*伊那谷スケッチ(春の息吹)

4/30 やっと大根の芽が出てきたので、間引きをする。
家の裏手のリンゴ園では、リンゴの木が真っ白な花を咲かせている。先日、
そこで画材道具を広げてスケッチをしている人がいた。通りがかりに覗くと、
リンゴの花を透かして見える中アの山並みが美しく描かれていた。たしかに
絵になる風景だなと思った。農薬散布さえなければ……。

4/26  昨日、実に一と月ぶりぐらいの雨。久々のお湿り
といった程度だが、あたりに潤いが戻ってほっとする。今朝、田んぼ道を歩い
ていたら、日に照らされた地面からぷぅーんと土の匂いが立ち昇ってきた。周
囲は日に日に緑が濃くなってゆく。しかし、風はまだ冷たい。夜はいまだにコ
タツとストーブが手放せない。

4/23 今朝は冷え込んで、遅霜が降りたらしい。移植
したばかりのシソの苗などが、すっかりやられてしまった。それにしても、
このカラカラ続きの天気はどうだ。4月に入ってから、ほとんど雨らしい雨
が降っていない。空気は乾ききっていて、畑の土はもう砂漠のようだ。大根
や蕪の種蒔きはしたけれど、まだ芽は出てこない。今日も日照りのなか、
真っ白い残雪を戴いた中アの山並みを眺めながら、畑の水やりをする。

4/17 空気は乾ききっているが、暖かい一日。朝、犬
を連れて、近所の桃源院という山寺まで花見に行った。花は盛りを少し
過ぎて、散り始めというところ。ツツジの紫が桜の白と混じり合って鮮明
だ。草むらにしゃがむと、目の前に蕨の若芽が顔をもたげている。 と、

南風が吹き寄せ、桜吹雪があたり一面に散った。くりかえしくりかえし
花びらが宙を舞う。ぼくは何も考えず、肩に降りかかる白い花吹雪に打
たれていた。 飼い犬のポン太の方は、他の花見客が広げる弁当の匂
いが気になって、ソワソワ落ち着かない。

4/10 先週の寒さから一転して、いきなり初夏に
なったような陽気がこの3〜4日続いている。そのおかげで、花が一斉に開
いた
梅は満開、桃も白い花をつけ、桜も一気に開花した。水仙の黄もあち
こちで目にする。南の飯田市では、3日前に開花したばかりの桜が早くも満
開になってしまったという。花が咲くのはうれしいが、どこか異様な天気だと
いう気持ちも否めない。今日もかったるい一日だ。

4/8 数年前、近くの廃村の入り口に「乗馬牧場」
がオープンした。東京の某大学教授を中心とするグループが、山の空家を
田畑ごと買い取り、そこに馬小屋を立て、数頭の馬を飼育し始めたのだ。
町も観光客誘致につながればと、歓迎の姿勢を示していた。 ところが昨日
の新聞によると、この冬、そのうちの2頭が死に、死体がいまも放置された
ままになっているという。生き残っている2頭も鎖で柱につながれたままで、
毎日世話をされている様子はない。ハエのたかる同胞の死体のすぐ脇で
わずかなエサに首を突っ込む痩せ馬の写真が痛々しかった。 中央高速で
来れば、東京から車で4時間程の距離だとはいえ、山の冬は都会とは全く
の別世界に入る。とくに大雪が続いた今年は、並みの冬ではなかった。たぶ
ん馬は、この冬の厳しさで、東京の飼い主から見捨てられたのだろう。残酷
なことをするものだ。オーナーの連絡先は電話がつながらない状態になって
いるという。

4/4 久々にミニトラのエンジンを始動させ、畑の
起こしをする。去年までは家から100m程離れた果樹園の跡地を借りて
畑にしていたのだが、今年から家の周りの畑が借りられることになった。
年老いた大家夫婦が、文字通り杖を突きながら耕していた一反足らずの
家庭菜園だが、去年爺さんが入院し、とうとう手放すことになったのだ。
もっともこちらはすぐ横がリンゴ園だから、ある程度の農薬の飛沫は
覚悟せねばならない。

4/2 春の雪はさすがに溶けるのも早い。日当たり
のいい雪解けの地面から、タンポポやノカンゾウが顔を出している。今日
は庭先で摘んだアサツキをネギとあえてヌタにして食べた。山もやっと
山菜の季節である。

3/31 朝起きて外を見ると、まさかの大雪! 
昼過ぎにはいったんやんだが、すでに20センチほど積もっている。よもや
もう降ることはあるまいと思い、つい3日前、車のスノータイヤを普通タイヤ
に履き替えた矢先の雪である。先週、所用で諏訪湖から和田峠を越えて佐久
へ抜けたときも、雪はもうどこにも残っていなかった。今年は履き替えるのが
遅すぎたかなと思っていたぐらいだが、わからないものだ。 中央高速では、
この雪で今朝からスリップ事故が相次いでいるという。原因のほとんどは普
通タイヤでの走行によるものらしい。
無理もないと思う。つくづく、この頃天気
が読めなくなった。

