K'様作


 はじめに

 

 なのは:このお話は、わたしとくーちゃんがあの草原でクロノ君とリンディさんの二人と、また会う為のお別れをしてから、すこしたった頃のお話…。

 久 遠:くうん。

 なのは:お兄ちゃんは未だに剣の修行に明け暮れておねーちゃんやおかーさんに朴念仁って言われています…。

 久 遠:なのは…ぼくねんじんって…なに…?

 なのは:………おかーさんが言うには「女心」がわからない人の事なんだって…よくわからないけど…

 久 遠:わかった…久遠…恭也にきいて…くる…

 なのは:く、くーちゃん、それは止めた方が…

 久 遠:ん…わかった…久遠…きかない…

 なのは:うん…あとでおかーさんに聞いてみようか

 久 遠:わかった…あとで…桃子…きく

 なのは:というわけで、そんなお話です

 久 遠:……です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                恭也‘sEYE

              〜PM13:00〜

 

 

 おれの目の前には晶が眠っている、何故か頭には包帯がぐるぐる巻きだ、

 「晶…大丈夫か?」

 しかし、晶は未だに目を覚ます気配が無い、

 ―――…普段からレンにやられてる姿からは想像もつかんな…―――

 そう、失礼なことを思いながらもおれは部屋の隅に目をやる。

 そこには【ただいま反省中】という札を首から下げ正座をさせられたレンがなのはに説教をされていた。

 「まったく…どうしていつもいつもケンカばっかりしてるんですか!!」

 「うう…ケンカとゆーか、スキンシップとゆーか…」

 半分涙目になってレンが弁解する、

 「どこをどうやったら、スキンシップで庭が半壊して、晶ちゃんが意識不明になるんですか!!」

 「なのは…レンも晶もさ…」

 「おねーちゃんは黙ってて!!」

 見かねた美由希が助け舟を出すが、アッサリと撃沈される。

 「おねーちゃんにも、後で少しお話があります…」

 「あ、あやや…なのは、私も?」

 思わぬ展開に美由希は動揺する、

 ―――まだ、精神鍛錬が足らんようだな…美由希―――

 「当たり前です!事の重大さを分かっていながら傍観を決めこんだおね−ちゃんにも充分責任はあります!!」

 「あ、あうう…なのはが怖いよー」

 殺気と呼んでも差し支えが無い気迫の前に美由希は完全に呑まれている。

 ―――ふむ…そろそろ頃合だな…―――

 「あー、コホン。3人とも一応怪我人が寝てるんだ、もう少し静かにしてはどうだろうか…」

 「おにーちゃん…」

 「恭ちゃん…」

 「おししょー…」

 三者三様の反応を見ながら、

 「とにかく、晶の呼吸も脈拍も全部正常だ、フィリス先生ももうじき来てくれる、晶に関しては今おれ達ができる事は何も無い。」

 おれの話に三人は揃って首を縦に振る、

 「いま、お前達がしなければならない事は分かってるな…」

 「「「事の顛末と真相の究明」」」

 三人の答えを聞くとおれは黙って立ち上がり、部屋の窓を開ける。その先の光景はレンと晶の戦いの結果であろう破壊された庭の惨状を見る事ができる。

 「言わんと分からんか?」

 窓枠に持たれかかりながらおれは僅かな殺気を漂わせて3人に話しかける、

 「「は、はい!!」」

 おれの殺気に反応した美由希とレンは先を争うかの様に部屋を飛び出して行く、殺気を反応できなかったなのはだけが部屋に取り残されるカタチになった、

 「なのは…」

 「に、にゃ…お、お兄ちゃん…なに?」

 「2人の監督を頼む…」

 「うー…わかった…いってきます…」

 そう言って、なのはは未だ目を覚まさない晶を見た後なのはは部屋を出て行った。

 ―――さて…フィリス先生が来るまでもう少し時間があるな…―――

 そう考えながら、おれは晶の枕元に座る、晶は先ほどから規則正しい寝息を立てている、

 ―――呼吸も正常…頭を強く打ったというのが気になるが、まぁ大丈夫だろう…晶だし…―――

 などと、本人が聞いたら気を悪くしそうな事を考えながら、おれは晶の額に掛かった髪をゆっくりと払ってやる、

 「こうして、眠ってる顔を見てると晶も女の子だな…」

 その時、おれが呟いた言葉が後の騒動の発端になることに、おれはまだ気付いていなかった。

 

