ギター



かみさんも娘さん'sも寝静まった夜中、
かれこれ数時間、モニターを睨み続け、タイピングやらなんやら続けたせいか、
頭がボーっとしてきた。
頭を振り、何度かコキコキ首を鳴らす。
シーンと静まった室内。
ふと、部屋の隅に置かれたギターを見つける。
Fender TELECASTER。
もう既に手入れもせずに使い古され、すっかり埃をかぶってる。
きっと弦も錆びつき、チューニングも狂っているだろう。
学生時代、それこそ遮二無二いじっていた。
暇さえあれば、好きなBANDの曲をコピーしていた。
別にミュージシャンを目指す訳でもないけど、流れてくるCDと同じように弾きたかった。
そしていつの間にか、ギターは弾かれるよりも、置いておかれる時間の方が長くなる。


久しぶりにそれを手にし、馴染みの感触を思い出す。
軽く埃を払い、何度か爪弾く。
思ったよりは音階は狂っていない。

ポンポーン・・

ハーモ二クスを使って、なんとなく音程を揃える。
昔のCDを引っ張り出し、ボリュームを最小限にして何十回何百回も聞いてきた曲を流す。
弦と一緒に腕もすっかり錆び付いているとばかり思ってた。
もはや、コードなんかすっかり覚えていないと思っていた。
しかし。
自然と指は、忘れているはずのコードをなぞっている。
ところどころ記憶違いの部分もあったけど、ほとんどミスすることもなく1曲弾き終える事が出来た。


なんだか高揚してる。

なんだか興奮している。


弾けた事に対してではなくて、カラダが覚えていた事に対して。
半ば惰性で生活してきた自分が、まだ熱かったあの頃の自分を覚えていた事に対して。
学生時代特有の、世の中に対する訳もわからず憤っていたあの頃。
自分の上に立つニンゲンに対して敵対心や疑問心を持ち続けていたあの頃。
すっかり今では、あの頃の反抗の対象に成り果てている自分を忘れ、
いつの間にか寝ることすら忘れて数時間弾き続けた。



時計は既に夜明けが近い時刻であることを示していた。
部屋はいつの間にか、青臭かった10代の頃の空気に満ちていた気がした。

皆、元気だろうか?
あの頃の同級生たち。
あの頃の仲間たち。
あの頃の、好きだったあの娘。

なんだか無性に人恋しい。




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