3/28 花粉症に風邪を併発して、この2〜3日
調子が悪い。「春眠暁を覚えず」を決め込んで今朝も寝坊していたら、
辺りに響き渡るエンジンの騒音で夢を破られた。一瞬?と思ったが、
そのうち気が付いた。家の裏手が小さなリンゴ園になっていて、その
農薬撒布が始まったのだ。いつもなら慌てて飛び起きて、裏庭につな
いである犬を表に避難させ、厳重に戸締りをするところだが、今朝は
そんな元気もない。布団をかぶって、いよいよ田舎の春が胎動し始め
たことを実感していた。

3/23 深夜、春雷の轟きで目を覚ます。
朝起きたらもう雨は上がっていて、辺りは一面春霞みに煙っていた。
この2〜3日来の暖かさで、とうとう梅がほころび始めた。しかしこの
季節は花粉症の者にはつらい季節でもある。ぼくも昨日から本格的
に症状が出始め、痒い目と鼻水をこらえながら、ボーッとした頭で
一日のノルマをこなしている。

3/21 春分の日の昨日、今年一番のポカポカ陽気
に誘われて、通称伊那富士で知られる近くの戸倉山へ登った。標高1681m
ほどの里山だが、古くからの地元の信仰の山で、山頂からの南アや中アの
眺めも素晴らしい。 登るのは去年の晩秋以来だが、登山道に足を踏み入
れた途端残雪の多さに驚かされた。この時期にまだこんなに雪が残ってい
るなんて初めてだ。この冬の大雪の凄さをあらためて思い知らされた。それ
でも残雪を踏みしめて、春の息吹を胸いっぱい呼吸しながらゆっくりと山頂
まで登る。途中ですれ違った何組かのパーティーも、皆晴々とした表情をし
ていた。

3/13 雪混じりの春の嵐が一晩吹き荒れた。
明けて、快晴。寒さはきついが、雪をいただいた中アの山々が青空を
背にくっきりと輝いている。そんななか、犬を連れて朝の散歩をしてい
たら、どこからともなくプゥーンと鼻をつく臭いが漂ってきた。ふと横を
見ると、畑の一角に真新しい牛糞堆肥が積まれていた。そうか、もう
畑の準備をする季節に入ったんだなと思う。そういえば今朝の新聞に
も有機肥料の折込広告が入っていた。

3/5 明け方、ゲオッゲオッという猫の雄叫びで目が覚めた。我が家の
今年16歳になる牡猫がとうとう発情したらしい。若い時は寒さのピーク
時に発情し、そのまま1〜2週間帰ってこないこともザラだったが、年老
いてからは冬の間ずっとコタツで過ごし、春先に少しだけ発情する。メス
を漁りに出かけても、家の近辺を一周するぐらいで、すぐ戻ってきてしまう。
すっかり歯も欠け、固形のキャットフードすら食えなくなっている老猫である。
よくこの年で発情するよと思うが、猫は死ぬまで発情するらしい。こんな
オスに追いかけられるメスは、さぞ気持ち悪いだろうなと思っているうちに、
また寝てしまった。外は雪。寒し。

3/4 ほんの数日前、ようやく雪が解けた庭先の地面に、水仙の芽が
ムクムクと頭をもたげ、その鮮やかな緑が陽にあたって輝いていた。
土の上には湯気が立ち上り、しみじみと春到来を実感していた。 
しかし今日は一転して朝からまた大雪。ものすごい勢いでみるまに
降り積もり、一時はどうなることかと危ぶんだが、昼過ぎにやみ、午後
からは晴れてきたのでほっとする。30センチ位積もったが、春のボタ
雪で溶けるのも早い。それでも物置にしまったシャベルを出してきて、
雪かきはする。重たい雪だ。

2/27 まだ朝晩の冷え込みはきついが、先日来の雨で、残雪も
あらかた消えた。おかげで冬の間中、屋根の雪の重みで開かず
の戸と化していた家の北西の縁側の窓が、今日やっと開いた。
凍結していた外水道もついに開通。 そういえば庭先に吊るしてある
バードフィーダーに毎朝鈴なりになっていた雀たちのかまびすしい
鳴き声が、このところあまり聞こえない。こまめに餌を入れてない
こともあるが、鳥たちも雪が解けて地の餌をついばめるように
なったのだろう。

2/21 昨日から一気にゆるんで、今日は午後から
とうとう雨。いよいよ春の気配だ。家の周りの土道は雪解けの泥でグショグショ。
そこに突風にあおられた洗濯物が何度も落ちて、目もあてられない。
春泥という言葉があったのを思い出す。

2/17 今日は快晴で、抜けるような青空が白い雪景色
と鮮やかなコントラストをなしていた。歩いていて気持ちがいい。だけど
その分激しく冷え込んで、朝起きたら水道の蛇口が凍りついていた。
いつまでも寒いな、今年は。休日の温泉だけが楽しみ。

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