 

 ピンポ〜ン…

 呼び鈴の音が聞こえる…どうやらフィリス先生が到着したようだ、

 「こんにちは、矢沢ですけど…」

 「フィリスせんせ…いらっしゃいです」

 応対にはレンが出たようだ…

 「おししょー、せんせがいらはりましたー」

 扉越しに声を聞いたおれは、扉を開けてフィリス先生を迎え入れる

 「こんにちはフィリス先生、今日はすいませんお呼びだてしてしまって」

 おれの目の前には白衣を着た銀髪の女性――フィリス・矢沢――その人が立っていた

 「こんにちは恭也君、怪我人なんですもの気にしないで」

 そう言って笑顔で微笑む、

 「すいません、そう言って頂けると助かります」

 おれはフィリス先生に頭を下げた。

 「さて、それではちょっと診てみましょうか…」

 そう言ってフィリス先生は持ってきていた鞄の中からパステルカラーの乙女チックバインダーと同じくパステルカラーの乙女チックボールペンを取り出す。白衣を着た成人女性の持ち物としては些か不釣合いな気がしないでもないが、おれはあえて口にはしなかった。

 「で、恭也君からのお話では池に落ちたって聞きましたけど、詳しく聞かせてもらえませんか?」

 フィリス先生は晶の診断を行いながら、おれに尋ねる、

 「はい、いつものように晶とレンが二人で庭で戦いを始めたのが始まりでした…」

 おれは事の顛末をフィリス先生に話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

                晶‘sEYE

              〜AM10:00〜

 

 

 

 

 「ほいっと」

 気の抜けた掛け声と共にレンの掌打が俺の腹部に触れると感じた瞬間、俺の体は宙を舞っていた。

 ドスン…バタン…ゴロゴロ……バシャーン!!

 盛大な音を立てて俺の体は池の中にまで転がる、

 「あー…アカンは今日はイマイチやなー」

 「レン…やり過ぎだよ…今のは普通の人なら絶対死んでるよ…」

 池の中に落ちた俺を助けようともせずに二人は好き勝手なことを言っている、

 ―――うう…ひどいよ美由希ちゃん…―――

 心の中で涙を流しながら、俺は池の中から立ち上がる、

 「カ〜メ〜…てんめぇー!!」

 「ほっほっほ〜。晶く〜ん?水浴びするにはまだ早いんやないか〜?」

 立ち上がった俺を見てレンの奴は俺を挑発する、

 「こ、このカメ!今日こそは池に沈めておたまじゃくしの体液を吸わせてやる!!」

 そう叫ぶと、俺は跳躍してレンに飛び蹴りで襲い掛かる、

 「そーゆーんのはなぁ…、1回でもウチを池に落としてからゆうもんやっちゅうねん!!」

 負けじとレンも跳躍し同じく飛び蹴りで俺を迎撃する、

 「殺った!!」

 俺は勝利を確信して思わず叫ぶが、レンの顔からは余裕の笑みが消えない、

 「だから…そーゆー台詞は、ウチを殺ってから言い!!」

 絶招、浮月双雲覇

 「う、うそだぁ〜…」

 レンの2段蹴りをまともに受けて俺は再び池に落下し、池の底で後頭部を強打する。

 「お〜…流石にコレは死んだやろか?」

 「レン…いま、バックに夕陽を背負って、書き文字が出てたんだけど…」

 「それが、鳳家拳法の真髄です♪」

 ザパァ〜……

 水音を立てながら俺は再び立ち上がる、

 「おお〜…流石は晶…頑丈やな〜」

 「というか、今ので晶が死ななかったことが不思議…」

 「………………………………………………………………」

 「どした〜…晶?」

 「晶、大丈夫?」

 先ほどから俺が無言なのが気になったのか、2人が声を掛けてくる、

 「へへ…効いたぜ…お前のキック…」

 そう、呟いたあと俺の目の前が真っ暗になって再び池の中に倒れた。

 

 

 

 

               恭也‘sEYE

              〜PM13:00〜

 

 

