。高町君ったら」
「……………………………………………」
「忍お嬢様、どうやら聞こえていないようですが」
「あ、やっぱり」
つづく
あとがきのようなもの
どうも、こんにちは、K‘です。
なんとか第二話を書き上げることが出来ました。前回同様やはりいきあたりばったりで書いてる為、この話で終わるはずの物が気が付くとこんなことに。(大問題)
あと、御神の技については筆者の独断と妄想で書いていますので、「こんな動きはできるわけない」といったつっこみには正直にごめんなさいと言うしかありません。今度はもう少し勉強してから書くようにします。
感想、ご意見等を頂けましたら幸いと思います。
では、ここまで筆者の駄文につきあって頂いてありがとうございました。