現実




白と黄色の中間色で染められた、小さな小さな砂粒。
どれ一つ、同じ形や色のものはない。
そしてその前方には海の青が広がる。
目の前を遮るものは何もなし。
ただただ、僅かに弧を描く水平線。
遠く水平線は、空との区別が同じ青でもくっきりと違い、
見事なまでのグラデーションを作り出す。
波が打ち寄せては引き、砕けた水の礫が砂浜に吸い込まれていく
あまりにも巨大な雲が、ゆっくりと、ゆっくりと夏の時間を刻むように流れる。
しかし時間の流れだけはその歩みを止めた映像のように、
スローモーションで、だが確実に秋の気配を察知し始めていた。

ボクはこの広大且つ牧歌的な景色を、
ただひとり、独占していた。
ボクを邪魔するものは何もない。
あるとしたら、遠い世界から飛んできた海鳥の仲間を呼ぶ鳴き声だけだろう。
鼻腔に潮の匂いと、ココナッツオイルの匂いが心地良く飛び込んでくる。
目を閉じ、この時間をただひとり独占出来る喜びを噛み締めつつ、
瞼を突き刺す太陽の光と、
拭っても拭っても噴出してくる汗に弄ばれながら、
肌に襲い掛かる紫外線を皮膚で感じるだけの時間。
日常生活を離れ、あまりにも無駄に感じるこの時間こそが、
人間に与えられた最大の幸せなのではないだろうか?
ボクはそんなことを考えながら、意識は混沌の中へと落ちようとしていた。
幸福感に顔を綻ばせながら―――――












「早く起きてよぉ! 朝ご飯、冷めちゃうでしょーがー!」












ハイハイ。
わかったから朝っぱらから大きな声出すなっつーの。
起きますヨ。
まったくもう。



嗚呼、これが現実。




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