 「それで、美由希からの連絡をうけたおれが晶を池から引っ張り上げたあとに、美由希達にフィリス先生に連絡を入れさせたわけです」

 おれがフィリス先生に説明をしてる間に晶が心配になったのか、美由希となのはも戻ってきていた。

 「そうですか…レンちゃん…?晶ちゃんはどれくらいの高さから落ちたの?」

 フィリス先生はボードに記録を取りながら、レンに質問をする、

 「え、えーと…確か…3mくらいやったと思います」

 レンの回答に僅かながらも先生の手が止まるが、すぐに動き出す、

 「恭也君、晶ちゃんを池から助けたときはどんな感じでしたか?」

 「はい…美由希の話を聞いてからすぐに引っ張り上げた時には水を飲んで気絶していました」

 「呼吸はしてましたか?」

 「いえ、心拍、呼吸ともに停止していましたので急ぎ救命処置を施しました」

 救命処置という言葉に部屋に居た女性(晶除く)達の空気が一瞬変わった気がしたが、おれはあえて気に留めなかった。

 「え、えーと…み、美由希ちゃん?」

 「は、はい!」

 フィリス先生にいきなり話を振られて美由希は素っ頓狂な声を上げる、

 「晶ちゃんが池で倒れてから恭也君が助けあげるまで、どれくらいの時間がかかったの?」

 「え、えーと…晶が倒れてからすぐに恭ちゃんを呼んだので、多分3分も掛かってないと思います」

 美由希の言葉を聞いてフィリス先生は安心したような顔でボードに3分と大きく書き込む、

 「恭也君…晶ちゃんにきゅ、救命処置って言いましたが、ぐ、具体的にはな、何をされたんですか?」

 若干言いよどみながら、フィリス先生が尋ねる

 「心臓マッサージと人工呼吸です」

「「「「人口呼吸!?」」」」

 部屋にいた四人が四人とも同じ声を上げる、その声に反応したのかしないのか晶の身体も一瞬動いたような気がした。

 「きょ、恭ちゃんと晶が…そ、そのじ、人口こ、こ、呼吸…」

 「あのおサルとおししょーが…そ、その…」

 「に、にゃー…おにーちゃんと晶ちゃんが…」

 「きょ、恭也君と晶ちゃんが…マウス トゥ マウス…」

 四人は口々に呟きながらおれをじっと見る、

 「…………………………………………………」

 「…………………………………………………」

 「…………………………………………………」

 「…………………………………………………」

 一瞬の沈黙の後に最初に動いたのはレンだった、

 「くぉらぁー!!このおサル、あんた何いい目にあってんねん!!」

 おれの視界から一瞬にして姿を消すと、眠っている晶の上に馬乗りになり襟首を掴み思いっきり前後にゆする、

 ―――何!?ふ、不覚にも一瞬レンの動きが見えなかっただと…?―――

 などとおれが考えてる間にもレンの動きは止まらない、周りにいた美由紀達も何故か止める気配が無い、

 「レン…あ…」

「おししょーは黙っとってください!!」

 「む…わ、わかった…」

 レンのあまりの剣幕におれは黙って引き下がった、見ると残りの三人からも静かだが、レンと同様の気迫――すなわち「殺気」――を感じる。

 「う、うーん……」

 部屋の空気を様々な重圧が駆け巡るなか、遂に渦中の人物の口からうめき声が漏れる、

 「い、いたたた……あ、頭が痛い…」

 「お、起きたか?晶」

 そう言ってレンは晶の襟首を離してベッドから降りる、

 「あ、おはようレンちゃん…どうしたの皆そろって…」

 晶はベッドから身を起こしながらレンに声をかける、病み上がりの為だろうかいつものような元気がない、

 「体は大丈夫か?晶…」

 おれは立ち上がって晶に声をかける、

 「あ、おはようございます恭也さん。すいません後心配をおかけしました」

 「あ、ああ…ならいいんだが…」

 ―――恭也さ…ん…?―――

 頭の中で疑問符を浮かべながら、おれは曖昧な返事を返す、

 「晶ちゃん…大丈夫?どこか気持ち悪い事はない?」

 フィリス先生が晶の頭に触れながら声をかける、

 「はい…少し頭が痛い気もしますが、私は平気です」

 ―――私…?―――

 「「晶(ちゃん)が女言葉晶(ちゃん)が女言葉晶(ちゃん)が女言葉」

 後ろでは美由希となのはが呆然としてなにかを呟いている、

 ―――まぁ…確かに衝撃は大きいがな―――

 「おししょー、フィリスセンセ…離れとって下さい…」

 後ろから静かなレンの声が聞こえたので、振り返るとそこには何かを決意したような表情で根を構えたレンの姿があった、

 「晶…覚悟はええな?」

 そう言い切るや否や、レンの根はうなりを上げて晶の右側頭部(テンプル)に入る。

きりもみしながら部屋の奥へ吹っ飛ぶ晶、レンは根を肩に担ぎながらそれを悠然と見下ろして、

 「どや?晶…目ぇ醒めたか?」

 「レン…怪我人に対してあの攻撃はどうかと思うぞ…」

 おれは額に汗を浮かべながらレンをたしなめるが、

 「でもおししょー、鷹城センセがこの間の授業で『いつも男の子っぽい子が急にしおらしく女の子みたいになったら、ココを殴ろうね』って言ってはりましたよ」

 とレンは自分のこめかみを指差しながら答える、一方の晶はというと頭を押さえて蹲っている、

 「晶…大丈夫か…?」

 そう言っておれが近づくと、晶はバッと擬音を立てて顔を上げる、

 「レンちゃん…いきなり何をするんですか?」

 半分涙目になってレンに訴える、

 「治ってないな…レン」

 「はい…おかしーなぁ?もっぺんいきましょか?」

 「いや…それはもういい」

 再度根を構え直すレンの肩を掴んでおれは只深いため息をついた。

 ―――結局…レンと晶の関係は変わらないらしいな…―――

 などと、頭の中で考えながら…。

 

 

 

 

               恭也‘sEYE

              〜PM14:00〜

 

 

 

