中1の英語の教科書を開くと、まず見開きに写真入りのカラーページ
があり、ロシア語から中国語まで、世界の10の言語で「こんにちは」
と「ありがとう」をどう言うのかが紹介されていて、面白い。
どれぐらい知っているかな?と思って見てみたが、まあ全体の半分と
いうところか。ロシア語のありがとう「スパシーバ」は辛うじて知って
いても、こんにちはにあたる「ズドラーストヴィチェ」となると、お手
上げである。アラビア語の「アッサラーム アライクム」はイスラム圏
に共通の挨拶だから、一応知ってはいたが、ありがとうを「シュクラン」
と言うのは初めて知った。だいたいアラビア語というのは、文字を右か
ら左へ書くのだということすら、これを見るまで知りませんでした。お
恥ずかしい次第だが、それほど外国の言語については知っているようで
いて知らないことが多いのだろう。
(二十代の頃、リュックをかついで外国を旅していたとき、安宿で同室
に泊まり合わせたアルゼンチンの青年が、ぼくがベッドで読んでいた日
本語の文庫本を手にとって、文字が上から下に縦に書かれているのを見
て驚いていたのを思い出す。)
また中2の教科書でも、やはり冒頭に「世界の中の英語」という見開
きのカラーページがあり、中国語からフランス語にいたる世界の主要言
語と、その使用人口が示されている。
トップはなんといっても中国語で、約11億人余り。次が英語で、約
5億人。それから順にヒンディー語、スペイン語、アラビア語、ベンガ
ル語、ポルトガル語、ロシア語と続いて、その次にやっと日本語とフラ
ンス語が顔を出す。
このような全体的な見取り図を示した上で、子どもたちに英語を教え
ようという姿勢は、我々が子どもの頃にはなかっただけに、それなりに
意味のあることだと思う。実際、それだけ世界は多様化してきているの
だし、外国語を学ぶことは、その多様性の中に身を投じることでもある
からだ。
ではいったい、世界にはどれくらいの数の言語があるのだろうか?
朝日ジャーナル編『世界のことば』(朝日選書)という本をめくって
みると、まず目次を開いただけで、何か圧倒されるような印象を受ける。
そこにはインドネシア語からアイヌ語にいたる114の言語名が列挙さ
れている。 名前すら今まで聞いたことのないことばも多い。サルデー
ニャ語(注1)なんて、聞いたことがありますか? オック語(注2)
とかベルベル語(注3)なんて、どこの国のことばだと思いますか?
中国語とひと口に言っても、この目次にあるだけで広東語・福建語・
北京語・上海語と4つでている。ましてや政府発行の紙幣に15の公用
語が印刷されていることで有名な多民族多言語国家のインドなどは、ヒ
ンディー語のほか全部で7つの言語を収録しているだけで、収めきれな
かったものは、南アジア言語圏という項目で一括して紹介されているに
すぎない。
この感じは、日本のように北から南までどこへ行っても単一言語が通
用する国に暮らしているとよくわからないが、世界には実にいろいろな
民族が生きているものだと思う。
それにしても、梅棹忠夫著『実戦・世界言語紀行』(岩波新書)によ
ると、世界全体のことばの総数は「まず3000以上と見つもっている」
とのことだから、この『世界のことば』に収録されている100を越え
る言語ですら、そのわずか数パーセントにすぎないということになる。
やはり、地球は広い!
(注1)サルデーニャ語:地中海のサルデーニャ島(イタリア領)で
話されていることば。
(注2)オック語:南フランスの諸方言の総称。フランス全土の三分
の一にあたる地域で話され、使用人口は約1千万人。
(注3)ベルベル語:北アフリカ諸国、とくにモロッコやナイジェリ
アなどで多く話されていることば。(T)
*寺小屋だより(1992春の号)に加筆