グラグラ



午後10時過ぎ、入浴中。


ガタガタガタガタガタガタ・・・。


(・・・なんだ!?)


曇りガラスがカタカタと揺すられて音を奏でている。
一瞬、ヘンな奴が風呂に侵入してくるのではないかと身構えるが、
まさか入浴中のオトコを襲う奴はおるまい。

なんて考えているうちに、グラグラとあたりが揺れ始めた。


(あ。地震だ・・・。)


誰に伝えるわけでもないのに、ふと口から言葉がこぼれる。
いや、伝えるとしても、相手も同じ地震で揺れてるんだから、
わざわざ教えなくてもわかるっつーもんデス。
皆で、「地震だ」と報告しあうのも、なんだか滑稽。


(・・・で、デカイ!!)


かなりの揺れデス。
バスタブのお湯も、ちゃぷちゃぷと揺れている。

それにしても、入浴中の地震ほど心細いものはないデス。
このまま家が崩れちゃったらどーしよーとか、
意外とバスタブって頑丈だから命は助かっちゃうかもーとか、
アメリカで竜巻に襲われた時はバスタブに隠れるっつー話を聞いたことあるヨとか。
で、潰れた家で捜索隊がバスタブに必死の形相で隠れてる全裸のオトコ発見!
全裸のオトコ奇跡の生還。
全裸のオトコは語る。
「いやー、怖かったけど、きっと誰かが助けてくれると思ってました。」
なんて情緒たっぷり唇を震わせながら語ってみたり。
一躍時代の寵児としてもてはやされ、大きな地震が起きるたびにTV出演依頼が舞い込む。
地震の時はバスタブに飛び込め!
それがもはや定説となり、バスタブ人気に火がつく!
バスタブは一家に1台からひとり1台の時代へ!
様々なカラーリングのバスタブが発売され、バスタブ製作メーカーの株価は軒並み上昇。
それが導火線となり、平成不況も終焉を迎え、いつしかのバブル時代へと再突入。
時代を変えた全裸のオトコ。
不景気を救った全裸のオトコ。
きっと後々の小学校の歴史の教科書のコラム欄に、
「平成不況を救った全裸のオトコ」としてわしは名を残す事になるかも―――――



―――――なーんて考えてるうちに、収まってました。





それにしても。





地震が起きると天井を見上げるのはどーしてなんでしょーネ。




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