 「フィリス先生、晶の容態はどうなんですか?」

 とりあえず、フィリス先生の簡単な問診の結果、生活に支障がないと診断されたのでおれ達は晶の部屋からリビングに移動し今後の相談をしていた、

 「そうですね…わたしは脳外科の専門ではありませんので詳しいことは言えないのですが、先ほどの問診では異常がないと思います、ただ…」

 そう言って一度言葉を切ると、テーブルの上に置いてあったココアに口をつける、

 「ただ…打った場所が場所だけに、一度専門機関で精密検査を受けた方が良いと思います」

 「専門機関ですか…」

 そう呟いておれは自分の緑茶に口をつける、

 「と、とりあえず今日のところは一度様子を見てから決めましょう、さっきの様子では晶ちゃんも大丈夫そうですので…」

 「そうですよ。おししょー、あのおサルの頭がそんなにデリケートな訳ないですわ」

「レンちゃん!!」

 先ほどから黙って話を聞いていたレンが口を挟むが、瞬時になのはに止められる、

 「レンちゃん…こうなった責任は誰のせいか判ってますか?」

 「で、でもな…な…」

「でもじゃないです!!」

 「す、すいません…」

 レンは最後まで言い切ることなく、なのはの一喝の前にあえなく撃沈する。一方の美由希は先ほどの藪蛇に懲りたのか、先ほどから黙ってお茶を飲んでいる。

 ―――まぁ…懸命な判断だ、もし美由希の立場だったならおれでもそうする―――

 変なことで感心していると、扉がノックされる、

 「どうぞー…」

 おれが扉に声をかけると静かに扉が開いた…。

 扉の先には晶がいつもと同じように立っていた…しかしその服装はいつもと同じでは無かったが………。

 最初、リビングを支配したのは沈黙だった、

 「…………………………………………………」

 おれは無言のまま、手に持っていた茶請けの煎餅をポトリと落とした。

 「晶…だよね…どうしたのその格好…?」

 美由希は晶に質問と言うよりは、自分自身に言い聞かせるように問いかける。

 「あ、晶…な、なんやその格好は…ウチを笑い殺させる気か?」

 レンは床にひっくり返って晶を指差しながらお腹を抱えて笑い転げている。

 「にゃー、晶ちゃんそのドレスとっても似合ってるよ」

 なのはは閉まってあったビデオカメラで撮影を始める。

 「晶ちゃん…可愛いわ…とっても似合ってるわよ…」

 フィリス先生は妙に嬉しそうに笑って晶の格好を見つめている。

 当の晶本人はリビングの空気を読んだのか、若干顔を赤らめながら部屋に入ってくる、一歩一歩歩くたびに、体中にデザインされているリボンやレースが自己主張を始める、

 「ん…コホン。あ、晶…け、怪我のほうはもう大丈夫なのか?」

 「はい…もうすっかり平気です。心配かけてごめんなさい、恭也さん」

 おれの隣に座った晶は問いかけに柔らかな笑みを浮かべて返す、

 「そ、そうか…それは良かった…」

 おれは妙に気恥ずかしくなって、晶から視線を外すと注がれたばかりのお茶を一気に飲む、

 「……☆$$…!!?……$$☆☆??……」

 口の中を焼けるような――いや実際焼けてるのだが――刺激が暴れ回る、それでもおれは叫ぶことも表情に出すことも無く必死になって耐える。

 ―――むぅ…晶の為にもここでおれがうろたえている事を皆に知られるわけには行かない!!―――

 などと考えながら、

 「あ、恭ちゃんが晶の変わりぶりにうろたえてる…」

 しかし、おれの必死の努力は美由希の一言にあっけなく瓦解する。

 ―――美由希…あとで覚えていろよ…―――

 そんな事を考えておれは美由希を睨みつけるが、気にも留めずにお茶を飲んでいる。

 「おししょー、何をそんなにうろたえてはるんですか?」

 「む…べ、別に問題ない…」

 おれは何ごとも無かったようにテーブルに置かれた煎餅に手を伸ばそうとするが、

 ポトリ…

 掴んだはずの煎餅は何故かおれの口に入る前にテーブルの上に落ちる、

 「はい…恭也さん。お煎餅です…」

 そう言って、晶はおれの手の平に煎餅を載せる、

 「む、むぅ…す、すまない晶…」

 受け取った煎餅をおれは二口で食べる、

 「あー、おにーちゃん…顔が真っ赤だー♪」

 「なのは…兄は別に赤くなってなどいないぞ」

 などと、否定はしてみるが自分でも顔が赤くなっているのが判る。

ふと周りを見渡してみる。そこには疑惑の篭った視線(×6)が『じーっ』という擬音と共におれに注がれていた。

―――こ、この抗いがたいプレッシャーは一体…?―――

その視線から逃れるように晶に視線を移すと、若干潤んだ瞳が二つおれを見上げていた。瞬時におれの顔が赤くなるのが自覚できる、直視することが出来ずおれは慌てて視線を外す。

―――あ、晶…そんな目でおれを見ないでくれ!―――

心の中で晶に謝罪をしながら最後の救いとしてなのはに視線を移す、しかしそこになのはの瞳はなかった、その代わりにカメラのレンズがおれを見ていたが…

―――むぅ…完全な四面楚歌か。とーさん…こんな時おれはどうすれば良い?―――

そう考えながらおれは天井を見上げるが…当然のように何も起きなかった。

「恭也さん…私の事が嫌いなんですか…」

隣で涙声で晶が訴える、それに伴いますますプレッシャーが強くなる視線…

―――む…こうなっては仕方がないか…―――

おれは晶の手を取って立ち上がると、

「フィリス先生、おれは晶を連れて病院に行って来ます、美由希…フィリス先生を病院まで送ってあげてくれ…」

「え…?きょ、恭也君…病院なら別にわたしも一緒に行くのに…」

半分立ち上がりながら声を上げるフィリス先生をおれは手で制して、

「いえ、病院まで道程でなにか晶が元に戻るきっかけがあるかもしれませんので…」

それだけ伝えると、おれは晶の手を引いたまま自室に戻ると外出の準備をしてそのまま家の外に出る。

「三人とも…後から尾行してきても気配で分かるのでそのつもりでな…」

釘を指すことを忘れずに…。

 

 

 

 

               恭也‘sEYE

              〜PM15:00〜

 

 

 

 ―――さて…どうしたものか…―――

 おれは臨海公園のベンチで先ほど買ってきたタイヤキ(カレーとチーズを二つづつ)を食べながら今後のことを考える、隣では晶が同じくタイヤキを食べている。食べ方はいつもよりも数段大人しいが…

 「ここで悩んでいても仕方ない…晶、そろそろ行くか?」

 そう言っておれが晶に声をかけるが、晶は一点を凝視したまま動かない、

 「晶…?」

 おれが声を掛けるが、相変わらず反応がない。

―――どうしたんだ?まさか急に具合が悪くなったとか?―――

不審に思い晶の視線に合わせるがそこには何もなかった…地面に落ちたソフトクリームだけを残して…。

 「晶…なにがあったんだ…?」

 もう一度声をかけると、晶はおれに答える代わりに勢い良く立ち上がるとその場からいきなり走り始める、

 

 いつもおれが見慣れた太陽のような笑顔と「師匠」と聞き慣れたおれの名前を残して…。

 

 

 

                晶‘sEYE

              〜PM15:00〜

 

 

  

 俺は師匠と一緒に臨海公園でベンチに座ってタイヤキを食べていた、

 ―――へへっ…こうやってるとまるで師匠とデートしてるみたいだ―――

 などと考えていると自然に頬が緩んでくる。

―――おっと…ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。―――

心に言い聞かせて頬の筋肉を締めなおす。

ふと隣から心配げな師匠の視線を感じる、流石にここまで心配を掛けると若干心苦しいものを感じる、

―――すいません、師匠…あとでちゃんと説明しますから―――

決まりの悪さに俺は思わず視線の注意を前の噴水に向ける、そこにはソフトクリームを片手に歩く自分と同い年らしき少女の姿が見える、

―――今度は師匠とあれを食べながら歩いてみたいなぁ―――

などと考えながらじっとその少女を目で追い続けていた。

 

―――ん…?なんだあいつら…―――

女の子の歩く進行方向の先から、若い男たちが三人歩いてくる。家族連れやカップルで賑わう市民の憩いの場の公園には明らかに不似合い、――似合うとすれば繁華街の裏通りが似合う――な雰囲気を持った男たちだった。

男たちの雰囲気を感じた親子連れやカップルなどはトラブルを避ける為に彼らから一定の距離を保ち始めるが、先ほどの少女は手に持ったアイスに夢中なのか、前方に気付くことなくそのまま歩く、男たちにいたってはそんな周りの状況に気を使う素振りも見せずに前も見ないで仲間内でふざけ合いながら歩く、

―――あぶない!!―――

俺がそう思うのと少女が男たちにぶつかったのはほぼ同時だった。

少女は地面に尻餅をついて倒れこみ、男たちは少女を囲むように立つ。

―――あいつら…なにをやってるんだ?―――

男たちは仲間の一人のズボンを指差してなにか言っている、恐らくズボンが汚れたかなにかと因縁をつけているのだろう、一方の少女は恐怖のあまりに涙目になったままその場で立ち尽くしている。

―――まわりの奴らはなにをやってるんだ!?―――

そう思い周囲を見渡すが、トラブルに巻き込まれるのが嫌なのか見て見ぬ振りを決め込んでいる、はっきり言って一番嫌な光景だった。

ギリッ…

歯軋りが自分の口でなっているのが分かる、関わり合いになるのを避ける大人にも、師匠の目を気にして動けない自分にも正直苛立っていた。

しかし、俺がベンチでいらだっている間に男たちは嫌がる少女の手を掴むと下卑た笑いを浮かべながら無理矢理に連れて行ってしまった。

その光景を見た瞬間、俺の腹は決まった。食べかけのタイヤキをベンチに置くと立ち上がり、その場から駆け出す。

「お、おい…晶!」

 「すいません、師匠!!すぐに戻ります!!」

 そう言い残すと、俺は少女の後を追って走りだした。

 

 

 ―――どこだ…?どこに連れていったんだ?―――

 着慣れてないスカートということもあって普段よりも若干遅いスピードで公園の中を走る。

 ―――はやく、早くしないと、あの子が…―――

 内心焦りながら、公園の一角――人通りの少ない林――に差し掛かったときに俺の耳に声が聞こえる。

 「ねぇどうしてくれんのよ、コレ?」

 「おい…なんとか言いなよ、オネーチャン?」

 「聞いてんのか、あ?」

 口々に言葉で攻め立てる、一方の少女は恐怖のあまり涙を流したまま無言で立ち尽くしている。

 ―――いた!よかった、まだ大丈夫みたいだ―――

 安堵に胸を撫で下ろしながら、俺は近くの藪の中に身を隠し徐々に間合いを詰める。

 「だからさ、黙ってちゃ分かんないわけよ、ボクチャン達は?」

 「それとも、何も言わないって事は…なにされても喋れないのかなぁ?」

 「俺、こういった雰囲気の子って燃えるんだよねぇ?」

 そう口々に言いながら少女の肩を掴む、完全に後方への警戒は怠っている。

 ―――今だ!―――

 藪から飛び出した俺は一気に間合いを詰めて、男の一人の頭を掴むと膝裏に蹴りを入れながら引きずり倒し、俺は間髪いれずにその頭を踏み潰す、

 足の裏に伝わる鼻の潰れる感触に顔をしかめながらも俺はその男の喉下に貫手を叩き込み沈黙させる。

 「て、てめぇ〜」

 突然の来襲者に驚いた男たちのうち一人がとっさに俺に殴りかかるが

 ―――遅い!!―――

 体を半歩進めて男に密着させると、そのまま男のあごに頭突きを叩き込むと男はそのまま後ろ向きに倒れる、見ると、男の口からは真っ赤な血が流れ出し、その中に白いものを数本発見する

 ―――歯を食いしばってないからそうなるんだ総入れ歯確定だよ―――

 一瞬のうちに仲間を二人の惨状を見せ付けられて戦意を失ったのか、最後の一人は顔を真っ青にして震えている。

 「おい…おっさん…」

 俺は感情を押し殺した声音で話しかける、

 「は、はい…」

 「あの、馬鹿達を連れてさっさと消えろ…」

 地面でのたうち回ってる男たちを親指で指差して伝える、

 「は、はいぃ〜」

 そう言って男は四足で仲間に近づく、それを後ろ目で見てから俺は少女に近づく、

 「大丈夫だったか、怪我はない?」

 「……………………………………」

 先ほどのショックの為か腰を抜かしてへたり込んだ少女は無言のまま何度も頷く、

 「そう、良かった。で、立てる?」

 「……………………………………」

 今度は、無言のまま首を横に振る、俺は軽く溜息をついた後に少女に手を差し出す、

 「後ろ!!」

 少女の突然の叫びに後ろを振り向くと、先ほど見逃した男がナイフを振りかざしていた、

 ―――く…いまココで避けたら!!―――

 そう考えて、俺は少女を庇うように立つ、

 「し、師匠!!」

 俺は思わずそう叫んでから少女を自分の体の後ろに隠して、目を閉じる。

 「……………………………………???」

 しかし…いつまで経ってもナイフが下りてくる気配がなかった。

 ―――あ、あれ…?―――

 不審に思い目を開けるとそこには、ナイフを構えた男の頭を鷲?みにして持ち上げた師匠の姿があった。

 「晶…戦闘において相手を確実に戦闘不能に追い込むまでは気を抜かない方がいい…」

 「し、師匠!き、来てくれたんですか?」

  師匠は男の頭を地面に数回叩きつけると、両手の汚れを払い落とすように手を叩き、

 「すまんな…すこしばかり遅くなった…」

 事も無げに言いながら俺に近づくと、

 「よくやったな…晶…」

 と言いながら、俺の頭を優しく撫でてくれた。

 

 

 

                恭也‘sEYE

              〜PM18:00〜

 

 

 

 「どうも…本当にありがとうございました」

 そう言って少女はおれ達に頭を下げて、ご両親に連れられて帰っていった。

 あの後、警察に電話を入れて、男たちを警察に引き渡し、事情聴集の名を借りた刑事さんに「やりすぎ」と軽いお説教を受けて解放されるまでたっぷり3時間を要した。

 家を出るときは高かった陽も落ちて辺りは暗くなってきていた。

 「良かったですね、師匠…」

 晶はおれの隣で嬉しそうに話す、

 「ああ…そうだな、晶も無事でよかったよ…」

 「え?あ、ありがとうございます師匠…」

 そう言って晶は顔を赤らめて俯き、そして決心したかの表情で顔を上げる。

 「師匠…色々と今日は御迷惑をおかけしてしまって本当に申し訳ありませんでした!!」

 そう言って、空気を裂く音が聞こえるくらいの速さで頭を下げる、

 「ふむ…ワケを聞かせてくれないか…晶」

 俺は晶の肩を抱いて再び公園のベンチに戻った。

 

 「こんなことをした理由は…師匠のせいでもあるんです…」

 ベンチに座った晶は静かに語り始めた、

 「俺が気絶して師匠に助けてもらったときに、そ、その…し、師匠は俺に……キ、キ、キスをしてくれましたよね…」

 「い、いや…あ、あれはだな…じ…」

それでも!!

 俺の弁解を最後まで聞くことなく、晶は声を上げる、

 「それでも…俺、嬉しかったんです。本当に嬉しかったんです…例え人口呼吸でも、師匠が俺のことが好きじゃなくても…心配して…助けてくれるためにしてくれたキスだったから…」

 後半は涙声になりながらも晶は涙を拭おうともせずに、じっと俺の目を見つめる、

 「俺…俺…師匠のことが…す…きです…誰にも負けないくらいに…フィアッセさんや美由希ちゃんにも負けないくらいに師匠のことが大好きです!!」

 「…………………………………………」

 晶の突然の告白に、おれが何も言えないでいると、晶は少し泣き笑いの表情を浮かべて、

 「だから俺…師匠が枕元で『晶も女の子だな…』って言葉を聞いたときに決めたんです、もっと女の子っぽくなろうって、師匠が好きになってくれる女の子の『城島 晶』になろうって…

 でも…駄目でした…。俺はやっぱり俺のままです…『城島 晶』は自分に嘘をつくことはできないです…」

 そう言って晶は涙を拭うといつもの笑顔を浮かべてベンチから立ち上がる、

 「さ、帰りましょう…師匠。美由希ちゃん達が家で心配してますよ」

 俺の顔を見ようともせずに、晶は歩き出す。

 「晶…そのままで良いからおれの話を聞いてくれないか?」

 おれは歩き出した晶の背中に声をかける、がその背中はおれを振り向こうとしない、

 「おれは…いつも元気で明るい女の子に助けられてきた…。

知っての通りおれや美由希が学んでいる御神の剣は決して…誰にも認めてもらえない人殺しの剣だ…ともすればおれ自身も黒くなってしまう…」

「そんな…そんなことは…」

晶は振り返って声を上げるがおれは被りを振ってその続きを止めると、

「だけど…そんなおれをいつも明るい笑顔で支えてくれたのが晶…おまえなんだ…おまえが居てくれるからこそ、おれは今のおれでいられる…」

おれはベンチから立ち上がると、晶に近づく、

「おまえが池に落ちて意識を無くしていたとき、おれは怖かったんだ…怖かったから、必死でおまえを助けた…」

「怖い…ですか?」

おれは晶に近づき晶の身体をそっと抱きしめる。

「ああ、怖かった…晶がおれの前からいなくなると思うと如何しようもなく怖くて仕方がなかった…」

 おれは一度言葉を切ると晶の顔をじっと見つめる、

 「晶…おれは多分おまえの事が好きだ…おまえがおれの前から居なくなることは、たまらなくつらい…。

 良ければ…すっとおれの傍にいてくれないか?」

 晶はおれの言葉を聞いて一瞬きょとんとした表情を浮かべたあとに顔をくしゃくしゃに歪ませて、

 「は、はい…俺も…俺も師匠と一緒にずっと居たいです!!」

 そう答えてから晶はおれの胸に顔を当てて、声を上げて泣き始めた。

 

 たっぷり30分はたっただろうか…晶は泣いていた顔を上げてから頬を赤くそ染めて、

 「師匠…一つお願いがあります…」

 「なんだ…?」

 おれの問いに晶はギュッと抱きつくと、

 「もう一度、俺にキスして下さい…今度はちゃんと恋人として…」

 「わかった…」

 そう答えると、おれは晶の顎に指を掛けて上を向かせると、その小さな唇に自分の唇を合わせた。

 ずっと離れないように晶の身体を強く抱きしめながら…。

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 どうもこんにちはK‘です。

 

 このSSを読まれた方…色々と思うところがあると思いますが…自分にとってはこれが精一杯です。これ以上のラブシーンは恥ずかしくてシャイな自分には書けません(笑)

 今回晶のSSを書こうと思ったきっかけは…特にないです(ヲイ

 まぁ…人気投票でぶっちぎりの最下位をとったと知ったときに同情の気持ちも相成って、晶シナリオをやり直したりしてたんですが…人間とは怖いものですね、気が付いたら情が移っておりました(爆)

 などと、真の晶ファンの方が聞いたら激怒しそうな不純な動機で晶ファンになった自分ではありますが、持てる愛情をすべて注いで書かせて頂きました。晶ファンの方もそうでない方も読んで楽しんでいただけたら幸いだなと思っております

今回も自分の駄目SSにここまで付き合って頂きまして本当にありがとうございました。 

 それでは…また失礼致します

 


 

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